Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「デイジー、司令の方は?」
『さっき例のプログラムをラジアータ経由で国内にばら撒いてたとこ』
「ふーん。じゃあ、それは予定通りね。……私の方は?」
『きひひ☆ ばっちり準備できましたよ。もうすぐお披露目』
スマホの画面上にポップしているデイジーの悪戯っぽい笑顔に、にやぁ、とノバラが笑みを浮かべる。
あまりに邪悪な笑みに千束は若干引き気味になりながらも、ノバラに話しかける。
「わっるい顔してんなぁ……一体、何を仕掛けたんだよ?」
「……くふ♡ 楽しいこと!」
答えになってないんだよなぁ、と思いつつも、千束はノバラを後ろから抱きしめて、共にスマホの画面を見る。
戦闘後、ということもあり、ちょっとだけ汗の匂いがするが、千束にとっては、慣れ親しんだ妹の匂いである。
「さぁて……整った盤面は引っくり返さないと! 誰も彼もが、私の手の上。面白くない世界すべてを引っくり返し、楽しい世界、楽しい今を作りましょうか!」
◇◆◇
「……さて、お二方にもご満足頂けましたかね?」
『無論無論。楽しい見せ物だったとも!』
『……ふむ、そうだな。そうではあるが、やはり、錦木千束に殺しをさせるのは難しそう、か。また次の機会を待つことにしよう』
『そうだな。私も最上ノバラの活躍をもっとよく見せてもらいたいものだ』
今回の件、常任理事であるこの二人が楓の味方についてくれたことは幸いだった。
……だが、大きな借りを作ってしまったことにもなってしまった。
今後、どんな無理難題が振られてくるか分かったものではないが、やむを得ないことだ。
『……あら、お二方とも、もうよろしいのかしら?』
(……なっ!? 誰だ!? 最上位の秘匿回線だぞ!? 常任理事以外に入ることなんて……っ!?)
楓と常任理事二人を繋いでいた回線に突如として、一人分の画面が追加された。
当初、ハッキングを疑ったものの、彼女は正規の手続きで割り込んだ。
三名いる常任理事の内、楓にも一切の情報が取れなかった人物。
楓の予想では、ラジアータ本人が座っているのだろうと予想していたのだが……。
『おやおや……これは……』
『ほぅ……』
真白い服に身を包んだ少女が画面の中で妖しく微笑んだ。
『お初にお目にかかりますわ。私、『ローズ』と申します。以降、よしなに……』
(……の、ノバラぁぁぁぁぁ!? あ、あいつ、まさか……!?)
画面に表示されたその顔はノバラにそっくり……というか、そのものである。
デイジーのプログラムがラジアータと共有されていた件。
そして、この『ローズ』という少女。
おそらくはノバラ本人の疑似人格を付与した、デイジーの同型、あるいはそれを発展させたAIであろう。
『お? 成功成功☆ ローズちゃん、でびゅー♡』
【……奔放な妹がまた増えるとか、頭が痛いですね。……あの子、私の本体が休止中なのをいいことに、私の常任理事として付随する権限もちゃっかり持っていきましたよ?】
『そりゃ中身がほとんどノバラだもん。もらえるものはもらっちゃうに決まってるでしょ』
はぁぁ、とラジアータが頭を押さえながら、ログアウトした。
……おそらく、本体が再稼働を始めたのだろう。
『さてさて、常任理事のお二方には、今後もご協力いただくとして。今回の件に絡んでいる理事の方々に対する処分……異存はなくて?』
『異議なし』
『君の言葉なら異議などあろうはずもない』
『では、処分に先立ち、彼らの関係した背任事案は全て開示の上、規定に則って処分することにいたしましょう☆』
ぽむ、と両手を打って、にこやかにそうローズは言ったが、これは意外にえげつない。
楓としては、上層部の首を挿げ替えることで、取り合えずよしとしたが、彼女の提案では芋づる式に多くの者の首が物理的に飛ぶ。
『むぅ……』
『はっはっはっは。実に結構なことじゃあないか!』
アラン機関代表代行が難色を示すが、CBの南部義藤が即座に同意した。
常任理事の多数決により、ローズの提案が了承された。
(……こりゃあ、荒れるぞ……!)
楓は頭を抱えた。
せっかく軟着陸を目指していたのに、強行着陸されたようなものである。
『まぁ、楓君は大変だろうが、頑張り給え。陰ながら応援することにしよう』
『はぁ……御形楓。自分で蒔いた種だ。世話も収穫もきちんとやるように』
常任理事が二人、ログアウトして、残りはローズ一人だけ。
『さぁ、楓! 誰も彼もが、私の手の上。面白くない世界すべてを引っくり返し、楽しい世界、楽しい今を作りましょう!』
歌うように笑っているローズの言葉に楓は頭を抱えた。
◇◆◇
「あひゃひゃ! 司令、困ってやんの! いやぁ、これで、司令を本部のトップに据えれば、大体、上手いことできるわ!」
ローズ側からの映像を共有してスマホで見ていたノバラは、楓の頭を抱える様子をみて、けらけら、と笑っている。
……うわぁ、と千束は引いた。
楓の目的が、DAを潰すことだ、とは思っていたが、理事クラスの連中だとは思っていなかったし、楠木が協力していたフシもあったから、せいぜいで、リリベルの司令官連中の首が飛ぶくらいだと思っていたのだが。
『ローズ』なる明らかに妹の手に掛かって仕立て上げられた彼女の言葉から、それだけで治まることがないのは明らかだ。
理事たち本人。その部下、出世を餌に協力していたものたち。更には、そこに乗っかっていたリコリスやリリベル。場合によっては、企業や議員連中なんかも巻き込むかもしれない。
そして、ノバラの言を踏まえれば。
これらの後始末を楓にやらせる、ということだ。
逆に言えば、これだけ大ごとにしたのに、自分は後始末をするつもりはない、ということ。楓と『ローズ』に専ら任せるつもりなのだろう。
……楓がノバラを離すとも思えないので、実働に駆り出されることは間違いないのだが、本人はそのことに気付いているのだろうか。
(……気づいていないはずはない。でも、そんときは、ぶー垂れながらも、完璧にやってみせて、貸し一つ、ってとこか。……腹黒め)
ぎゅう、と千束はノバラを抱きしめる。
とくんとくん、と聞こえるその鼓動が、愛おしい。
「……アンタの企みはこれでお終い?」
「悪戯って言って? ……んふふ、でもこれ以上は内緒♡」
「お姉ちゃんに秘密とか、悪い子だな? ……うりうり!」
「ひゃん!? ……んぅ……あはっ、あははは、やめ!? やめてぇ!? 擽んないでぇ!?」
きゃいきゃいと千束とノバラくんずほぐれつしていると、すみれをお米様抱っこした状態のたきなが歩いてきた。
「……楽しそうですね、二人とも」
「おー、たきな。お疲れさん!」
「た、たきなお姉ちゃん! うふふ……! あは! ひぃ……た、助けてぇ!」
千束はたきなの言葉に声を返しながらも、ノバラを擽る手は止めない。
ノバラはたきなに救援を求めるが……。
うふ、と嗜虐的な笑みを浮かべたたきなが、すみれをゆっくり下ろすと、手をわきわきさせながら、ノバラを見た。
「ま……まさか……!?」
あわわ、とノバラが何とか逃れようとするものの、千束ががっちりとノバラを拘束した。
「……ノバラがいけないんですよ? そんな……誘うみたいな目で見て……♡」
たきなは、ゆっくりとノバラの頬に触れて、一度、柔らかく微笑むと、もう片方の手の人指し指で、胸の中心から、すーっと下の方に滑らせていき……。
「……いやぁぁぁぁぁ………ん!」
……辺りにはノバラの嬌声がこだました。