Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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肝心な部分は飛ばしました。R18なので!


212H They had nightmarish days

 部屋の隅っこでハジメは壁に向かって涙を流していた。

 

 気を失うほどに荒れ狂っていた時間が嘘のように、心は異様なまでに凍てついている。

 

 ……ハジメが気が付いたとき、同時に目を覚ましたらしいカエデは、ベッドの上の惨状に気づくと、ため息をつきながら、ハジメを床に転がした。

 

 血と、汗と、精液と、愛液その他諸々でぐちゃぐちゃになったシーツやらを引っぺがし、ずるずる、と重い足を引き擦るようにしながら、部屋を出ていき、程なくして、洗濯機の音とシャワーの音が聞こえた。

 

 ……カエデが歩いて行った跡を見れば、ぽたぽた、と血の混じった白い液体が床を汚している。

 

 昨夜の行為を思い出し、ハジメは自己嫌悪に陥った。

 

(………俺は、最低のクソヤローだ……)

 

 薬を打たれていたとは言え、我慢できなかった。

 

 ……いや、我慢などしたくなかったのだ、と気づく。

 

 いつも無防備なカエデを押し倒してしまいたい。

 悪戯っぽく微笑むその綺麗な顔をだらしなく歪めてみたい。

 

 そんな欲望を一度として考えたことがないとは言えない。

 

 ……この一月。

 

 一人きりになることも難しいこの生活。

 

 何処にいても彼女の甘い少女の香りが漂って、常に彼女を意識せざるを得ない。

 

 それでも理性的に対応できていたのは、カエデを大事に思っていたからだ。

 

 ……そして、その想いを自らの行いで台無しにした。

 

 カエデを抱いたことに後悔はない。それは彼女に失礼だろうから。

 ……ただ、悲しいだけだ。

 愛を囁いてやることもできず、快楽を求めて、彼女の体を、無理矢理に、強引に貪って、己の欲望のままに犯し尽くし、凌辱し尽くしたことが。

 

 本当なら、自分を殺してしまいたい。消えてなくなってしまいたい。

 ……だが、それは許されない。

 ハジメには責任がある。それから目を背けて逃げることはできない。

 

 ……だからこそ。

 

(……殺してやる。壊してやる、全てを。……俺を、俺たちの尊厳を奪ったもの全部!)

 

 憎悪の火が灯る。

 ……ギラギラとした瞳からは一滴。血の涙が滴り落ちた。

 

◇◆◇

 

 その日から、約一月。

 二人の間に、会話らしい会話はない。

 

 ……互いに何を話せばいいか分からないからだ。

 

 それでも変わらないものもある。

 

 カエデが栄養を考えて料理を作り、それを食べ、二人は訓練を欠かさない。

 

「……ふっ!」

「はぁっ!」

 

 ハジメの鋭い突きを掻い潜り、カエデの爪先がハジメの鳩尾にめり込む。

 

 ……二月にわたる共同生活。その訓練の中で初めてハジメに当てた、完璧と言っても差し支えのないカエデ渾身の一撃である。

 

 頑丈過ぎるハジメには正直それほどのダメージはない。

 

 ……しかし、常人が相手であれば、悶絶は必至。あるいは、命に届くほどの威力。

 

 カエデは、この短い期間で格段に強くなっている。

 

 さす、とハジメが蹴られた場所を軽く摩ると、カエデが以前のように、にやり、と楽しそうな笑みを浮かべる。

 

 ……どくん、と胸が高鳴った。

 

 互いに何かを言い掛け……電話のベルが邪魔をした。

 

 ちっ、とカエデが舌打ちをしながら、電話に出て、何度か、はい、とだけ返答し、投げつけるようにして受話器を置いた。

 

「……どうした?」

「……検査だとさ」

 

 ふん、と不機嫌そうにカエデが鼻を鳴らした。

 

『検査』。それの意味するところをカエデは理解している。

 ……しかし、それでも逆らえない。

 

「行くな!!」

 

 ハジメは泣きそうになりながら、カエデを抱き締める。

 

「……行かないでくれ……!」

 

 懇願にも似たハジメの抱擁をカエデはやんわりと解く。

 

「……離せ、ハジメ。どうせ私たちには選択権がない。行くしかない」

 

 ぎろ、とカエデがハジメを睨む。

 その瞳には、かつてのように悪戯めいた輝きはなく、昏く澱んでいた。

 

「分かっている! だが……」

 

 なおも言い募るハジメの手をカエデは振り払って、背を向ける。

 

「……アイツらが何を考えているのかは大体分かっている。だから行くのさ。()()()()()()()()()それでお終い。……そうじゃなかったとしても、何度かヤれば済むことだろう? どうせ、アイツらはそれまで、私たちを出す気はないのだろうし」

「……お前……!?」

 

 カエデの言葉にハジメは呆然とした。

 

 カエデが狂ってしまったのではないか、と思うほどの割り切りよう。

 確かに彼女は効率性を重んじる部分があったのは確かではあるが、共に過ごしてきたハジメは、彼女が情緒面を無視しているわけではないことを知っている。

 

「……生憎だがな、ハジメ。私は正気だ。なに、一度はやったことだ。二度目も三度目も然したる違いはないだろう? ……だから、アンタも気に病む必要はない」

 

 ふふふ、と笑ってはカエデが部屋の外に向かう。

 

「……………………私は、その程度の女だ」

 

 ……本当は自分が気を遣うべきであったのに。

 

 ハジメは自分が気を遣われていることを知り、それ以上引き止めることができなかった。

 

 ……ぱたん、と閉じたドアの向こう側。

 

 カエデは、ぼろぼろ、と涙を零している。

 

 ……無論、割り切ってなどいない。

 これ以上、ハジメに苦しんで欲しくないだけだ。

 

「……ごめん……ごめん、ねぇ……ハジメぇ」

 

 涙で頬を濡らした少女の言葉は聞こえない。

 

 ……その慟哭も。

 ……その怒りも。

 

 涙を拭い、宙を睨む。

 

 悲しみは憎悪で上書きする。

 

(……誰が言い始めたのかは知らないが)

 

 ぴゅ、とカエデの拳が空気を切り裂いた。

 

(後悔させてやるよ……こんなことを考えたことを。私とアイツを選んだことを。アイツの誇りを汚したことを。私の純潔を散らしたことを)

 

 握った拳が、ぎり、と音をたて、拳を振り下ろしたときには、ぽたり、と血が滴り落ちる。

 

(惨たらしく叩いて潰して刻んで挽いてばら撒いて……)

 

「……お前ら、全員、豚のエサにしてやる」

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