Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
控室で準備を終えたノバラがすみれを伴って、
千束が楽しそうな笑みを浮かべている一方、何故か最後に別れたときの様子と異なり冷たい目をしているたきなを見て、ノバラはおや、と思った。
(あれ?何か、たきな、怒ってる??)
心当たりは・・・先の模擬戦の戦い方がアレ、と言われれば、ないことはないが、たきなが怒るほどのことか、とノバラは首を傾げる。
「お待たせ?」
しかし、そんなノバラを見た途端、たきなは愕然といった表情に変わった。
「……ノ、ノバラ! 耳と、シッポはどうしたんですか!?」
くわっと目を見開いたたきながノバラに詰め寄ってくる。
「へ? さすがに千束とたきな相手じゃ、邪魔かなぁ、とね?」
さすがに二連戦はきつかったので、一端、控室に下がったノバラだったが、そこでは、楠木の秘書がちょっと呆れた顔をして待っていて、徹底的に身体検査をされた。武器の持ち込みは禁止ではないし、鹵獲自体も禁止されていないが、盗りすぎ、ということだろう。
その際、自分とすみれの付け耳とシッポなどは、さすがに邪魔になるなぁ、ということと、エキシビジョンということも考えて、外してきたのである。
だが、それは、たきなに不満だったようで。
「何で、私に撫でさせたり、触らせたりしてくれないんですか!?」
「えぇ~……そこ? たきながそこまで言うなら、後で二人っきりで、たきなの好きな格好で好きなだけシてあげるよ?」
半ばからかうようにノバラは唇に右の人差し指を当てながら、たきなの顔を覗き込むと、たきなの頬はぽぅっと赤くなる。
「……好きな格好で、好きなだけ?」
そう繰り返したたきなの視線が何とも艶っぽい。思わず、ノバラはたじろいだ。
「う、うん……?」
ノバラは思わず頷いたが、失敗だっただろうか。
たきなの目が語っているのだ、たっぷり
「いいでしょう。約束ですよ、ノバラ? それで、私の腹立ちはチャラにしてあげます」
「あ、ありがとう?」
ふふふっっと笑ったたきなにノバラは色んな意味で戦慄が走る。
顔に出ているのだろうか、千束はノバラを見て、けらけらと笑っている。
ノバラはぷぅっと頬を膨らませると、千束の腕を引っ張って、たきなの傍から引き離すと、ナイショ話をするように、千束にひそひそと話しかける。
「……千束、笑ってないで。たきなは一体何だって言うの?」
「いや、耳とシッポ可愛すぎる、って騒いでたし?」
「そこじゃなくて!」
普段のたきなであれば、ノバラ的は、さぁ来いや!とばかりに準備万全なのであるが、あれは、明らかに何かに怒っている様子であり、何と言うか怖い。貞操が危うくなりそうな意味でも怖い。千束と何もなかったことから、その意味では、大丈夫かもしれないが、色々尊厳が壊されそうで怖い。
今のたきなにはそんな意味での怖さがあった。
「あ~……アンタ、私にすみれを当てて、たきなとヤるつもりでしょ?」
「そりゃそうよ。分かるでしょ?」
「そっちの方が勝率高いって言うのは、私からすれば、互いの相性の問題だって分かってるんだけど、どうもたきなは、アンタがたきなの方が与しやすいって見たと思ってるみたいよ?」
ノバラは思わず目が点になった。
「ほ? ……いやいや、すみれじゃたきなに勝ち目が薄いから、千束とヤらせるのであって、別に私がたきなを侮ってる訳じゃあないんだけど……」
ノバラはすみれとのペアでは指揮官的立場である。
その場合、勝率が高い戦術をとるのは当たり前であり、完全近距離戦極振りのすみれがたきなとヤりあっても、いいようにあしらわれるのがオチだ。それを考えれば、同様に近接戦をせざるを得ない千束に当てた方が目はある。
逆に、ノバラと千束では、同じような戦い方をしたところで、身体能力などを含めても千束に一日の長がある。そして、ノバラの性格をよく理解している千束には、基本的に考えを見透かされているだろうし、手品めいた小技を使っても、その観察能力と動体視力、反射神経で看破される。これらを考えれば、ノバラは千束に対して圧倒的に不利なのだ。
対して、たきなである。単なる撃ち合いだったら、ノバラに分があるし、たきなが純粋に体術勝負をしてくるなら、確かにノバラの方が強いだろう。
だが、たきなは暴走気味の
「たきながそう思った、いや、そう思わせたのはノバラだろ? 責任取って、ブチギレモードのたきなの相手は任せたからな?」
「ひ~ん! 違うのに~!」
たきなのプライドを傷つけたのかもしれないが、ノバラとしては解せない話であった。
連携で戦うにしろ、マッチアップで戦うにしろ、集団戦とは、実力か相性で戦い方を決めるのは、当然のことだ。ノバラがたきなに思っているのは弱いとかではなく、相性的にまだマシということくらいしか考えていたのだ。
しかし、結果として、これまでの戦い方などで、そう思わせてしまったのは確かにそうなのだろうから、ノバラの自業自得とも言えるのだが。
「すみれも、よろしく~! あ、ジェノサイドエクスプレスは勘弁な!」
ノバラの苦悩をよそに、傍らに立っている、すみれの肩をぽんぽんと軽く叩いてそう言った。
「え~……さすがの私も命令もされてないのに千束ちゃんを殺すようなことしないよぉ」
(命令されたら、殺んのかよ!?)
言葉の裏側を読み取るとそうなる。千束は若干顔を引きつらせながらも、すみれに微笑みかけることに成功した。
「いや、ホントに頼むよ?」
「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ。ノバラちゃんが、『殺るなよ、絶対殺るなよ!』って念押ししてくれたし」
そ~っとこの場を離れようとしている、ノバラの頭を千束は鷲掴みにすると、固まった笑顔のまま、ノバラに囁きかける。
「…………アンタ、これ、振りじゃないでしょうね?」
傍から見たら、完全に『殺れ』と言っているようにも聞こえる。
「いやいや、さすがに本当に念押ししただけだよ。模擬戦でスプラッターな光景見たくないし……」
これは嘘偽りのないノバラの本心である。
「あ、でも……すみれをあんまり興奮させちゃダメだよ、千束? ……死ぬよ?」
「難しいこと言うなぁ……すみれはヤってる間に楽しくなってきて我を忘れるタイプなんだろうし」
あまり時間はかけられない。かと言って、すぐに片付くとも思えない。
その難しさが千束には楽しくもあった。
(さぁて……どうしたもんかしらね~)
『さて、それでは、エキシビジョンを始めようか。この試合は、特に何かの評価をする訳でもない。言うなれば、ちょっとした余興だ。深く考えずにやれ。殺しはなしだぞ?弾も武器も非殺傷なら何でもいい。すみれについては、先と同じく、特別ルールだ。頭部以外は判定しない。あとは、お前たち、好きにやれ』
千束がどうするべきかを悩んでいると、楠木の声が聞こえた。
それにしても、『好きにやれ』とか、楠木らしくない。
「お? じゃあ、千束。あんまり早くやられて、私をがっかりさせないでね?」
「こんにゃろう……」
明らかな煽りだが、迷っている千束には、中々の精神的ダメージを与えていた。
しかし、これで分かったこともある。
てっきり、ノバラのことだから、お遊びと割り切っていると思っていたのだが、どうやら、本気で勝ちにくるらしい。
(これは、まだ何かあるな?)
千束はたきなに歩み寄ると、こそっと呟く。
「……ノバラが何か仕掛けてくる」
「……でしょうね。心当たりは?」
「さて、なんせびっくり箱みたいな子だからね」
「開始直後が一番危険ですね」
「同感」
千束とたきなは互いの右拳をこつんと軽くぶつけ合った。
一方のノバラは、すみれを連れて、千束たちから距離を取っていた。
「あはは、警戒してる」
「どうするの、ノバラちゃん?」
「さすがに、あの二人も、楠木さんまでグルだって分かんないでしょ? ……予定通りに」
「は~い」
ノバラとすみれは互いに頷き合うと、ノバラは自然体に、すみれはクラウチングスタートに構える。
ビーっというブザー音、それにわずかに遅れて。
爆音と閃光が