Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
三人の間に、ちょこん、とノバラは混ざった。
……どうにも、わんこの中ににゃんこが一匹、というような居心地の悪さのようなものも感じるのではあるが。
「……しかし、カエデ。単に家族で顔を合わせるために、この機会を作った訳でもないだろう? テロリストにリリベルを相手にするなど、わざわざそんな危険を冒す必要はない。……一体、何を考えている?」
二人で穏やかにすみれの髪を撫でている姿は、幸せ家族そのものなのだが……。
やはり、と言うべきか、その話をしない訳にはいかない。
「……なぁに、ちょっとばかり、DAとかいうクソったれの組織には御退場頂こうか、と思ってね?」
にぃ、と楓が笑う。
「……司令、端折り過ぎ。『いずれは』って、言っておかないと、御形さんが、一人で滅ぼしに行っちゃうよ? ……ねぇ、『
くす、と笑ってノバラが付け足すと、その名を知っていることが意外だったのか、御形は苦笑した。
「……よく知っているな、君は」
「ありがと」
『
極めて高い戦闘能力。理不尽なまでの暴力の権化。ただ一人で、敵全てを滅ぼすとまで言われた、リリベル史上、最強にして最凶。御形ハジメの通り名である。
「……お父さんって、まおー様なの?」
「そんくらい、やべぇヤツだったんだよ。パワーは当然お前以上だ」
ふふん、とちょっと誇らし気な楓を見ながら、すみれは、きょと、と首を捻る。
「……お母さんのそれって……実は、惚気?」
すみれとしては、邪気のない、本当にそう思った言葉だったのだろう。
……が、無邪気な子どもの言葉というものは、意図せず大人の心を抉る。
楓は、わなわな、と震えながら、顔を真っ赤にした。
……なお、ノバラは、隣で、ぷふっ、と噴き出している。
「…………っ!」
愛娘二人に揶揄われたように感じた楓は報復として、手近にいるすみれをくすぐる。
「あはははは!? 無言でくすぐるのやめてぇ!?」
全身をまさぐられて、くすぐられたすみれは、止めるように口にしながらも、あまり抵抗せずに楓からくすぐられている。
人並以上の彼女が、本気で抵抗したならば、楓の身が危うくなる、という配慮もあるが、すみれは楓やノバラのスキンシップが嫌いではないから、甘んじて受けている、という面もある。
笑い声を上げて、くねくね、とすみれは身を捩るが、楓は器用にすみれを離さずにくすぐっていた。
最後に、喉の辺りを撫でるようにしてやれば、にゅーぅ、と鳴き声を上げるようにしながら、すみれは楓の膝の上に頭を乗せた。
仲の良い、母と子のじゃれ合いを見て、御形は、本来あるはずだったかもしれない自分の『家庭』の姿を幻視する。
ぶっきらぼうな自分と、皮肉屋な妻。
無邪気な娘と……もう一人、不器用な娘。
すみれが楓に擽られているから、という代わりではないが、御形は傍らのノバラ髪を優しく梳くように撫でる。
「……んー……」
ちょっと不服そうな顔をしているが、それでもノバラは御形の手を拒むことはしなかった。
「……カエデ、このタイミングを狙った意図は何だ?」
「……簡単だ。アンタを餌に、国内のテロリスト、少なくとも東京近郊は一掃した。余程のバカでもない限り、この国に手出しするのは危険、と理解したことだろう。そもそも、ウチでテロを起こす旨みはそれほど無いしな? リスクとリターンを比較衡量すれば、この国に手出しをする意味はない。DAがガタついている間に、諸外国からのテロという名のちょっかいはこれで断てた訳だ」
まずは、後顧の憂いを断つ。
DA内で多少の混乱はあったとしても、大方の戦力を喰われたテロリストはすぐに手出しはできないだろう、との目算だ。
重火器の類も相当回収し、彼らが持ってきていたキレイな金も、汚い金も全て接収済みである。
今回、テロリストに与えたダメージは相当だろう。
兵隊は軒並み、この地の養分となり果てたし、軍資金を調達できるルートも潰された。これまでと同じような方式で武器を納入することもないし、仮に入国できたとして、違法薬物の販売ルートすら曰くつき扱いされ、まともに捌くこともできまい。
「……加えて、リリベル。殺してこそいないだろうが、それなりに戦力は削がれただろう? 加えて、リリベルが今回動いていた本当の理由……これを暴露すれば、あそこは足の引っ張り合いで当分動けないだろうよ」
「……本当の理由だと?」
「あー……御形さんには、胸糞悪い話だと思うよ。私のお姉ちゃん、錦木千束と私の妹、伊達すみれを確保すること。……どっかで聞いたような話でしょ?」
「…………」
見るかに御形が怒気を現した。自分たちと同じようなことをまたリコリスで、しかも自分の娘も使おうとしている。
……逆鱗と言ってもいいものだ。
「でも、不思議だよね~?
にやにや、笑いしているノバラを御形は怪訝そうに見る。
「……分かって言っているだろう、ノバラ。DA上層部には
「……あの豚がぁ……っ!」
御形の形相は怒髪天を衝く勢いだが、ノバラにとってはどうってことない。
「大丈夫だよ、御形さん! 私がちゃんと達磨にしといたから☆ あ、あとは、頭の中身抜いたら用済みだし、豚のエサだよ。本人も豚だけど」
くすくす、と彼の末路を考えてノバラは笑う。
「……確かか?」
「ええ。この手で、両手両足とイチモツを切り落としてやったわ。いい気味でしょ?」
「よくやった。さすが俺たちの娘だ!」
(厳密には私は違うんだけどなぁ?)
とは思いつつも、ノバラもすみれと一緒に御形に、ぎゅう、と抱きしめられる。……まぁ、家族扱いされること自体はノバラも悪い気はしない。
「……そして、もう一つ」
楓が深刻そうな顔で指を一本立てる。
「上層部の一部はリコリスやリリベルの戦いを娯楽としている。電波塔事件もそうだが、延空木事件も。……そして、今回の騒動もだ。どうなるか、どうするか、誰が何をするか、そういったことを酒のつまみにして、金をかけているんだよ。これをやっているのが、それらの件を主導していたことが分かっている。だから、証拠を押さえて、これの首を挿げ替える」
「ま、多少荒事になるし、機能不全があるでしょうけど、やるのは仕方ないよね」
ノバラの言葉に、楓は、ふぅ、とため息をつく。
「……デイジーにはラジアータをハックさせる準備を進めさせている。それを始めれば、やつらが間抜けにも今回の件で楽しみにしているカードを見せれば、仕上げだ。……できるだろう、ノバラ?」
上層部が楽しみにしているカード。即ち千束とノバラの姉妹対決だろう。
リコリスとしては、日の当たる道で真っ当にファーストとなった千束。
その妹でありながら、非正規任務を多くこなし、何よりも裏切ったリコリスの始末屋として、暗い道を、血塗られた道を、障害物を踏み殺してファーストに至ったノバラ。
対照的な二人。
史上最強のリリベル、『
史上最もリコリスを殺したリコリス、『
彼らにとっては見逃せず、そして、大きく金が動くであろう一戦。
しかし、この戦い、ノバラとしては……
……戦いたくないけど、仕方ない。 ◀
……嫌だ。