Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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229H Last attack

 オーソドックススタイルで構え、右の拳を、ぎゅ、と握った。

 

(……千束ちゃんならまだしも、たきなちゃんには当てられる! …………ハズ……)

 

 模擬戦での経験上、千束にクリーンヒットさせることは分かっているが、すみれの見る限り、たきなは千束ほど人外ではない……と思っている。

 

 ……ノバラ曰く、たきなの勘の鋭さは要警戒、とのことだったし、すみれもそれは感じている。だが、手が届かないほど、とまでは思わなかった。

 

 ……それでもちょっとした不気味さを感じているのは、たきなと目が合う度に猛禽類にでも狙われているかのような危機感を覚えるからか。

 

 現状、たきなに良いようにあしらわれているものの、すみれは、本気ではあっても全力ではない。

 

 見知った相手故、戦闘モードに切り替えていても、全力になりききれていない部分がある。

 

 間違って殺しちゃうのは、ヤだな、というそんな気持ちが残っている。

 

 しかし、構えてみることで改めて分かる。

 

 ……たきなは強い。

 

 千束の理不尽さ。ノバラの完璧さ。

 これらともまた異なる……恐ろしさ。

 

 それを感じるからこそ、すみれは少しずつ、自分を縛り付ける理性と言う名の枷を外していく。

 

 ……全力。

 

 それでも、ノバラであればそもそも通じないし、千束であれば、どれだけトリッキーに動いたところで、見きられ躱されるだろう。

 

(……たきなちゃんならどうするかな?)

 

 すみれの速さとたきなの勘の良さ。

 

 ……どちらが勝るかの勝負である。

 

◇◆◇

 

 真っ向勝負ならたきなに分が悪い。

 

 それはすみれも、たきな自身も感じていることではある。

 

 だが、たきなは多少の小細工はするにしても、真っ向勝負を避けるつもりはない。

 

(すみれと戦うなら、真っ向勝負から逃げてはダメだ)

 

 距離を取られているならまだしも、接近戦になったのなら、どれだけ不利であろうとも逃げることは許されない。

 

 ……ノバラは、おそらくそれを望んでいる。

 

 正面からたたきつぶす。

 

 それができなければ、すみれに勝ったとしても誇れないし、自分がノバラの姉だ、と胸を張って言えない。

 

(……とは言え、厄介な相手です。どう料理するべきか……悩みますね……)

 

 単純な身体能力なら、たきながこれまで戦ったことのある相手の誰より強い。だが、敵としてみれば、実のところ真島の方が厄介だろう。

 

 あちらは、必要とあれば、何でもやってくる類の人間だが、すみれは実に素直だ。

 

 多少の駆け引きはあれど、真っ当な戦闘者である。

 

 オーソドックスに構えられたファイティングポーズから繰り出してくるのは、ノバラに教え込まれた格闘術だろう。

 

 たきなは、ノバラと一緒に生活している際にいくらか手解きを受けている。

 時間があれば本格的に習いたいくらいではあるが、さすがにそこまでの暇はなかった。

 だが、彼女の格闘術の特徴は理解できた。

 ……実にノバラらしいというべきか、基本的には、効率的に人を殺すことに最適化されている。しかし、技の組み立てやコンビネーションには、人の虚を付く、というか、初見殺しのようなものが散見される。

 

 すみれがノバラの格闘術を使ってくるとしたら、初見殺しのコンビネーションだろう。

 

 握られた両拳と地を強く踏んでいる右足。

 たきなを伺ってくる視線……。

 

「……行くよっ、たきなちゃん!!」

 

 すみれの声とともに、地面のアスファルトがひしゃげる。

 

 爆発的に地を蹴った右足の力をそのままにたきなとの距離を詰めてくる。

 わずかに前に出された左手と振りかぶった右拳。

 

「……せぃっ!!」

 

 左手を、鋭く引きつつ、その反動を使って空気を切り裂きながら、右拳が飛んでくる。

 

(……そこです!)

 

 たきなは、冷静にすみれの拳を見切る。

 気合いの乗った良いパンチではあるものの、やはり、素直過ぎる。

 

 ……いや、たきなが普段訓練相手にしている千束が人外で、ここ最近訓練をともにしているノバラの性格が悪すぎるせいかもしれない。

 

 触れるか触れないかのギリギリで、右足を引きながら、たきなは自分に迫ってきたすみれの拳を躱す。

 

 当たれば死ぬかもしれない。

 

 そんな危険を感じながらも、たきなは避けられると確信していた。

 

 ……すみれにはまだ迷いがある。

 

 だからこそ、そこを突く。

 

 当たってしまうかもしれない、殺してしまうかもしれない。

 そんな迷いが見え隠れするからこそ、いざ、当たってしまいそうになった瞬間に、すみれが、……え? という顔をしたのが分かる。

 

 ……ほんの一瞬。刹那の瞬間。

 

 最初の一発目は躊躇するであろうことを、たきなは予感していた。

 

 ぴゅ、とすみれの拳が空気を切る音を耳の間近で聞きながら、たきなは、下から突き上げるようにして、左手に構えたM1911をすみれの右脇腹に銃口を向けた。

 

 

 タタタン。

 

 すれ違いざまに三連射。

 

 防弾、耐衝撃のスーツを着込んでいるからといって、すみれが全ての銃撃を無効化できるわけではない。

 

 多少離れているならばまだしも、密着し、しかも筋肉の薄い部分。

 

 すみれにとっては、強烈なレバーブローを喰らったに等しい。

 

「ぎっ!?」

 

 本来であれば、次撃への布石となるはずの右ストレート。

 これを躱されるのは想定内だったとしても、この強烈な一撃にはさすがのすみれを足を止めざるを得なかった。

 

 ……しかし、ぎり、とはっきり耳に聞こえた歯軋りの音に、すみれの闘争心がまだ衰えていないことをたきなは感じ取った。

 

「……っらあああああぁぁぁっ!!」

 

 顔を顰めながらも、すみれが右足を引きつつ、今度は左でたきなの顔面に向けてフックを放つ。

 

 ……痛みが彼女の躊躇を消したのか、今度の拳には迷いがない。

 

(……そう、それでいいんです、すみれ)

 

 ぞくぞくっ、と危機感がたきなの背筋を撫でる。

 

 くすぐったいような、甘い痺れるような感覚。

 

 たきなは右手に持ったM&Pの銃口を上に向けると、そのまま銃弾を放つ。

 

 タタン、と狙いを過たず、すみれの手首、肘に的中する。

 

 自然、すみれの腕は跳ね上がって、軌道が逸れる。

 

 たきなは軽く身を屈めながらすみれの拳を躱しながら、左足を引き、その勢いのまま体を反転させる。

 

(……さぁ、すみれ。まさか、これで終わりなんて言いませんよね?)

 

 ぐる、と回ったたきなは、回転の反動を利用し、拳が空を切って大勢を崩しているすみれの下がった頭のコメカミを狙って、左の肘を強く打ち付けた。

 

◇◆◇

 

 ごっ、という鈍い痛みが左のコメカミの辺りに走り、すみれの視界は真っ暗になった。

 

(……あ……やだ……)

 

 治療の際、薬剤を投与されたときに、何度も経験している意識を失う感覚。

 闇の中から、こっちへおいで、と冷たい手が体にまとわりつく感触。

 

 常ならば、抗いようもなく、引き込まれるしかない。

 

 ……しかし、今日はダメだ。

 

 ひた、と冷たい手がいくつも体を這いずり回るが、すみれは意識上でその手の全てを引き千切った。

 

 瞬間、視界が戻る。

 

 とは言っても、酷いものだ。

 

 涙で視界はぼやけ、ぐるぐる、と回っている感じがする。

 今、立っているのかすら怪しい。

 

 ……それでも。

 

 だん、と強く地を踏んで倒れない。

 

「がぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 腰の辺りまで両手を引いて構える。顔は空を睨むように上げて、咆哮する。

 

 ふぅーっ、ふぅーっ、と荒い息をはきながら、すみれは倒れそうになるのを堪えながら、たきなの姿を探す。

 

 にぃ、と笑ったたきなが、すみれを待っていたかのように、正面で銃を構えている。

 

(……すみれの負けだね……でも、次は負けない!!)

 

 撃ち落される。

 

 それを分かっていても、一矢報いるための最後の一撃。

 

 ……すみれは、ただがむしゃらに自らを撃ち出し……そして、撃墜される。

 

 タンタン、タンタン、タタタタン!

 

 出足を止められ、転ぶようにしながら、たきなの足元に倒れる。

 

 最後の抵抗とばかりに、たきなのスカートに手を伸ばし、ちら、と上を見る。

 

(…………黒の……透け透け……)

 

 何だか見てはいけない物を見た気がしつつも、すみれは、鼻血を噴きながら気を失った。

 

 ……たきなのスカートの端を掴みながら。

 

 

 

 なお、すみれが鼻血を噴いたのは転んで顔をぶつけたからか、たきなのえっちぃ下着を見たからか……それはすみれ以外には分からない。

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