Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

251 / 297
163~204は共通ルート……ということでお願いします。


205H parents and sister

「……ん……ちゃん……」

 

 未だ、ぽやん、とした頭のまま、ノバラは、こしこし、と目を擦りながら、気が付いた。

 

「ノバラちゃん! おーきーてー!」

 

 すみれにがくがく揺さぶられたせいか、若干、首に痛みを感じる。

 

「……あー、起きた起きた! 起きたから、揺するのやめてぇ……」

 

 こき、と首を鳴らし、目の前にいるすみれの頭を、ぽふぽふ、と撫でる。

 

「……おはよう、すみれ」

「おはよう、ノバラちゃん!」

 

 えへぇ、と嬉しそうに笑うすみれにちょっと癒されながら、ノバラは一頻りすみれの柔らかい髪の感触を楽しむ。

 

「おーい、お二人さんや。和んでないで、今、何してるのか、思い出してくれないかなー」

「ん……司令もおはよう」

 

 思考はあまりはっきりとはしていないものの、ノバラは条件反射的に楓に向かってそう挨拶した。

 

「はいよ、おはようさん。……ちゃんと、目は覚めたか?」

 

 苦笑気味の楓の顔を見ながら、ノバラは現状を再確認する。

 

 車内。ワゴン車。中段シート。早朝。すみれ。楓。……知らない男。

 慣れ親しんだ甘い残り香。わずかに残った血の匂い。硝煙の匂い。……少しだけ汗の匂い。

 外から漏れ聞こえてくる声。千束の声。たきなの声。……その相手、電話口のクルミの声。

 近寄ってくる殺気。心配そうな気配。わずかな怒気あるいは懐古。……困惑した様子。

 

「……うん。大丈夫」

 

 はぁ、とノバラはため息をついた。

 

(うーん……私のパラダイスは何処に行ったんだ……?)

 

 千束とたきなに抱きしめられていた記憶はあるのだが、そこからの記憶がぱったりと無くなっていた。

 ここ最近では、あれ程幸せを感じたことはなかった。十分に堪能できなかったのは、大変悔やまれる。

 

 しかし、再度、おねだりをできる状況ではないことは十分に理解している。

 

 ノバラは、ちらり、と自分の知らない男に視線を送る。

 

「……あなたが御形ハジメ?」

 

 ノバラの問いに、瞑目した男はそっと頷く。

 

 全身を見れば、服の上からでも分かる鍛えられた肉体。さすがは人型の羆と呼ばれるだけの存在である。その気になれば、手錠はおもちゃのように壊れるし、中にワイヤーの入っている捕縄であっても、縫い糸のように容易く引きちぎることができるだろう。

 ノバラの知る限り同じ芸当ができるとしたら、今自分のすぐ傍にいるすみれくらいだろう。

 

 そっと二人を見比べて、ノバラは頷く。

 

「……なるほどね」

 

 予想していたことではあるが、一目見て、ノバラは大体のことを察した。

 

 家族(すみれと楓)の過去のことを調べようと思えば、調べることはできた。だが、ノバラはあえて調べることはしなかった。そうする必要もなく、理解できていたからだ。

 

 だから今回も、多く語ることもない。

 じとっ、とした目で楓を見れば、渋面を作った楓が、こくり、と頷く。

 

(……やっぱりそう言うことか。千束とたきなは気づいたかな? ……いや、気づいていたら、こんなときでももう少し騒いでいるでしょ。……でも、すみれだけをここに残すのは酷かな……)

 

「……楓司令、私がここにいてもお邪魔じゃない?」

 

 千束とたきななら心配いらない。

 多少時間は掛かるし、別動隊が出てきたら、少々面倒ではあるが、だからと言って、あの最強姉二人を打倒できるとも思えない。

 

 邪魔、と言われなければ、ここにいたとしても何の問題もないとノバラは判断した。

 

「……いや、むしろいてくれた方が助かるな。お前のことだ。事情は大体察しているのだろうし?」

 

 ぱち、と楓がウィンクをする。

 

 ……ノバラと楓の関係は長い。

 一緒にいた期間だけなら千束よりもずっと長いのだ。

 

 その仕草だけで言いたいことは大体伝わる。

 

「……当然。司令の秘密主義は今に始まったことじゃないけど……今日こそ、その秘密をお話ししてくれるのでしょう?」

「無論だ。お前だって無関係ではないのだからな」

 

 くすり、とノバラは笑みを浮かべる。

 

「そう……なら、楽しく和やかに家族団らんといきましょうか、()()()()?」

 

◇◆◇

 

「……こんなに可愛い千束を……私の可愛い千束を殺そうとしたとか……ゆ・る・せ・ま・せ・ん!!!!」

 

(……そっちかぁ……!? ……あれは、まぁ……うん。リリベルが悪いよね!)

 

 たきなが、ぎゅっ、と握りこぶしを作っている様子を見て、千束は少し顔を赤くしながら、頬を掻いた。

 

 愛されている、という実感が堪らなく嬉しい。

 

『おぉい! 二人してイチャつくなー! もうリリベルが来るぞー!』

 

 クルミの声に千束とたきなは、はっ、として気を引き締めなおす。

 

「クルミ。近いのはどちらですか?」

『南側だ。……北側は少し遠回りしているからな。だが、合流にはそれほど時間は掛からないぞ?』

 

 クルミが懸念しているのは挟撃だろう。

 一方と戦って気を取られている間に、背後から強襲されるの確かに脅威だ。

 

「……私と千束なら大丈夫です」

 

 だが、たきなはその懸念を切って捨てた。

 

 自分と千束ならすぐに相手を黙らせられる。

 そう判断してのことである。

 

『……大丈夫かぁ? 赤いのが三人はいるぞ?』

「あら、珍しい! 非正規戦専門の奴らかな? ちょぉっと面倒かもね?」

 

 千束が親指と人差し指を心なしか開いて見せた。

 笑顔でそう答えたということは、()()()()()()だ。

 

 ……自分とたきななら物の数ではない。

 

「なら作戦は決まりです。難しいことはしません。南側に二人で突っ込んで潰して、それが終わったら北側です。……懸念があるとすれば、彼らが私たちを無視して、護衛対象を狙った場合ですが」

「心配ないない! ノバラが残ってるんだよ? すみれもいるし、楓さんも。それに、あの御形って人を相手にこの人数じゃ全然足らないよ! ま、相手に死人は出るかもだけど、自殺志願者の面倒見る必要ないでしょ?」

「……ですね」

 

 おそらく、今来ているリリベルの人員では、ノバラ一人にでもあしらわれるし、すみれを嗾ければ、丸ごと轢殺される。

 

 ……加えて、最強最悪のリリベル、御形ハジメ。

 

 彼の本来の実力がどの程度かは分からないが、間違いなく強い。

 千束とたきな。二人掛かりでも危うい。

 ノバラとすみれが加わってようやく、というところ。

 

 そんな彼を殺しに掛かることは、即ち、自殺しに行くということ。

 

 千束の言うように、わざわざ自殺しに行くような自殺志願者は、リリベルはできるだけ殺すな、という今回の任務の範疇外だろう。

 

「……では、やりましょう。戦闘開始(Open combat)です」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。