Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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234 Her goal

 …………撃つ。

 

 たきなはそう判断した。

 

(……狙うのは肩。ノバラが銃を取ることを優先するなら私の方が速い!)

 

 引金をに指を掛け、引き絞る。

 

 ……たきなの視線の先。ノバラが、にやり、と笑ったように見えた。

 

◇◆◇

 

 千束はすみれを抱き留め、ゆっくりと地面に下ろしていく。

 

「……ふぃ~っ。いやぁ、きっついわー」

 

 一撃死しかねないすみれの相手は、さすがの千束も神経を使う。

 リリベルを相手にした以上に、べっとりと汗を掻いていた。

 

(……さて、たきなとノバラの方に)

 

 立ち上がろうとして、すみれが制服を握っていることに気づく。

 

 やれやれ、と千束は、すみれの手を解こうとするが……。

 

(……うん? あれ? ……ぜ、全然外れねぇ! 意識失ってこれ!?)

 

 んむむ、と力を入れてみるが、そもそものパワーが違いすぎる。

 

 千束は早々にすみれの手を解くことを諦めた。

 

 已む無く、制服の上着ごと脱いで、すみれの拘束から脱する。

 

 引き締まったウエスト、ボリュームのある胸。

 ちら、と改めて自分の赤い下着を見て、千束は苦笑した。

 

(うーむ……ノバラのことを茶化しはしたものの……)

 

 元は服に無頓着だったノバラがえっちぃ下着を着けていたから、思わず突っ込んでしまってはいたが、千束も人のことを言えない。

 

 ……勝負下着である。

 

 ……色もお揃い。

 

(……やっぱり姉妹で好みって似るのかなぁ?)

 

 ……そして、ちょっと透けていて、まぁまぁ際どい。

 

(……でも、万が一、死んだときに、ババシャツとかだったら、何て言われるか……。そんなこと考えれば、下手なの着れないし……)

 

 リコリスという役目柄、死は身近にあったし、千束には心臓の問題があった。だからこそ、いつ死んでも綺麗な姿でいたい、という乙女心から、死ぬ覚悟のあるときくらいは、自分を飾るのに相応しい下着を身に着けるのが習慣だった。

 

 ……しかし、この習慣はノバラとともに暮らしていた頃の習慣ではない。

 

 だと言うのに、似たような嗜好になっているのは、何ともおかしかった。

 

 ざぁ、と吹いた風に千束は少し体を震わせる。

 

 ……汗を掻いていたせいか、体を撫でていく風が少し寒い。

 

 千束は、鳥肌が立つような感覚に、両手で体を抱きしめるようにしながら、たきなとノバラの姿を探す。

 

 ……タン、と小さく乾いた音が響く。

 

 視線を向けたその先。

 

 ……小さな体に、赤い花が咲いていた。

 

◇◆◇

 

「……………………………………え?」

 

 たきなは目の前の光景が信じられず、呆然として、ぽつり、と声を漏らした。

 

 ……地面には血を流したノバラが倒れている。

 

「………………どう、して………………?」

 

 意味が分からずに、たきなは唇を震わせる。

 

 ……あのとき。

 

 たきなが引金を引いた瞬間。

 ノバラは宙から降ってきた銃を取り、たきなに向けようとしているように見えた。

 

 たきながわずかでも躊躇すれば、たきな自身が撃たれる結果になったであろう刹那の瞬間。

 

 たきなが肩を狙って撃った銃弾は、ノバラの首筋に吸い込まれていくように見えた。

 

 この距離でたきなが狙った的を外すことなどあり得ない。

 

 もっと言えば、ノバラが絶対に避けられないタイミングであったとも思えない。

 

 ……結論。

 

 ノバラは自ら当たりに来た、ということだ。

 

(……楓さんの、歩法……?)

 

 狙った位置から微妙にずれる、楓独特の歩法。

 

 避けることに使えば、当たる瞬間に銃弾が逸れていくように錯覚するが、逆に使えばどうなるか。

 

 撃ち手の意思と異なる位置に銃弾が吸い込まれる。

 

 ノバラの意図は分からないが、たきなはノバラがそうしたことを悟る。

 

「……ノバラ! どうして!? ……いえ、それより止血をっ!?」

 

 思わずたきなは、どうしてそんなことをしたのか、と詰問しようとしたが、ノバラの出血を見て、それどころではないことに思い至る。

 

 ノバラの傍らに座って傷口を見れば、右頸部の頸動脈が撃ち抜かれている。

 

 マズい、と思いサッチェルバッグを開けるが……。

 

(……さっきのリリベルの手当てで応急用パッドは全部使い切った!)

 

 ぎり、とたきなは奥歯を噛み締め、タオルで傷口の上を押さえる。

 

 タオルが一瞬で真っ赤に染まった。

 

(出血量が多過ぎる! これじゃあ……!!)

 

「ノバラ! ノバラ!! しっかりしてください!!」

 

 たきなは声を張り上げ、ノバラに声を掛ける。

 それに気づいたノバラが、ゆっくりと目を開ける。

 

(……え? ……何故……どうして嬉しそうなんですか!?)

 

 ノバラの瞳は、意識を失う寸前の独特のものでありながら、普段の昏いものと異なり、喜んでいるような、嬉し気な、光があった。

 

「……ぅ、ふふっ……たきな、の、射撃が、正確で、助かった、よ……。私が、想定していた……決着の中で、私が、一番したかったことが、できる……戦いは私、の負けだけど……勝負は、私、の……勝……ち、だよ、たきな…………千束」

 

 にひ……、とノバラが力なく笑う。

 いつの間にか、上半身下着の千束がノバラを見下ろしていた。

 

 その顔に表情はない。

 あまりのショックで感情を失ってしまったようにも見えた。

 

「千束!? 止血を手伝ってください!! 止血パッドはありますか!?」

 

 たきなの声に、千束は、はっ、として、ノバラの状態を見て、顔を青くする。

 

「あ、ああ、ごめん!! ……あっ、クソ!? あいつらに使ったから!」

 

 千束も止血パッドを切らしているらしく、青ざめた顔に焦燥を滲ませる。

 

「……ふ、ふ……計算、どおり……だよ……。もう、どうにも……できない、でしょう……? せっかく、綺麗に……残、した、んだか……ら、ちゃんと、使ってよ……ね」

 

 ノバラの途切れ途切れの言葉に千束は、ノバラが何を言いたいのか理解して、口元を押さえた。

 

「……あ、アンタ、まさか……!?」

 

『綺麗に死んで、千束に心臓を移植してもらおうなんて考えてた訳だけど』

 

 ……確かに、前そんな話をしていた記憶はあった。

 

「……ちさと、おねえちゃん……わた、しに……むだじに、させ……ないで……?」

 

 にぃ、とノバラの口元が笑みの形を作る。

 

「……ばか……ばかぁ! そんなことされても嬉しくない、って言ったハズでしょう!? どうして!? どうしてこんなぁ……!?」

 

 ぼろぼろ、と涙を流し、千束が泣き崩れた。

 

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