Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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本編完結したとは言いましたが、書き終わったとは言ってませんよ?

233 で選択肢を変えた場合


第九章 BAD END -Unchanging missions-
234B If I can't shoot her, ……


 ……撃たない。

 

 ……撃てない。

 

 撃てるわけがない!

 

 世界でたった一人だけの自分の妹。

 

 いや、仮にその事実がなかったとしても、短い期間とは言え、姉妹同然に過ごした彼女をどうして殺意を持って撃つことができるだろうか。

 

(……いえ、肩を狙うなら……!)

 

 引金をに指を掛け、引き絞る。

 

  ……たきなの視線の先。ノバラの冷たい視線がたきなを射抜いた。

 

◇◆◇

 

 千束はすみれを抱き留め、ゆっくりと地面に下ろしていく。

 

「……ふぃ~っ。いやぁ、きっついわー」

 

 一撃死しかねないすみれの相手は、さすがの千束も神経を使う。

 

 リリベルを相手にした以上に、べっとりと汗を掻いていた。

 

(……さて、たきなとノバラの方に)

 

 立ち上がろうとして、すみれが制服を握っていることに気づく。

 

 やれやれ、と千束は、すみれの手を解こうとするが……。 

 

(……うん? あれ? ……ぜ、全然外れねぇ! 意識失ってこれ!?)

 

 んむむ、と力を入れてみるが、そもそものパワーが違いすぎる。

 

 千束は早々にすみれの手を解くことを諦めた。

 

 已む無く、制服の上着ごと脱いで、すみれの拘束から脱する。

 

(……やれやれ。今度こそあっちに……っ!?)

 

 ……刹那、世界が凍ったような気がした。

 

 ふる、と思わず体を震える。

 

(……寒気……? ……この私が……?)

 

 幾度も殺意の中に晒されてきた。

 銃弾の雨霰。降り注ぐそれを掻い潜ってきた。

 

 だから、殺意に恐怖するなど今更の話。

 

 ……しかし、震えが止まらない。嫌な予感が収まらない。

 

 千束は相棒と妹の戦場に目を向け……声を上げながら走り寄った。

 

◇◆◇

 

(…………あ)

 

 たきなは自らの致命的なミスを悟る。

 

 瞬きほどの時間が一生にさえ感じるほどに、時間が引き延ばされる感覚。

 

 ……迷う必要はなかった。

 たきなに許されていた選択肢は撃つということだけ。

 

 それを選べなかったということは……。

 

(……私は今日……ここで死ぬ……!)

 

 世界が凍てついたと錯覚するほど強烈に、自身の存在を否定される。暗い闇の顎に存在を喰われる。

 

 氷の手で心臓を鷲掴みにされるような感覚。

 全身を茨の蔓で締め付けられるような痛みと拘束感。

 

 ……たきなと異なりノバラに躊躇はない。

 

 その暗く昏く輝く瞳がそれを無言で物語る。

 

 黒い星が彼女の手の内に降る。

 

「……ばいばい、()()()()()

 

 ……ああ、知っていたのか、と腑に落ちた。

 

 二人きりの姉妹だと知っても、彼女の信念は揺るがなかった。

 

 ……当然だろう。

 愛する妹のためならば、愛する姉たちさえ手に掛ける。

 

 彼女の決意、覚悟はそういうものだ。

 

 ……故に、そこに慈悲は無い。

 

 かちり、と引き金を引く音がする。

 ぱん、と火薬の炸裂する音がする。

 ぴゅ、と銃弾が空気を切る音がする。

 

 ……自身の体を貫くその直前。

 

「……すみません、千束。私に、ノバラは撃てませんでした……」

 

 ……結局、たきなには覚悟が足りなかったのだろう。

 

 妹を手に掛けずに済んだ。そのことには後悔はない。

 

 ……あるとすれば。

 

「たきなぁぁぁぁぁ!?」

 

 ……愛する恋人が泣いていることだろうか。

 

◇◆◇

 

 弾丸は無慈悲にたきなの眉間を穿つ。

 赤黒い血が、ぷしゃ、と弾ける。

 

 たきなに駆け寄った千束が力なく倒れるその体を抱き締める。

 

「……どうして……どうしてぇぇぇ!?」

 

 きっ、と千束がノバラを睨みつける。

 

 だが、それに返されたのは、本当に感情を失ったかのような冷たい眼差し。

 

 千束を見ているはずなのに、何も見ていないような、真っ黒で、真っ暗で……昏く濁って、冷たく輝く、黒曜石のような無機質な瞳。

 

「……どうして? 戦いの場に覚悟なく立った結果でしょう? ……千束、あなたはどうするの?」

 

 ……そこに、自分の愛する……愛した妹の姿はない。

 

 千束は()()()()()()愛銃を構える。

 

 その姿を見て、ノバラは、にぃ、と口の端を吊り上げる。

 

「……じゃあ、殺し合いましょう、千束?」

 

 ノバラの手に赤い星が上る。

 

 彼女の手には二つの星。

 降り注いだ黒い星と駆け上った赤い星。

 

 赤と黒の双星が彼女腕の先で交差して、千束に向けられる。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 立ち上がった千束はノバラに向けて二つ銃弾を放つ。

 

 ……ノバラなら、躱してくる。

 そう予想して、次の狙いを定める。

 

 ……しかし。

 

 ぱんぱん、と自分の銃声と重なり合うように聞こえた二つの銃声。

 

 千束の動体視力だからこそ知覚できるあり得ない光景。

 

 互いに放った銃弾が、真正面でぶつかり合って、潰れている。

 

(……撃ち落とした!?)

 

 自分と遜色ないほどには、銃弾を躱すことができるノバラが身を躱すという選択肢を取らなかったこと。

 へたっぴなはずの銃で、寸分の狂いなく銃弾で撃ち落としたことへの驚愕。

 

 ……それよりも、自分ですら意識できていなかった、たきなが殺されたことに対する怒り、悲しみ、憎悪。そういった感情が自分の動きを鈍らせた。

 

 わずかな空白。意識の間隙。

 

 千束が次の動きを躊躇したその時間。

 

 ……それだけでノバラには十分過ぎる。

 

 ぱん。

 

 三発目の銃声とともに、胸には熱さを感じた。

 

「……ぁ……」

 

 機械の心臓が正確に射抜かれて……そして、それは、その役目を終えた。

 

 ……銃弾って、熱いんだな、とどうでもいいことを考える。

 

 千束の体はいつの間にか地面に倒れていた。

 

「……た、……き……な……ぁ……っ!」

 

 最後の力を振り絞って、たきなの躯へと這い寄る。

 その冷たくなった手に自分の頬を寄せる。

 

「……ご……めん……ね……?」

 

 ぱくぱく、と口を動かすが声にならない。

 

『私もそっちに行くから。ずっと一緒に……』

 

 唇の動きを読むならば、そんなことを口にしている。

 

 光を失いつつある千束の瞳は、最後に、冷たい目で見下ろしてくるノバラの姿を捉え……。

 

「……さようなら、千束お姉ちゃん。大好きだったよ……」

 

 ……ほろり、と一滴の涙が流れるのを見た。

 

◇◆◇

 

「…………ふふふっ」

 

 ……このタイミングしかなかった。

 

 ノバラが千束と戦えば、百回中九十九回は敗れる。

 

 体術に優れ、実際は銃の腕は悪くないことを含めても、勝率はその程度である。

 

 圧倒的な身体能力の差。

 

 それを埋めるための努力をし、足りない部分を戦術で埋め、それでもなお、本気の千束には敵わない。

 

 だからこそ、『たきなの死』という千束の動揺を誘うことが必要不可欠だった。

 

 悲哀は肉体を突き動かすが、その動きは単純で、憤怒は肉体の限界を超えさせるが、その分思考は鈍らせる。

 

 平静さを失った千束であれば、ノバラの敵ではない。

 

 ノバラが千束に勝てるとしたら、このタイミングの一度切り。

 

 ずっとずっと思い描いていた姉に打ち勝つという、その目標。

 

 ……その達成感は清々しいものではなく、苦々しいものだった。

 

(……あは。これが、『悲しい』か……)

 

 ぎゅっ、と胸を締め付けるような苦しい気持ち。

 

 ……あの日、千束が寮を去る時と同じような喪失感。

 

 しかし、あの頃のように泣くことは許されない。

 

 これは自分の選んだ選択肢。

 押し付けられたのではない、自分が選んだ未来。

 

「ふふふ……ははは……あーはっはっは!!」

 

 ……だから笑う。

 泣きながら笑う。

 

 失った。だが、守ったものもある。

 

 その守るもののために、愛する姉たちさえ手に掛けるという選択肢を選んだのだ。

 

 自分が泣けば、守るものを悲しませる。

 

 だから、笑え。狂ったように。狂ってしまうように。

 

「さぁて! じゃあ、潰しちゃおうかな! 全部全部、クソッたれなこの世界! 揺りかごは壊して燃やして薪にしよう! 腐ったゴミは全部潰してばら撒こう! …………お前ら、全員豚のエサだ」

 

 ぎょろり、と黒い瞳がカメラを捉えた。

 

◇◆◇

 

 ……大きな街が動き出す前の静けさが嫌い。

 

 平和で安全? 綺麗な東京? 

 裏側を見れば、ゴミ溜めみたいにウジが湧いている。

 

 だが、そんなものは、世界中に溢れている話。

 

 それでもまだここに笑顔が溢れているのは、幾重にも積み重ねられた死体たちのおかげ……彼女たちが使命を果たし続けたからだ。

 

 犯罪率は増加傾向にある。

 

 しかし、それは世界中から見れば、ごく小規模なもの。

 

『世界一の安心と安全』、『犯罪とは無縁の笑顔の溢れる国』。

 

 人々はまだそれを信じている。

 

 自身の国で起こらない大きなテロ。大きな戦争。

 隣国で起こったそれを対岸の火事を見るが如く、訳知り顔でああだこうだと好き勝手に口を開く。

 

 ……相対的にこの国は平和である。

 

「……ノバラちゃん! それじゃあ始めようか!」

 

 ノバラとすみれは、()()()()()()()厄介ごとの只中にいる。

 

「……そうね。始めましょう」

 

 この国に戦争の火種を持ち込もうとしている輩がいる。

 

 ……安全神話、『それを国民に信じさせる』。

 

 ……だから、その使命は今でも変わらない。

 

「生ごみは叩いて潰して豚のエサ♪」

 

 ふんふん、とすみれが楽しそうに歌う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「悪人は殺して耕し畑の肥やし♪」

 

 くすくす、と笑ってノバラが続きを歌う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「「汚い物は燃やして清めて片付けよう♪」」

 

 二人で声を合わせて歌う。

 

「「綺麗な国にいたしましょう! 綺麗な街にいたしましょう!」」

 

 ……リコリスの仕事はなくらない。

 

 だから今日も咲かせましょう。

 

 真っ赤に咲いた彼岸花。

 

 

 ― Roses fall fleetingly, violets bloom vividly -

BAD END

 




と言うわけでBAD ENDをお送りしました。

ご愛読ありがとうございました。


ちなみに適当に作った歌の全文は以下のとおりです。


~☆~☆~☆~☆~☆~
生ゴミは叩いて潰して豚のエサ
悪人は殺して耕し畑の肥やし
汚い物は燃やして清めて片付けよう

綺麗な国にいたしましょう
綺麗な街にいたしましょう

だから今日も咲かせましょう
真っ赤に咲いた彼岸花


ウジ虫は潰して撒いて鮫のエサ
悪者は殴って挽いて水の中
醜い物は袋に詰めたら捨てましょう

素敵な国にいたしましょう
素敵な街にいたしましょう

そして今日も咲かせましょう
真白く咲いた君影草


蜚蠊は壊して払って鳥のエサ
悪党は刻んで叩いて土の下
穢れた物は穴に入れたら埋めましょう

平和な国にいたしましょう
平和な街にいたしましょう

さらに今日も咲かせましょう
可愛く咲いた花葵

© 2023 MIA
~☆~☆~☆~☆~☆~

そんなヤツいねぇよ、と思わなくもないけど、
一応無断での転載、引用、替歌はなしでお願いします。
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