Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……いいのか、ノバラ? たきなはつえーぞ?」
千束はそう言って、ノバラに挑戦的な笑みを向けた。
その笑顔に、ノバラも同じような笑みを浮かべる。
「もちろん、勝ち目がないならやらせないわ。千束が思っているほど分も悪くもないしね」
……ノバラの戦力分析は適確だ。
できないことをできるとは言わない。
はったりでも何でもなく、すみれがたきなに勝てる可能性はそれなりに高いのだろう。
「ふーん……そんな暇、ほとんどなかったでしょうに。何か仕込んだのか?」
単純な身体能力を考えるなら、すみれの方がたきなより上だし、何ならパワー以外の能力でもすみれは千束を超えている。
……すみれに足りないのは経験である。
その経験が足りない分を埋めるために、ノバラが何らかの策を新たに教え込んだのだと思ったが……。
「
(……そうか。運動自体を制限されてたんだっけ? とすれば、すみれの練習はほとんどが見取り稽古……要所要所でノバラがちょっとだけ実践で教えるって感じか)
模擬戦のときも思ったが、すみれのノバラの技の再現度はかなり高い。
あれを練習量ではなく、頭の中で組み立てた結果だとするなら……末恐ろしい。
すみれの子どもっぽさがなくなり、ノバラのアドバイスなく、自分で作戦を組み立て、経験を積み、冷静に戦うことができるようになれば、恐らく手が付けられないほどの怪物になるだろう。
……あるいは、御形ハジメより、ずっと……もっと。
だが、それは
それに……。
(……ノバラはすみれがリコリスとして仕事をすることを良く思っていない)
させなくてもいいならさせないだろう。
だが、やらせなければ、すみれが今日まで普通に生きることができたかは怪しい。
已むに已まれず、ノバラも決断したのだろう。
かつての自分と同じように、妹にリコリスとして仕事をさせることを。
(……間違った、なんて思っちゃいない。アンタの手を血で汚させた……いや、敵ならまだいい。結果、私はアンタの手を仲間の血でも汚させた。そのことに後悔はある……だが、そうしなければ生きられなかった。アンタも……すみれも)
……DAは慈善団体ではない。
全国津々浦々。様々な場所から、様々な事情で集められた子どもたち。
その全てがリコリスやリリベルとなっているわけではない。
もちろん、ドロップアウトしたからと言って、即処分と決まっている訳ではないが、しかし、一定数は確実に処分されているだろう。
どれだけ落ちこぼれでても助けてくれる、などという慈愛の女神ではなく、ヴァルハラに送るためのエインヘリヤルを見定めるワルキューレなのだから。
故に、千束とノバラの決断は必然。
可愛い妹に生きてもらうために、血塗れの道に引きずり込んだ。
(……死なせたくない。姉としてのその気持ちは良く分かる)
もっとも、ノバラは千束の心配をよそに、ノバラはめきめきと頭角を現し、煮ても焼いても食えないくらいにたくましく成長してしまったが。
ノバラに比べると、すみれは幼い。
彼女の記憶がはっきりとした時期を考えれば、実質、『しょーがくいちねんせい』、という感じである。要領の良さ、芯の強さは感じられるものの、彼女が一人で生きていくにはまだ少し足りない。
褒めて伸ばす、よりも、叩いて鍛える、というスタンスのノバラからすれば、強敵との勝負というのは、是非とも経験させたいものなのだろう。
「……アンタがそこまですみれを評価しているとはねぇ……。お姉ちゃんは嬉しいよ? アンタがちゃんとお姉ちゃんをしてることがね」
「あら。ありがと。……でも、それって自画自賛? 私は千束の真似をしているだけだよ?」
「バカ言うな。こんなダメなお姉ちゃんを真似しちゃダメだよ……アンタはちゃんとアンタ自身ですみれをあそこまで育てたんでしょ? ……アンタは私の誇りだ。……敵だとしてもな」
「そう? 嬉しいな。私も千束お姉ちゃんを愛しているよ。世界で一番。きっと他の誰よりもずっとずっと昔から。……もちろん、今も! 例え敵同士でもね!」
二人で視線を合わせ、にしし、と笑い合う。
愛する妹であり、最強の敵。
それを前に、千束の無いハズの心音が高鳴った気がした。
◇◆◇
(……すみれは強い)
すみれ本人がどう思っているのかは分からないが、たきなが見るに、すみれの戦闘能力は相当高い。
それは普段の彼女を見ているだけでも分かる。
筋力量もそうだが、彼女が普段何かをするときの動作に無駄がない。
一挙手一投足が洗練されているのだ。
……
そうせざるを得なかったからこそ、彼女の瞳は人の動きをじっと見て、それを頭の中で組み立て、計算し、自らに最適化できるようにシミュレートされている。
慣れていないハズのリコリコでの接客も彼女はすぐに慣れた。
力をセーブすることこそ難しいのだろうが、それ以外であれば彼女はクルミなどよりも器用に熟しているくらいだ。
「た、たきなちゃん!」
顔を赤くしたすみれが、うるうるとした瞳でたきなを見つめている。
「……何です、すみれ?」
すみれの体は色々と大きいが、そんな様子は、子犬のようである。
可愛らしさに、たきなは、くすり、と微笑む。
たきなの笑みにすみれは、はわぁ、と声を上げながら、更に顔を赤くしながら口を開いた。
「は、ハジメテだから、優しくしてねっ!!」
…………。
おそらくは、たきなとの対戦は初めてなので、お手柔らかに、ということを言いたいのだろうが、すみれの恥ずかしそうな真っ赤な顔も相まって、別のことを言っているようにしか聞こえない。
……千束やノバラの可愛さとはまた違う……どちらかと言うと、初々しい様子にたきなはしばし鼻を押さえた。
(……何故でしょう。私、そんなに節操なしだったでしょうか……)
千束は恋人だから、まぁいいとして。
小悪魔ちっくなノバラに、どきどきするのは、妹相手だから、ギリセーフと言えなくなくもないこともないと思わないでもないが……。
……すみれはちょっと違うだろう、とたきな自身思うものの、どきり、としてしまったのは事実である。
頭の高い位置で結んだ艶やかな髪。
少し鼻が高く、整った容姿に、薄くピンクに色づいた唇。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだメリハリの利いた体。
中でも、突き出るようにして自己主張する大きい胸は圧巻の一言。
こんな実に魅力的な……一言で言えば、エロい体をしたすみれではあるが。
口を開いたり、笑ったりする姿は、びっくりするほど幼く……罪悪感を刺激する。
この子と今から戦うのだ、と考えると、たきなの背筋がぞくぞくとした快感が駆け上ってくる。
「……大丈夫ですよ、すみれ。……優しく……シてあげます♡」
ぺろっ、と唇を舐め、恍惚の表情をしながら、たきなは妖艶に微笑んだ。