Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
…………撃つ。
たきなはそう判断した。
(……狙うのは肩。ノバラが銃を取ることを優先するなら私の方が速い!)
引金をに指を掛け、引き絞る。
……たきなの視線の先。ノバラが、にやり、と笑ったように見えた。
◇◆◇
千束はすみれを抱き留め、ゆっくりと地面に下ろしていく。
「……ふぃ~っ。いやぁ、きっついわー」
一撃死しかねないすみれの相手は、さすがの千束も神経を使う。
リリベルを相手にした以上に、べっとりと汗を掻いていた。
(……さて、たきなとノバラの方に)
立ち上がろうとして、すみれが制服を握っていることに気づく。
やれやれ、と千束は、すみれの手を解こうとするが……。
(……うん? あれ? ……ぜ、全然外れねぇ! 意識失ってこれ!?)
んむむ、と力を入れてみるが、そもそものパワーが違いすぎる。
千束は早々にすみれの手を解くことを諦めた。
已む無く、制服の上着ごと脱いで、すみれの拘束から脱する。
引き締まったウエスト、ボリュームのある胸。
ちら、と改めて自分の赤い下着を見て、千束は苦笑した。
(うーむ……ノバラのことを茶化しはしたものの……)
元は服に無頓着だったノバラがえっちぃ下着を着けていたから、思わず突っ込んでしまってはいたが、千束も人のことを言えない。
……勝負下着である。
……色もお揃い。
(……やっぱり姉妹で好みって似るのかなぁ?)
……そして、ちょっと透けていて、まぁまぁ際どい。
(……でも、万が一、死んだときに、ババシャツとかだったら、何て言われるか……。そんなこと考えれば、下手なの着れないし……)
リコリスという役目柄、死は身近にあったし、千束には心臓の問題があった。だからこそ、いつ死んでも綺麗な姿でいたい、という乙女心から、死ぬ覚悟のあるときくらいは、自分を飾るのに相応しい下着を身に着けるのが習慣だった。
……しかし、この習慣はノバラとともに暮らしていた頃の習慣ではない。
だと言うのに、似たような嗜好になっているのは、何ともおかしかった。
ざぁ、と吹いた風に千束は少し体を震わせる。
……汗を掻いていたせいか、体を撫でていく風が少し寒い。
千束は、鳥肌が立つような感覚に、両手で体を抱きしめるようにしながら、たきなとノバラの姿を探す。
……タン、と小さく乾いた音が響く。
視線を向けたその先。
……小さな体に、赤い花が咲いていた。
◇◆◇
「……………………………………え?」
たきなは目の前の光景が信じられず、呆然として、ぽつり、と声を漏らした。
……地面には血を流したノバラが倒れている。
「………………どう、して………………?」
意味が分からずに、たきなは唇を震わせる。
……あのとき。
たきなが引金を引いた瞬間。
ノバラは宙から降ってきた銃を取り、たきなに向けようとしているように見えた。
たきながわずかでも躊躇すれば、たきな自身が撃たれる結果になったであろう刹那の瞬間。
たきなが肩を狙って撃った銃弾は、ノバラの首筋に吸い込まれていくように見えた。
この距離でたきなが狙った的を外すことなどあり得ない。
もっと言えば、ノバラが絶対に避けられないタイミングであったとも思えない。
……結論。
ノバラは自ら当たりに来た、ということだ。
(……楓さんの、歩法……?)
狙った位置から微妙にずれる、楓独特の歩法。
避けることに使えば、当たる瞬間に銃弾が逸れていくように錯覚するが、逆に使えばどうなるか。
撃ち手の意思と異なる位置に銃弾が吸い込まれる。
ノバラの意図は分からないが、たきなはノバラがそうしたことを悟る。
「……ノバラ! どうして!? ……いえ、それより止血をっ!?」
思わずたきなは、どうしてそんなことをしたのか、と詰問しようとしたが、ノバラの出血を見て、それどころではないことに思い至る。
ノバラの傍らに座って傷口を見れば、右頸部の頸動脈が撃ち抜かれている。
マズい、と思いサッチェルバッグを開けるが……。
(……さっきのリリベルの手当てで応急用パッドは全部使い切った!)
ぎり、とたきなは奥歯を噛み締め、タオルで傷口の上を押さえる。
タオルが一瞬で真っ赤に染まった。
(出血量が多過ぎる! これじゃあ……!!)
「ノバラ! ノバラ!! しっかりしてください!!」
たきなは声を張り上げ、ノバラに声を掛ける。
それに気づいたノバラが、ゆっくりと目を開ける。
(……え? ……何故……どうして嬉しそうなんですか!?)
ノバラの瞳は、意識を失う寸前の独特のものでありながら、普段の昏いものと異なり、喜んでいるような、嬉し気な、光があった。
「……ぅ、ふふっ……たきな、の、射撃が、正確で、助かった、よ……。私が、想定していた……決着の中で、私が、一番したかったことが、できる……戦いは私、の負けだけど……勝負は、私、の……勝……ち、だよ、たきな…………千束」
にひ……、とノバラが力なく笑う。
いつの間にか、上半身下着の千束がノバラを見下ろしていた。
その顔に表情はない。
あまりのショックで感情を失ってしまったようにも見えた。
「千束!? 止血を手伝ってください!! 止血パッドはありますか!?」
たきなの声に、千束は、はっ、として、ノバラの状態を見て、顔を青くする。
「あ、ああ、ごめん!! ……あっ、クソ!? あいつらに使ったから!」
千束も止血パッドを切らしているらしく、青ざめた顔に焦燥を滲ませる。
「……ふ、ふ……計算、どおり……だよ……。もう、どうにも……できない、でしょう……? せっかく、綺麗に……残、した、んだか……ら、ちゃんと、使ってよ……ね」
ノバラの途切れ途切れの言葉に千束は、ノバラが何を言いたいのか理解して、口元を押さえた。
「……あ、アンタ、まさか……!?」
『綺麗に死んで、千束に心臓を移植してもらおうなんて考えてた訳だけど』
……確かに、前そんな話をしていた記憶はあった。
「……ちさと、おねえちゃん……わた、しに……むだじに、させ……ないで……?」
にぃ、とノバラの口元が笑みの形を作る。
「……ばか……ばかぁ! そんなことされても嬉しくない、って言ったハズでしょう!? どうして!? どうしてこんなぁ……!?」
ぼろぼろ、と涙を流し、千束が泣き崩れた。