Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……ばか……ばかぁ! そんなことされても嬉しくない、って言ったハズでしょう!? どうして!? どうしてこんなぁ……!?」
ノバラは、涙を零す千束をぼんやりと見ながら、やはり、素直に『うん』とは言ってくれないなぁ、とノバラはぼーっとする頭で考えた。
……大好きな
その泣き顔を見たい訳ではない。
これからもずっと笑っていて欲しい。
想定し、道筋を立てた未来の中で、ノバラが最も幸せだと考えた結末。
……千束の心臓がいつまで持つのか。
最初のものは十年程度。今使っている改良されたものは、もう少し持つのかもしれない。だがその先は?
まだ先の話、と言うのは簡単だが、それにしてもリスクがある。
延空木事件のときのように悪意のある何者かが壊そうとしたら?
心臓の限界が来た時に、次のものが見つけられなかったら?
その次は? その次の次は?
……そして、そのとき、千束の体は耐えられるのか?
それらを考えたとき、心移植というのは、さほど悪いアイディアではない。
……ノバラ自身の命と千束の気持ちを無視すれば。
ノバラは自身の生には、それほど興味がない。
敵と戦うなら死ぬつもりはないが、誰かのために使えるのなら、それはそれで構わない。
……大好きな、愛する姉なら、尚のこと。
そして、ずっとその機会を窺っていた。
電波塔事件以降からずっと。
新しく機械式心臓を移植されたと聞いてからも。
東京に出向してからも。
納得して移植を受けてくれるのが一番だったのだが、そうでないなら強引にその選択を迫るし、その選択を拒否するとしたら、力ずくでも。
「……しかた、ない、なぁ……ちさと、おねえちゃんが、なっとく、して……くれない、なら……ちょっと、ねむって、もらうよ…………すみれ、やくそくを、まもり、なさいっ!!」
絞り出すようなノバラの声。
千束もたきなもショックを受けていたせいか気づかなかった。
意識を失って倒れていたはずのすみれが、千束の背後に立っていることに。
がっ!
「……が……ぁっ!?」
加減したすみれの手刀が千束の後頭部を捉える。
がくっ、と倒れる千束をすみれが抱き留める。
「すみれ!? 何をっ!?」
たきながすみれを睨む。
すみれは、ぽろぽろ、と涙を零している。
ぎゅっ、と結んだ口は、強がっている子どものようであった。
「……いいこ、ね。……あとのことは、クルミに、したがって……? だいじょうぶ、ちゃんと、じゅんび、していたん、だから……」
こくり、とすみれが頷く。
千束を優しく地面に寝かせたすみれは、そっとノバラの手を取った。
「……っ!」
言いたいことはあるのだろうが、口にできない。
我慢している言葉が零れそうになるから。
だから、すみれは黙って手を握る。
そんな、すみれを見て、ノバラは、にこり、と微笑んだ。
「……たき、な……?」
ノバラが焦点の合わない目で、たきなの姿を探す。
……既に見えないのだろう。
たきなは、ぎり、と奥歯を噛みしめてから、ノバラの手を握る。
「……ごめん、ね……? いやな……やくをさせて……でも、これで、ちさととずっと……いきられる、から……
少しずつ弱くなっていく鼓動。
……ぱく、ぱく、と開いた口はまだ何かを言っているように見えたが、それはもう、言葉になっていなかった。
『私はちゃんと幸せだったよ』
力ない唇の動きを読んだ限り、ノバラはそう口にして……その命の灯を消した。
ぶわっ、とたきなの目に涙が溢れ、視界が滲んだ。
ノバラは『お姉ちゃん』とたきなを呼んだ。
普段の冗談めいた言葉ではなく、真剣な言葉で。
(……私が言わなくても知っていたんですね)
どのタイミングで知ったのかは分からない。だが、おそらくは、たきなと同じかその後。少なくとも最初から知っていたわけではなさそうだった。
だが、ノバラがたきなに後事を任せたのは、血の繋がった姉だから、ということではなく、たきな自身を見定めた結果だろう。
託せる、とそう信じたからこその結末。
彼女が最も幸せだと信じた未来。
だが……。
「……でも!! でも、そこにあなたがいないなら、何の意味もないでしょう!? ……ああああああああっ!!」
たきなはノバラの胸に縋り付いて、涙を流した。
……温もりを失ったその体は何も答えない。満足そうな笑顔を湛えたまま……。
◇◆◇
(……やくそく、守ったよ。ノバラちゃん……)
すみれは、クルミが手配したらしい車に、千束とノバラを載せていくのを見送った。
たきなはショックを受けているようで、地面に、ぺたん、と座ったまま顔を俯かせている。
すみれは思っていたよりもショックが少なかった。
何処か頭の中でこうなることを考えていたかもしれない。
『……死ぬときは死ぬわよ、誰だって。だから、せめて綺麗に死ななきゃね。すみれも戦いのときは、下着だけはちゃんとしたの着けなさい。そして、もし、私が死ぬときにあなたが近くにいたなら』
(……どんな手を使ってでも、千束ちゃんに自分の心臓を移植させろ、って……酷いなぁ、ノバラちゃん。……相手が千束ちゃんじゃあ、すみれに勝ち目ないよ……)
すみれがどれだけノバラに好意を寄せても、ノバラからは家族として、妹としての愛情しか感じなかった。
……それも当然だろう。ノバラはずっと、千束に恋焦がれていた。
千束はすみれにとってのノバラと同じ存在。
なら、それは仕方のないこと。
すみれ自身、そう納得していたし、本人を見て、共に生活して分かった。
ノバラは自分の気持ちに蓋をしていたが、すみれもそうする必要はない。
だからこそ、色々頑張ったつもりであったが、やはり、それでは届かなかったらしい。
悔しい、と思う気持ちがないわけではない。悲しい、とも思う。
だが、ノバラが自分で選んだ結末を否定するつもりもない。
ノバラはいなくなったが、自分はまだ生きている。
死にたくない、とも思える。
だから、どんなに悲しくても、生きていかなければならない。
全力で。鮮やかに……。
……なんかこれでエンディングでも良い気がしてきた!!
でも、一応、全部の決着まで書きます