Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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解説回


25 Odds

「ぷはっ!」

「……はぁ~」

 

 すみれが演習場(キルハウスブース)に入ると同時、千束は吹き出し、フキは頭を抱えた。

 一方のたきなは真剣な顔ですみれの頭で揺れている猫耳とふりふりしている猫しっぽと丸々としている肉球グローブを見ていた。

 

「……あの装備にはどんな意味が?」

 

 きっと、何かあるに違いない、とたきなの目はキラキラしていた。

 

「ないない! たきなが思っているほど上等な理由なんてない!」

 

 どうせノバラが『すみれは可愛い(ウチの子可愛い)』とか、アホなこと考えているだけだと見当を付けている千束は盛大に否定する。

 

「……ま、そうだな。単なる嫌がらせだ」

 

 一方のフキは、本当にやりやがった、と若干引き気味だった。

 

 何故、自分の相棒に辱めを与えているのか。

 あ、いや、それを見て自分が楽しむためだな。『自分のやりたいこと最優先』、それで人に辱めを与えるとか、最悪だな。ついでに、相手を貶めるとか、何でこんなにいい性格になってしまったのか。

 

 事前にある程度聞いていたとは言え、楠木が許可しているとは言え、慈悲があったらやらないだろう、と思っていたフキだが、情け容赦のないノバラの対応に、改めて呆れた。

 

「嫌がらせ?」

 

「あの格好の相手にマジになっても、ただただダサいだけだし、負けたら笑い者、いい勝負しても、頭に残るのはすみれの格好だけだ。すみれがセカンドの服着てるのもその一環だな」

 

 エクストラは階級ではなく単なる役職だ。すみれを通常作戦に無理矢理当てはめれば、セカンド相当と見込まれているということである。

 これらの一連の裏話を聞いて、たきなは一層目を輝かせていた。

 

「なるほど! 心理戦ということですね!」

 

 ノバラ、すごいです、と感心し切りのたきなの様子に、フキは思わずコイツ大丈夫かという顔になった。完全に脳内がノバラに毒されている。

 

「……おい、千束、コレ、もうダメなんじゃないか?」

 

「まぁ、後でノバラとヤれば治るでしょ、たぶん」

 

 たはは、と苦笑気味の千束だが、たきなは『ノバラ』の名前に反応した。

 

「そう言えば、ノバラは出ないんですか?」

「アイツがヤるのは2戦目以降だ。3戦目はノバラ対私とサクラ。エキシビジョン扱いで、お前と千束対ノバラとすみれ」

 

 フキの言葉を聞いて、ちょっとだけ、不機嫌そうになるたきな。どうやら、お預けをくらうのが不満らしい。

 

「……まだ、ちょっと時間ありそうですね」

「『楽しいショー』が始まるんだから、ゆっくり見ればいいでしょー?」

「……そうですね」

 

 千束の暢気な言葉にたきな不承不承ながら、同意する。

 

 千束は画面越しにすみれと対峙している五人のリコリスを見る。

 

 すみれの戦闘は見たことがない。しかし、強さは分かる。すみれの強さは比較的分かりやすい。ノバラの『薄い』感じとは真逆に、すみれの存在感は『濃い』。それだけでも強いと分かるが、千束は自らの体で実感している。あのパワーはそれだけで凶器である。

 

「しっかし、一対五か。……ん~、八:二かな?」

 

 しかし、戦力差というのはバカにならない。戦術次第では、十分に五人のリコリスに勝機はあると見ていた。

 

「そうか? 六:四くらいだろ?」

「ノバラが仕込んでるんだぞ?身体能力だけでもヤバイ。相当鍛えられてるよ、アレ」

「ほう。それは分からなかったな。……たきなはどうだ?」

 

 フキに促されて、たきなは不思議そうな顔をした。

 

「……? ……十:〇です。二人とも、何言ってるんですか?」

 

 何を当たり前のことを、と言いたげなたきなの様子に千束は怪訝そうな顔をした。

 

「えぇ~……たきな、よく見なよ。あのセカンドの二人、まぁまぁやるよ?」

 

 実際、千束の見立てでは、なりたてのセカンドにしては、まぁまぁな練度に見えていた。

 

「……? すみれさんの方が明らかに強いです」

「いや、そうかもだけどぉ……」

 

 たきなの言は理解できる。単純にどちらが強いか、と問われれば、千束もそう答えるのであるが。

 

「……たきな、どうしてすみれが強いと思うんだ?」

 

 フキはたきなが言語化しない、『何か』が何なのか、確認するためにそう聞くと、たきなは即答した。

 

「あの五人を見ても、何とも思いません。でも、すみれさんは、ちょっと怖いですね」

「……『ちょっと』?」

「『ちょっと』です」

 

 千束がからかうように聞くと、たきなは『ちょっと』を強調した。

 

(……怖いという意味では、確かにすみれは『怖い』)

 

 でも、ちょっとか、と疑問に思った。何故なら、千束は『ちょっと』どころではなく怖いと思っていたからだ。

 千束の身体能力は大の男と比べても遜色ないレベルだが、それを遥かに超えるであろうすみれとの相性は良くない。単純にゴリ押しされたら、普通に負け得る。

 

「ほ~ん……なるほどねぇ……フキ、あんたは?」

「……怖いって意味では、確かにすみれの方が怖い。しかしあいつ等、言うほど悪くもない。まぁ、悪くもない、程度でしかないんだが」

「同意見。んで、たきな、それだけじゃないんでしょ?」

 

 そう。彼女達は『悪くもない』。

 もっと練度が低いだろう、と思っていたからでもあるが、すみれと並べて比べれば、劣るとは言え、数で劣勢を覆せるレベルではあるだろう。

 たきなが言うように彼女達は全く『怖くない』が。

 しかし、それだけでは論拠が薄い。たきながそれを示せるか、その先を促す。

 

「ノバラがいないからです」

「……すみれに負ける確率があるなら、あの子が出てこないわけがないってことか。なるほどね」

 

 千束とフキは戦力差で計っていたが、たきなはそういった戦術面も無意識のうちに考慮に入れていたようだ。

 

「もちろん、すみれさんが負ける可能性があるのは分かります。でも、ソレ、ノバラが放置しますか? 私の印象からすれば、ノバラは勝算が少ない勝負は絶対しませんよ。自分だけなら、勝算が少なくともヤるかもしれませんが、妹分のすみれですよ? 妹にそんなことさせますか、お姉さま方?」

「ぐうの音も出んわ! ヤらせるわけない!」

「当然、負けの目は潰してくるな……なるほど」

 

 そう思えば、嫌がらせ以外の意図も見えてくる。

 相手をわざと怒らせること……それで、冷静さを失えば、より勝率は高くなる。

 

「お? すみれ、イイ感じに煽ってんじゃん」

 

 丁度、『本当に可愛い?』とすみれが聞いていた。千束は、すみれの空気読まない感じを楽しそうに見ている。

 

「……いや、あれは素だろう」

「意識的にやってるんであれば、相当性格悪いですけど、すみれさんはそんなタイプじゃないでしょう」

 

 そして、すみれが無表情になった。

 周囲のリコリスもそれを見て、一瞬、静寂が訪れ、皆の背筋をゾッとしたものが襲う。

 

「……うわぁ……」

 

 まるで人を人とも思っていない様子に千束は冷や汗をかいた。

 

「なるほど、これは怖い」

 

 そして、フキはあの可愛らしい少女の変貌振りに舌を巻いていた。

 

 フキがすみれと会ったのは、司令官室での一度きり。そこで言葉を交わした感触では、その内の得体の知れなさは感じとれても、実力の程は計りかねていた。

 だが、今の様子を見て、自分たちの中でたきなの感性が一番正しかったと理解した。

 

(……あいつ等は実力差を理解できたか? いや、無理そうだな)

 

 開始ブザーの音が鳴る。

 

 すみれの深く腰と落とし、顔面を守る姿勢に銃弾が降り注ぐ。

 

「まったく堪えてないわ。あの戦術じゃ意味ないな……あ、セカンド一人轢かれた」

「……ちょっと、止まりましたね?」

 

 セカンドに衝突する前に、相当ブレーキをかけていた。

 それでも十分に吹っ飛ばされていたが。

 

「そうしなきゃ、公衆の面前でジェノサイドエクスプレスだよ? 手加減くらいする……よな? ……あ、そのまま轢かれた」

 

 こちらは、死にはしないが重傷だろう。完全にいくつか骨が逝っているし、内臓も痛めていそうだった。

 

「……しかし、あの独特のステップは」

 

 減速の少ない方向転換、急激な制動、と思いきや急加速。

 

「完全じゃないがノバラのステップワークだろう」

 

 『実用の範囲内』まで落とし込まれたノバラの動きの模倣。

 単純な身体能力だけはなく、鍛え上げられた体幹とバランス感覚がなければ、すみれほどにすら再現できない。

 

 目には見えないが相当の努力と鍛錬を重ねている、とフキは感じていた。

 

「三、四人目も飛ばされたねぇ……お? あれは中々……」

「あの感じ、ノバラの想定済みって感じですかね?」

「十中八九そうだろうな」

 

 最後に残ったセカンドの発想は悪くなかった。相手が悪いだけで。

 無防備な頭上から銃弾を撃ち込む。

 限られた選択肢の中で、一応の正解は引いていても、相手がそれを予想していれば、正解は間違いになり得る。ノバラの作戦勝ちと言えるだろう。

 

「……だが、ここは、ノバラの指導を愚直に守ったすみれを褒めるべきだな。見事だ」

 

 画面越しにすみれが楠木やノバラの方に手を振っているのが見え、フキは自然と拍手をしていた。

 

 

 

 

 ……猫耳姿で手を振っても、演習場(キルハウスブース)では場違いにしか見えないのは問題であったが。

 

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