Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……抜かなくていいんですか?」
たきなはノバラM1911しか構えていない様子を見てそう言った。
「作戦、作戦!」
ノバラは楽しそうにそう答えるが、たきなには一切の油断が許されない。
M1911に黒星、赤星、それに妖刀『花鋏』。更には服の中に多数の隠し武器。
……油断できる訳がなかった。
加えて言えば、半歩引いて腰溜めに構えるような構え……それは、普段、千束が使っているのと同じ様な取り扱い方。
(……いえ、ちょっと低いです? 短刀へのスイッチを想定した構えでしょうか?)
完全に接近戦を想定した構えではあるが、たきながそれに付き合う義理はない。
ノバラを相手にするなら、近寄らせてはならないのが大前提。
距離を取りつつ戦うのが、たきなにとってはベストな戦い方ではあるのだが。
(……絶対に詰められますね)
ノバラの技量であれば、避けつつ、確実に距離を詰めてくるだろう。
勝負の分かれ目となるのは、距離を詰められてから、たきながどう対処するかに懸かっている。
◇◆◇
ノバラは気を抜いていた訳ではない。
だが、近くで大きい音がしたら、つい、そちらに目をやってしまうのは仕方ない。
ズガァン。
すみれが、アスファルトを震脚で陥没させていた。
(……うわぁ……)
冗談混じりに教えたのはノバラだが、まさか、本当にやるとは思っていなかった。
……相棒の所業に、ちょっと引いていた。
だから、別に、たきなのことを舐めていたとか、侮っていたとか、そういうつもりはない。
……相手がどう思うかは、また、別問題だが。
◇◆◇
ノバラが、爆音に気を取られて、視線をたきなから外した。
気持ちは分からなくもないが、ノバラがたきなを脅威と思っていない、そう思われても仕方のない行為である。
ぴき、とたきなのコメカミには青筋が浮かんでいた。
「……よそ見とは、余裕ですね……?」
たきなの不機嫌そうな声に、ノバラが視線をたきなに戻す。
「いや、だって、気になるし……って、ひょぇっ!?」
苦笑しながらたきなに視線を戻したノバラは、たきなの表情を見て、顔を青くした。
これ以上ない程、完璧な笑顔。
……何も知らない喫茶リコリコの客であれば、思わず見とれてしまうほど可愛らしい。
だが、目尻を下げながら、薄く閉じられたその目はまるで笑っていない。
……千束とノバラが心底恐れるたきなの激おこモードであった。
かちり、とたきなが引金に指をかける。
わずかに指を引き絞り、あとちょっとでも動かせば銃弾が発射されるそのギリギリで止めている。
「……悠長に攻め方を考えていた私がバカなんですよね? そうでしょうとも! 攻め方とか、もう、どうでもいいですよね? あなたが私を見ないなら、無理にでもこちらを振り向かせるだけのこと……そういうことでしょう?」
タンタン、タンタン。
両手の銃で器用にノバラを狙いつつ、たきなは一歩ずつ、ノバラに向かって歩を進める。
定石で考えれば、ノバラに対し、自ら間合いを詰めるというのは愚策。
たきなもそれは理解している。
そう言わんばかりの強攻である。
これに慌てたのは、むしろノバラであった。
(ヤバいヤバい! ヤバいってぇ!?)
普段のたきなは理性的で合理的。それだけなら、頭でっかちになりそうなものだが、勘の良さが適度に柔軟性を持たせている。
勘が鋭すぎる、という点がノバラと相性が悪い点ではあるが、この状態のたきなであれば、ノバラもその思考を読みやすい。
こうしたら、そうする。そうしたら、ああする。
ノバラ自身もそうだが、たきなも、合理的に次の動きを考えながら戦っているのが常だ。
一方の
こうするから、そうしろ。そうする? うるせぇ、ああしろ!
理不尽極まりなく、自分の土俵に引きずり込む。
小細工を許さない、というスタンスは、ノバラとの相性がすこぶる悪い。
その点、ノバラにとって、戦い辛くはある。
(……でも、まぁ……ここまで来たのなら、もう、たきなに流れは止められない。
くすっ、とノバラは悪戯っぽく笑う。
ヒールはヒールらしく、悪役に徹する。
煽り散らして、小細工をして、派手にかます。
……そして、散るのか、咲き誇るのかは、相手次第。
どちらにしても、ヒールとしての目的は達成される。
(なら、今は楽しもう、たきな! 後先なんて考えず、私と殺し合いましょう?)
緩急を付けて動き回り、たきなの放つ銃弾を躱しながら、ノバラはM1911の引金を引く。
たきながわずかに身を捩って、射線から身を躱した。
……単なる勘か、それとも偶然か。
(……いや、たきなならある程度できても不思議じゃない)
もとより、致命的な一撃を避ける能力はたきなには備わっている。
そうでなければ、あの延空木事件を生き残れる訳もない。
(……
借り物の感情ではなく、心の奥底から湧き上がってくる、ぞくぞく、とした感情。ノバラはそれを『楽しい』と感じていた。
ノバラは別にたきなの実力を下に見ている訳ではない。
しかし、相手が自分の領域まで、足を踏み入れそうになっているという追いつかれそうな感じ。危機感。
それが誇らしく、また、面白い。
故に、『楽しい』。
「……うふ」
借り物でも、演技でもない笑みが、自然と顔に浮かぶ。
「あはは! 楽しい! 楽しいよ、たきな! さぁ、見せて? あなたの全部を私に曝け出して?」
ノバラの前髪が風で靡いて、その瞳を露わにする。
黒々とした瞳。闇を映す昏い瞳。
ギラギラと輝く捕食者の瞳。
「……全部、潰して、犯してあげる。喰い尽くしてあげるよ、たきな。それはきっと、もっと楽しい!」
くすくす、けたけた、とノバラが嗤う。
……狼はその獰猛な顎を開いた。
今週はリアルがクソ忙しいので、更新止まるかも??