Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
対千束の想定で、ノバラがすみれに与えた作戦は、『適度に距離を取って戦うこと』。そして、然るべき後に接近戦に移行し、格闘戦で仕留めること。
千束の銃の命中率はさほど良くないし、適当に離れて動いていれば、そうそう当たらない。そして、接近戦となれば、千束は確かに強いが、一発で当たれば即死の千束と、一発でも当てれば勝てるすみれ。これならば、百戦錬磨の千束であってもすみれに勝ち目はある。
それはすみれも理解しているが、ノバラは何故、たきな相手でも、千束を相手にするのと同じだ、と言ったのだろうか。
(……本質的に同じってこと?)
すみれは頭の端で考える。ノバラの意図していることを。
……たきなは強い。
千束のような華、と言うより、派手さはないが、自分の仕事と目的を果たすために淡々と何でもやる。……この辺、本来のノバラの姿と相似している。
戦闘において目立つのは、その射撃能力だろうか。どこに銃弾が飛んでいくのか理解しているのか、ほとんど狙うと撃つの動作が一致している。正直、アレは曲芸の域であろう。
精神面においては、冷静沈着、というのが似合うが、だからと言って情が薄いわけでもない。合理性、効率性を重んじてはいるが、彼女の場合、それに加えた情の厚さ故に、斜め上方向……脳筋的解決方法をとることもしばしば。
セカンド、という立場に甘んじているのは、活躍の場が少なかったこともあるだろうが、協調性に問題がある、と思われていることではないだろうか。厳密に言えば、彼女
その点を踏まえれば、千束とたきなの相性は良かったのだろう。千束も慕われてこそいるが、協調性という意味では若干怪しいし……。
千束の『やりたいこと最優先!』という主義主張が、たきなのごちゃごちゃ考えたがる合理的な思考を台風の如く吹き飛ばし、彼女の『やりたいこと』を肯定し、共に歩む。
千束にとってたきなが『片翼』であるように、たきなにとっても千束が『片翼』。二人でどこまでも高く飛んで行く。
……互いが互いを高め合う。
だからこそ、千束もたきなも
(……そう、強い。だから、
すみれはノバラや楓を除けば、格上相手との戦闘経験は皆無に等しい。
それこそ、模擬戦での千束が初経験と言ってもいいだろう。
それ故に、戦闘における定石、というものが理解できていなかった。
『適度に距離を取る』。
当たり前の話だ。自分の間合いで戦って、相手の間合いで戦わない。
……いつもノバラに自分がされていたことと同じ。
すみれ本来の間合いは、相手から少し離れたところからの体当たり。
だが、ノバラと戦えば、まず、距離を取らせてくれない。次点で、掴もうとしても触れさせない。拳を振り回しても脚で蹴っても同じこと。すみれの得意技を一切使わせることもない。
(……距離を取っても、たきなちゃんは当ててくる。……でも、それが何?)
すみれがノバラの作戦をそのまま採ろうとしなかったのは、たきなの射撃能力を知っていたからではあるが、そもそも、正面から体に当たっただけでは、すみれの突進は止められない。
例外があるとすれば、初動や再加速のその瞬間。起点となる足首や力を開放するその膝だ。
それ以外であれば何のことはない。
「じゃあ……行くよっ!!」
……一気に加速すれば、先の二の舞。
故に、すみれは軽くスタートを切って、たきなの周りを走り始める。
バシバシ、と幾つか銃弾が当たるが、思った通り。
側面から膝に当てても、すみれの足は止まらない。
「……ふふっ」
すみれが徐々に廻る輪を縮めて、たきなに迫る。
攻められているはずのたきなはそれでも笑みを崩さない。構えられた銃口は左右どちらかが確実にすみれを補足している。
たきなは冷静にだが、確実にすみれが自分に向かってくるその瞬間を待っているのだろう。おそらくは次の対策方法を考えて。
……それでも行く。一歩で加速し切れる距離なら、千束ならともかくたきなでは反応できない……ハズだ。
そう考えたすみれは、体をぐるりと揺らすようにしながら、強引に体の向きを変えると、たきなに向かって、足を踏み切った。
◇◆◇
すみれの方向転換。
常人ならそれにすぐさま気づくことはできないだろう。
だが、たきなはすみれの目を見た。何かやろうと考えている目であった。
……その一拍後である。
故にたきなは慌てない。
銃を放てば、すみれが鬱陶しそうに銃弾を手で払う。
たきなは、その動作ですみれが一瞬だけ自分が視界から見えなくなること予想して、くるり、とすみれの動きを受け流すように回り、過ぎ去り行くすみれの右肩に連続で銃弾を撃ち込んだ。
その衝撃ですみれの進行方向が斜めにずれていく。それでも何とか態勢を立て直しながら、すみれは更なる方向転換を始めようとするが、今、すみれの背後にいるのはたきなだ、同じように肩付近を打たれて、軌道が変わる。
これだけならば、すみれには特に影響がないように思うだろう。
実際、たきなも肉体的には何の影響もないと思っている。
だが、しかし。
精神面はどうだろうか。
うざくて邪魔な攻撃、何か意味があるかも、どうやってやっているんだろう。
という感情が渦巻いているのではないだろうか。
精神とう水面に、一石を投じれば、水面には波紋が浮かび、波紋はさざ波となり、帰ってきた波と干渉し合う、それが大きくなってきたのならば、最終的にすみれはたきなへの警戒度を一つ上げる結果となる。
……そうするように仕向けたのだ。
◇◆◇
(……やっぱり、接近戦かな? ……何度かやれば、当てられそうな気はしてきた)
だが、たきなの攻撃が悩ませる。
(最初のヤツの応用みたいなものだろうけど……)
狙いは違うように思えた。
(……ノバラちゃんだったら、慣れた頃に別の罠を仕掛ける。たきなちゃんは……あり得る、かも?)
ノバラはその調査力故、強敵と分かっている相手であれば、その戦闘パターンを調べ尽くし、解析し、対応を考える。初見の相手だったとしても、これまでの経験から瞬時に対応を組み立てる。
残念ながら、すみれには、それほどの経験はないし、ノバラのように組み立てることはできない。
……しかし、これまでノバラの隣にいたのだ。門前の小僧、と言うわけではないが、多少なりとも考えることはある。
おそらくは、接近戦を誘っているのだとは思う。
すみれとしては、たきなの銃弾が切れるまで、距離を保ってもいいが、残弾がどれくらいあるかも分からない。
すみれは、筋力量こそあるが、そこまで体力には自信がない。持久戦となれば、そもそも不利なのはすみれなのだ。
誘われているにしろ、接近戦を挑むのは、既定の流れ。
相手に誘われてやるのは、少々癪ではあるが、タイミング的にも、この時点で仕掛けるのがベストだろう。
(……よし!)
決断したすみれは、渦を巻くようにしながらたきなに向かっていたその足を直線的に、たきなに向かわせる。
たきなは特に慌てた様子もなく、迎撃姿勢をとり、左右の銃から、銃弾が発射される。
「……邪魔ぁ!!」
すみれは、それを手を振り払ってハエでも叩き落とすように、銃弾を払いのけ…………。
(……え……いない!?)
……たきなの姿を見失った。