Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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おさらい
 南部義藤は悪い組織、日本支部の親玉です。
 ちょい悪お爺ちゃんは、ノバラちゃんの性癖に刺さっているため、ノバラちゃんの好感度が高め。

 おねーさんはノバラちゃんの突撃訪問のときに対応した受付嬢です。名前はまだない。


EX03H drop in without appointment?

「……お嬢様!?」

 

 見たことのある受付の女性が、ノバラの姿を確認するなり駆け寄ってきた。

 

「こんにちは、おねーさん。お爺ちゃまに会える?」

 

 休暇中のノバラが最初に訪れたのは喫茶リコリコでもDA本部でもなく、三日月義肢研究所の支部……南部義藤のところであった。

 

「ええ! 本日、来訪されるかもしれないと伺っておりましたので!」

「……ふーん?」

 

 ……予めアポ入れしていた訳ではない。

 一応、ノバラは休暇中、という体裁だし、現在の彼女はDA内でも基本アンタッチャブルな存在で、その予定などの秘匿性は比較的高い。

 

(……ローズめ。南部義藤にリークしたな)

 

 ノバラが彼のもとを訪れたなのは気まぐれではないが、業務でもない。

 

 彼女のちょっとした企みがあったからに他ならないのだが……自分の分身たるローズはきちんとそれを把握していたらしい。

 

(……単純に私の過去や行動パターンを読んだだけでは、私がここを訪れる予測はできない。なのに、正確に、最初に訪れると読んだ)

 

 成長してるな、と我が子を見る思いで少しだけ顔がにやける。

 ……だが、その表情を他人に悟らせないようにするため、満面の作り笑いを浮かべながら、受付の女性を見る。

 

「……お嬢様?」

 

 不思議そうに女性が首を傾げる。

 

「……お爺ちゃまったらお盛んね……」

 

 笑顔のまま、ぼそっ、と口にしたノバラの言葉に女性は顔を赤くした。

 

「あ……え? な、なんで……!?」

「おねーさん、それで他の人に隠せてるの……? おねーさんの香水に交じって、男物の香水の残り香がするよ? お爺ちゃまと同じやつ」

 

 ノバラの指摘に女性は顔を更に赤くさせた。

 

 まぁ? 相手の香水の匂いが体に染みつくくらいには? べったり密着して一緒にいたんだろうな? と……。

 

(……う~ん……美人さんだし、きゅぬーだし……)

 

 ちょっとスキンシップしてもいいだろうか、と品定めをしているノバラの目はどちらかというとジト目であり、他者から見れば、それは、咎めているような視線に見える。

 

「お、お嬢様……? あの、私が悪いんです……会長は別に……」

 

 しゅん、とした様子が見た目の奇麗さと異なって大変可愛らしい。

 

「うんうん、そうだね! だから、おねーさん、早く案内してくれる?」

 

 知らずノバラは、にや、と笑った。

 

「ひゃ!? ……はぅ、こ、こちらへどうぞー」

 

 ノバラとしては、別に南部とこの女性に何があろうが知ったことではない。

 

 ……いや、若干興味はある。

 

 南部がどうやってこの女性を誑かしたのか、とか。

 自分のファンとか言っておきながら、好みはやっぱりむちむちきょぬーか、とか。

 ……どんなえっちぃことしてるのか、とか。

 

 少しの苛立ち交じりのその笑みは女性には威嚇しているように見えた。

 

◇◆◇

 

(ひぃぃん! か、会長! お嬢様怖いですぅぅ!)

 

 ……うふふ、と笑っている少女の笑みが迫力があり過ぎて、冗談抜きで泣きそうだった。

 

 表立って口には出していないが、咎めているのだろう、と思う。

 

 細君が亡くなっているとは言え、南部は老齢であるし、こんな孫娘までいる、大企業の幹部である。

 

 そんな相手と自分が……ごにょごにょ……な関係なのはあまり外聞がよろしくない。

 

 自分にとっても、南部にとっても、だ。

 財産目当てか、と彼の親族は彼女のことをそう思うであろうし、三周り以上も年下の相手と蜜月にあるというのは、南部を知る者にとっては攻撃材料ともなるだろう。

 二人ともそれを理解しているからこそ、ひっそりとしたお付き合いをしているのだが……。

 

 ……速攻でバレた。

 

 南部の孫娘というこの少女がカンが良い、ということもあるだろうが、南部に聞かされた彼女の評価。

 

『聡明であり、極めて狡猾』。

 

 言い過ぎだろう、と思ったが、その少女が目の前にいるとその評価が正しいと理解する。

 

 ……まるで、狼のようだ、と思った。

 

 彼女に掛かれば、自分は被捕食者でしかないだろう。彼女がその気であれば、憐れ兎である自分は捕食される以外の未来しかない。

 

 ……そんなゾクゾクとする感覚がする相手はもう一人しか知らない。

 

(……なるほど。容姿は全然似てないけど……確かにお二人の在り方はとても良く似ていらっしゃる)

 

 南部の親族を他にも知ってはいるが、他の者にはこれほど大きな気配を感じない。語弊を承知で言うなら、小物しかいない、と言ったところか。せいぜいで愛玩用の小型犬である。鳴こうが、吠えようが、精一杯自分を強く見せようとしているのが、ありありと分かるので、怖がる前に微笑ましさが前に来るくらいだ。

 

 ……彼らには、少なくとも、南部のように、身一つで大企業の幹部になるほどの才覚はない。

 

 だが、この少女ならあるいは、と思わせられる。

 

 南部の失踪した娘の子、という話は聞いている。おそらくは、普通の方法では、南部の後継者となることはないだろう。

 しかし、それは普通に、穏便に、という範疇の話……。

 

(……お嬢様なら、できるでしょう)

 

 もっとも、それがどんな仕掛けをしてのことは分からないし。むしろ、血の雨が降るのでは、と思うほどに、この少女からは血の匂いを感じるが。

 

(……まぁ、会長には会長の……お嬢様にはお嬢様の考えがあるのだろうし。私が口出しできることはないでしょうけど)

 

 ……しかし、まぁ……この少女が今後、三日月義肢研究所の要職に就くというのであれば、微力ながら支えよう、と考える。

 

 ……恐ろしさは感じる。

 だが、それよりも彼女が作る未来が見たいとも思う。

 

 二度会っただけのこの少女に確かに心惹かれていた。

 

◇◆◇

 

「やぁ! よく来たね、私の可愛いノバラ!」

 

 ノバラの姿を認めた南部は上機嫌に笑みを浮かべていた。

 

 彼からすれば、最上ノバラという存在は、甘やかしたい孫娘であると同時に、崇拝する偶像であり、楽しい楽しい玩具でもある。

 

 彼のノバラに対する想いを正しく認識しているノバラは、一人の少女としての感情を抜いたのならば、積極的に南部に会いたいとはまず思わないだろう。

 

 南部の見るところ、最上ノバラという少女は、自分に対し、父を見るような憧憬に似た感情を抱いているとともに、同族嫌悪にも似た忌避感を抱いている。

 

 ほとんどの感情が壊れているハズの彼女が、作り物ではないそんな感情を自分に向けていることを南部は長年の経験から覚っていた。

 

 他者のことを基本的にどうでもいいと思っている彼女が、他の者に何らかの感情を僅かでも持つのには、共通点がある。

 

 ……仲間。もっと言えば、身内か否か、である。

 

 この場合の身内とは、単なる血の繋がりを指すのではなく、精神的な強い繋がりのことだ。

 

 錦木千束や伊達すみれに対する執着とも呼べる感情からそれは明らかである。

 一方で、半姉である井ノ上たきなに対しては、そのような執着こそないものの、血の繋がり故か、それとも同類項を見出しての連帯感なのか、奇妙とも思えるほどの信頼関係が築かれている。

 

 整理して見ると、彼女は自身のコミュニティの中で、家族関係を構築し、それを守ろうとしていることが分かる。

 父として錦木千束。母として春川フキ。姉の井ノ上たきな。妹の伊達すみれ。御形ハジメ、楓は叔父叔母として、その他の関係の深い仲間と呼べる存在は従妹、と言ったところか。

 

 ……まぁ、この配役とした場合、彼女が錦木千束に向けている想いが異性に対するソレと言うのも実にそれらしく思える辺りが何とも言えないが。

 

 さて、この場合、南部自身を当てはめるのは、祖父……ではないのだ。

 

 家族とそれ以外に分類している彼女からすれば、南部は異物……しかし、決して無視できない存在。

 

 相対する好敵手……あるいは、()()である()()なのだ。

 

 だが、結果として、彼女は南部をそれらに分類しなかった。

 

 最終的に、彼女が南部に充てた役割は『鏡』であろう。

 

 倫理感というものを溝に捨て、悪意を煮詰めて、血で割って、腐った臓物に無理やり詰め込み、何とか人の形にしただけの存在。

 

 南部は客観的に自分をそう認識しているし、おそらくは彼女も自分自身をそう認識しているだろう。

 

 だからこその『鏡』。

 

 南部は鏡を見て、その醜悪さに、「最高にクールでクレイジー!」と笑みを浮かべているのに対し、彼女は「……うぇっ……」と顔を顰めている。

 

 井ノ上たきなには、ポジティブな部分の共通点を見出し、姉と配役したが、ネガティブな部分の共通点が多すぎた南部は、祖父にも、恋人にもできず、そして、既に好敵手と呼ぶには遅すぎたが故に、彼女は自分を正すための『鏡』として自分を配役した。

 

 ……決して、()()はなるまい、と。

 

 幼い彼女のそんな微笑ましい姿が南部にはたまらなく愛おしい。

 

「ごきげんよう、お爺ちゃま」

 

 くすり、と微笑んだ彼女が堂に入ったカーテシーをする。

 

 優雅で、美しく、妖艶で……それでいて血の香りがする。

 

 彼女の……愛しい孫娘の新しい戦いの幕が上がったのだ、と南部は笑みを深めた。

 

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