Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「そう……なら、楽しく和やかに家族団らんといきましょうか、
くす、と笑みを浮かべたノバラの言葉に最も動揺していたのは御形である。
……悲しそうな、悔しそうな、それでいて諦めたかのような表情。
その様子を見て、ノバラは、にやにや、と笑みを深める。
ノバラが全て分かった上で、そういう言動をしていることを理解している楓は、運転席からノバラの隣に移動しながら、ごす、と脳天にゲンコツを落とした。
「……いたぁい! 家庭内暴力はんたーい!」
「うるせーうるせー! ノバラ、お前、わざと誤解されるように言っているだろ!?」
「そうだよ? 司令が
ノバラの言葉の中ほどで、楓はノバラを頬っぺたを両手で握って引っ張った。
うにょーん、とノバラの頬が伸びる。
「はっはっはっ! 良く伸びるな! ……いいから、余計なことを言うんじゃねぇ……分かったか?」
ノバラの頬っぺたを離した楓は次いで、両手で頬を、ぎゅうぎゅう、と押さえつけて、ノバラの顔を変顔にする。
顔は笑みを浮かべているが、コメカミには青筋が浮かんでいた。
「……ふぁーい……ふぇぇ……ちゃんと戻った? すみれ、私の頬っぺ伸びたままになってない?」
自分の頬を軽く揉むようにして解しながら、ちょっと赤くなった頬をすみれに向ける。
すみれは、くすくす、と笑いながら、ノバラの頬をうっとりしながら突いて、だらしなく顔を緩めた。
「えへぇ……いつもの可愛いノバラちゃんのもちもち頬っぺだよ」
相も変わらず仲の良い二人ではあるが、楓としてはちょっと頭が痛い。
……はぁ、とため息をついた。
「……姉妹仲が良いな」
御形の若干不機嫌そうな声を聞いて、楓は更に深くため息をついた。
ノバラが楓をからかうために意図的に見せつけている部分もあるが、実際、彼女たち二人は仲の良い姉妹に見える。
……精神的にはともかく、見た目は完全にノバラが妹な訳だが。
しかし、そうすると、誤解を生む結果となる。
「……いや、俺はお前が幸せならそれで……」
「待て待て待て待てーい! 勝手に自己完結するんじゃねぇ!?」
楓は御形が何を考えたのかすぐに想像が付いた。
「私が、お前以外に体を許すわけがないだろ!?」
……楓は、そう大声で言い切ってから、顔を赤くした。
「………………ぷふぅ!」
そんな楓の様子に堪らずノバラが噴き出した。
良く分かっていない、すみれだけが、こてん、と首を捻っている。
「んっふふふ! いいもん見れた! 司令、顔、真っ赤! 良かったね、御形さん! ……愛されてるねぇ?」
だが、察しの悪い御形は、その言葉に、すみれと同じように首を捻った。
(……うわ、そっくり……)
くふっ、とノバラは再び笑いが込みあがってくる。
「……くっふふ。……改めて、自己紹介を。私は最上ノバラ。私は楓司令の血を分けた娘じゃないよ? すみれとも同い年だしね?」
理解できん、とばかりに、御形は怪訝そうな顔をする。
御形の主観からすれば、ノバラはすみれと同い年には見えないし、今の楓とノバラはかなり良く似ている。それに加えて、すみれとの仲の良さは、本物の姉妹と言って差し支えないように思えた。
「……はぁ……私から改めて説明していいか?」
眼鏡を少し上げて、目頭を揉むようにして、大きくため息をついた楓がそう言った。
「……そうだな。頼む」
「よし。まず、すみれ」
「うん? なぁに、しれぇ?」
「落ち着いて聞くように」
「……? うん?」
一体これから何を話すのか。
頭の悪い自分には関係のないことだろう、とすみれは、楓の真剣な表情すら気にしていなかった。
「……私がお前の母親で、ソイツがお前の父親だ」
…………。
………………すみれには言っている意味がよく分からなかった。
だから、にこっ、と笑って小首を傾げた。
話が良く分からなかったときは、可愛らしくにっこり笑って首を傾げれば、大体の人は噛み砕いて説明し直してくれる、というノバラ流処世術の一つである。すみれが世話になることの多い技だ。
その様子に、やれやれ、と楓も苦笑する。
「……そうだな、前置きも何もなしにそんなこと言われても困惑するだけだな。えー、じゃあ、まず子どもの作り方から……」
「そうじゃないよ!? さすがのすみれだって、そこまで子どもじゃないよ!?」
指で丸を作って、そこに人差し指を入れて説明しようとしている楓にすみれは顔を赤くして叫んだ。
「えー……じゃあ、どっから説明すっかなぁ? 事故とは言え、ヤることヤったからお前が出来たとしか言えないんだが……」
「やめてぇ!? 身近にいる人の生々しい話なんか聞きたくないよ!?」
すみれが耳を塞いで赤い顔をしながら、ぶんぶん、と首を振る。ちょっと涙目だ。
「……冗談でも嘘でもない、マジな話だ」
楓の真剣な眼差しを受けて、すみれは困ったような顔でノバラを見る。
……ノバラは、こくり、と頷く。
すみれは思わず目を見張った。
「え……えぇぇぇぇ!? そうなのぉぉぉ!?」
楓の言葉には納得しなかったのに、ノバラが、肯定した瞬間に、本当の話だと理解した。
……ノバラと楓に対する信頼度の違いだろう。
「ああ! 私がママだよ!!」
すみれの驚愕した様子に気を良くした楓は、きらきら、と笑顔を輝かせ両手を広げた。
「…………」
……だが、すみれは、すん、と表情を失った。
「……あれぇ!? 何か反応薄くない!?」
もっと、感動の御対面的な何かがあるだろう、と思っていた楓は肩透かしを食らったような感じである。
しかし、すみれにも言い分がある。
楓の様子から察するに、何時カミングアウトするべきか迷っていることは伺われるが、ノバラに保護されてからずっと一緒にいたのだ。他にも言えるタイミングはあっただろう。
確かに楓はすみれの面倒を見てくれてはいたし、実際、母親のように思っていた。
だからこそ、何で今更そんなことを言うのか、という不満。
……あと、おそらく照れているのだろうが、真面目な場面で茶化されると、感動できるものも感動できない。
……ぷっくぅ、とすみれは盛大に頬を膨らませた。
「あ~……もうっ! 司令が茶化すから……」
よしよし、とノバラがすみれの頭を撫でると、すみれは不機嫌そうにしていたその顔を緩めて微笑んだ。
「司令。真面目に話してあげて?」
「……至って真面目に話しているつもりなんだがなぁ?」
ノバラの言葉に楓は困ったような顔をした。
元々の性格故か、楓は真面目に話す、ということが全くもって似合わない。
悪戯好き、という困った性質を持つ楓は、どうしても言葉が軽薄だ。
だが、その根本にあるのは、あらゆるものに興味がない……興味が持てずに育ったことに一因がある。
リコリスとして育てられても、使命感があるわけでもなく、それに反抗する気持ちがあったわけでもない。
……その日が生きれるならどうでもいい。
……どうでもいいなら、少しでも楽しいほうがマシ。
千束のように飛び抜けた才能があったわけではないが、大抵のことは何でもできて、それでいて人より優秀だった楓は、だからこそ、何にも興味が持てないままサードになってしまった……なれてしまった。
幼くしてサードになったとは言え、リコリスは常に『死』というものが付きまとう。
何にも興味がない彼女は自分の『生』にすら興味が薄かった。彼女を現世に留めたのは、日常に対するちょっとした潤い……つまりは悪戯があったからだ。
優等生がたまに見せる茶目っ気。
それに対する驚き、困惑、笑み。
人が驚き、怒り、笑い、泣き、喜ぶ。
自分がその感情を引き出したことに対する充実感。
……それこそが楓が生きる理由となった。