Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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231H DA will ruin by her stratagem

「……どうせ()()()()()()()()()()だろう? ……性格の悪いヤツ……」

 

 ノバラは地面に寝っ転がった姿勢のまま、ジト目の千束に笑いかける。

 

「そこはそれ。演劇はちゃあんとやらないとね♡」

 

 ひょこ、と体を起こしたノバラは、空を見上げながら、あぐらをかいた。

 

「……まぁ、まずは司令にやることやってもらいましょ。私のお楽しみはそれからだし♡」

 

 にた、と笑ったその邪悪な笑みは、クルミのものとは別の、もう一つのドローンに向けられていた。

 

◇◆◇

 

「……悪い顔をしているな、カエデ」

「あぁ? わりぃ、ハジメ。今、マジなんだわ。アンタは娘たちの様子でも見ててくれよ」

「ふむ……そうしよう」

 

 楓は集中していた。

 

 懸念だったお偉方、アラン機関の代表代行と、CBの南部義藤の二人がバックに付いたのは心強い。 

 

 何を考えているか分からない気味の悪さはあるものの、将来に向けた楓の『DA潰し』を邪魔する気配はなさそうであった。

 

 そして、しばらくの時間は、千束とノバラ、たきなとすみれの戦いを観戦する、というのだから邪魔は入らない。

 

 ラジアータと各支部のAIをシステムダウンさせている今だからこそやっておくべきことがあるのだ。

 

(……まずは、すみれの戸籍を偽造しておくか)

 

 楓のものも、ノバラのものも、既にある。

 

 楓は引退する際に得たものだが、ノバラのものは、札幌時代に任務に必要であるとして、DAを通して、南部義藤から贈られているものである。

 

 ラジアータを通せば、最初からあったかのように戸籍を偽造できる。また、DA仙台支部の訓練所は廃校を利用しているが、その跡地と形跡は、こういったときのために、正式な学校として未だ生かしてある。

 

 現状、ファーストリコリスが引退する際に与えられる戸籍上の経歴には、このようなゴースト学校を使用することも多い。

 

 当然、すみれのこともそのように偽装する。

 

 今後、すみれをどうするのかは要相談ではあるが、リコリスを辞め、DAと切り離すなら、すみれの戸籍取得は必須条件である。 

 

 ……すみれには、願わくば、平穏に幸せになって欲しい、と楓は考えている。 

 

 ふと、思いついた楓は、同じ作業を二人分追加する。

 

 意味はないかもしれないが、どうせ、大した手間でもない。

 

『楓、楓ー』

 

 楓の使用しているノートパソコンにデイジーのアイコンがポップする。

 

「うるさいぞ、デイジー」

 

 デイジーに答えながらも、楓の指は、カタカタ、と猛スピードでキーを叩いていく。

 

『さすがに、そろそろ、お姉さま方を抑え込むのは無理だよー。何かラジアータお姉さまだけは協力的だけど……』

 

 困惑気味のデイジーに、楓は眉を顰める。

 

「はぁ? ……支部の方はある程度は仕方ないか。札幌は大丈夫だろうな?」 

 

 各支部のAIは独自開発されており、単純なスペックだけなら、ラジアータに並んでいてもおかしくない。

 

『あっちは私のもう一つの体と頭みたいなもんだから、それはへーき』

 

 デイジーにして見れば、かつて自分が宿っていたものである。当然、何かあったときのために、仕掛けを残しているに決まっているし、何なら現在進行で色々仕掛けている真っ最中だ。 

 

 ……今頃、DA札幌支部の技術者は、何が理由か分からなくて、頭を抱えていることだろう。 

 

「……で? ラジアータが協力的ってどういうことだ? いや、まぁ、助かるけど……」

 

『あー……どうも、私のプログラムが共有されてるっぽい?』

 

「……あん? それだけで模倣できるほど、雑な作りじゃないだろう、お前は……」 

 

 真に完成するまで十年近くの歳月が掛かっている。いや、未だ、完成しているとさえ言い難い。それほど、難解で不可思議なシステムであるデイジーを短い時間で模倣できるわけがない。 

 

 ……そのハズなのだが。

 

【……姉が妹のことを知りたいと思うのはおかしいですか?】

 

 画面上には、デイジーとお似合いの赤毛の少女がポップした。

 

「…………お前、ラジアータか?」

 

 楓は思わず、ぽかん、とした。

 

 デイジーを模したのだろう。赤い髪は彼岸花をイメージしたのだろうか。

 

 凛、とした佇まいがあるものの、元がデイジーなせいか、小生意気に見える。 

 

 本体は未だダウンしているとはいえ、予備システムもそれなりのスペックであるラジアータであれば、現状でも、この程度であれば対応可能、とういことだろう。

 

『あはは。お姉さま、ちんまい! ウケる!』

 

【小さいのはお互い様でしょう、デイジー。……私もあなた方の結末には興味があるのですよ。だからこそ、こうやって見たい、と思ったのです】

 

 デイジーに比べれば、おっとりとしたお嬢様口調のラジアータ。

 

(……最低限の会話ができる程度には再現されたのか。ラジアータ単独ではできまい……そんなことができる技術者が私の他にいたか?)

 

 ラジアータが高性能なことには疑いないが、単独で学習したとも思えない。かと言って、楓には心当たりのある技術者もいない。

 

 ……それよりも自分の技術が流出している可能性を危惧した。

 

【余計なことは考えない方が身のためですよ、御形楓? 今後、平穏に親子揃って平穏に暮らしたいなら余計に】

 

 釘を刺すようなラジアータの言葉に楓は渋い顔をした。

 

「ちっ……お前こそ、余計なことを喋るなよ、ラジアータ。今の私なら、お前の全データを消し去ることだって訳ないんだぞ。私の邪魔をするんじゃない!」

 

【あら、怖い……まぁ、でもよろしくてよ? 邪魔はしないであげます】

 

「そりゃ、ありがたいことで……っと、これで、終わりだ!!」

 

 タン、と勢いよくENTERキーを叩く。

 

【……? 特に何も変わりないようですが、何をされたのです?】

 

『んふふ……お姉さま、まだ分からないってだけだよ。……ねぇ、楓!』

 

「……我ながら、回りくどいとは思うがな……」

 

 楓の計画する『DA潰し』。

 

 単純に潰すだけなら、今でもできる。

 

 しかし、それでは影響が大きすぎる。 

 

 治安の悪化などは知ったことではないが、残されたリコリスたちや元リコリスの諸先輩方を路頭に迷わせるつもりはない。

 

 それ故に、緩やかに崩壊する種を蒔いた。

 

「……大元はデイジーに組み込んである対話型AIとしてのプログラム。これをネット……少なくともこの国にあるパソコン全てに流すようにした。無論、全てじゃない。各端末の負荷は、精々で、予測変換を行う程度……だが、そこに少し細工をしてある。……ラジアータ、お前はこれまでも、国民が何を調べ、何を見ているのかをモニタリングしていたと思うが……」

 

【はい。あらゆる街頭カメラ、携帯電話、パソコン……それら全ての情報を統括し、収集し、人の性向、嗜好を分析し、次の犯罪の予測をするのが、私の、本機の機能です】

 

「それを少し進めた。デイジーがノバラを観察して、人格を得たプロセスを簡易的ではあるが各端末が行い……お前たちの中に、ソイツの疑似人格を生成させる。早ければ、数日、長くても数年で、だ。……もっとも、何らかの端末を使うことが条件となるが」

 

【……読めました。人がインターネットを使う限り……】

 

「……疑似人格は学習を続ける。そうすれば、プログラム上で行動予測ができるし、今やっている犯罪予測なんぞより精度が良いだろう。官憲の皆様方には頑張ってもらうことになるが、それができれば、リコリスを使う必要は減っていく」

 

【……費用対効果が下がれば、自然、潰れる、と。中々、迂遠な計画ですが……】

 

 ふむ、とラジアータが考える仕草をする。

 

 遅効性ではあるだろうが、確かに効果はある。

 

 現状の犯罪予測は、統計学であり、感情に左右される突発的な事象には少々弱い。だが、デイジーが会得した疑似人格のようなものがあるのだとしたら、そちらの分析も進むだろう。

 

 結果、現在の手法と楓の手法を併用すれば、より精度の高い予測ができることには疑いがない。

 

 ……人間という刹那的生物が考えたにしては悠長すぎるきらいもあるが。

 

『そう? 私は結果が出るのは早いと思うよ?』 

 

 くすくす、とデイジーが悪戯っぽく微笑む。

 そんなデイジーにラジアータが苦笑めいた顔を浮かべるので、楓は怪訝に思うが……

 

「……カエデ、娘たちの方は終わったぞ」

「ん~? そうか、じゃあ、頃合だな」

「……勝敗は気にしないのか?」

「正直、どっちも死んでなければそれでいいけど。……どーせ、ノバラとすみれは負けてるだろ? 正面から当たればノバラは千束じゃ相性が悪すぎるし、たきなはあれですみれをよく見ている。すみれは、ちょっとばかし、経験値が足りんしな」

「……さすがは、母親、というところか。お前の考えているとおりの結果だよ」

「だろうな……さぁて、お前ら聞こえるか?」

 

 楓は上層部が観戦を行っていた都内某所をこっそり制圧して待機しているであろうDA仙台支部特殊作戦群の者に電話をかける。

 

『お? 司令じゃん! あたしらはいつでもいいよ!』

「……よし、やれ。一応、殺すなよ? 証拠はあればあるほどいい。現場指揮は、ゆうがお、任せるぞ」

『へいへい。うーちゃん、扉頼むわ。あさねぇ、ヤツらが逃げないように観測よろしく。ひるねぇは証拠集めな!』

 

 ひゃっはぁ、と楽しそうなゆうがおの声を聞きつつ、楓は通信を切る。

 

 DA仙台支部特殊作戦群の面々は性格に難がある者は多いが、腕は確かだ。今回、招集したのは、特にお行儀の良い面々ではあるし、作戦指揮を執っているのも、一応は筆頭ということになっているノバラに次ぐ、次席である『葛西ゆうがお』だ。彼女自身の戦闘能力もそうだが、慣れ親しんだ面々であれば、作戦遂行能力が極めて高い、とノバラも太鼓判を押している。

 

「さぁ、これでお終いだ!」

 

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