Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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EX15H a strength

「……だから、初めてカウンセリングをしたとき、私は千束たちと引き離されて、不貞腐れたような態度を取っていたあの子にこう言ってやった。『姉に甘えるのも大概にしろ』とな」

「……はは、それはまた……」

 

 カエデは楠木の仏頂面を見ながら、思わず苦笑した。正に今のような顔で、本当に一切の容赦なくそう言ったのだろう、ということがありありと分かる。

 

 年齢的なことも考えれば、本来であれば、父母に甘え、姉がいれば、姉たちにも甘えるであろう年頃である。特殊な環境下で育っているとは言え、リコリスの訓練生たちにもそういった面は確かにある。

 

 そして、ノバラに関して言えば、それが唯一の感情と思えるほど、家族に向ける想いが、他にない分、非常に強かったと考えられる。

 

 当時、当人がどれだけ意識していたかは分からないが、それは確かに楠木が言うように、不貞腐れていたのだろう。あるいは、そうしていれば、姉たちが戻ってきてくれるかもしれないと期待して。

 それは不器用な彼女なりの甘え方であったとも言える。

 

 しかし、千束たちがノバラを心配して一時的に戻ってくることはあるにしろ、ノバラが千束たちと共に生活できる日はそんなことをしていてもやってくることはない。むしろ、遠ざかるだけだということを、楠木はその一言でノバラに分からせた。

 

「……千束やフキと一緒に生活したいなら……共に肩を並べるしかない。つまりは、早く訓練課程を終える必要がある、と」

「……最初こそ、ぽかん、とした顔をされたが、すぐにその一言であの子は理解できたらしい。……まったく。駄々でもこねてもらった方が、私としては扱い易かったのだがな。子供らしさの欠片もない。知恵付きが早過ぎるせいか、子供を相手にしている気にならなかった」

 

 だが、しかし。だからこそノバラの信頼を勝ち得たのだとも言える。

 

 フキに似て訓練が大好きするノバラではあるが、元々、それは系統だったものではなく、ただがむしゃらで、破滅に向かって進んでいるように見えるものだったが、以降、楠木の助言にも耳を貸すようになり、その実力はさらに伸びた。

 

「……ノバラは単純なスペックで、千束とフキに劣るし、おそらく、身体能力的に上回ることはできない。だが、あの子に()()がある」

 

 楠木は頭を指さす。

 確かに、カエデも話を聞く限り、頭が良いのはわかるのだが……。

 

「……でも、知能指数的には、ちょっと頭が良いくらいでしょうに」

「数値上はな。あの子は脳の一部を選択的に破壊された結果、感情を欠落するに至ったわけだが……人が盲目になると、聴覚などが鋭くなるように、あの子は、感情を失った代わりと言っては何だが、脳にちょっとした変化があってな……情動による行動が極端に無くなった代わりに、理性的な行動が活発化している。それには、おそらく多くの情報処理が行われているのだろう。結果、あの子は副次的にマルチタスクが極めて得意になった」

「……そりゃまた」

 

 おそらくは。そんなことがなければ、ノバラはごく普通の少女でしかなかったのだろう。

 

 身体能力は並み以下。多少頭が良くとも、優秀なリコリスに囲まれれば、埋もれてしまうなもの。

 

 だが、意図的に欠落させられた結果、彼女はその欠落を埋めるべく変容した。そうせざるを得なかった。生きるために。

 

「……頭の回転が速く、感情に流されることなく合理的で、状況判断が恐ろしいほどに適切。他者への共感が極めて薄いのは難点だが、優秀な指揮官となれる素質を後天的に得ている。それに、本人自身も異常なほどの訓練を積んでいるからな……子供と思って侮ると足元を掬われるぞ?」

 

 くつくつ、と楠木が意地悪そうな笑みをカエデに向ける。

 

「……そりゃあ楽しみですね」

 

 だからこそ、カエデも、にぃ、と不敵な笑みを浮かべる。

 

 ……久しぶりに血が滾るのを感じていた。

 

◇◆◇

 

 まず最初、カエデが訓練生全体に行った訓練は、同数に分かれての模擬戦だ。

 

 防御側と攻撃側。これを入れ替え、更に中核となるであろうメンバーを入れ替えての計八回。午前の時間が終了する。

 

「……どうだ、カエデ?」

「……思っていた以上に全体のレベルが高いですね」

 

 スペック的には例年より良い者が多いのは間違いないが、今回の訓練生たちは特に連携力が高い。

 

 ……そうせざるを得なかった、とも言うが。

 

「中でもノバラは異質です……今すぐファーストにさせたいくらいですよ」

 

 個人としての身体能力はやはり決して高くない。

 

 指揮官としては合理性、効率性を重視するあまり、他の人間を数……もっと言えば、攻撃の手数としか考えていない。しかし、これはこれで効果的ではある。減っていく数に眉一つ動かさず、非情に徹することができるのならば。DA内部において、意図して、このように采配できるものは、ほとんどいないだろう。いるとしても、司令官クラスであり、一リコリスの中にはまずいない。このような指揮が可能だという点において、ノバラは指揮官としては稀有な才能があるとも言える。

 

 だが、これらの評価を無視しても、ファーストにしたいと思わせる特性があった。

 

「……あの隠密性は反則じゃないですか?」

 

 肉眼であれば、その場にいるという事実すら忘れそうになる存在の希薄さ。

 野生の獣であってももっと気配がありそうなものだ。

 単体運用するにしても、既に暗殺者としては一流の領域である。

 

 そして、仮に彼女に気づいたとしても……。

 

「……あの年であれだけ近接戦が強いのも空恐ろしいですね。銃弾を避けるという技術はいくつかありますが、あの子の場合、場所、人体構造、視線、心理……そういったものを総合的に、しかし、一瞬で判断して避けている。銃での攻撃はやや雑ですが、それも狙っているのではなく、そこにいると分かっているからこその、謂わば最適化された型のようなものだと思えば、確かに合理的だ」

 

 カエデは少なくとも訓練生たちがノバラを仕留めることは不可能だと判断する。

 

(……見えているものが違い過ぎる)

 

 彼女たちの戦い方はあくまでリコリスとして、集団で、誰にも気づかれぬように、というものだ。

 対して、ノバラの戦い方は、ただ一人で全てを殲滅するためのもの。そして、その先にあるのは、最強、錦木千束と、最優、春川フキという高すぎる壁。

 

 ……なるほど。数多いる元ファーストの中から、楠木が自分を選んだ、という理由がよく分かる。

 

「……楠木補佐。これは確かに、私以外には無理でしょう」

「……我ながら、良い人選をしたと思っている。壊さず、しかし、鼻っ柱は確実に折ってくれよ?」

「簡単に言ってくれますねぇ……」

 

 カエデは苦笑を零す。

 

 ……だが、それも仕方あるまい。

 現役を退いたばかりとは言え、カエデの訓練量は現役時より落ちているし、実戦のカンもまた然りだ。

 

 しかし、それでも、負ける気はしない……今は、まだ。

 

悪戯妖精(Gremlin)

 

 そう呼ばれたのは、彼女の電子戦に特化したという専門性だけではない。

 

 小柄な体から想像できないほど、強力な近接戦を行い、まるで他者をあざ笑うかのような戦闘スタイルもまた、その通り名の由縁である。

 

「……明日からは個別戦闘訓練をやります。それぞれの課題も含めて、そこを重点的に。ノバラについては……あの子も直接やり合った方が理解できるでしょう」

 

 ふふ、とカエデが不敵な笑みを浮かべた。

 

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