Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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228H Happy, proud and fun

 ノバラが前傾姿勢を取りつつ、両手をスカートの下から入れて構える。

 

 その姿はまるでパンツを脱ごうとしているようにも見えるが……。

 

「……なぁに、アンタ? パンツ脱いでストリップでも始める気?」

 

 別の意図があるのは明らかななのだが、やはりそう揶揄わずにはいられない。

 

「脱がないよ!?」

 

 がぁん、とノバラはショックを受けた表情をしている。

 ぷぅ、と頬を膨らませて、不機嫌そうな顔をしているのはいつものノバラではあるが、その構えから繰り出される技の可能性を考えれば、凶悪極まりない。

 

(……あそこは赤星と黒星を隠しているんだったか?)

 

 ……そういや、下着はえっちぃ赤いヤツだったな、と思い出す。

 

 自分も赤いちゃっと透けてるえっちぃヤツである。

 こういったちょっとした服のチョイスが、ちょこちょこ被る当たり、姉妹だなぁ、と実感する。

 

 千束がノバラに教えた訳でもないが、かつては服に無頓着だったノバラは現在、すっかりオシャレさんである。

 

 千束がこういったときに勝負下着を履くのは……。

 

(……万が一、死んだときに、ババシャツとかだったら、何て言われるか……。そんなこと考えれば、下手なの着れないし……)

 

 などという、比較的どうでもいい理由ではあるのだが、乙女の尊厳的には重要だ。

 

 リコリスという役目柄、死は身近にあったし、千束には心臓の問題があった。だからこそ、いつ死んでも綺麗な姿でいたい、という乙女心から、死ぬ覚悟のあるときくらいは、自分を飾るのに相応しい下着を身に着ける。

 

 これ自体はノバラと一緒に住んでいた頃の習慣ではないもの、彼女も同じような結論に至ったのだと思われた。

 

「……狙いは、クイックドロウか」

 

 ……まぁ、そんな姉妹の下着事情はさておき。

 

 千束はノバラの意図するところを読んだ。

 

 クイックドロウ。いわゆる、早打ち。

 最速、と呼ばれる人物では約〇.〇二秒と言われている。

 

 仮に相手が普通の相手であったとしたら、千束はそれを避けることは訳のないことだ。銃を撃つまでの〇.〇二秒が最短というそれだけの話で、それ以前の予備動作なら千束の動体視力と洞察力で十分に対応できる。

 

 ……問題は相手がノバラであるということである。

 

「そうだよ。西部劇で有名なクイックドロウ。これに、抜刀術、抜拳術、さらには古流武術や中国武術……古今東西の格闘技術、戦闘技術を組み合わせたのが、私のこれ。……抜筒術、とでも言えばいいのかな?」

 

(……今度は何の映画に影響されたのやら。それとも漫画か? 面白そうだからと言って技に昇華するまで練習するとか、相変わらずアホだな……)

 

 とは言え、相当な脅威となることは間違いない。

 

 いわゆるガン=カタを自分の技術体系に落とし込み、古今東西の武術の良いとこ取りをして、もはやノバラ流と言うレベルの格闘術に発展させている。

 

 如何せんアホのような練習量を背景とした技術であるので、まともに使えるのは本人だけ、という残念流派であるが。

 ……まぁ、一応、すみれが幾つかの技を教え込まれているとは思われるものの、それにしたって、すみれ本人の身体能力や学習能力があってこそのものである。

 

(……なるほどな。ノバラの技量であれば、一切の予備動作を削って、最短最速最効率で抜き打ちができる。そうすれば、私の動体視力、洞察力も関係ない、と)

 

 千束が銃弾を避けることができるのは、予備動作に伴う衣擦れ、筋肉の動き、視線……これらを総合的に知覚した上で、人間離れした反射神経で身体を動かしているからだ。

 

 だが、ノバラの格闘術は、極限状態であれば、ほとんど予備動作がない……少なくとも千束でも察知できないほどに。

 

 それでも、千束がノバラの動きが、何となくでも分かってしまうのは、彼女と一緒に暮らし、危なっかしい彼女から目を離さないように観察し、自らはあまり話そうともしなかった彼女の心を慮ることを続けてきたから。

 また、彼女に最も影響を与えているであろう千束自身の思考回路に似ているから、というのもあるだろうが、一番は姉として、母としての直感だろう。

 

(……読みきれるか? 今の私に……)

 

 自分の手を離れ、それでも色んな意味で元気に育ったノバラ。

 

 妹分の成長が嬉しいのは間違いないが、敵とした場合は、やはり厄介だ。

 

 今までの戦いで、初動を察知できていたのは、彼女がまだ準備運動レベルで予備動作を消しきっていなかったからである。

 

 ……しかし、さすがに次は本気で勝ちにくる。

 

 ノバラ自身の成長と本気度合い。

 それらを踏まえれば、千束が、今のノバラを完全に読み切ることができるか、と言われれば、不可能に近い。

 

 加えて言えば……。

 

(……左右どちらの銃を使ってくるか、あるいはその両方か。……ノバラのことだ。それ以外、ということもあり得る……)

 

 かつてのノバラであれば、狙ったところに当てることも四苦八苦するくらいであったのに、今は、銃弾を撃ち落とす程に、命中精度が高い。

 つまりは、外れる、ということに、期待することもできない。

 

 ちょっとした、読み違いで千束は敗北することになる。

 

 ……ぞくぞく、と千束の背筋に寒気が走った。

 

(……ハハ……これまでにないほどの強敵だなぁ……)

 

 単純に比較することはできないが、それでも単体での戦闘能力を見るなら、ノバラは真島など目ではないほどに強い。

 

 千束と同様に相手の動きを察知し、銃弾を避けてくる。

 近寄れば、斬ってくる、殴ってくる、蹴ってくる、投げてくる、極めてくる。

 加えて、銃を扱わせても、狙って銃弾を撃ち落とすという芸当。

 更に言えば彼女の本領は、その隠密性であり、直接戦闘はおまけでしかない。

 

 見た目こそ、小柄で可愛らしい少女だが、その本性は、獰猛な影に潜む狼である。

 

 共にあれば、最良のパートナーともなるだろうが、敵に……獲物に回れば、彼女は無慈悲な狩猟者だ。

 

 こんな強敵見たことない!

 

 リコリス歴の長い千束であっても、これまで経験のない最強の敵である。

 

 だが、だからこそ。

 

(嬉しくて、誇らしくて……楽しいよ、ノバラ!)

 

 妹の成長が嬉しい。

 生きていてくれて嬉しい。

 その努力が誇らしい。

 その強さが誇らしい。

 

 ……そして、かつてない強敵と出会えたことがとてもとても楽しい。

 

「……来い、ノバラ! 私も全開だ!」

 

 千束は自然と笑みを浮かべた。

 

 それを見て、ノバラも同じように笑みを浮かべている。

 

「ふふん♪ 今日こそ、私が勝つんだから!」

 

 二人の視線が交錯する。

 

 互いに笑みを交わして……構える。

 

「「……いざ、勝負!!」」

 

 

 ……決着は近い。

 

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