Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「はい、じゃあ、模擬戦お疲れ様会始めま~すっ!」
千束がいぇ~いと喫茶リコリコの中心で声を上げた。
「……何で私らまで……」
仏頂面をしたフキは、ちらりと厨房に目をやると、顔を赤くして俯いた。
「え~? フキ、ホントは嬉しいくせに」
その様子を見咎めたノバラがにやにやと笑う。
「え、何でっスか?」
サクラがきょとんとした様子でフキを見ると、フキは一層不機嫌そうな顔をする。
「うるさいっ!」
「ほらほら。怒らないで、フキ。先生がコーヒー淹れてくれたよ?」
エリカがフキにコーヒーを差し出すと、ぽっと赤い顔をしたフキがコーヒーを受け取る。
「ノバラ~、この団子はどこに置くんだ?」
「ずんだ団子はメインだよ!? 真ん中に決まってんじゃん!」
「……決まってるのか……」
ヒバナはノバラの半ギレの剣幕に慄きながらも、テーブルの中心に山となったずんだ団子を置いた。
「すみれさん、コーヒーは大丈夫ですか?砂糖とミルクは?」
たきなは模擬戦で最後に気絶したまま医務室に運ばれていったすみれに甲斐甲斐しく接していた。
「だいじょうぶだよ、たきなちゃん! ノバラちゃんがね~、『コーヒーはブラックこそ正義』って言ってるから、私もいつもブラックなんだ~」
たきなの心配を余所にすみれはのほほんと微笑んだ。
「ノバラは分かりますが、すみれさんは意外ですね」
「慣れちゃった。苦味と甘味で無限ループできるし~」
確かにいっぱい食べそうだな、とたきなはすみれを見て変に納得した。
事実すみれはよく食べるのだが。
「いや~……しかし壮観ね」
ミズキは目の前の光景を見て、そう評した。
「今からどっかにカチコミだ、と言ってもおかしくないな」
クルミがミズキに同意する。
実際、今のDAでトップクラスの実力者の集合である。今からヤバいところにカチコミに行くと言い始めてもおかしくない戦力であった。
「ふむ……大人の時間はまた今度かな?」
子どもたちでわちゃわちゃした空間を見ながら、楓は苦笑した。
「どうせ、この子たち、門限とか決められてるでしょ? 約束どおり付き合うわよ」
「ん、そうか……? じゃあ、上野のホテルの近くで、少し遅目に予約を入れるか」
ミズキの言葉に楓はニッと微笑むと、さっそくと言わんばかりにスマホの操作を始めた。
「上野なら、雰囲気の良いバーに心当たりがあるぞ」
ミカがコーヒーを運ぶ手を止めて、楓に店名を告げる。
「ああ、ありがとう、ミカさん。……お、いいね」
楓は表示されたホームページを見て、ほくほくした顔で早速予約をする。
「あ~! あ~! お前ら、コーヒーは行き渡ったか!? 全力で楽しむ準備はOK!? ……じゃあ、宴だっ! かんぷわぁ~い!」
『かんぱ~い!』
千束の音頭でリコリス達がティーカップを掲げる。
「ふ……酒じゃなくて、ここまで盛り上がるとは。これが若さ、か……」
私も年を取ったものだ、と楓はニヒルに微笑んだ。
「いやいや、色々笑えないわよっ!?」
今年でミズキは二九歳になる。リーチだ。
そんな親友の焦りを知ってか知らずか、楓はきりっとした顔をして、ミズキの手を取る。
「大丈夫だ、ミズキ。君は初めて会ったときから変わらず、ずっと美しい」
ド直球な楓の言葉に、さすがのミズキも顔を赤くする。
「やめぃ! 私はそういう趣味じゃないわよ!?」
「……? 別に私もそういう趣味ではないぞ?」
「思わせぶりなセリフが紛らわしいし、誤解されるのよ!? 見なさい! おっさんが優しい目をして、クルミが何か『分かってる』みたいな顔してるだろうが!?」
「愛は人それぞれだからな」
「大丈夫だ、ミズキ。分かってる」
「ほら見ろ!?」
「おや?」
楓は心底慌てているミズキを見て、くつくつと笑う。
本当に何でもないなら、はいはいと受け流せばいいのに、と思うが、わざわざ付き合ってくれる親友のお人好しさ加減は本当に愛おしい。
「しかし、ミズキも車を出してくれて助かった。あの山奥まで、何往復もするとかゾッとする」
「……帰りは?」
「車を手配している。エリカが運転するそうだ」
「そ。あ、じゃあ、私もう飲んでも大丈夫ね!?」
「いいけど、後からバーに行くんだぞ?」
「大丈夫大丈夫!」
「潰れたら身の安全は保障しないぞ? ん?」
冗談めかした楓の言葉に、ミズキはその真意を探る。
この言葉は文字通りではない。
その心を推し量るならば、『私と一緒に飲む時間をもっと大事にしてよね?』と言ったところか。面倒くさい彼女みたいだが、たまに会う親友を大事にしたい気持ちはミズキにもある。
「はいはい。ちゃんと付き合うから、コーヒーで我慢しますよ」
「ん」
よくできました、と楓はミズキに微笑んだ。
ところで、この模擬戦お疲れ様会の仕掛け人は誰か。
言うまでもない。千束である。
しかし、この一大戦力を一気に喫茶リコリコに集結させるなど、普通はあり得ない。当然ながら、楠木は難色を示した。
だが、ノバラが楠木に微笑むと、楠木は仕方ないと許可をした。
ノバラ曰く、貸し一つじゃ足りませんよ、とのことだ。
そして、楓がミズキに応援を要請し、ミズキが到着するまでの間に、千束たちは先に戻って準備をすることにした。なお、医務室でぐ~すか寝こけていたすみれはまったく起きなかったので、責任を持って、ノバラがぐぬぬと踏ん張りながら回収した。
そんな中で千束は悩んでいた。
おもてなし料理は何にしようか?リコリコのメニューでもいいけど、それはいつでもできるし、面白みがない。こんなにリコリスが集まるとか稀だし、もっと面白くしたい。お、そう言えば、ここには面白そうなヤツがいるじゃないか。
「ノバラ! あんた、何か作んなさい!」
千束がビシッとノバラを指さすと、ノバラはへらっと笑った。
「いいよー」
もっと抵抗するかと思いきや、あっさりと承知するノバラに千束はおやっと思うが、別にノバラは料理できない子じゃないのは知っているので、任せることにする。ノバラが何か企んだ様子で薄く笑っていることに気づかずに。
「ノバラちゃんのごはん! あれっ? ここ、どこぉ?」
そして、とりあえず、座敷に寝かせていたすみれが、食欲全開で目を覚ます。
「おはよー、すみれ。ぐっすりだったねぇ?」
くすくすとノバラがすみれに微笑むと、すみれはぽろぽろと泣き出して、ノバラに抱き着いた。
「あわわぁ!? ノバラちゃん……ノバラちゃん、ごめんなさい~!」
やれやれと言った感じでノバラはすみれの頭を優しく撫でる。
千束の感じから、ノバラの企みは千束に看破されていたことだろう。ノバラはすみれに負けを経験させたかった。映像は確認したが、現時点のすみれにしては悪くなかった。経験不足は否めないが、それは経験を積めば分かること。そして、これから、しばらくの間はその経験が積めるのだから。
「怒ってない怒ってない。怒ってないから泣くなー」
ノバラはぐずぐずと自分の腕の中で泣き続ける。
「でもでもぉ……うにゅう!」
ノバラはすみれの顔を両手で思いっきり変顔を作る。
「申し訳ないと思うなら、ちょっと手伝って」
「……は~い」
すみれと連れだって、ノバラ厨房の中に入った。
「ね~ぇ! 千束、何でもいいよねー!?」
「おー。基本はスイーツで、かつ、お腹に堪りそうなやつ」
「かしこまり~」
何か知らんが張り切ってんなー、と眺めている千束にたきなは不安そうな顔をした。
「ノバラ、料理大丈夫なんですか?」
「へーきへーき。何時お嫁に行っても大丈夫なくらいだよ」
「そう……ですか」
たきなの一抹の不安の中。丁度、フキたちが到着することにはおもてなし料理はできていた。ずんだ尽くしで。
「……ノバラ、これさぁ? ずんだで作りすぎじゃね?」
「え~……味の対比するために、あんことかもちょっとは作ったでしょ?」
メインはずんだ団子、それにあんこ、くるみ、ゴマのものも申し訳程度に添えられている。その他には、ずんだどら焼きに、ずんだパフェ、ずんだシェイク、ずんだおはぎ、ずんだ餅、ズンダトーストとずんだばかりだった。
確かに面白くはなったが、やりすぎな感はあった。
「先生、これに合うコーヒー大丈夫?」
ノバラがミカに聞くと、ミカは親指を上げて、答えた。というか、ミカ的にはそうなるだろうな、と思っていたので、それに合わせてブレンド済みだった。
このようにして、ずんだ狂によるずんだの宴、もとい、模擬戦お疲れ様会の料理は作られたのである。
「うまっ!? 何これうんま!?」
サクラは感動したようにずんだ団子を貪っていた。サクラはたまにリコリコでずんだ団子は食べていたが、別次元のうまさだった
若干粗く潰したずんだの豆の香ばしい香り、かすかな塩味が、甘さを引き立てる。そして、ちょっとクリーミーな感じは、牛乳・・・いや、生クリームをちょっとだけ入れているのか?コクの深さもある。
そして、コーヒーを飲むと、これまでの口の甘味がスッと抜ける。永遠に食べられそうだった。
「あ~確かに旨いわ。……ちょっとショック」
千束ももっちもっちと団子を味わいながら、地味にショックを受けていた。
「何がですか?」
「いや、これ……ノバラのヤツ、私より料理上手だよな?」
機会あるごとに自分が指南してきた自負がある千束としては、妹分が自分の上を行くとか、納得し難かった。
「千束もズボラしなければ、十分おいしいですよ?」
たきなも団子を食べて考えていた。
確かにおいしい。
ミカの作る団子もおいしいが、ノバラはまたちょっと作り方が違うようだ。家庭的でありながらも、完成された味わいである。
千束が作ったら、もっと、こう大雑把な味になりそうだ。
そう言った意味では、ノバラは細かく分量を量ったり、それぞれの品に合わせて、粗さや甘味も調整している様子が見て取れる。
それ故に、これは、日ごろからの研鑽の成果だろうと思われた。
「……これも練習の成果じゃないんですか?」
「練習キチめ……料理もか……」
千束は半ば呆れる。
無気力だったノバラが一生懸命に何かをやるというのは、千束としては嬉しいのだが、もうちょっと可愛気があってもいいのではないか、と思った。どうせ、身内しかいないんだから、ちょっと失敗するくらい気にしないのに、とも。
そんなことを考えながら、千束は無警戒に団子を口に運んだ。
「△□×〇!?!?!?!?!?!?」
不意打ち気味に鼻に抜けるつんとした辛さで千束は声にならない声を上げながら、涙目になる。
「あ、千束が大当たり~!」
千束を指差してけらけら笑うノバラに千束は物凄い形相をするが、とりあえず口に含んだ団子は無理矢理飲み込み、コーヒーを一気飲みする。
「んんっ!! ぷぁっ! ノバラ、何だこれ!?」
ずずっと若干鼻をすすりながら、真っ赤な顔をした千束がノバラに抗議する。
「わさび団子だよ♪」
「食ったから知っとるわ! 何の真似じゃい!?」
「ふつ~に作ったら、面白くないと思って。あ、それ一つだけだから、あとは大丈夫だよ?」
その思考は千束と同じだったが、自分が被害者になると全然面白くない。
いや、むしろ、これは千束にやらせたら、同じように仕掛けられるから進んで自分で作りに行ったというところか。そして、自分で仕掛ければ、いくらでも回避できる。あの短い間にそこまで考えていたか、と千束は空恐ろしく思った。
わなわなと拳を握りしめた千束はしかし笑った。
「……悪戯っ子はおしおきじゃあ!」
悪い子はいねが~、と千束がノバラを追い回す。
「いや~ん!」
狭い店内をノバラが楽しそうに走って逃げ回るが、ほどなく千束に捕らえられる。
「さぁ~て、どんなおしおきしてやろうかな~?」
「え~、可愛い妹のお茶目じゃない」
「子憎たらしいの間違いじゃないの?」
「てへ?」
羽交い締めにされたノバラはそれでも楽しそうに笑っている。
「よしよし! 笑って誤魔化す悪い子は…………こうしてやる!」
「あ、あ、あ……や~ん! それはだめぇ!」
千束がノバラに行ったおしおきとは。
普段、頑なに前髪で目を隠しているノバラの目が出るように、前髪をヘアピンで止めただけである。
だが、意外に恥ずかしがり屋なノバラは、こうやって、自分の顔がさらけ出されるのを極端に嫌がる。それを分かっての千束のちょっとした嫌がらせだった。
若干つり目がちだが、大きな瞳。真っ白い肌も相まって十分に美少女と言えるレベルだった。
……ふと、千束は気づく。
(あれ? これ誰かに似てる……)
「ん~~~~!? ……たきな、たきな! ちょっとこっち来てみ!?」
「何です、千束?」
「あんた、ちょっと、ノバラの横に並んでみ?」
「……?」
怪訝そうな顔をしながら、たきなは恥ずかしそうに顔を赤くしているノバラの隣に並ぶ。
それを見て、千束は納得したように頷く。
「……何か、君ら似すぎじゃない?」
千束の言葉にたきなとノバラは互いに顔を見合わせ、そして首を捻った。
「「……そうですか?」」