Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
(……ここは私の間合いだよ、たきな。……さぁ、どうするの?)
互いに手の届く距離。
ノバラもたきなも未だ銃を構えている。
しかし、何時体術勝負に移ったところでおかしかくない。
純粋な体術勝負となった場合、ノバラの方が練習量、経験から、その実力が上なのは間違いない。
それはたきなにも分かっていること。
だからこそ、ノバラはたきなが何をやってくるのか、どこか、わくわく、と心を躍らせていた。
ノバラは射撃については、下手だ……
油断をしていなかったたきなは、内心での驚愕こそあれ、ノバラが銃弾を撃ち落としたことを、表には現さなかった。
確かに、得意か不得意かで言えば、不得意ではあるのだが、当てる感覚を再現することは、ノバラにとって難しくはない。
反復練習に次ぐ反復練習。
どんな姿勢であっても、風の影響がない範囲、およそ十メートル前後であれば、狙う必要すらなく当てたいところに当てることができる。
普段、それを見せないのは、いざと言う時の切り札だからだ。
相手がたきなであれば、ノバラも出し惜しみをするつもりはないし、そんな余裕もない。
どんな切り札でも、切る用意があった。
にや、と不敵な笑みを浮かべたノバラが腰の辺りに構えたM1911の引金を引いた。
低い姿勢をとったたきなは、急激な方向転換をしながら、ノバラの銃弾を躱しつつ懐に飛び込んでくる。
(……やっぱり見えてる。そして、私より早い!)
ノバラはたきなの動きを見て悟る。
たきなは自分と同様、射線と射撃タイミングを読んでいる。
……ノバラは経験で。たきなはそれに加えて、その鋭い勘で。
しかし、たきながノバラと同じ銃弾を避けるという結果を得るためには壁があった。
ノバラは、極限まで訓練した結果の無駄な動きを削ぎ落したからこそ、銃弾を避けることができている。
仮に『銃弾を避ける』という動作を常人が行うとするならば……。
相手の動きを見て、認識し、呼吸を読み、射線を読み、引金が引かれるタイミングを予測し、最適な避け方を考え、足に力を入れ、踏み切り、躱す。
大雑把な工程はこのようなものだ。
しかし、ノバラは呼吸、射線、引金を引くタイミングをほぼ同一行程内で行い、考えるまでもなく最適解を導き出し、足に力を入れるという溜めの動作を省略する。つまり、常人の半分の工程で避けることになる。
たきなの場合、いくつかの工程を省略することができているかもしれないが、少なくともノバラほどではない。
よって、たきなは自らの勘をフル活用して、相手の動きを見て、認識する部分は無視し、その上で、呼吸から射撃タイミングまでは勘で補ってを同一工程内に落とし込む。その余は常人と同じよう避ける。
つまりは、たきなの方がノバラより、避けに入る動作が早い。
……当然リスクはある。
勘が外れ、タイミングをずらされたら、結果、避けることは適わない。
だが、極限状態で集中しているたきなの勘は冴え渡っている。
今の状態のたきなであれば、全てを避けてきてたとしても不思議ではないのだ。
懐に飛び込んできたたきなが、ノバラに銃を突きつけようとする。
だが、ノバラは、にやり、と笑って、それを躱そうとして……。
側面からたきなの蹴りが襲い掛かってきた。
視界の端でそれを捉えたノバラは、射線から体を外しつつ、頭を反らすようにして蹴りも躱しながら、後ろに一歩下がる。
だが、さらにたきながM&Pで追撃しようとする。
『タン』と、ノバラとたきなの銃声が重なり、ヂュィン、と再び銃弾同士が空中で衝突した。
しかし、二度目だ。たきなはより一層気にせずに前に出てくる。
近すぎる、と感じたノバラは思わず『花鋏』に手を伸ばす……しかし、わずかに逡巡し、結果、太腿のホルスターから左手で黒星を引き抜こうとする。
(……『花鋏』は裏切り者と悪人専用。たきな相手には使っちゃダメだ)
結果、超近接の銃撃戦になる、と思いきや、ノバラが完全に黒星を抜き切るよりも早く、たきなが下から、黒星を蹴り飛ばした。
ノバラは意外そうな顔をするものの、特に慌てない。
蹴りぬいた状態のたきなの軸足の内側を軽く蹴る。
がく、とたきなの姿勢が崩れるのを見ながら、ノバラ、ぐる、と回りながら、たきなの胴体に蹴りを打ち込んだ。
「ぐぅっ!!」
たきなが両腕を交差させるようにしながら、その蹴りを受け、後方に飛ばされる。
しかし、後方に吹き飛ばされながらもたきなは、自身のM1911の引金を引き絞る。蹴りを行った後の、残心状態のノバラの右手のM1911に銃弾を当てた。
……これで、ノバラの両手には銃はなくなり、たきなは地面に吹き飛ばされた形となる。
地面に座った状態のままのたきなは痺れる手を気にせず、M&Pを持った左手を前に突き出し。
にや、と笑ったノバラの手元には、たきなが先ほど蹴り上げた黒星落ちてくる。
……まさに模擬戦の再現という状況。
……先にどちらが引金を引けるか、というタイミングであった。
◇◆◇
(……まるで、模擬戦のときの再現ですね)
あのときは、そのまもであれば、ノバラが引金を引く方が早かったはずだ。
……結果としては、先にすみれを倒していた千束に銃撃されてしまったのだが。。
しかし、あのとき、たきはは、千束がいなければ、間違いなくノバラに撃たれていたであろうと思っている。
そして、今回。
……ノバラはたきなの妹である。
その事実がたきなの引金を引く指を重くさせた。
だからこそ、たきなは悩んだ。
このまま引くべきか。それとも引かずに、ノバラを説得するべきか。
……たきなを見るノバラの瞳は面白そうにしている色は見えるものの、殺気の鋭い、黒く昏い瞳のまま。全身から噴き出している粘りつくような殺気は、たきなを殺す意思を持っていることが分かる。
殺そうとしてくる相手に、少なくとも説得は通じないだろう。
しかし、安易に引金を引くのにも躊躇いがあった。半分とは言え、自らの本当の妹であり、相棒である千束の義理の妹。殺す、という選択肢は自分たちの信条からすれば当然になく、撃つとしても、最低限、致命傷を与えるような傷は控えなければならない。
撃たない、という選択肢ももちろんある。だが、その結果がどうなるか。
こちらの意図を汲んで、ノバラが撃つのを止めるか、戸惑う可能性もあるし、当然とばかりに撃ってくる可能性もある。
当然、撃ってくるとしたら、たきなが生き残るのは難しいところだろう。
たきなとノバラの視線が交錯したわずかの間。たきなはそんな考えを巡らせていた。
……時間にしては、まばたき一つもない程度のわずかな時間。
……そこで出したたきなの結論は。
撃たない
撃つ ◀