Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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216H A happy family fireside

「……と、まぁ、大体こんな感じか?」

 

(……時間が経つのは早ぇなぁ……あのときの子どもがこんなにでっかく……)

 

 大分端折った話をしたつもりだが、すみれは、だばーっ、と涙を流している。何がそこまで琴線に触れたのかは分からないが。

 

 一方のノバラは完全に笑いをこらえて、にやける口元を必死に真一文字に結んでいた。

 

(……逆にコイツはでかくなった気がしねぇなぁ……)

 

 出会った当初から小さく、痩せっぽちの不愛想なクソガキだったが、その印象は今でもあまり変わらない。楓の影響のせいか、悪戯好きの陰謀家、という印象がプラスされたぐらいだろうか。

 

 ……そして、ハジメは、当時の楓の気持ちを聞いたせいか、大変バツの悪そうな顔をしている。

 

(……まぁ、互いにガキだったんだから仕方ないだろ)

 

 今であれば、もう少し上手いこと考えることもできたのだろうが、当時の楓は子ども過ぎたし、ハジメも人生経験が足りなかった。

 

 ……なるべくして()()なった。

 

 上層部に対しての恨みと怒りは未だ消えていないが、ハジメに思うところがないではないが、少なくとも当時のことを責めるつもりはない。

 

「……し、しれぇ……!!」

「ああ……よしよし、お母さんだぞー」

「お、お母さぁん!!」

 

 びゃー、と涙を流すすみれを楓は優しく抱きしめる。

 

 ……ノバラがすみれを保護したとき。

 

 一目見て、すみれが、自分の産んだ『すみれ』だと思った。

 

 産んでから一度も抱くこともできなかった実の娘がそこにいる。泣き出したい気持ちもあった。だが、それをぐっと堪えた。

 自分から取り上げられた娘とは、もう二度と会うことはできないだろうと思っていた。

 だから、様々なショックから立ち直れていなかった楓は、取り上げられた娘の消息を調べることはしなかった。当時の楓では、調べられる内容も限定的であった可能性は高いが、意欲的に探すこともできなかった。

 

 ……無理矢理に作らされた我が子。

 

 表にこそ現れないように取り繕ったてはいたものの、内心は相当困惑していた。

 

 秘密裏にDNA検査を行い、すみれの過去をどうにか調べ上げ、裏付けを取り付けた頃には、母親役・程度で落ち着いて、打ち明けるタイミングを失い、ズルズルと今日まで話すことができなかった。

 

 言い訳するとすれば、同じ年頃のノバラに対して、体術の師でありながら、自分の娘に接するようにしていたことも、その理由の一つだ。

 ノバラをすみれの代替にしていたのではないか、という後ろめたさと罪悪感もあって話すことができなかったのだ。

 

 ……もっとも、今日のノバラの反応を見る限り、ずっと前から、少なくとも楓がすみれの母親であろう、と気づいていた様子ではあったが。

 

(やっとだ……やっと……ちゃんと、母親として抱きしめることができたなぁ……)

 

 楓はすみれの髪を、もっさもっさ、と撫で回した。

 

◇◆◇

 

「……御形さん、混ざんなくていいの?」

 

 かちゃかちゃ、とノバラは御形に付けられた手錠を外しながらそう聞いた。

 彼にかかれば、手錠くらい一瞬で破壊できるだろうが、無駄に壊す必要もない。何より、一家団らんの場には不釣り合いなものであるし。

 

「……それは君もだ。……家族、なのだろう?」

 

 ノバラとしては、ちょっと寂しそうにしている御形に気を使ったつもりだった。

 ……一応、すみれの父親だし。

 

 しかし、どうやら、御形もノバラに同じようなことを感じているようであった。

 

「うーん……私はねぇ……結局、どちらにも良い顔していたようなものだから、ちょっと……ねぇ?」

 

 今のノバラとすみれと楓の関係はノバラの意図したものではなく、結果としてそうなった、というものでしかないのだが。

 

 楓からは娘同然として扱われ、すみれには姉として慕われている。

 

 楓は本当の娘であるすみれに、一歩引いた形で接することしかできず、すみれもまた、懐いてはいても、本当の母親のように甘えることができていたかというと疑問が残る。

 

 そうすると、傍から見れば、ノバラが一番気を遣わずに、周囲から家族として扱われているようにも見えるのだ。

 

 くしゃ、と御形がノバラの髪を撫でた。

 

「……そんなことを気にするもんじゃない。君はすみれを助け出してくれた恩人だし、聞くに精神的にカエデが安定したのも君のおかげだろう。君の意図するところではないとは言え、確かに君は家族なんだ……俺なんかよりも」

「……髪が乱れるから止めて」

 

 ちょっと、嬉しそうにしながらも、唇を尖らせている様子は、かつてのカエデを彷彿とさせる。

 

(……なるほど。肉体的にはすみれが娘だが、精神的にはこの子がカエデの娘か)

 

 そう考えれば腑に落ちた。

 

 ノバラの現在の性格に大きな影響を与えているのは千束とフキではあるが、二人がノバラと本当の家族のように過ごしていた時間はとても短い。それでも、三つ子の魂百まで、というべきか、彼女の性格の大部分はこの二人によるものだ。しかし、楓とノバラの関係は二人に比べればずっと長い。かれこれ十年近くになる。

 そして、ノバラは千束とフキを根幹としつつも、楓の性格も模倣している。

 よって、似てくるのは当然だし、ふとした仕草が、ノバラの小柄な体格と、当時のカエデの印象が強くあるハジメにとっては、楓が別に作った娘ではないのか、と誤解する程度には良く似ているのだ。

 

「……君はカエデにとって娘のような存在。翻って考えれば、俺の娘のような存在でもある」

 

 壊れ物を扱うように、小さ過ぎるノバラをハジメはそっと腕の中に抱く。

 

「……なら、御形さんも、あっちに混ざらないとね! ど~ん!!」

 

 御形の腕の中にあったノバラは、にひ、と笑うと、その腕を抜け出すと、御形をすみれと楓の方に押し出し、自らも全員を抱きしめるように腕を伸ばした。

 

 少しだけ奇妙な。それでも確かな家族の団らんであった。

 

 

 ……わずかばかりの、限られた時間ではあったが。

 

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