Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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カエデ嬢とハジメ君がらぶらぶだった頃


209H his past

 ハジメにはカエデが妙な女に思えた。

 

 自分よりも年少の小柄な少女……胸は……うん……まぁ、すごい大きいが。

 

 整った顔立ちをしているが、彼女は不機嫌そうに……つまらなさそうにしていることが多い。

 

 事実、ハジメと初めて会ったときも、何と言うか、うわぁ……、と引き気味の顔していたし。……まぁ、後刻聞いたところによると、ハジメのガラの悪そうな格好が、自分と絶対性格合わないヤツ、と思わせたらしいが。

 

 ……二度と格好つけるのをやめよう、と思った。

 

 しかし、話してみれば、恐ろしく頭が良いことが分かるし、少女の柔らかさを残しながらも、その体は鍛え上げれていることが分かる。

 

 ハジメはリリベルとして育て上げられ、男子の中で育ったため、女子に対する態度、というものを決めかねていた。

 

 格好良くして、優しく、リードしてあげるものだよ、と先輩に言われたので、精一杯、そう振舞ったつもりだが……結果、慣れていないことをするもんじゃないと反省することとなり、悪戯モードに入ったカエデに散々振り回されることとなったのである。

 

 初対面こそやらかした感はあるものの、以降のカエデとハジメの関係は良好だった。

 

「カエデ、後ろ任せた」

「あぁ!? バカバカ、ハジメが行ったら殺しちゃうだろ!?」

 

 リリベルとしても異色なハジメは、指揮官として部隊を率いることもできるが、その本領は単独での殲滅である。

 

 ……いや、単独にならざるを得なかった、というべきか。

 

 個としての強さが常軌を逸していたがために、リリベルの誰しもが、ハジメに付いていけない。

 集団運用を基本とするリリベルにとって、ある意味でハジメは使い難い駒であった。

 

 ……そこに、リコリスとの合同任務である。

 

 ハジメの直属の上司は、上層部との思惑を知らないまま、ハジメの強さを知らしめることができ、リコリスという守るべき相手がいれば、精神的成長も見込めるだろう、と思っての抜擢であった。

 

 ……カエデは、守るべき相手、などという可愛らしいものではなかったが。

 

「……ちゃんと、殺さないでおいたぞ」

「脳筋め……死んでなきゃいい、ってもんじゃないんだぞ……?」

 

 素手で物理的に足を吹き飛ばされたターゲットが、悲鳴を上げながらのたうちまわっているのを、カエデは器用に取り押さえると、気休め程度の応急処置を行う。

 

「……はぁ……ターゲットは両足欠損。護衛は全部()()()()()。お掃除よろしく」

 

 ハジメがクリーナーを手配したカエデを見れば、その白い頬に血が付着している。そっ、とハンカチを取り出し、その血を拭う。

 

 ぷに、と柔らかい感触が返ってくる。

 

 後方を振り返れば、カエデが『散らかした』という意味が良く分かる。

 

 頭をカエデのデザートイーグルで吹き飛ばされた者もいれば、内臓をぶちまけた者もいる。

 だが、地面に頭を叩きつけられて潰れている者もいるし、両手両足を切り飛ばされている者もいる。

 

「……派手にやったな」

「アンタほどじゃない」

 

 カエデはハジメに守られるほどか弱い存在ではない。

 

 銃を扱わせれば、その小柄な体に見合わない大口径の銃を鼻歌混じりにぶっ放し、殴って良し、蹴って良し、投げて良しで、関節技のほか、ナイフの類を持たせれば、大型の獣を解体するかのごとく、易々と人間をバラす。

 

 人を驚かせるのを趣味としている彼女の悪戯には頭が痛いが、相棒として見れば、過去の誰よりもしっくりきた。

 

「……血、取れた?」

「……うん? あ、ああ……カエデの可愛い顔が見えるよ」

「んふふっ。誰に教わったの? そんなお世辞」

 

 くすくす、とカエデが悪戯っぽく微笑む。

 

 ωのような口を作り、にこにこ、というよりは、によによ、といった感じの独特の笑い方。

 桜色に染まった頬と身長差のせいで、上目遣いで見上げくる、潤んだような瞳。

 むに、と寄せられた胸は、常に見下ろす形になるハジメからすれば目の毒だ。

 

 ……不意に恥ずかしくなって、目を逸らす。

 

「……本心なんだが……」

「ん……っ!?」

 

 ぽつり、とハジメが本音を零せば、カエデが、ぼっ、と顔を真っ赤にした。

 

「じ、冗談はやめろ……こんなちんちくりん、アンタの好みじゃないだろ……?」

 

 美少女然としたカエデは、身長を気にしているせいか、自己評価が極めて低い。

 

 艶やかな髪。整った容姿。バラ色の頬。桜色の唇。

 ……可愛くない要素がない。

 強いて言えば、近視気味なのか、睨むようにして眉を寄せていることが多いことくらいか……。

 

 ……ハジメにとっては、可愛いだけだが。

 

「……そんなことはないが」

「私みたいのが、好みなのか!? ……ろ、ろりこ……」

「ロリコンじゃないからな!?」

 

 カエデの言葉に被せるように反論する。

 カエデ()好みなのであって、小っちゃい子が満遍なく好きなわけでは断じてない。

 

「……え、でも、私、年齢的には中学に上がったばかりだぞ? アンタは……ぎり、高校生くらい?」

「そうだが……」

「……それって、セーフ? アウト?」

 

 うーん、とカエデが悩まし気な様子をしている。

 ハジメは最近知ったことだが、カエデは割とどうでもいいことを気にしがちである。

 

「さぁ……? 知らん……だが、カエデが可愛いのは間違いないぞ」

 

 ハンカチを仕舞いつつ、少し乱れている彼女の髪を撫でるように直してやると、ぽぉ、とカエデは蕩けたような表情をした。

 

「んんっ!? ……きゅん、とさせるの上手くなったな、アンタ……」

 

 傍目から見れば、イチャイチャしているようにしか見えないが、別に付き合っているわけでもなければ、互いの気持ちを伝えあったわけではない。

 

 一応は、ビジネスライクな付き合いである。

 ……今のところは。

 ……このときまでは。

 

「……着替えたら何か食べて帰ろう」

「着替え? ……あー……やっぱ、着替えなきゃダメかな?」

 

 カエデは自分の姿を見下ろして、はしゃぎ過ぎた結果、盛大に制服が血で汚れているのを理解して、たはは、と苦笑した。

 

「そのまま帰るならそれでもいいだろうが……」

 

 ……何時頃からだろうか。

 

 役割としてカップルを演じるその延長。

 

 任務の間、カフェに入って、二人で談笑しているフリをすることもあった。腕を組んで歩くこともあった。だが、それは任務故の話。

 

 任務が終われば、関係のないリコリスとリリベル。

 

 ……そのハズだったのに。

 

 どちらからともなく、名残惜しくなり、任務なんて関係のなくなった任務の後。

 

 ただの少女と少年として、他愛のないことを話ながら、ファーストフードやファミレスで僅かな時間、隣合わせに座って過ごすようになった。

 

 ……ハジメがそうであるように、カエデもハジメに惹かれている。

 

 ……そう己惚れる程度には、カエデを近く感じている。

 

「……じゃあ、着替えて来ようかな……? ハジメは? 私が私服なのに、ハジメが制服だとちょっと浮いちゃうんじゃない?」

「……ん……そうだな。俺も着替えるとするか」

「じゃあ、行こ?」

 

 そう言って、いつものようにカエデがハジメの腕に抱き着く。

 

 わずかな重みと、温かさ。むにゅ、と肉感的な柔らかさと、汗と彼女の匂いが混じり合った甘く、そして、どこか柑橘を思わせる香り。

 

 どきり、と高鳴った胸を悟らせないように、ハジメは努めて平静な顔を作った。

 

 

 

 理性的で初々しい二人。

 

 ……そんな二人の関係を大人たちの悪意が壊す。

 

 ……その日までもう少し。

 

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