Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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幕間です


34 chills or excitement

「……えぇ~……」

 

 さすがのたきなもちょっと引いていた。

 

 サクラが立ち上がり、フキが奮起し、これから二人の連携を駆使した熱い展開に! と思っていたところに、ノバラがずどぉんとフキを撃った。

 その先の展開をわくわくしていただけに肩透かし感がすごかった。

 その後のサクラのダメージを物ともしていないような特攻はすごかったし、ノバラのアクロバティックな投げもすごかった。だが、何ともそこのところだけ、もやもやするのだ。

 

「いやいや。たきなと同じく合理的に動いただけでしょ?」

 

 だが、千束は、まぁ、そうなるな、と特段驚いた様子もなかった。おそらくフキも熱くなった自分が悪い、と猛省していることだろう。

 

「私だって空気くらい読みますっ!」

 

 たきな的にはさすがにあのタイミングで撃つのはズルいというか。フェアじゃないというか。様々な思いが交錯するが、一言で言えば、『空気読め』。この言葉に尽きる。

 

「……本当に空気が読める子なら、機銃掃射とかしないんだよなぁ」

「いや、でもあれはっ!?」

「合理的って言うんでしょ? んじゃ、不利になる前にフキを落としたのだって合理的でしょうよ?」

「そ、そうなんですけど……そうなんですけど! なんか違うっていうか」

 

 千束の言っていることは理解できる。しかし、理解できても納得できるかはまた別の問題だった。

 

「たきな~……勘違いしてるだろ?」

 

 千束はたきなのなかのもやもやが何なのか大体の見当はついていた。

 たきなはノバラが強いと思っており、強いノバラがそんな姑息なことをする必要があるのか、という思いがあるのだろう。

 だが、千束にして見れば、この前提条件がそもそも誤っている。

 

「勘違い……ですか?」

 

 そして、案の定、たきなはそのことには頭が回っていないようであった。

 

「ガチで正面からやりあったらさ、フキとノバラのどっちが強いと思う?」

「……ノバラじゃないんですか?」

 

 やっぱりな、と思って、千束はたきなの考えを正していく。

 

「単純な総合力を見れば、ノバラよりフキの方が強いんだよ。だから、ノバラは小細工するし、煽るし、姑息なこともする。更には二対一だ。あの状況、不利なのはむしろノバラの方なんだよね」

「それにしてはノバラは余裕そうに見えましたが」

「総合力が高ければ勝てるってこと、ではないのだよ、たきなくん! 前言ったっけ? ノバラは別に身体能力が高いわけじゃないって」

「あぁ……練習内容と練習量がアホなだけ、っていうアレですよね? でもそれも、フキさんとそんなに差がありますか?」

 

 時間は有限であり、年齢の分、フキの方が当然練習量が多くなる。ノバラもフキも努力型という点においては似通っていて、二人ともが練習気違いレベルである。

 

「練習量そのものは二人とも限界までやり尽くしているよ。そして、やっている練習内容で技能差が出てる。フキは主に戦術と射撃、ノバラは体術を中心とした戦闘訓練、後は体力トレーニング。これの結果でフキはファーストに選ばれるほどの戦術眼を、ノバラは体力に加えて、隠密能力を上げている訳なんだけど」

「あ、なるほど。結果、ノバラは今の戦いではあまり自分の特性を活かしている訳でないってことになりますね」

 

 ノバラが自分でも言っていたとおり、本来のスタイルは、油断しているところを後ろからブスリというのが基本だ。今回の模擬戦のように、『堂々と』、『正面から』というのは、ノバラの得意とするところではない。

 

「そう。この時点でノバラは自分の最も得意な戦術ができないから、次の体術勝負に持って行った訳だ。だが、ノバラとフキの体力評価ではノバラの方がちょい低い。さて、これをどう埋める?」

「そのためなら、小細工もやるってことですか」

「そういうこと」

 

 勝つことに徹底している、それはたきな自身もノバラをそう評したのだから、見解は一致している。

 

「……しかし、ノバラの体術はちょっとヤバイレベルだと思ったのですが」

 

 その印象が強いせいだろうか。たきなにはノバラが小細工をする理由があまり見えてこないのだ。

 

 だが、千束からすれば、ノバラの動き自体はそれほど速くはない。さすがにサクラに比べれば、練習量と質で上回るのであろうが、フキと比べれば同等か少し劣るくらいだ。

 

「……速い、重いって?」

「はい」

「……予備動作がないから、速く見える。殴る動作を考えると、構える、ためる、殴るっていう動作に分けられる。だけど、ノバラは、構える、ためるという動作が必要ない。だから同時に動き出せば、結果ノバラの方が速い」

 

 その領域に行きつくまでは地獄だが、至ってしまえば、圧倒的に有利なのだ。

 

「威力が重いのは、まぁ、あの子の工夫だね。体重移動が異様に巧い。元々あの子は体格に恵まれていないからね。どうしても体重差を補う技が必要になる。インパクトの瞬間に全体重が乗るようにして、まぁ、サクラとトントンくらいかな?」

 

 加えて、サクラが鳩尾にいいのを貰ったときは、くずれ落ちるサクラ自身の体重も利用しているし、完全に体が緩んでいた。それ故に、受けたダメージはサクラ本人が思っていたよりも相当上だろう。

 

「ま、こんなところだね。あ~、あと、あの子、手癖が悪いから。近寄らせちゃだめだよ、たきな?こっちの知らん間にマガジン抜かれたり……ブラ外されたりするから」

 

 ナイフや銃をこっそり抜いていたのから、持っているマガジンなんかは盗られるかも、と思っていたたきなは、最後に付け足された言葉に唖然とした。

 

「……は?」

 

 何言ってんだコイツ、とばかりのたきなの表情に、千束も苦笑する。

 

「いや、得意なんだよ。服の上から人のブラ外すの」

「それに何の意味が……?」

「嫌がらせに決まってんじゃん!」

 

 まぁ、羞恥を煽ることができれば、女性相手なら動きを止められるというメリットもないことはない。果たしてリコリスが気にするかは微妙だが。

 

「ま、あの子の相手はたきなに任せるからさ!」

「……いいんですか?」

 

 千束はてっきり姉妹対決を楽しみにしているのかと思いきや、そうでもない様子にたきなは意外に思った。

 

「私があの子なら私とは絶対ヤらないよ。すみれの方が相性いいだろうし? あの子がそう仕向けてくるなら、私達は必然的にそう戦うしかないし」

 

 ノバラと自分は相性が悪い。以前なら、心臓に問題のあった頃の千束が相手ならば、持久戦に持ち込むことは考えられたが、今の千束にそういった死角はない。

 

 だが、たきなはそう考えなかった。

 

 千束には勝てないが、自分には勝てる、とそう考えているのだと思った。

 

「ふ~ん……ノバラはそう思ってるんですね……?」

 

 冷たい目をしたたきながにやりと笑う。

 

「…………上等です」

 

 静かに瞳に宿った炎が微かに揺らめく。

 

 ……戦いのときは迫っていた。

 

 

 

 

「どうしたの、ノバラちゃん?」

 

 控室に戻ってきたノバラが、ぶるっと震えたので、すみれは怪訝そうな顔をしていた。

 

「…………何か悪寒が」

 

 それは、寒気なのか、それとも武者震いだったのか。

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