Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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208H her past

 楓が電子戦、延いては情報工学の道に進んだのはある意味必然だ。

 

 リコリスとしては誰も踏み込んでいなかった分野。

 発展途上であり、発想と工夫次第では、世界中の人を驚かせることができる分野。

 

 ……それは楓の性に合った。

 

 これが無ければ、楓はおよそ努力という努力をすることもなく、ちょっと優秀なリコリスで終わり、おそらくはファーストになることもなかったであろう。

 

 ……あるいは、その方が幸せだったのかもしれないが。

 

 初めて興味を持った技術に楓は魅了され、そして、初めて努力というものの意味を知った。寝食を忘れて、書籍を読み漁り、自分でプログラムを書き、その傍らで、自分の『趣味』を咎められることがないよう己の戦闘技術を磨いた。

 

 その結果を評価され、セカンドになった楓は……御形と出会った。

 

◇◆◇

 

 カエデは基本的に他人に興味がない。

 

 ……しかし、他人が驚く様子を見るのは好きだった。

 

 だが、それは他人だから良いのであって、自分が驚くようなことは止めて欲しい。

 

(……リリベルとの合同任務……)

 

 それを言い渡されたカエデは大いに困惑した。

 

 リコリスとリリベルでは役割が違う。

 だが、敵対する関係でもないし、そういうこともある、ということには一応の理解は示している。……対象が自分でなかったのならば。

 

(……男……男、かぁ……)

 

 女性ばかりの環境で育ったカエデとしては、男という生き物が良く分からない。

 任務では幾人も殺してはいるが、良い印象はない。

 

 粗野で乱暴……そして、ちょっと臭い。

 

 相手が女と見れば、イチモツをおっ勃て、鼻息荒く迫ってくる様子は怖気しか感じない。

 

 ……正直、まともに相手をできる自信がなかった。

 

「……君がカエデか?」

 

 不愛想で、ぶっきらぼうで、デカくてゴツイ。

 

 カエデのハジメに対する第一印象はそれだ。

 

 加えて、彫の深い顔立ちに、ツンツンと尖らせた髪。

 

 外向きの仕事をする際に着るリリベルの赤い制服を少々着崩したガラの悪そうな格好。

 

(……うわぁ……)

 

 コイツと自分は合わないんじゃないか、と当時のカエデは、初見では、そう思った。

 

「はい。私がカエデです」

「そうか。俺はハジメだ。……よろしく」

 

 すっ、と差し出された手をカエデは何の気なしにとって、握手を交わして……背中を冷や汗が流れた。

 

(…………コイツ……ヤバい!)

 

 勝てるイメージが一切湧かない。

 

 ……実力差? 

 

 単純な技術ならカエデの方が上だと思う。

 

 だが、その見た目以上の腕力は、カエデのあらゆる小細工を蹴散らすだろう。

 

「……そんなに緊張するなよ。君からすればいつもの仕事だろう?」

 

 ぽふぽふ、とハジメがカエデの頭を軽く撫でる。

 

 ……身長差があり過ぎるせいか、完全に子ども扱いされている感じがして、カエデが、むっ、とする。

 

 ぺしっ、と頭の上にある手を払いのける。

 

「……子ども扱いしないで。あと、髪が乱れる」

 

 変な風になってないだろうな、とカエデは自分の髪を触って確かめる。

 

 ふりふり、と高いところで結わえたポニーテールが揺れる。

 

 ふっ、とハジメが笑ったような声を上げたので、カエデが、じろり、とハジメを睨む。

 

「……なぁに?」

「……ふ。いや、小さくてもレディだな、と」

「小さいが余計」

 

 いらっ、としたカエデはハジメの尻を、べしっ、と蹴り飛ばしたが……。

 

(……硬っ!?)

 

 足に返ってきた感触は、岩、とまでは言わないまでも、極太のゴムのタイヤを蹴ったくらいには硬くて、びくともしない。

 

 ……本気で蹴ったわけではないにしろ、全く重心を動かすことができなかった。

 

「……すまんな。……ふむ、どうする?」

 

 苦笑した様子のハジメが、そう言って、カエデの様子を伺う。

 

「……少し歩きましょう。上が思っているとおりに周りに溶け込めるかも確認しなくちゃいけないし」

 

 中高生くらいのカップルを装って、女子だけでは行き辛い場所をカバーする。

 一応、上層部の考えは、そう聞いている。

 

 どうしても女子だけでは浮いてしまう場所、カップルの方が自然な場所というのは確かに存在するし、その意図するべきところは分からなくはない。

 

 ……任務の性質に合わせ、臨時で、というのなら、カエデももっと抵抗はなかったのだが、カエデはどうやらこのハジメという少年の相当期間ペアを組むことになっている。

 

 だから、ちゃんとカップルらしく見えるのか検証することは重要ではあった。

 

「……そうだな?」

 

 ハジメが微笑ましそうな顔をしながら、手を出してくる。

 

「むっ……んー……んっ!」

 

 とりあえず、一度、手を握ってみたカエデだが、どうにもしっくりこない。

 

(……迷子になりそうな妹と仕方なく手を握っている兄の図!!)

 

 それはカップルじゃなかろう、とカエデはハジメの腕に抱きつくようにして、カップルらしく腕を組んだ。

 

 ちょっとだけ、ハジメが驚いた顔をしている。

 

「……なによ?」

 

 カエデは見上げるようにして、ハジメの顔を見ると、その顔はちょっと赤く、汗ばんでいる。

 

(……ははぁん?)

 

 にひ、と笑った顔は更にハジメの太い腕に体を密着させる。

 目に見えて、ハジメがたじろいだ。

 

「……い、いや……胸が……」

 

 顔を逸らし、言い辛そうにハジメが答えるが、カエデは分かってやっている。

 

「……当ててんのよ?」

 

 むに、とカエデの小柄体系に比して豊満な胸にハジメの腕を挟み込む。

 

「も、もう少し、慎み深くだな……」

 

 ……ハジメの顔は真っ赤である。

 

「……こんくらいしないとカップルに見えないでしょ?」

「……そうか? ……そう、かも……?」

 

 困惑しているハジメの腕を引っ張りながらカエデは歩き始める。

 

 ……初心な男子の困った様子は悪くない。

 

 ハジメは敵にすれば、間違いなくヤバい相手だが、味方であればこれほど心強い存在もない。

 最初こそ、男なんて、と思ったものの、見た目に反してハジメは実直だ。

 

 ハジメとしては、自分が年上だし、リードしなければ、という思いもあったのかもしれないが、カエデの予想外の攻撃にたじたじになっている。

 

 ……自分の武器を活かして、カエデは二人の関係の主導権を早速握った。

 

 カエデは上機嫌に、悪戯を成功させたような笑みを浮かべた。

 

「行きましょ、ハジメ? 時間は有限。有効に使わないとね?」

 




HAPPY ENDに行くにはカエデ嬢とハジメ君を掘り下げなくちゃいけない!

…………なんか、また長くなりそうだな………。
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