Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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230 chances to win each other

 たきなの二丁拳銃は元々来るかもしれない、対千束戦を想定したものだ。

 

 詰将棋のごとく、一発一発の銃弾で相手の避ける方向を誘導し、最終的には避けることが不可能な状態まで詰める。

 

 読み合いだけではなく、相手の誘いに乗らず、じっと我慢する胆力を必要とした戦い方だ。

 

 ……本来ならば。

 

 タン、タッタッタタン。タンタン、タッタンタン。

 

 両手の銃が不規則なリズムを刻む。

 

 その不規則かつ正確な銃撃がノバラを困惑させる。

 

(……んー……っ! 避け辛い!!)

 

 意識的なのか、無意識的なのか、たきなは、ノバラが撃ってくる、と思った瞬間を微妙に外し、その避けるであろう先に、逆の銃で弾をばら撒いてくる。

 

 銃弾を躱すといっても、撃った、というその瞬間で動いては遅すぎる。

 

 千束にしろ、ノバラにしろ、楓にしろ、撃つその瞬間には、既に避けていなければ間に合わない。

 

 千束はこれをその馬鹿げた身体能力と反射神経、観察力と動体視力で、撃つ、その瞬間に極めて近付けている。

 

 一方、ノバラにはそれほどの身体能力はない。

 結果、最も相手が撃ちやすいタイミングを見切ることで、千束と同じ結果に近づけている訳だが。

 

 たきなは、本能的にか、そのタイミングをずらしている。

 

 ノバラにはやり辛いことこの上ない。

 

 ノバラがたきなに近づこうとするなら、その残弾数を数えながら、リロードの瞬間を待つしかないのだが……。

 

 自重に任せたマガジンリリース。

 銃を持ったまま後ろに回した手で、器用にマガジンを取り出す。

 マガジンの頭をそのまま差し込むと、逆手にするようにしながら、腕を振り、マガジンの自重とその勢いでリロードを終了させる。

 

 模擬戦の際は、多少のぎこちなさはあったが、今は非常に滑らかである。

 

 そのわずかな間は確かに、弾幕は薄くなるが、たきなの独特のリズムの銃撃がそれをカバーする。

 

(……強くなっている。模擬戦のときよりも!)

 

 ぞく、とノバラの背筋を冷たいものが走る。

 だが、ぞわぞわ、と心が躍る。

 

(……楽しい。……楽しい! 楽しい!!)

 

 今のたきななら、距離をとって戦っていたとしても、ノバラが間合いを詰めるのは難しい。当然、その方が有利に戦えるというのに……。

 

 ……たきなは、また一歩、ノバラに向かって歩を進めた。

 

 たきなはフィジカルが弱い訳ではないし、体術勝負になっても十分強い。相手が普通のリコリスならば、それだけでも封殺できるだろう。

 

 だが、ノバラ相手の体術勝負は不利だ。

 

 ……たきなもそれは理解している。

 

 それでも前に進んでいるのは、たきななりに勝算があってのことだろう。

 

(クレイジーだねぇ、たきな。……でも、たぶん、それが正解)

 

 距離を取って戦う。

 たきなにとってはそれが有利な展開。

 

 ……だが、決定打もない。

 

 ノバラは確かにたきなの銃撃を避け辛いとは思ったが、避けられないほどではない。

 

 つまり、避け続けている限り、いつかは弾切れになる。

 

 そうなれば、逆にたきなが嬲られる。

 

 ノバラは銃撃をしてもいいし、体術勝負をしてもいい。

 

 そこまで行けば、まず間違いなくノバラの勝ちだ。

 

 ……たきなには、その決着が見えていたのだろうか。

 

(……まぁ、今となっては、見えていても、いなくても、どちらでもいい)

 

 むしろ、ノバラの勝算は上がった。

 

 たきなの勝負に乗るか否か。

 

 ……ノバラは当然乗る(レイズする)

 

「……しっ!」

 

 ギアを一つ上げる。

 

 避ける速度を上げながら、ノバラはM1911の引金を引いた。

 

◇◆◇

 

「……全部、潰して、犯してあげる。喰い尽くしてあげるよ、たきな。それはきっと、もっと楽しい!」

 

 ギラギラとしたノバラの瞳。

 

 たきなが初めて見るノバラの表情だった。

 

 徹底して悪役を()()()

 

 一見すると狂気的に見えるが、その実、冷静で冷徹だ。

 

 ……計算高く、強か。

 

 狂気に身を任せているように見えるが、ノバラの本質は変わっていない。

 

 だが、その瞳に浮かんでいる愉悦。

 

 心底、たきなとの戦闘を楽しんでいるという証。

 

(……千束は嫉妬するか、悲しみそうですね)

 

 戦うことでしか、『楽しい』という感情が湧かなかったこと。

 

 だからこそ、たきなは全力で応えるほかない。

 

 これに勝って、思い切りノバラを抱きしめる。

 色んなところを連れまわして、どろどろに甘やかす。

 

 そして、本当の『楽しい』を分からせる。

 

(……こんなことでしか『楽しい』と感じないなんて許しません!)

 

 たきなは、また一歩踏み出し、間合いを詰める。

 

「……しっ!」

 

 短く呼吸を吐いたノバラが、避けるスピードを上げながら、こちらも少しずつ間合いを詰める。

 そして、半身に構えた姿勢からM1911が火を噴いた。

 

 たきなの感覚からそれは、たきなを狙っているのに、たきなに当たることはないと即座に感じ取った。

 たきなにとっては、それが当たり前であり、だからこそ、再び、一歩踏み出そうとして……躊躇した。

 

 バチ、と何かが弾ける音がした。

 

(……銃弾を銃弾で弾いた!?)

 

 視界の中、確かにたきなの放った銃弾とノバラの放った銃弾がその射線を交差させ、その間で衝突した。

 

 ……偶然か、と思ったが、たきなはすぐにそれを否定した。

 

 ノバラは千束と違い完全な努力型。

 できないことは努力でできるようになるまで何度でも試行錯誤する。

 そんな彼女が銃が苦手? 当たらない?

 

 ……そんなハズはない。

 

 最上ノバラは弱点を弱点のままにしておくほど、甘くない。

 

 だとするならば、その情報が最初からブラフ、演技だと考える方が自然だろう。

 

 その腕前も今見た通り、相手の銃弾を自分の銃弾で弾くほど。

 

 さすがに、ある程度離れてしまえば、そんな芸当はできないだろうが、互いに間合いを詰めているこの距離ならば、確実に当てられると踏んで、ノバラが自身の切り札を一つ切ったのだ。

 

(やはり、ノバラはそうですよね! でも、負けません!!)

 

 手の届く距離、ノバラの間合い。

 

 ……体術勝負は不利?

 

 井ノ上たきなの体術は最上ノバラの体術に劣る?

 

 確かに、技術的にはノバラの方が確実に上だ。だが、それだけで実力が決るだろうか。

 

 たきなには、ノバラと戦うための手札がない。

 ……だが、それは本当に?

 

 たきなは、頭に血が上っていたとしても、無謀な戦い方はしない。

 

 対ノバラであれば、たきなは十分に勝てる見込みがある。

 

 ……覚悟を決めた二人の戦いの結末は近い。

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