Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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235H HAPPY END ~Roses bloom powerfully~

 千束はカウンターに座って、ぼへー、とテレビを眺めている。

 

 ……ノバラたちが仙台へ戻って一週間以上。

 

 送ったメッセージに既読は付くものの、返信はごく短いもので、簡単に言えば、『忙しいからまた後で』という内容ばかりである。

 

 ノバラは、千束たちも忙しくなる、というようなことを言っていた割に、自分が忙しそうにしており、逆に千束たちはいつも通り……結構暇である。

 

 ちら、と店内を見渡せば、人の少ない昼時であり、常連さんがちらほらいるほかは、ノバラ効果でホイホイされた客(女性客含む)が、ちょっと暗い顔で、ノバラの置き土産のパフェを食べつつ、コーヒーを飲んでいる。

 

(……こんなに静かだったんだなぁ)

 

 ……いや、ミズキが飲んだくれていたり、クルミがお皿を割ったり、常連さんとたきなが喋っていたり、と割と物音はしているのだが。

 

『い、いらっしゃいまぇ』

 

 すみれの恥ずかしそうにしているお出迎えもなく。

 

『千束、テーブル五番様オーダー! ミズキ、お二階様にお冷! たきな、カウンター二番様、お会計! クルミはお願いだからじっとしてて!?』

 

 厨房にいながらどうやって把握しているのかよく分からないノバラの指揮も聞こえない。

 

 ……以前に戻っただけなのに、ちょっと寂しい、と思ってしまうのだ。

 

 元からの常連さんは、やはり、前に戻った、という認識なのか、そんなに気にした風ではないが、準常連になりかかっていたノバラ信者の顔を見るに、ノバラがいない、と分かれば、あとどれだけ続くかな、とため息をつきたくなる。

 

 ふぅ、と息をついて、千束はミカの淹れたアイスコーヒーを口に含んだ。

 

『……年前の仙台駅爆破テロ事件の……』

 

 ぴろーん、ぴろーん、とテレビには緊急速報が流れ始めた。

 

 おや、と思い、映像に注目する。

 

(……何か聞いたことがある話だな)

 

『再審請求が受理され、再審の開始、御形ハジメさんの釈放が決定されました!』

『こちら現場です! 拘置所の玄関前に弁護人の車両が停められているのが確認できます! えー、御形ハジメさんは、仙台駅爆破テロ事件の主犯とされ、当該事件のほか、数十名の殺害に関与したとされ、死刑判決がなされていました!』

 

 ぶっ、と口に含んだコーヒーを吐きそうになった。

 

(……早ぇな!? ノバラが言ってたヤツだろ、これ!?)

 

『御形さんは当初から認否を拒否し、一審、控訴審とも黙秘しておりましたが、弁護側は一貫して無罪を主張。死刑確定後も御形さんは無罪であるとして、再審請求を行って参りました。えー、今回はですね、この沈黙を続けていた御形さんが、提出されている供述調書が捏造であるとして、その新証拠が提出され……あ、御形さんです! 御形さんが玄関前に来て車両に乗り込みました! こちらからはちらっとしか見えませんでしたが、弁護人のほか……ご家族でしょうか!? 女性の姿が確認できました!』

 

 興奮した様子のリポーター。

 

 しかし、千束の目に映ったのは別の人物だ。

 

(……あれ、楓さんか)

 

 たぶん、今、一番忙しいだろうに、わざわざ迎えに行ったらしい。甲斐甲斐しいというかなんと言うか……。

 

 ちら、と飲んだくれているミズキを見る。

 

 ……また、合コンに失敗したらしい。

 

 美人だし、良いところはあるのだが、彼女に足りないのは、そういうところじゃないだろうか。楓はあんな性格の割に、こういうそっと寄り添うようなところがある。

 そりゃあ、ミズキと楓、合コンにいたらどっちを選ぶって楓を選ぶに決まってる。ロリコンとか関係なしに、ガツガツしてないし、ほんのり優しい。ミズキの作ってます感とは正反対のごく自然な感じ。

 

 ……そういった機微にミズキがいつ気づくだろうか。

 

「ったく……男の見る目がないんにゃー。ばーろー……」

 

 日本酒をコップで一気飲みしている。

 

(……うん。当分、婚期は来ないな。もう三十になるのに……)

 

 相変わらず、残念過ぎる。

 

(しかし、これで御形さんも娑婆か……まぁ、たぶん、二人きりで過ごしたいんだろうけど、ノバラとすみれもいるから大変か……いや……)

 

 自分が楓だったら。忙しいにかこつけて、ノバラたちに何等かの案件を与えて、遠くに追い出し、当分の間は、ハネムーン状態を作るんだが。

 

 ……などと考えていたからだろうか。

 

 から~ん♪ と元気よく、ドアベルが鳴った。

 

「ノバラちゃんが来ましたー!」

 

 ……ノバラが来た。

 

 いつもの笑顔よりもまぶしい感じの笑顔。

 

 いや……それよりも、準常連さん連中の目が輝いた。

 

「ノバラちゃん、Nスぺ一つ! コーヒーセットで!」

「私も! Nスぺとコーヒーセット!」

 

 さっきまで割と死んだような顔で、Nスぺを食い終えたところのはずが、まさかに二杯目である

 

「はぁい、ユウキくん、ウシオさん。ご注文ありがとうございまぁす♡」

 

 えへ、と笑ったノバラの二人は顔を赤くして俯いた。……若干、ガッツポーズも取っているが。おそらく、名前を初めて呼んでもらった、とかだろうか。

 

「千束、たきな、おひさー♡ あ、オーダー受けちゃったから、話は後でね!」

 

 ノバラはそう言い残すと、厨房に入って準備を開始した。

 

 からーん♪

 

「こんにちはー、すみれでぇす」

 

 次いで、先頭を切って入ってきたのすみれで、以降に、せり、すずな、すももが続いた。

 

「……ももちゃんは、運転疲れたでしょ? 奥でちょっと休んでて。すみれ、着替えたらホール入って。せりもね。……すずな、アンタはこっち!」

 

 いつもの通りのノバラの指揮に千束はちょっと安堵した。

 

(うーん、なんかこっちの方が慣れてきちまったなぁ)

 

 くす、と千束は笑みを零して、騒がしくなった店内を見る。

 

 厨房では、愛しい妹が元気良く働いている。

 

 ホールでは、大分接客になれたらしい短い期間ルームメイトをやっていた妹分がオーダーを運んでいる。

 

 その他にも後輩たち。騒がしくも暖かい店内。

 

 千束は全てが愛おしく見えた。

 

◇◆◇

 

 ……大きな街が動き出す前の静けさが好き。

 

 平和で安全。綺麗な東京。

 

 日本人は規範意識が高くて、優しくて、温厚。

 法治国家日本。

 首都東京には危険などない。

 社会を乱す者の存在を許してはならない。

 存在していたことも許さない。

 

 故にそうなる前に処理をする。

 

 危険などできる前に潰す。

 

 平和は私たち日本人の気質によって成り立っている。

 

 そう思わせること。

 

 そういった、リコリスの使命は変わらない。

 

 だが、変化もあった。

 

 AIによる事前予測の精度向上により、何かが起きる前の鎮静化が可能となった。

 また、諸外国からのちょっかいも極端に減った。

 そう言えば、どこかの国機関が派手にドンパチやろうとしていたら、国庫の半分が消えていたとか何とか……。そして、その分、どこかの誰かさんの羽振りが妙に良くなったとか。

 

 ……世界全体での犯罪率は未だ増加傾向。そんな中にありながら、この国だけは未だ横ばいないし減少傾向が続いている。

 

『ノバラ、オーダーです』

「……あのさぁ、ローズ。私にオーダー多すぎでしょ?」

『仕方ありません。一番効率良い方法として上がってくるのはあなたなのですから』

「だからって、それじゃあ、後輩ちゃんたちが育たないでしょう?」

『目下、ノバラプログラムでの成長を確認しています。よって、この件、ノバラが適任と判断します』

「もう、分かったわよ、やればいいんでしょ、やれば。貸し一つだからね?」

 

 リコリスの仕事は少し変わっても、無くなるのはまだ当分先の話。

 

「……さぁて、いっちょ、楽しく悪戯をしましょうかねぇ☆」

 

 にひ、と最上ノバラは笑みを浮かべた。

 

 




とりあえず、これでHAPPYEND終了です。

落ち着いたら、後日談とかを書こうかな、というところ。

でも、これでTRUE、BAD、HAPPY ENDを終了しました。

ご愛読ありがとうございました。
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