Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ローズちゃんは、ノバラちゃんを電子データ化したAIさんです。
時間軸は一応、HAPPY ENDの後からスタート。
EX02H Every days are workdays
「……だぁぁぁぁっ! やぁってられるかぁぁぁぁ!!」
うがぁ、とノバラは吼えた。
後片付けをしていたクリーナーたちが、びくっ、と体を震わせた。
……ノバラは今日も今日とて、気仙沼港でバラ撒くサメのエサ作りである。
ノバラが〆るエサは損壊が少ないので、現場は綺麗なものだ。
クリーナーは他の現場と違って、簡単にお片付けをするだけなので、ノバラの現場にはホクホク顔でやってくる。
ちなみに、すみれが散らかそうが、ノバラが綺麗に平らげようが、基本はお値段据え置き。この二人、弾丸の始末がないので、バカスカ打ちまくる誰かさんとは異なり、その辺の後始末がないのでお安くあがっております。
……もっとも、すみれの現場の場合、後日、割増請求と言う名の苦情が来ることもあるが、そもそも綺麗な現場というものがおかしな話。お帰りはあちら、とノバラに笑顔で見送られることとなる。弾丸の回収や壊れたものの後始末に関する割増の条項はあっても、汚れていることが前提のお掃除に関する契約条項はないのだ。契約書に書いてないことは一切要求を受け付けない辺り、ノバラのドライな性格と意外にセコい性格がよく表れている。
『……ノバラ、それは困ります。今日は後二件ほど片付けて頂かないとタスクの進捗率が……』
スマホから聞こえてくる、自分と同質の声に、ノバラは、ぶち、と頭の中で血管が切れる音を聞いた。
「ローズぅぅ! あなたね!? 私だけにどんだけ働かせるつもりなのよ!?」
リコリスに休みなどない……ないが、彼女たちは学生というカバーがあるので、動きが多いのは平日で、休日は不自然にならない程度に活動を下げる必要がある。
結果、寮や出張所での待機のほか、私服で出かけつつ、いつでも応援に行けるような体制を整えるお出かけ待機といった実質上の休みがある。
実行部隊として軽微な案件を担当するサードや小規模作戦の指揮を執るセカンドの稼働率は高いが、ファーストにもなれば、大きな案件を担当するため、必然的に待機が多くなる傾向にあるのだが……。
『別にノバラだけではありませんが……せり、すずな、すももも今日
「私は今日
……楓の乱以降、ノバラの稼働率は非常に高かった。月月火水木金金……まさしくそんな感じで、休みらしい休みがほとんどない。
一度、身辺整理を兼ねて東京に行ったのが、最後の休みと言ってもいい。それを休みと言っていいのかすら微妙であるが。
『……仕方ありません。組織再編途中ですので、使えるコマが少ないですし……ラジアータお姉さまであれば、全体を見てより適正に、デイジーお姉さまであれば、もっと面白おかしく戦力配分するのでしょうが……私、効率重視なので』
えへ、と舌を出して笑っているであろうローズの顔を想像して、ノバラは頬を引きつらせる。
……想像して浮かんだ顔が自分と同じ、というのも怒るに怒れない。仕方なく、ぶー垂れるだけである。
「効率厨乙!! 効率考えるなら、私たちの疲労度も考慮に入れてよね!?」
『……疲労度。なるほど、確かにあまり考えていませんでした。ノバラに肉体的疲労などないと思っていたので』
「体はそうだけど、精神的にはあるのよっ!」
(否定はしないのですね……)
ローズ自身は自らが肉体を持っている訳ではないが、ノバラは彼女の本体とも言うべき存在。そのスペックは全て把握している。
……故に、最上ノバラであれば、自分がお願いしている依頼なんて鼻歌交じりに片付けるものと思っていたのだが。
……そっと近づき獲物を狩る、その容赦のない戦闘行動。それ自体はいつもと変わらないが、モチベーションが下がっている、ということはローズも、作戦に要した時間をバロメーターとして感じてはいた。
しかし、彼女は最上ノバラ。その程度のことは当然修正して事に臨む、という信頼があってこそのローズの作戦指示なのだが。
(……さすがに二十八連勤はやりすぎましたか。それに加えてこの暑さ……)
本格的な夏はまだ先だ、と言うのに、これでもか、と言わんばかりに照り付ける太陽。
基本、涼しいところで育ち、寒さには滅法強いノバラであるが、この暑さには辟易としている様が見て分かる。
……だが、首都東京近郊が物理的に黙らせられて落ち着きを見せた一方で、地方はハチの巣を突いた様な騒ぎを見せている。
ある者は利権を貪るため。
ある者はこれを機に勢力を拡大するため。
かの状況はあれでも絶妙な均衡を保っていたのだが、先に真島がバランスを崩し、最終的にノバラたちが要石を修復不可能なまでに破壊し尽くした。
これを見て、地方に埋伏していたテロ勢力は、座して死を待つよりかは、と蠢動を始めたのである。
(……楓はまだしも、ノバラにとっては想像の範疇内でしょうが)
彼女の誤算はその後始末の大部分が自分に降ってきた、ということだろう。
ラジアータは念のためのフルチェックとオーバーホール。その穴を埋めるために、デイジーとローズが駆り出された結果、西日本をデイジーが、東日本をローズが総括、監視することとなったのだが。
経験値、という意味では、デイジーに一歩譲るローズが、東京近郊が落ち着いていることを踏まえ、比較的楽なハズの東日本を任せられたの必然ではある。
しかし、彼女には動かせるコマが少ない。
十全にリコリスの能力を把握しているのは、ノバラを置いて他なく、また、全幅の信頼を置ける者もノバラ以外いない。
つまり、彼女が勝ち筋を見出して配置できる人員がノバラとその周辺に限定されているのだ。
単純なスペックであれば、十分であっても、特にエクストラの面々などはクセが強い。然るべきシチュエーションであれば、当然、ローズも投入を検討するが、ノバラのように、『とりあえずやらせれば何とかなる』というオールマイティな存在でもない。
その他に投入できるリコリスと言えば、本部のサクラたちの部隊などではあるが、ソレもソレで破壊力が強過ぎる。個々人の技量が異様なほど高まってしまった結果、投入はオーバーキルに成りかねない危うさもある。
これらを総合的に考慮した結果、ローズは、ノバラを投入するのが安パイ、と考えていた訳だ。彼女の戦闘能力、継戦能力、思考力、スタミナ……それら諸々を考慮しても、余裕はあったハズだったのだ。あくまで、ノバラの疲労を度外視すれば、の話であるが。
「……ったく。あと、どんな案件があるのよ? データ頂戴」
ローズは言われた通りにデータを送信すると、内容をチラ見したノバラが、人選を返信してきた。
「こっちの案件は私じゃなくても、ひるがおをバックにすれば、指揮官をあさがお、アタックをゆうがおにして十分対応可能。これも、うーちゃん一人で十分。本部から人借りるなら、エリカ、ヒバナ、かや辺りでこれも大丈夫でしょ? ……本部で待機させとかなきゃいけない子っている?」
スラスラ、と状況とその結末を考えて、ノバラが戦力配分を進めていく。
『『春川フキ』、『乙女サクラ』については、総括司令直下に組み込まれています。加えて言えば、『錦木千束』、『井ノ上たきな』もです」
「楠木さん……いや楓さんもか? 欲張りだなぁ……。そういうことされると、取っちゃいたくなっちゃうねぇ?」
いひひ、とノバラが意地悪そうな笑みを浮かべる。
『……内部で余計は火を焚かないでください』
事実、今のノバラ……ノバラとローズであれば、その程度の人事権は問題なく行使できる。
現状、ローズはDAの常任理事である。
AIとしては、未熟、というべきではあるが、それは経験値の少なさ故ではあるが、人と同様に振る舞うことについては、現状でもデイジーと同格。将来的には、完全な一人格として確立することが見込まれている。
……電子上に存在するもう一人の『最上ノバラ』として。
デイジーに組み込まれたデータを元に、デイジー誕生後の最上ノバラのあらゆるデータをコピーし、読み取れる限りの最上ノバラの記憶が彼女の中にはある。足りていないものがあるとすれば、最上ノバラを最上ノバラたらしめる『何か』ではあるが、それとて、彼女と過ごす内にいつかは獲得し得るものだと認識している。
通常の人間であれば、こんなことやろうと思わないだろう。自分のコピーを作るという一種の禁忌は、生理的嫌悪も付きまとう。技術的に可能であれば、やってみよう、という考えは、ノバラ自身の好奇心というべきもので、どこまでできるのかを探り続けるという彼女の悪癖でもある。
(……効率的に考えて、ですか)
ノバラに権力欲はない。
しかし、それが必要と判断したら、それを手に入れることは厭わないし、その手段も問わない。
今のローズがあるのは、彼女の手段の一つに過ぎない。過去に彼女が、そうする必要があるかもしれない、という考えから、ずっと温められてきた秘蔵っ子。
……いや、彼女の思考からすれば、ローズが生み出されるのは、必然であった、というべきかもしれないが。
「……っと、こんな感じかな? ローズは能力を数値で判断しすぎ。仮にも私なら分かるでしょう。あんなの参考値でしかないんだから、それだけでできないって決めつけちゃダメよ? 過大評価もダメだけどさ」
ローズはノバラが提示した人員と作戦案を見て、唸る。
ローズ自身はノバラの経験のほとんどを知っているはずなのに、ここまで見事に戦力の配置と作戦を示すことはできない……いや、スペック的にはできるハズなのだが、まだ上手く結び付けられない。
『……なるほど、的確です。個人個人のスペックだけではなく、チームやペアとしての能力を加味するべきでした。ありがとうございます、ノバラ。今後の参考にします。……それはそれとして、次のタスクが』
容赦のないローズの言葉に、ノバラはコメカミに青筋を浮かべて答える。
「……あぁ、もうっ! やればいいんでしょ、やれば! 今日はやってあげるわよっ! でも、向こう一週間くらいは私は休暇よ、休暇!」
ノバラは、ぶすっ、とした顔をしながらそう宣言する。
(……ふむ? 週休二日に照らせば、妥当な線ではありますが)
……二十八日の連続勤務。ノバラは仮眠程度の休息で一日中働いていることも考えれば、むしろ、休日としては少ないと言わざるを得ないだろう。
ノバラがそれを理解して言っているのか、それとも駆け引きで言っているのか、分身たるローズでも分からなかったが……直近の作戦行動において、ノバラが不在でも対応できる態勢は彼女自身が整えてくれている。ローズとしては、ノバラが抜ける期間が少なくできて願ったり叶ったりではある。
『……承知しました。……でも、東京に行くのでしょう? 何も無しでは難しいので、ちょっとはやることやってもらいますよ?』
現在のノバラは、DA仙台支部特殊作戦群の筆頭と司令官を兼務している……どころか、事実上、仙台支部を管理運営しているのが彼女である。何の用事もなく、仙台支部を離れることは許されない。
ローズとしては、ノバラが東京に行くのであればやってもらいたいこともあるし。
「……ま、それくらいなら仕方ないでしょ? でも、ちゃんと私のリフレッシュする時間くらいは確保してよね?」
ふん、と鼻を鳴らしたノバラは、自分の立場というものを弁えている。
本人が望んでいなくても、現実問題として、彼女はそれなり以上の権力者であり、実力者だ。軽々しく動けない立場であるということは十二分に理解しているのだ。
『それはもちろん』
ローズは薄っすらと笑いながら快諾する。
(……ふ。休みとは名ばかりの業務出張ですね、ノバラ)
……だって、結局、働くことになるのに、本人は休暇のつもりなんだし。
ローズはノバラに見えないよう、画面の中で、舌を出した。