Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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ノバラちゃん戦闘回


27 Wrath of the Rose

 ノバラは目の前に立つ十二人のリコリスをつまらなそうに見ていた。

 

 ……これなら、全部すみれで良かったかもと考え、すぐに打ち消した。今のすみれでは、五人くらいまでしか集中できないだろうと思ったからだ。

 

 一応、同僚に人死にが出るのは、気分が良くないし。

 

 彼女達を見ても、まったく仲間意識が湧かないが、一応は、後輩である。まぁ、彼女達の方が年上なのだが。

 

「さっきのヤツと言い、お前と言い、何のつもりなのよ?」

 

 一人、ファーストの制服を着たリコリスがそう言ってきた。

 

 あぁ、この子が例の発言した子ね、とノバラは冷めた目で見ていた。

 

 ……コレがファーストとか、DAの人材不足も深刻そうね。

 

 しかし、フキではないが、折って叩けば、それなりに仕上がるかもしれない、とも考え、ノバラは予定通りに煽り散らすことにした。

 

「ん~? お遊びでしょ?」

 

 と言っても、ノバラとしては、本音を言うだけなのだが。

 

「……バカにしてるの?」

「アンタたち、バカにされるほど価値あるの?」

「……っ!」

 

 ギリッと歯ぎしりの音がする。

 すみれとの闘いのとき、楠木が露骨にすみれを贔屓している様子を見せたからか、どうやら、上層部が自分達を面白く思っていないであろうことは悟っていたらしい。

 この子が、ああいいう言葉を言ったのは、自信故か、虚栄心故か、それはノバラには分からなかったが、一つ理解できる感情はあった。

 

 良きにしろ、悪しきにしろ、この子は自分を見て欲しかった、ということだ。

 

「見て欲しいなら、実力を示しなさい。無ければ死ね。周りを巻き込むな。アンタの軽々しい言葉のせいで、その子たちは巻き込まれたのよ? 分かってる?」

 

 ノバラとしては、周りはとばっちりを受けた印象だった。とは言っても、何も考えず安易に追従して、調子に乗ったのは彼女達自身ではあるのだが。

 

「本当のことを言っただけよ!」

 

 なおも強がりを言うファーストにノバラは冷笑を浮かべる。

 言葉通りの実力があれば、何も言わなかったかもしれないが、明らかに彼女では実力が足りていない。

 

「そうね。『言った』だけよね? その場に居もしなかったのに。居ることすら許されていなかったのに。……身の程を、『わからせて』あげるわ」

「上等よ! 名もないファーストさん?」

 

 ノバラは何も言わず、そのファーストに背を向けると、ただ静かに怒気を放っていた。

 

 

「あ~あ、言っちゃった」

 

 千束はノバラの怒気を敏感に察していた。

 この場で、あの怒気が分かった人間がどれだけいただろうか。

 ノバラのアレと異なり、怒気は中々に分かりづらい。元々の感情が薄いせいもあるのだろうが、本当の意味で怒っているのか、悲しんでいるのか、喜んでいるのかが慣れていない人間には見えないのだ。

 しかし、千束はノバラの姉と自負している。どんなに薄くても妹の感情は手に取るように分かっていた。

 

「何です、千束?」

「ノバラの数少ない逆鱗。あの子、その他大勢にされること大っ嫌いなんだよね」

「……リコリスとしては、その方がいいのでは?」

「そうなんだけどね~……あの子、あれで影が薄いこと気にしているところがあるから」

「……薄いですか?」

 

 千束と同じく、周りを振り回すあの感じ。たきなからして見れば、十分濃いように思えていたのだが。

 

「そういう風に振舞ってんのよ。あの子があんなエキセントリックな性格してなかったら、たきな覚えていられる?」

 

 言われて、たきなは考える。

 今のたきなであれば、ノバラが一サードとして埋没していたとしても見つける自信はある。

 

 だが、それは今のノバラを知っているからだ。

 

 それを知らないまま、ノバラの顔を見て、名を聞いても、ごくごく平凡なサードであったとしたら、どこどこのサードの一人としてしか覚えていられないだろう。

 

 その程度には、ノバラの容姿は目立ちにくいものだったからだ。

 

「私やフキのせいでもあるんだけど、あの過剰なスキンシップしたがる理由はそれ。『孤独』をずっと抱えているから、他の人に甘えたり、甘えられたりしたいのよ。私はここにいるよ、ってね」

 

 千束が苦し気に語る言葉に、たきなは悲壮な顔をした。

 ノバラがどうしてそんなに孤独を抱えているのか、見当も付かなかった。

 

「一体どうして……?」

 

 しかし、千束自身、ノバラがどうして『そう』だったのか、答えは持っていなかった。

 

「さぁて? 私もノバラの全部を知ってる訳じゃないけど。初めて会ったときのノバラは酷いものだった。世界の全てから否定されて、存在そのものが消えてしまいそうなほど儚かった。……いや、あえかな、って感じかな?」

「あえか、ですか?」

 

 普段、あんまり聞きなれない言葉なのか、たきなが聞き返してくる。

 

「か弱くて、消えてしまいそうで、儚くて、でも美しくて……あぁ、守らなきゃって思ったんだよ。私もまだ子どもだったのにね?」

 

 押し付けられたように見えていたかもしれないが、実のところ、千束はノバラを預かっていて喜んでいたのだ。

 単純に妹ができて喜んだのではない。

 

 この子を守っても良いのだ、それを許されたのだ、と思ったからだ。

 

 そのときの千束は、世界の誰もが目を向けない、だが、とても愛しい宝物を得たように感じていた。

 

「だから、抱きしめて一緒にいて、あなたはここにいていいんだよって示し続けた。たぶん、それはフキも一緒」

 

 ……でも、きっと、それでは足りなかったんだね。

 

 ノバラが今なお抱えている『孤独』の理由が分からず、千束はそっとその言葉を飲み込んだ。

 

『状況演習を開始する。想定は銃火器で武装し、耐銃火器を想定した装備をしているものとする。弾はペイント弾ではなく、訓練用ゴム弾。体術、ナイフの使用を許可する。戦闘不能判定はラジアータで行う。双方、相手全員の戦闘不能をもって状況演習を終了するものとする。双方、主張したいことがあるのなら、実力で示せ』

 

 楠木の言葉に相手に背を向けたままの、ノバラが薄く笑っているのが、千束には見えた。

 

(……あんにゃろ、何する気?)

 

 元々碌なことを考えていないであろうことは分かっていたが、彼女達、いや、彼女はノバラの逆鱗に触れた。終わりが良くないであろうことは想像に難くない。

 

 そろそろ、ブザーが鳴る、そんなとき。

 

 彼女達は二チーム程に分かれて、正面からの銃撃を行うものと、一人相手にも関わらず念入りに迂回挟撃を思わせる配置をしていた。

 一方のノバラはその動きを察知しているのであろうが、ただ静かに背を向け…………。

 

 ……踵を返すと同時、『ソレ』を放った。

 

「……っ!」

 

 ……どくん、と無いはずの鼓動が千束には聞こえた。

 

 その場にいる全ての人間が感じたことだろう。

 

『死』は常に自分の傍らに佇んでいるということを。

 

 ……そして、ブザー音が鳴る。

 

 ノバラ以外の全ての人間の反応がわずかに遅れる。

 

 彼女達は本来であれば、開始と同時、射撃をする予定だったのであろう。

 

 しかし、開始直前に離れたノバラの『ソレ』に気を取られて、初動が遅れ、ノバラが一瞬のうちに『ソレ』を引っ込め、気配を消して動き出したことによって、途端にノバラを見失う。

 

 ノバラの特性とも言える気配を利用したフラッシュバンのようなものだ。

 

 直前に印象付けられた気配のせいで、野生の獣並みに気配を消したノバラの姿が『分からなくなる』。

 

 俯瞰して見ている千束ですら、見失いそうになるのだから、相対している彼女達にとってみれば、まさに『消えた』ように見えることだろう。

 

 それでも、防衛本能と言うべきか、何人かは、見当違いの方向に銃を撃つ。

 

 だが、ノバラは既に間合いの内側だった。

 

 一早く気づいたのは、腐ってもファースト、というところだろうか。

 

「右だっ!」

 

 しかし、その声は遅すぎた。ノバラは既に彼女に一歩の位置に迫っている。

 抜いた銃を向けると同時、ノバラに小手を捻り上げられる。

 そして、ノバラは相手に銃を持たせたまま、無理矢理その引き金を引かせる。

 

 パンッ、と乾いた音がして、ファーストの胸にゴム弾が着弾する。

 

「ぐっ!?」

 

 衝撃でわずかに緩んだその手から、ノバラは銃を取り上げると、無慈悲にも続けて顔に二発接射する。

 

「がっ……!?」

「リーダー!?」

 

 射撃に自信があるのだろうか。最も近くにいたセカンドはノバラに銃を向けると、そのまま銃撃を始める。

 だが、ノバラは嘲るような笑みを浮かべて、ファーストの腕に関節を決めたまま、体を入れ替えるようにして、ファーストを銃撃の盾にする。

 

「ひぎっ……!?」

「あっ!?」

 

 セカンドの少女はフレンドリーファイアとなってしまったことに驚き、慌てたように銃口を上に向けると、ファーストの体の陰に隠れていたノバラが彼女を撃ち抜く。

 

「なっ!?」

「ちっ!」

 

 戦闘不能判定となった者を盾にすることは別に反則ではないし、実戦ではままあることだ。

 

(えげつない!!)

 

 本当に死んでいるのであれば、味方であれ盾にすることを躊躇しない者もリコリスの中には数多いるだろうが、模擬戦でここまでやる者は、普通はいない。

 そして、生死の掛かっている現場であるならばまだしも、生きていて反応ある味方に躊躇わず銃を向けられる者はいかにリコリスと言え皆無であろう。

 

 それでも、何人かは、ノバラを狙おうとするが、ノバラは巧にファーストの体を操って、射線に入らない。ノバラの体が小さく、狙い辛いということもあるだろうが。

 

 しかも、ノバラはダメ押しとばかりにファーストの体を自らの体全体を用いて、宙に押し出した。小柄なノバラからはちょっと想像できない程の吹き飛ばし振りであるが、相手の体勢を上手く使っているのだろう。

 

「うわっ!?」

 

 ファーストを受け止めるような形となってしまったサードは、自ら無防備をさらしだすことになる。

 

「あ……」

 

 気づいたときには、忍びよったノバラにコメカミに銃口を突き付けられ、そして、そのまま引き金を引かれた。

 

 誰も彼もが混乱し、隊列が滅茶苦茶になったことを確認したノバラは、その中心に躍り出ると、近い者からまるで舞うようにして、蹴り、投げ、打ち、銃を撃つ。

 

 銃を向けたサードは下から、銃を蹴り上げられ、くるりと回ったノバラに眉間を撃たれる。

 同士打ちを嫌ったサードはしかしノバラに小手を取られて、同士打ちでも構わないとばかりに撃とうとしていたサードに投げつけられ、味方の銃弾に倒れた。

 味方を撃ってしまったことにショックを受けたサードは、そのショックが冷めやらぬ内に、ノバラの掌底で顎を打ちぬかれ、とどめとばかりに鳩尾に銃弾をたたき込まれる。

 最初に蹴り上げた銃を見ることもなく頭上で受け止めたノバラは、くるくると回るようにして銃を撃つ。

 特に誰かを狙い撃つのでもなく、そこにいることが分かっているかのように、ただただ回りながら撃ち放つ。

 

 演習場(キルハウスブース)に静寂が訪れるまで、さほどの時間はかからなかった。

 




これで一応タイトル理由は回収できたかな?

薔薇はあえかに散り行き、菫は鮮やかに咲き誇る

というイメージです。英訳が合ってるか知らんけど。
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