Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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233H post battle

「たきなお姉ちゃんの裏切り者ぉぉぉ!!」

 

 えぐっえぐっ、と涙を流しながら、ノバラは笑い顔が治らなくなって、むにむにと顔を揉み解している。

 

「……ノバラが可愛いのがいけないんです」

 

 たきなは、明後日の方向を見ながら、自分の膝に寝かせているすみれの髪を撫でている。

 

 かくかくしかじかまるまるうまうま、とたきなが知らないことを簡単に説明しつつ、ノバラは千束に抱かれたまま、その頭を千束の胸を枕代わりにしてくつろいでいる。

 ぽやん、とした顔は、チサトニウムを吸収してご満悦な様子だ。

 

「とりあえず、これでお終いなんでしょう、ノバラ?」

「まぁ、この件はね? でも、色々抵抗もあるだろうから、忙しくなると思うよ?」

 

 たきなの言葉にノバラが、自分には関係ねぇ、みたいな口調で答えるので、千束は怪訝そうな顔をした。

 

「……何だよ、他人事みたいに」

「専ら忙しくなるのは本部の方だろうからね! 私とすみれはこのまま仙台に……とりあえず、一回は帰るし」

「……おまっ!? こんだけ引っ掻き回しておいて、自分は逃げる気!?」

「うん♡ ……あ、ウソウソ、睨まないで、たきな……」

 

 にぱ、とノバラは、千束の問いには非常にいい笑顔を浮かべて答えたものの、たきなの、じとぉ、とした目に慌てて手を振った。

 

「まぁ、楓司令を本部のトップに据えるのは確定として……」

「最悪だな、お前……」

 

 自分はやる気がないのに、師とも母とも言える相手を人身御供に差し出すつもりらしい。

 一番性質の悪いのは、事実上の頭の一人に、ノバラのコピーみたいなヤツを据えているから、人事権も作戦権もノバラの思うがままになっている辺りである。

 

「……とは言っても、それは、すぐに、とはいかないから、楠木さんにとりあえずの対応をお願いすることになるかな? 実働部隊はサクラだろうね! やったね、サクラ! 手柄を立て放題だよ!」

 

 そんな風に言いながら、ノバラは南側に向かって笑いながら叫んだ。

 

 既にファーストになっているサクラがこれ以上手柄を上げても……、と思わないでもないが、一応、ファーストでの功績は将来に繋がるので、無駄ではない。具体的に言うと、司令官ポストへ就くことも可能となる。一リコリスからの出世、という意味では、相当な成功例である。

 ……まぁ、中には起業している人もいるとかいないとかなので、DA内で出世することが、イコール人生の成功例、というわけでもないのだが。

 

「……でも、それ、私たちも仕事が回ってくる感じでしょう?」

 

 たきながそのように懸念を示すと、ノバラは、うんうん、と頷きながら答える。

 

「そりゃあね。サクラたちは破壊力があるだろうから、殲滅戦とかは得意だろうけど……殺さず、壊さず、お綺麗に、ってなるなら、千束とたきなにお鉢が回ってくるんじゃない?」

「お・ま・え・は~……!」

 

 ぐぅりぐぅり、と千束のうめぼしがノバラに炸裂する。

 

「いたいいたい! だぁってぇ……仕方ないじゃん! サクラもエリカもヒバナも、割と殺意高いんだもん! フキが指揮してくれるならまだいいけど、サクラじゃ、押せ押せでしょ? 私の教え子たちも、そういう加減下手くそそうだし……」

「そういう! 風に! アンタが! 教えたんで! しょうがぁ!」

 

 ぐりぐりぐりぐり、と千束の拳が高速でぐりぐりしている。

 

「リコリスってそもそもそういうもんじゃん!? 千束が変なんだよ!? 私たちは基本、悪即斬! っていうか、悪即バァン! なんだよ!?」

「うっさいうっさい! 余計な仕事を増やしやがって!? たきなといちゃつく時間が減るだろうが!」

「あー! あー!! それが、本音だ! やらしぃんだ!! どうせ、今日はお邪魔虫がいなくなったーって、らぶらぶちゅっちゅするんでしょぉ!?」

「……………………………………………………せんわっ!?」

「考えた! すっごい悩んでたでしょ、今!? 絶対するつもりだ!? 大人の階段上る気だ!!」

 

 きゃいきゃいと千束とノバラが言い争っているが、いつものことなので、たきなは、仲いいな、と思いながら、くすくす、と笑っている。

 

「……んぁ……」

 

 そんな二人がうるさかったのか、すみれが少しだけ顔をしかめると、変な声を上げながら、目を開いた。

 

「……目が覚めましたか、すみれ?」

 

 たきながそう問いかけると、すみれは、目を擦るようにしながら、とろん、とした声で答える。

 

「……んー……たきなちゃん……?」

「そうですよ?」

「……えへー……たきなちゃん、いい匂い……すぅ~……」

 

 ぽやん、とした顔のまま、笑みを浮かべたすみれは、顔の向きをたきなの体の方に向けながら、抱き着いて、大きく息を吸い込んだ。

 

「……吸わないでください。汗臭いでしょう?」

 

 これが千束やノバラだったら、恥ずかしすぎてぶん投げるところだが、相手は精神的に幼いすみれである。さすがにそれは可哀そう、と顎の下を擽るに止める。

 

「……んー……そんなことないよー……とってもいい匂いだよ……はふぅ……ふともも、やぁらかぁい……♡」

 

 すりすり、とすみれがたきなのふとももに頬擦りしている。完全に寝ぼけているらしい。

 

「……すみれ、くすぐったいです。目が覚めたなら、起きてください」

「……やぁん……って、はっ!?」

 

 がばっ、と体を起こしたすみれは、きょろきょろ、と辺りを見回した。

 

「……すみれ……負けちゃった……?」

「ええ、今回は、私の勝ちです、すみれ」

「……そっかぁ、負けちゃったかぁ。……ノバラちゃんは?」

 

 ぴ、とたきなが指をさしたその先では、千束とノバラがやいのやいのと未だ言い争っている。

 

「あは。あの様子だと、ノバラちゃんも負けちゃったかぁ……うーん、結局、たきなちゃんたちに一度も勝てなかったぁ」

「……ま、姉としては、妹たちにそう易々と勝たせるわけにはいきませんからね」

 

 くすり、と笑って、そう答えながら、たきなはすみれのおでこを、つん、と指で押した。

 えへぇ、とつつかれたおでこを照れ臭そうになでながら、すみれは感慨深げな表情をする。

 

「……でも、これで東京での生活も終わりかぁ」

「残念そうにしてますけど、すみれ……仙台に戻ったら、ノバラと二人きりになれる、とか考えてませんか?」

「……え? 考えてるけど?」

「……正直ですね……」

「だってだって、考えないわけないじゃない!? ノバラちゃんと大人のちゅうしちゃったし、それ以上あるかもとか……そんなこと考えたら、もう! もうっ!!」

 

 赤い顔をしながら、いやんいやん、とすみれは体をくねらせているが、たきなとしては、ノバラがそこまでの意図をもってやったとは正直思っていない。コミュニケーションの延長線上だろう、と思う。

 

 それに、すみれは忘れているかもしれないが、せり、すずな、すもも、といった面々が仙台へ異動となるのだ。せり辺りが割と二人っきりにするチャンスなんて作らせないのではないだろうか、とも考える。

 

 ……それに。

 

(……ノバラにプレゼントを贈っていた相手……十中八九、年上の……それもそれなりのお金を持っている立場のある人だと思いますが)

 

 惚れている、というわけではないだろうが、ノバラのあのだらしない顔を思い出すに、好みではあるのだろう、と思う。

 

 フキに似ているところがあるノバラは、包容力のある大人の男性が好みのように思われる。……ぶっちゃけ、ファザコンじゃなかろうか、と。

 

 ……甘えたがりの少女であるすみれとは正反対である。

 

(……強く生きてください)

 

 妹分の恋路は、まだまだ険しい道のりが続いているように思われるが、先駆者としては、その恋が成就するように、と小さく祈りを捧げた。

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