Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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235 I had some good times

「……ばか……ばかぁ! そんなことされても嬉しくない、って言ったハズでしょう!? どうして!? どうしてこんなぁ……!?」

 

 ノバラは、涙を零す千束をぼんやりと見ながら、やはり、素直に『うん』とは言ってくれないなぁ、とノバラはぼーっとする頭で考えた。

 

 ……大好きな(千束)

 

 その泣き顔を見たい訳ではない。

 

 これからもずっと笑っていて欲しい。

 

 想定し、道筋を立てた未来の中で、ノバラが最も幸せだと考えた結末。

 

 ……千束の心臓がいつまで持つのか。

 最初のものは十年程度。今使っている改良されたものは、もう少し持つのかもしれない。だがその先は?

 まだ先の話、と言うのは簡単だが、それにしてもリスクがある。

 

 延空木事件のときのように悪意のある何者かが壊そうとしたら?

 心臓の限界が来た時に、次のものが見つけられなかったら?

 その次は? その次の次は? 

 

 ……そして、そのとき、千束の体は耐えられるのか?

 

 それらを考えたとき、心移植というのは、さほど悪いアイディアではない。

 

 ……ノバラ自身の命と千束の気持ちを無視すれば。

 

 ノバラは自身の生には、それほど興味がない。

 敵と戦うなら死ぬつもりはないが、誰かのために使えるのなら、それはそれで構わない。

 

 ……大好きな、愛する姉なら、尚のこと。

 

 そして、ずっとその機会を窺っていた。

 

 電波塔事件以降からずっと。

 新しく機械式心臓を移植されたと聞いてからも。

 東京に出向してからも。

 

 納得して移植を受けてくれるのが一番だったのだが、そうでないなら強引にその選択を迫るし、その選択を拒否するとしたら、力ずくでも。

 

「……しかた、ない、なぁ……ちさと、おねえちゃんが、なっとく、して……くれない、なら……ちょっと、ねむって、もらうよ…………すみれ、やくそくを、まもり、なさいっ!!」

 

 絞り出すようなノバラの声。

 

 千束もたきなもショックを受けていたせいか気づかなかった。

 

 意識を失って倒れていたはずのすみれが、千束の背後に立っていることに。

 

 がっ!

 

「……が……ぁっ!?」

 

 加減したすみれの手刀が千束の後頭部を捉える。

 

 がくっ、と倒れる千束をすみれが抱き留める。

 

「すみれ!? 何をっ!?」

 

 たきながすみれを睨む。

 

 すみれは、ぽろぽろ、と涙を零している。

 ぎゅっ、と結んだ口は、強がっている子どものようであった。

 

「……いいこ、ね。……あとのことは、クルミに、したがって……? だいじょうぶ、ちゃんと、じゅんび、していたん、だから……」

 

 こくり、とすみれが頷く。

 千束を優しく地面に寝かせたすみれは、そっとノバラの手を取った。

 

「……っ!」

 

 言いたいことはあるのだろうが、口にできない。

 我慢している言葉が零れそうになるから。

 

 だから、すみれは黙って手を握る。

 

 そんな、すみれを見て、ノバラは、にこり、と微笑んだ。

 

「……たき、な……?」

 

 ノバラが焦点の合わない目で、たきなの姿を探す。

 

 ……既に見えないのだろう。

 

 たきなは、ぎり、と奥歯を噛みしめてから、ノバラの手を握る。

 

「……ごめん、ね……? いやな……やくをさせて……でも、これで、ちさととずっと……いきられる、から……()()()()()()、あとは……まかせる……よ……。ずっと、ずっと……しあわせで……い……て…………」

 

 少しずつ弱くなっていく鼓動。

 

 ……ぱく、ぱく、と開いた口はまだ何かを言っているように見えたが、それはもう、言葉になっていなかった。

 

『私はちゃんと幸せだったよ』

 

 力ない唇の動きを読んだ限り、ノバラはそう口にして……その命の灯を消した。

 

 ぶわっ、とたきなの目に涙が溢れ、視界が滲んだ。

 

 ノバラは『お姉ちゃん』とたきなを呼んだ。

 普段の冗談めいた言葉ではなく、真剣な言葉で。

 

(……私が言わなくても知っていたんですね)

 

 どのタイミングで知ったのかは分からない。だが、おそらくは、たきなと同じかその後。少なくとも最初から知っていたわけではなさそうだった。

 

 だが、ノバラがたきなに後事を任せたのは、血の繋がった姉だから、ということではなく、たきな自身を見定めた結果だろう。

 

 託せる、とそう信じたからこその結末。

 

 彼女が最も幸せだと信じた未来。

 

 だが……。

 

「……でも!! でも、そこにあなたがいないなら、何の意味もないでしょう!? ……ああああああああっ!!」

 

 たきなはノバラの胸に縋り付いて、涙を流した。

 

 ……温もりを失ったその体は何も答えない。満足そうな笑顔を湛えたまま……。

 

◇◆◇

 

(……やくそく、守ったよ。ノバラちゃん……)

 

 すみれは、クルミが手配したらしい車に、千束とノバラを載せていくのを見送った。

 

 たきなはショックを受けているようで、地面に、ぺたん、と座ったまま顔を俯かせている。

 

 すみれは思っていたよりもショックが少なかった。

 

 何処か頭の中でこうなることを考えていたかもしれない。

 

『……死ぬときは死ぬわよ、誰だって。だから、せめて綺麗に死ななきゃね。すみれも戦いのときは、下着だけはちゃんとしたの着けなさい。そして、もし、私が死ぬときにあなたが近くにいたなら』

 

(……どんな手を使ってでも、千束ちゃんに自分の心臓を移植させろ、って……酷いなぁ、ノバラちゃん。……相手が千束ちゃんじゃあ、すみれに勝ち目ないよ……)

 

 すみれがどれだけノバラに好意を寄せても、ノバラからは家族として、妹としての愛情しか感じなかった。

 

 ……それも当然だろう。ノバラはずっと、千束に恋焦がれていた。

 

 千束はすみれにとってのノバラと同じ存在。

 

 なら、それは仕方のないこと。

 

 すみれ自身、そう納得していたし、本人を見て、共に生活して分かった。

 

 ノバラは自分の気持ちに蓋をしていたが、すみれもそうする必要はない。

 

 だからこそ、色々頑張ったつもりであったが、やはり、それでは届かなかったらしい。

 

 悔しい、と思う気持ちがないわけではない。悲しい、とも思う。

 

 だが、ノバラが自分で選んだ結末を否定するつもりもない。

 

 ノバラはいなくなったが、自分はまだ生きている。

 

 死にたくない、とも思える。

 

 だから、どんなに悲しくても、生きていかなければならない。

 

 全力で。鮮やかに……。






……なんかこれでエンディングでも良い気がしてきた!!

でも、一応、全部の決着まで書きます
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