Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
千束とノバラは全く同一の構えを取った。
胸元で銃を構え、左手で銃身を押さえる。
ノバラ本来の戦闘スタイルではないが、彼女が得意とするのは、専ら近接格闘術。
近寄らなければ当たらない、という千束と同様、近接戦に主眼を置いた構えになるのは必然ではある。
だが……。
(似すぎている……)
千束がノバラに向かって走り出す……それと同時にノバラも千束に向かって走り出した。
そして、互いに銃を放つタイミングも完全に一致し、回避を始める動作は、ノバラが一瞬早く、だが、千束と同時に足を止めた。
「……どう? 上手でしょ?」
いひひ、とノバラは悪戯っぽく笑みを浮かべている。
「……にゃろう……遊んでやがるな?」
……これはノバラの挑発だ。
ノバラは千束に対しての相性が悪い。
千束はノバラ相手であれば、普段のように注意深く洞察をする必要がほとんどない。
自分の考えはほとんど見せないノバラではあるが、その行動のクセ、呼吸、タイミング……それらを全て千束は把握している。
だからこそ、普通にやり合えば、ノバラは
それは当の本人であるノバラが一番良く分かっているだろう。
故に、千束の思考を乱して、その平静さを失わせることが彼女の活路なのだ。
……まぁ、性格の悪い妹のことだ。隠し玉の一つや二つ……もっとあっても驚きはしても意外ではないが。
「……猿真似だけして勝てるのか?」
(……と言うよりは、時間稼ぎ? あの子の合理主義な性格上、だらだら戦うのは性に合わないだろうから、勝つにせよ、負けるにせよ、本来ならもっと早く勝負を決めにくるハズ……何を企んでいるのやら)
しかし、そう悪いことにはならないだろう、との確かな予感がある。
「ふふ……じゃあ、私の新しい引き出しを開けてみて♡ お姉ちゃんになら見せて上げてもいいよ♡」
ぺろ、と唇を舐め回す仕草が、何とも妖艶で……たきなの舌とその動き、温かさがフラッシュバックする。
「くぁ……っ!?」
……意外なところから爆弾が飛んできた。
千束からすれば、ノバラの体に触れていないところなどないし、何なら彼女のファーストキスを奪ったのも自分だ。……いちおー、はんせーはしている。フキに怒られたので。……でも、練習だからノーカンじゃん? と正直今でも思っている。
……そんな彼女相手に今更邪な気持ちを抱くことはない……と思っていたのだが。
(……何てえっちぃ姉妹なんだ!! そういうところだけやたら似てやがるな!!)
ノバラは元々小悪魔ちっくに振舞っているところもあるので、容姿に見合わない妖艶さがを醸し出すことが多々あるが、基本、彼女の外面は凛とし、楚々としていて、格好良いときのたきなに雰囲気が似ている。
……が、たきなといい、ノバラといい、何らかのスイッチが入った瞬間は、その清楚な見た目に似合わず……何と言うか、こう……エロい。エロエロだ。
「千束ったら、やらしぃこと考えたでしょ? ……妹に欲情するなんて変態さんだね♡ たきなお姉ちゃんに言いつけてやろー、っと」
「お前、それやったら、マジでぶち殺すからな☆」
……千束は満面の笑みを浮かべながら、左で親指を下に向けた。たきなが本気にしたら洒落にならないので。
「くふふ。それじゃあ、お姉ちゃんの殺気も高まってきたところで、本気、出しちゃおうかな!」
M1911を左手に持ち替え、ノバラは鞘から『花鋏』を抜いた。
「……げ」
千束も刀身は久しぶりに見たが、相変わらずのヤバさ加減である。
短刀程度の長さでありながら、その存在感は、大太刀を連想させる。……事実、過去、そうだったのだろう。
面々と仲間と敵の血を吸ってきた『花鋏』は、怪しく青白い光を放っているようにすら見え、その禍々しい輝きは、担い手すら喰い殺すようなオーラを放っている。
(……よくもまぁ、あんな呪物を平然と使いこなしている上に、デコりやがったな、アイツ。……アイツの……史上最も不幸なリコリスって……アレの呪いなんじゃねーの?)
まぁ、元々ハードな人生を送ってきたノバラなので、本人が不幸なのか、呪いのせいなのか、真実は闇の中である。
(しかし、アレを抜いた、ということは、上を飛んでるドローンへのアリバイ作りか……だが、あれを抜くってぇのはなぁ……)
一応はノバラもあれを使う相手は厳選していたハズである。原則は対リコリス、リリベル。それ以外で地獄に送るべき悪人や、刀使いのそれなりの腕の人だ。
これらを考えれば、楓の繋がっている上層部は千束を敵としてみても構わないと考えているのだろう。まぁ、当然、遊びだから、いいと割り切っている可能性もあるが。
「まぁ、いい……付き合ってやる」
上層部の狙い、楓の狙い、ノバラの狙いこれらがぐちゃぐちゃと交錯しているが、千束が乗ったのは、ノバラのものだ。
愛する妹の仕掛けるであろう、大人たちを嘲笑って斜め上方向に解決する盛大な悪戯。
千束の瞳を、じっ、と見つめていたノバラは、千束の考えていることがわかったのか、にんまり、と悪い笑みを浮かべながら構えている。
それに、千束も口の端を上げるようにして笑みを返し……二人同時に動き出した。
◇◆◇
するする、とノバラが体のブレすら見せずに、千束に近寄ってくる。
迎撃のため、千束が銃弾を放つと、ノバラが、にた、と笑ったような気がした。
先ほどの応用だろう。彼女もほぼ同時に引き金をひいたが、結果はさっきとまったく異なる。
バチ、と空中で火花が弾けた。
(……銃弾を撃ち落とした!?)
……偶然とも思えない。
だとすれば、狙ってやった、ということ。
千束が把握している限りにおいては、ノバラの射撃は未だヘタクソ、との認識だったが……。
(まぁ、ノバラだからな……)
練習狂いのノバラが自分のウィークポイントをそのままにしている訳もない。
きっと、もっと以前に修正していたにもかかわらず、来るべき日のために、隠していたのだろう。
(だと言っても、狙って銃弾落とすとか……銃弾を、避けるより難易度高いぞ!?)
感心と動揺。
そんな一瞬の気持ちの揺れ、一瞬の隙を見逃さずに、ノバラが接近してくる。
(近接はマズイ……)
タタタタン、と牽制目的で、銃弾をばら撒けば、さすがのノバラもそれを撃ち落とそうとは思わないのか、軽くステップを踏みながら、少しだけ距離を取った。
「ふぃー……いつの間にそんな曲芸練習したのよ……」
呆れ顔で、千束がそう言えば、ノバラは、ふふん、とどや顔をして見せた。
「結構前からだよ。千束には勝った試しがないからね! 絶対、どこかで驚かせてやろうと思って温存してた!」
「……相変わらず、そういうところは可愛くないヤツだな。……そんで、あとはどんなことを隠してんの?」
「そうだねぇ……じゃあ、こんなのはどうかな?」
M1911と『花鋏』をホルスターなどに納めたノバラは、前傾姿勢になりつつ、両手をスカートの中に入れるようにして構えた。