Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
幕間を挟んで、
次話以降から千束ちゃん・たきなちゃん対ノバラちゃん・すみれちゃんの予定
剣舞を見ているようだった。
フキは前に進むようにナイフを振ると、ノバラはふわりと回って見せる。
ノバラが横合いからナイフで切りかかれば、合わせるようにフキがナイフで受け止める。
ナイフがぶつかりあって、時折、火花のようなものが見える。
そして、それは少しずつ速くなっていく。
(……すっげぇ!)
まだ、眩暈の抜けない頭で、サクラは考えていた。
フキは基本的に指揮官としてのファーストであり、通常はあまり前に出ることなく、全体を把握しながら作戦に従事し、戦闘に参加する際も射撃が中心だ。元々の体格からしても、近接戦を得意としている印象は薄い。
対してのノバラは、近接戦では十二分にヤバイ相手だと認識させられた。フキよりも小さい身長でありながら、その拳は重く、スピードも反射神経も並以上に見えた。
正直を言えば、戦力差がありすぎて、一瞬で決着が着いてしまうと思っていた。
だが、圧倒的不利と言うべき状況でフキはノバラに食らいついて見せた。
互いのナイフが交錯し合うのは一体何十合目だろうか。
思いのほか、と言ってはフキに失礼だろうが、フキが善戦し、ノバラが手こずっているように感じていた。
少なくとも今のノバラはサクラを相手にしていたときの余裕は見えない。
これがファースト。自分達のリーダー。
フキを誇らしく思うと同時に、サクラは自らの不甲斐なさが頭にきた。
(フキ先輩の足を引っ張って! いいようにあしらわれて! アレは本来お前の役割だろ、サクラ!)
チームでの自分の役割はフロントアタッカー。最前衛である。
それが、指揮官に庇われて。指揮官が前衛をしている?何と無様なことか!
既にサクラのプライドはバキバキにへし折れていた。
だが、そんなプライドよりも大事なものがあった。
だから、サクラは再び立ち上がろうとしていた。
(動け! 動け動け! 動け動け動け!)
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
咆哮し、気合と共に片膝を立てる。
視界はまだぐるぐると回っている。ぐらりと頭が揺れる。
鳩尾受けたダメージも抜けていない。がくがくと膝が震える。
(それでも立つ! 絶対立つ! 立って一発ぶち当てる!)
歯を食いしばる。体中にギシギシと痛みが走る。
もう止めちまえ、と心の中で何かが囁く。
ガンッ、と自らの頬を殴り飛ばし、弱気を吹き飛ばす。
そうして、サクラは再び立ち上がった。
「お?」
「……ふん」
鍔迫り合いのようになっていたノバラとフキは互いに、その様子を視界の端で捉えていた。ノバラは半ば意外そうに、フキは当たり前という顔をして、互いに笑みを浮かべていた。
「やるじゃん」
「当然」
しかし、まだ戦える状態でないのは明らかだった。
そのため、フキは時間稼ぎしたかった。せめて、サクラが戦えるようになるまでは。
「……まだっ、まだぁ!」
フキは足に力を入れて、踏ん張ると、ギンッ、という刃鳴りを聞きながらノバラを押し返す。
自ら後ろに飛んだのか、思いのほか軽い感触に、フキは怪訝そうにノバラを見れば、その口は何事かを呟き、笑みを浮かべていた。
『ざ・ん・ね・ん・で・し・た』
その唇を読んだとき、フキの胸を熱い感触が貫いた。
痛みに気づいて、ノバラに目をやれば、彼女は右手に銃を構え、銃口からは硝煙が上がっていた。
「「……あ?」」
フキとサクラの言葉が重なった。
フキは半ば呆れた様子で、サクラは茫然とした様子で。
「このタイミングで銃で撃つのかよっ!? っていうか、まだ持ってたのかよ!?」
サクラの叫びは会場中の少なくともリコリスの言葉を代弁した。
「いや、だって、今のフキが一番隙だらけだったし。……ねぇ?」
「だからって、空気ってモンがあんでしょうよ!?」
悪びれもしない様子のノバラにサクラが食って掛かる。サクラの意見にうんうんと頷いているリコリスが何人か見える。
「やめろ、サクラ、鹵獲した銃で撃っても反則じゃない。そして、空気を読む必要なんてない。負けは負けだ」
はぁぁ、と深いため息をついて、フキは座り込んだ。
「だってさ! サクラ、あなたはもう戦える?」
「……言いたいことは色々あるっスけど、もういいっス。自分で決めるんで」
ノバラはサクラの様子を見て、満足そうに笑みを浮かべていた。
今のサクラは鬼気迫っていた。集中力が高まるに連れ、表情は抜け落ち、ギラギラとした目が勝利だけを見据えている。
ふらりと自分の倒れていたところにまだ落ちていた銃を取ると、サクラは油断なく構える。
「……アンタは構えなくていいんスか?」
「わたしはいつでも、おっと」
いつでもいいよ、と言う前にサクラが撃ちながら、前に進み始めた。
離れていも避けられる。近づいても避けられる。ならばより近づけば当たるかもしれない。
そんな考えだろう、とノバラは見当をつけた。それよりも、この劣勢の中、前に進む選択をする、その精神性を好ましく思っていた。最後まで諦めず戦おうとするその姿勢。自らと同じく、フキの魂を受け継いでいるという親近感すらあった。
だから、ノバラは全力で対時した。
撃たれた銃弾を避け、時にナイフで逸らし、一足の間合いに入ると同時、サクラが右手に持っている銃を取ろうとして、手首をとった。その瞬間。
「さすがのアンタでもこれなら当たるだろ?」
サクラはずっと隠し持っていた支給品よりも小さいグロックを左手で持ち、ノバラのコメカミの辺り当てた。
「……当ててみな?」
言わないで撃って別にいいのに、という雰囲気のノバラに気圧されつつも、サクラは覚悟を決めて、引き金を引こうとする。
だが、それより早く、ノバラがサクラの左手の小手を取ったまま、ヒバナにやって見せたの同じように、クルリとサクラの腕を軸にして横に回った。自然サクラは変則の小手返しのまま投げられる。呆気に取られたままのサクラに、ノバラは覗き込むにして、笑みを浮かべると、そのまま銃を撃った。
(ああ……負けた。でも、きっと……!)
次は負けないとばかりにサクラがノバラを睨むと、ノバラはそんなサクラを眩しいようなものを見るような目で見ていた。
この子はきっと強くなる、ノバラは姉弟子のような心境でそう思っていた。