Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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226H The reason for losing sight of her

(……何処に!?)

 

 すみれの主観からすれば、まるでたきなが消えたように見えた。

 

 ……ぞくり、と寒気が走る。

 

「……注意力が足りませんよ、すみれ」

 

 くす、と笑いを含んだたきなの声が耳元で聞こえ、すみれのポニーテールを、さら、と指で掬われた感触がする。

 

(背後!!)

 

 条件反射的にすみれは右のバックハンドブローを放ち、しゃがみ込んで銃を構えているたきなと目が合った。

 

(……ヤバっ……!?)

 

 たきなの銃口の向きはすみれの鳩尾。

 

 距離があるならともかく、この距離でピンポイントに鳩尾に当てられるのは……。

 

 タンタンタンタン!

 

「がっ……!」

 

 目が眩むような痛みを受けながらも、すみれは更に体を回転しながら、左足でたきなが()()辺りを蹴ろうとする。

 

(……え!?)

 

 ……再び、たきなを見失う。

 

 視線を彷徨わせ、たきなを探し……。

 

 タタン!

 

 ……軸足にしていた右足の膝裏を撃たれる。

 

「……っ!」

 

 バランスを崩したすみれが、地面に手を付き、しゃがみ込むような姿勢になった。

 

 その瞬間。

 

 ……すっ、と冷たい感触がすみれの首筋に触れた。

 

 わずかな温かさを感じるそれが、たきなの指だと気づくのにさほどの時間は掛からなかったが。

 

「……すみれは初々しくて可愛いですね♡」

 

 耳朶を打ったたきなのノバラに似た甘い声に、背筋に、ぞくぞく、と甘く痺れるような感覚が走り、すみれは、へにゃり、と座り込んだ。

 

◇◆◇

 

 すみれは本当に初々しくて可愛らしい。

 

 たきなは、くすくす、と笑みを浮かべながら、すみれの首筋に触れた。

 

 耳元に甘い声で囁き声を残せば、みるみるうちにすみれの体温が上がっていくのを感じる。

 

 耳まで真っ赤にしている様子は、ちょっとつまみ食いをしたくなるくらいに、ぞくぞくして、たきなの嗜虐心をくすぐる。

 

 たきながすみれに仕掛けた手品は、千束にはそもそも効かないだろうし、ノバラであれば、姿を見失っていたとしても、一笑に付して対応するだろう。

 

 戦闘経験……特に格上や同格レベルとの経験が極端に少ないすみれにだからこそ通じる手品である。

 

 すみれはその戦闘スタンスのせいか、戦闘時の視野が狭い。

 もう少し経験を積めば、周りにも気を配るのだろうが、なまじ自らの身体能力が高すぎるせいで、多少、雑に戦ったところで()()()()()()。だからこそ、目の前のことだけに集中しすぎてしまっている。

 

 標的を定め、そこに向かって突進すればいい。

 

 それが単純明快な彼女の戦い方である。

 

 一応、実戦においては、ここに彼女なりの戦闘プランとノバラからのアドバイスや作戦を加味した思考が加わるわけだが、如何せん、彼女の判断はたきなからすれば、その判断はワンテンポ以上遅い。

 

 無論、たきなが想定している相手、千束やノバラといった面々と比べる、というのがすみれに対してはいささか酷ではあろうが、実戦は待ってくれないのだ。

 

 ……弱点があるなら、当然、そこを突く。

 

 そも、たきなはすみれからすれば、身体能力が劣っているのだから、小細工をするのは当たり前。効率よく合理的に勝利を得ようとするならば、当然の判断である。

 

 ……そして、すみれが気付いているかは分からないが、これが本気の殺し合いであれば、少なくとも二回、すみれはたきなに殺されている。

 

 しかし、今は本気で戦ってはいるものの、少なくともたきなの意識上においては、本質的に殺し合いではない。

 

 故に殺せるタイミングで、すみれの頭を打ち抜いていないのだ。

 

 ……この攻防ですみれは理解できているだろうか。

 

 たきなの手品がどういったものか。

 

 さほど難しい技術ではない。

 

 最初のものは、すみれが右手で銃弾を払い落としたとき、彼女が弾丸のその先を飛んでくる方向を見透かした上で、払い落としたのだが、そうすると、右腕を振るったその刹那はたきなが見えない。

 

 たきながその一瞬の隙を突き、すみれの右手方向に移動しつつ、すみれの死角に入ったため、あたかも消えたように見えた、という寸法である。

 

 次もほとんど同じだ、近寄ったたきなに激高してすみれが反撃し、すみれが激痛とともに反撃体勢を整えるために、たきなから目を離さざるを得ないその瞬間を狙って、すみれの死角に回る。

 

 ノバラのように完全に気配を絶つような技巧とは異なる極々単純な手法である。

 

「……た、たきなちゃん! ノバラちゃんの声真似するのズルい!!」

 

 すみれが真っ赤な顔をしながら、たきなに抗議の声を上げる。

 

「……別に、真似したつもりはありませんが……似てましたか?」

 

 そう答えながら、とん、とたきなは、すみれから距離を取る。

 

「……むー!」

 

 立ち上がったすみれは、頬を膨らませたまま、たきな主観では、可愛らしく睨んでくる。

 

 ……おそらく、本人は、精一杯怖い顔を作っているつもりなのだろうが。

 

「……どちらにせよ、戦闘中ですよ、すみれ。もっと集中してください。……まぁ、ギブアップなのであれば、それでもいいですが」

「すみれ、負けないもん!」

 

 すみれがそう言いながら構え直す。

 

 ……どうやら、得意の体当たりから、格闘へと切り替えたようだ。

 

(……あまり、真っ正面からすみれの近接戦闘に付き合いたくはないんですが……)

 

 この戦いは、模擬戦でもないが、殺し合いでもない。

 たきなも本気を出しているし、それはすみれも同じだろう。

 

 だが、たきなとしては、可愛い妹分への指導、という意識もある。

 

 ……だからこそ。

 

(……すみれのためにも正面から叩き伏せてあげないと、ですね)

 

 たきなは薄く微笑み、すみれに付き合うように、構え直した。

 

◇◆◇

 

(……たきなちゃんがこの距離で構えた)

 

 無論、その両手には銃が握られてはいるものの、両腕を伸ばして、狙いを付けるようなものではなく、銃口をすみれに向けたままのオーソドックススタイルである。

 

 すみれからすれば、たきなはあまり格闘や近接戦闘に秀でている印象はないが、それでも、自分のような『なんちゃって』ではなく、正式な訓練を受けた本物の現役セカンドリコリスである。

 

 当然、近接戦闘でも、それなり以上に強いのだろう。

 

 それに、千束の相棒であることを考えれば、近接でも自在に銃を放ちつつ、格闘も行ってくると予想できる。

 

 つ、とすみれの頬には、汗が一滴流れる。

 

(……やれる……うぅん、やるんだ!)

 

 自分の技術がどこまで通じるかは分からない。

 その辺の弱っちぃ相手を蹂躙するのとは訳が違う。

 

 限られた練習時間しかないすみれが行う技はほとんどがぶっつけ本番。

 

 ノバラに仕込まれた……ノバラを見続けて覚えたそれをどの程度まで再現できるかが勝負の分かれ目だと認識し。

 

 ……ぎゅう、と拳を握りしめた。

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