Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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※ 注意書
  筆者は経済やら技術やら専門にべんきょーしてるわけじゃないので、ビジネスプランも技術もてきとーです。雰囲気で読んでください。


EX05H Things that will be missing

(……喰いついた!)

 

 ノバラにとっては、南部義藤が交渉に乗ってくれるか否かが最大の賭けだった。

 

 一ファンとしての南部はノバラの味方と言っても過言ではなかろうが、公人としての彼は利益追求をする企業の幹部である。そこに情はなく、あるのは損得勘定だ。

 

 故に、素人であるノバラの提案は、聞かれる前に一蹴される可能性すらあった。

 

 そうなれば、この話はご破算。何なら、ノバラ自身の身も危うかろう。

 

 南部義藤は敵に回せば極めて難敵だ。

 

 

 傭兵として戦場を巡った彼の実力は相当のものだし、自身の体の大半を機械化している彼の性能はこれまでノバラが戦った機械化兵の比ではないだろう。

 直接戦闘になったとすれば、その性能差でノバラを磨り潰される可能性は高いし、組織力という点でも厄介だ。受けに回った時点で、数で圧殺される。

 

 仮にノバラが南部義藤と敵対するならば、徹底的にヒット・アンド・アウェイの暗闘を繰り返し、戦力を削っていく、という戦略を取らざるを得ない。

 

 敵対すべき相手ではない、というのがノバラの結論である。

 

 だからこそ、友好的に、穏便に振る舞うのだ。

 

 ……まぁ、個人的には、彼女の周りで唯一好みの男性、という理由もあるにはあるが。

 

「……さて、ノバラ。君は私にどんなビジネスプランを提示してくれるのかな?」

 

 にこにこと笑う南部は酷く紳士的だが、その瞳には一切の笑みがない。

 

 くだらない提案をしたら、この場で殺す、とでも言わんばかりである。

 

 ……ぞくぞくした。

 

 ……そう。自らの相手はこのくらい危険でなければ務まらない!

 

「……三日月義肢研究所は義肢研究を発端として、現在はこれらに加えて、再生医学の面で最先端の企業。でも、まだ手を出していない分野もあるでしょう?」

「ふむ。まぁ、企業理念として、欠けてなお美しく、というものがある。要は、足りないからこその創意工夫、というのが、わが社の原点だ。よって、満たされているものには基本手を出していないからね」

 

 元が戦争などで失った手足を補うための義肢開発を行っていた企業だ。欠けたもの、足りないものに対する病的と言っても差し支えないほどの執着が、三日月義肢研究所を大きくした。

 あらゆる分野の代替技術を大きく取り扱っているのはその副産物である。だが、既に完成している技術にはあまり手を加えるということがない。興味がないからだ。

 

「……いいえ、満たされていないわ。()はそうでもこのままでは()()で欠ける」

 

 ……だが、ノバラはソコに一石を投じる。

 今は足りている。満ちている。少なくともそう見える。

 

 ……しかし、近い将来、絶対に欠けるそのビジョンがごく身近にあった。

 

「……ほう? 今、ではなく、未来、か……」

 

 エネルギー問題のようなものだ。石油、石炭と言った化石燃料はまるで無限に湧き出ると思われていたが、やがて、枯渇することが問題となり、また、二酸化炭素排出が問題となったように。

 それが全く不安なく使われている間は、代替エネルギー技術など歯牙にもかけられなかっただろう。何故なら、満たされているから。

 しかし、今現在がそうであるように、失われ始めてから初めて、代替となるべき技術が必要となった。

 

 ……そんな事例を考えれば、確かに今は充足されているように見えるものでも、未来において欠ける、というものは確かにあるだろう。

 

「……私が提示するビジネスプランは、生殖工学。もっと言えば、体外受精と出産の精度向上」

 

 え、と声を上げたのは、南部よりもその隣で肩を抱かれている女性の方が早かった。

 

「……しかし、お嬢様、それは現在でも他機関で研究が行われていますし」

 

 不妊治療として体外受精の技術研究は盛んに行われている。

 不妊には女性側の問題、男性側の問題、両方あるが、最終的な解決方法としてはごく全うなものであろう。

 それ故に、新しく参入する意味が見出せない。

 

「結論が早すぎるよ、おねーさん。……基礎的研究と最初の一歩がそれ、というだけの話。もう一歩進めて考えるんだよ。体外受精の技術は今のところ、異性間を前提にした話でしょう? 私は同性間での技術確立をその先に見据えている。現在のジェンダーレス社会には沿った話だと思うけど?」

 

 ふふん、と笑みを浮かべたノバラの考えを読み取り、南部は笑みを浮かべる。

 

「……くく……ははは! なるほど、なるほど! 実に家族想いなことだ、最上ノバラ!」

 

 彼女の姉二人、錦木千束と井ノ上たきなが恋仲であることは南部もよく知るところである。

 彼女らが共に生きていくとすれば、どこかの時点で考えるハズだ。

 ……子どもが欲しい、と。

 彼女たちはリコリスだ。いざとなれば、適当なものを拾い上げて養子として育てるのが一般的であろうが。自分の血を引いた子が欲しい、というのは種としての性であろう。

 

 それを見越してのノバラの提案であり……。

 

 ……この事業を実現化すれば、なるほど、確かに三日月義肢研究所の、南部義藤の後継者として相応しいと周囲に認めさせることもできよう。

 

 彼女らしい一挙両得の提案である。

 

 ……だが、問題もある。

 

「研究者はどうする!? 最上ノバラ!」

 

 ノバラは優秀だが、専門的な研究者ではない。人がいないのであれば、この事業は実施できない。

 

「私を誰だと思ってるの? ダース単位で用意してやるわよ」

 

 DAの伝手を使えば、いくらでも優秀な研究者が用意できるということ。今の彼女にはそれができる。

 

「基礎技術はどうする!? 最上ノバラ!」

 

 研究者が用意できたとして、何のノウハウも無ければ、少なくとも早期に着手できない。

 

「私のところにもあるけど、あなたのところにもあるでしょう?」

 

 彼女はCBから多くの技術を接収して、DA内での研究を行わせている。そして、表立ってやっていないだけで、CB、いや、三日月義肢研究所にも技術自体はある。それを供出すれば、如何様にでもできる。

 

「……資金はどうする? それだけの研究を行おうというなら、初期投資ですら莫大になるぞ、最上ノバラ」

 

 最大の問題ここ。資金をどうするか。

 如何に最上ノバラがDA内で地位を確立したとは言え、彼女が自由にできるお金は彼女の個人資産だけである。

 未だ小娘である彼女にそれだけの資金があるとは思えない。

 

「あなたが出しなさい南部義藤。……と言いたいところだけど、こちらはお願いをしている立場。私に投資する条件を言いなさい」

 

 ……背伸びはしない。できること、できないことの区分けをした上で、ノバラは南部の前に座っている。

 この案件、資金面に問題がなければ、いや、あったとしても、ノバラ単独で動くことはできた。もっとも、そうすれば、最終的な成果を得るまでに五年以上の遅延を見込まざるを得なくなってしまうが。

 しかし、より効率的に。そして、彼女の最終目標を達成するため、合理的に進めるには、南部義藤を巻き込むことは確定事項。

 

(……さぁ、どうする、南部義藤? 私は手札を切ったぞ!)

 

 この先、ノバラの手札にジョーカーはない。

 

 南部義藤が突きつける条件次第では、ノバラの敗北が確定する。

 

「……ふむ。それほどの事業なら、初期投資は大分かかるだろうな。どれほど見込んでいるのかね?」

「まぁ、最低限設備を整えるだけでも百億、といったところかしら」

 

 医療機械関係は相当高価であるし、研究に必要な設備だけ揃っていればいいというものでもない。優秀な研究者と繋ぎとめるのであれば、福利厚生などにも手が抜けない。結果、単純な物づくりをするものに比べて、初期投資が高額になってしまうのは致し方ない面がある。

 

「……妥当な線だ。それだけの金額、どうやって回収するつもりかな?」

「途中の人件費なんかも諸々含めても、向こう二十年あれば最終的にペイできると思うけど?」

 

 企業価値、という意味では、土地や機材というものも含まれるし、知的財産も含まれる。すぐに現金化できる訳でもないので、純粋に百億の資金を返す、という意味であれば、その程度の期間を見込むことは必要であろう。ただし、この場合、株式会社、という形態ではないが。

 おそらく、株式会社、という形態であれば、最終的に自社株を売る前提とすれば、五年以内に回収できる自信はあった。

 

「……悠長なことだな。それに私に投資しろと?」

 

 おそらく、南部にはノバラの意図は正しく伝わっている。

 ……しかし、彼の返答は渋いものだった。

 

(……ダメか……)

 

 ノバラはこの場から脱出する方法を頭で組み立てつつ、それでも強気に押す。

 

「……降りるならそれでもいいわよ? 他に当てがないでもないし、何なら自分で何とかするもの」

 

 千束が絡んでいる点で、ワンチャン、アラン機関は資金供出してくる可能性もある。ノバラにとしては、アラン機関はイマイチ信用ならないので、絡みたくないのであるが、目標達成の遅延とを秤にかければ、それも已む無しである。

 

「人も、技術もある。今のところ、問題は資金だけ。多少の時間はかかるけど、初期投資の資金回収の目途もある。優良な投資対象だと思うんだけどね?」

 

 ノバラからすれば、最終的に利益が出るなら、特に問題がないように思えたのだが。

 

「君の考え方は政治家向きだな。より先の未来を考え過ぎる。利益追求者たる企業人に対しては、より即効性のある利益を見せることができなければ、首を振らせるのは難しいぞ?」

 

 ……どうやら南部のお気に召さなかったらしい、と考え、ふぅ、とため息をついた。

 

 確かに即効性、という面では確かに弱いと言わざるを得ない。ノバラとしては、南部であれば、目先の利益より、先の大きな利益に目を向けると踏んでいたが故の提案であったのだが、どうやら、目論見は外れたらしい。

 

(……どうするかなぁ? やっぱり、アラン機関かぁ。DAに流れてくる資金を使うことも考えたけど、それって公私混同だし、着服になっちゃうだろうし、付け入られる点は作りたくないんだよなぁ……)

 

 お金の()にこだわらなければ、国内外の犯罪組織を片っ端から潰して、その資金を巻き上げる、という手もあるにはあるのだが。

 そうすれば、それなり以上の大きな反抗があるだろう。せっかく落ち着いた国内情勢がまた悪化しかねない。

 

 今回の一手はより綺麗に決着する会心の一手だ、と思っていたのだが……。

 

(……私もまだまだってこと)

 

「…………こんな提案に簡単に投資をしようとするのは私くらいだぞ?」

「……ほ?」

 

 にやにや、と意地の悪い笑みを浮かべる南部をノバラは、きょとん、という顔で見つめる。

 

「無論、条件は付ける。だが、乗ってもいい」

「……だから、お爺ちゃまってだぁい好き♡」

 

 現金なノバラは、満面の笑みを浮かべると、テーブルを跳び箱の要領で飛び越えると南部の膝の上に着地して抱き着いた。

 

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