Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……ノバラぁぁぁぁぁ!!」
車から降りてきた楓は怒髪天を衝く勢いだったが、そんな楓を見て、ノバラはむしろ、面白そうに、けらけら、と笑っている。
「あは。司令、怒ってる、怒ってる! こわぁい♡」
ノバラは笑いながら、千束の陰に隠れて、盾にした。
(……この子はぁ……!)
千束は思わず額に手を当てた。
一緒に暮らしているときから、天然なのか、意図的なのか、妙な茶目っ気があったのは確かだが、再会してからの悪戯好き具合ときたら、酷いものではあったが、恩人とも言うべき、楓に色んなものを押し付けて、それでもけらけら笑う神経は正直育ての姉としてどうかと思う。
(……なぁんで、そんな風に育っちゃったかなぁ……! ……うん?)
はた、と目の前にいる、大激怒している大先輩を見る。
(……あー……楓さん、完全に自業自得ですねぇ……)
千束とフキに似ていない部分。ノバラ本人の資質。
それ以外の要素と言えば、師であり、三人目の母とも言うべき、楓が原因なわけで。
「人が色々なところに配慮して散々練った計画を!?」
「ぷふっ……! 司令が配慮とか、うっそだぁ! 自分で全部やるの面倒だから、偉い人とか、楠木さん辺りに押し付けようとしてたんだろうけど、そうはいきませぇん!!」
べーっ、とノバラが舌を出してから、きひひ、と笑う。
その様子を見て、楓は拳を震わせている。
……何なら、ここで、ノバラ対楓の師弟対決が始まりそうな勢いである。
「……落ち着け、カエデ」
後から追いついてきた、御形が楓の頭を、ぽむぽむ、と叩く。
むーっ、とちょっと顔を赤くした楓が御形を睨む。
……そんな様子はあまりにも幼く、到底アラサーには見えなかった。
(……ホントにこの人、ミズキと同年代……?)
普段の様子を見る限りだと研究者然としており、ミズキのような残念な感じがない分、ちょっと悪戯好きが過ぎるが、仕事出来る系の女性だと思っていた。
確かに、童顔ではある、とは思っていたものの、その印象が強く、あまり可愛らしい、というイメージはなかったのだが。
(……乙女な感じとか……ちょっと萌える……)
大人の女性にこんなことを言うのは何だが、甘酸っぱい青春の匂いがした。
「……もう……ノバラちゃん。私たちのお母さんをいじめちゃダメだよ?」
苦笑気味のすみれがノバラを少しだけ咎めるような口調でそう言った。
「「……お母さん!?」」
……が、千束とたきなは、すみれがノバラを窘める、という珍しい場面よりも、すみれの問題発言に、ぎょっ、とした。
……二人でノバラを見つめる。
「……すみれに関しては実の娘だよ? 私は……うーん? 義理? と言うか、養子? と言うか……まぁ、改めて娘扱いされてる感じ?」
たきながちょっとだけ、ほっ、としている。
仮に楓がノバラの母親だった場合、父違いの半分だけ姉妹のたきなの母親ということになってしまうからだろう。
千束はまじまじとすみれと楓を見比べる。
(……ノバラのときといい、何で私は気づかなったんだ、と言わんばかりに似てるな……)
楓が童顔で、小柄だから分かり難い部分は確かにあるが、顔の造形や髪の質感はすごく似ている……あと胸とか。
ついでに、ノバラとも比べ見ると、こちらはこちらで、髪型が似通っている上、小柄という共通点がある。
ノバラが隣にいる限り、すみれが似ているとは気づき難いかもしれない。
(……っていうか、御形さんの、楓さんへの親密さ具合も、まさか……)
ちら、と千束が楓を見ると、若干、どや顔を浮かべている。
「ちなみに、この御形ハジメがすみれの父親だ」
(……いや、まぁ、さっきの楓さんの反応を見る限りそうなんだろうけども)
こちらはガタイがまず似ている感じだ。
しかし、リコリスの両親が揃っていて、しかも会える、というのは相当珍しい。この点、すみれはある種の幸運の持ち主なのかもしれない。
「……そんで、楓さん、今後、どうするんです?」
「私が聞きたいくらいだが……取り合えず、こいつを仙台まで送るの確定だしなぁ……」
その後が面倒だ、と楓は何のことはないように答えるが、たきなは引っかかる部分があるらしい。
「楓司令……その人、死刑確定者なんですよね? まさか、せっかく、両親ともにそろったのに、そのままにするつもり何ですか?」
「そうはいってもなぁ……確定しちまってる案件だし」
うーん、楓が考える。楓とて、無罪……無罪? ではないような気もするが、一応は身代わりとして掴まったという過去であり、これをひっくり返すのは難しい、と考えた。
「……あ、司令、その辺の事情は知らないんだね。御形さんの弁護人が、当初からず~っと、再審請求しているんだよねぇ。今なら、これ、通ると思うよ?」
というか、通す、が正しい。
まぁ、裁判体については、さすがに工作できないので、真っ向勝負になるが、ノバラの見るところ、勝率は高い。
「再審請求だぁ? あぁ、そうか。そもそも死刑確定者は、それで死刑執行の遅延工作をやってたな。……それに加えて、DAの上層部にローズがいるから通しやすくはあるな」
「御形さんは当時の公判はだんまりだったけど、その辺の事情が話せるようになったから、ふつーに勝てるんじゃない? 御形さんがテログループに在籍していたのは間違いないけど、爆弾だのなんだの、ってのは別の連中の話だし」
「……なるほどな。ハジメ、それでいいか?」
「……そうだな。一度はあきらめたが、また、お前と……お前たちと暮らせると考えれば、やってみようか、という気持ちにはなる」
「よし、じゃあ、仙台に戻ったら、その辺の手続きを改めて、だな」
「ああ……」
「千束、たきな、世話になったな。ウチのバカ娘二人の面倒を見るのも大変だっただろうが」
「いや、楽しかっですよ。なぁ、すみれ?」
「ねー?」
千束とすみれが二人で笑いあう。
それを見て、たきなとノバラは、くす、と笑った。
「私とノバラは結果として、姉妹団らんできましたし」
「あ……」
ノバラが、何かに気づいたようで、やっべ、みたいな顔をした。
「ノバラとたきなが姉妹? ……さては、ノバラ。データ改ざんしやがったな?」
「ちぇー。司令じゃ、気づいちゃうかも、って知らんぷりしてたのに……」
「大事なことですよ、ノバラ。まぁ、言えなかった、というのはあるんでしょうが」
「ま、そうだね。司令、今度から気を付けるよ♡」
「どの口が言うんだが……仙台への道すがら、みっちりと聞かせてもらうからな?」
「……うへ~い」
やる気なさげに答えたながら、ノバラが千束とたきなの方に向き直る。
「さぁて。それじゃあ、私たちは御形さんをこのまま仙台に連れて行くから、一旦はここでお別れかな? また、遊びに行くね、千束お姉ちゃん、たきなお姉ちゃん♡」
「……またね、千束ちゃん、たきなちゃん」
ノバラは笑顔を千束とたきなに向け、すみれは、少し寂しそうに手を振った。
「また、荷物取りには来るんだろう?」
「そりゃあね。すぐに、と言えないのがちょっと御免なんだけど。……ハッスルし過ぎて、布団はともかく、私たちの荷物までは汚さないでね?」
「そんなこと……するか!?」
途中に若干間のあった千束を、くすくす、と笑いながら、ノバラたちは車に乗り込んでいく。
「それじゃあ、またね、お姉ちゃんたち。だぁ~いスキだよ♡ ちゅっ♡」
車に乗り込んだノバラは、開けた窓から二人に向かって投げキッスをする。
千束とたきなは、互いに目を合わせると……。
「「……ちゅっ♡」」
と投げキッスを返した。ちょっと恥ずかしかったのか、二人の顔は若干赤い。
「またな、ノバラ、すみれ!」
「また来てくださいね、ノバラ、すみれ!」
窓越しに二人が手を振っているのが見える。
運転席の楓も二人を見る。
「またな、千束、たきな。らぶらぶなのはいいが……ほどほどにな」
悪戯っぽく笑いながら、楓が車を発進させる。
(バレてたのか……!?)
千束とたきなは照れ臭そうに顔を見合わせながら、遠ざかっていく車を見送った。