Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「いや~、ずんだ、旨かったっスね~!」
エリカの運転するセダンの中では、サクラがお腹を抱えていた。
最終盤まですみれと爆食していたからだろう。
それだけ食べれば飽きそうなものだが、まだいける、もう一個、と手を伸ばし、すっかりはまっていた。
「・・・確かに結構食べたな」
ヒバナも滅多に外では食べないし、貴重な甘味であるから、食べ過ぎた感じがしていた。摂取カロリーがヤバいことになっており、体重計に乗るのが若干怖いレベルだった。しかし、後悔はしていない。
「~~♪ノバラちゃんにレシピ教えてもらったから、リコリス棟でも材料あれば作れるよ~。~~♪、~~♪」
鼻歌混じりに楽しそうにしているエリカは満足気な笑みを浮かべていた。
久しぶりに好きに車を運転できることもそうだが、たきなと一杯話せたことなどで上機嫌であった。
「・・・すまんな、エリカ。運転任せてしまって」
都心から本部までそれなりの距離だ。サクラはお腹が膨れるほど食べているし、ヒバナも苦しそうになるくらい食べた。フキも千束と張り合ってまぁまぁの量を食べていたので、苦しいとまでは行かないが、動くのが億劫になるくらいではあった。
そんな中でエリカはちゃんと食べてはいたが、たきなやノバラ、すみれとのお喋りをメインにしていたので、四人の中では一番余裕がありそうではあった。
「いいよ~、運転するの好きだし」
エリカ的にはもっとかっ飛ばしたい気持ちもあったが、任務以外で運転できる貴重な機会である。乗っている面々も、気心しれたチームの皆なので、調子っぱずれの鼻歌を歌っても、文句も言われない。
ふんふふ~んというエリカの声を聞きながら、フキは考え込む様子をしていた。
「・・・フキ先輩は、まだちょっとお悩み中っスか?」
例のたきなとノバラの姉妹疑惑のことだ、と見当をつけたサクラがそう言うと、フキは軽く、首を振った。
「悩む・・・という程ではないが、思うところがあってな・・・」
口元を押さえて考えている様子のフキに、ヒバナは首を捻った。
「正直、私はフキが思ってるほど似ているとは思わなかったけど」
似ていると言われれば、確かに似ている気もするが、ヒバナにして見れば、ノバラはフキにこそ、似ているようにも見えた。容姿というよりは佇まいが、であるが。しかし、フキがノバラを自身の本当の妹だとしても、さほど違和感は感じないであろう。それは、全く髪の色の異なる千束であっても同じかもしれない。
「あ~、それは私も。ノバラちゃんって、なんていうか、こう・・・平均的って言うか、誰にでも似てるっていうか。確かに可愛いけど」
エリカの印象は、またヒバナと違っていた。ノバラはたきなに似ているのではなく、誰にでも似ている、という印象だった。だから、似ていると言われれば、似ているし、似ていないと言われれば、似ていない。
ヒバナはフキや千束にこそ似ているのでは、とその雰囲気から考えており、エリカはそもそも誰にでも似ている平均的な容姿だから、と考えた。
そして、フキの考えはエリカと同じ意見だった。
「そうだ。だから気づかなかった。私も、千束も。似ていると思って確かめて、並べて比べて見てやっと気づいた。・・・おかしくないか?」
自分はともかく、千束はもっと早く気づいても良さそうなものだ。だが、千束もノバラの前髪を上げて見て、やっと気づいた。そのことがフキには不自然でならない。
一方で気づいていた様子の楓とミズキ(ともしからしたら楠木も)は、そのことをこれまで指摘したことがない。気にしていなかったと言われればそれまでだが、話題に上がってもよさそうなものだ。
「そうっスか?ノバラの髪型って目立たないようにするための印象操作の一環スよね?」
サクラの言葉にフキは頷く。
ノバラは、影が薄いとか、目立たないとか言われるのが嫌な癖にわざわざ印象に残らないように目線が見えないように隠しているのだ。
それはリコリスの職務と照らし合わせても妥当なことなのだが。
「確かにサクラの言うとおりだ。だが、私と千束にとって、ノバラの素顔なんて見慣れている。対外的な印象操作の意味はないだろう?」
すれ違うだけの人間やたまに会うだけの人間ならまだしも、過去に一緒に暮らしていた仲だし、会う機会が減っていたとは言え、可愛い妹分だ。見間違えるはずもない。印象操作のしようがないはずだった。
「あ~・・・じゃあ、あれっスね!見慣れているから、逆にってヤツですね!」
千束はまさにそれだろうな、とフキは考えた。たきなとは相棒として一年程度だが、その関係は濃い。今回のような機会でもなければ、たきなとノバラが姉妹かもなどとは夢にも思うまい。
「確かにそれがしっくりくるんだがな・・・」
サクラの言葉に納得しながらも、更に考える様子のフキにエリカはシート越しに声をかける。
「その様子だとフキは二人が姉妹だと思ってるってこと?」
考え込む、悩んでいるのはそういうことだろうと思ってエリカは声をかえたのだが、フキの返答は違った。
「正直、それはどうでもいい。私が気にしているのはそこじゃない」
たきなとノバラがあまり気にしていなかったように、フキにとっても、ノバラは自分の妹分であることは今後も変わらないという思いがあり、実際の血縁関係があろうとなかろうとそれが問題となって関係性が変わることは、ないだろうと思っていた。
「へ?じゃあ、何なんスか?」
これだけ姉妹疑惑が問題になっていたのに、それ以外で気にしていることとは一体なんなのか、とサクラは怪訝そうな顔をする。
「・・・タイミングだ」
ポツリとフキが答えると、三者三様にに首を捻った。
「「「タイミング?」」」
フキが何を言いたいのかよく分からない様子の三人に、フキはちょっとだけ苦笑しながら、補足した。
「何故、『今』なんだろう、って思ってな」
フキがどうにも納得できないのはその点だ。
何なら延空木事件の際にノバラを投入していたら、気づいていたかもしれないし、たきなが配属になったとき、ノバラが来ていれば気づいていたかもしれない。だと言うのに、大きな事件が終わった後に、この話が降って湧いた。
「そりゃ・・・たきなは前は京都だったし、ノバラは東京から、札幌、仙台だっけ?それこそタイミングが合わなかっただけじゃないか?」
たきなは京都からの転属組。ノバラはその優位性を買われ、東京から札幌に引き抜かれ、更には札幌から仙台へ引き抜かれた。二人が交差する瞬間がなかった。
「そうだな・・・だが、このタイミングはな・・・出来過ぎているというか・・・」
俯瞰してみれば、会わせないようにしていた、ともとれる。
ノバラ自身はその通り名とともに、上層部やファースト連中にはよく知られているが、たきなは無名で燻っていた。少なくともここ一年くらいは。
だが、今はその必要がなくなったのではないか。もしくは、このカードを切ったのではないか。
フキにはそこに当人以外の意思が見え隠れしているように感じているのだ。
「・・・どういうこと?」
エリカの疑問の声に、フキは自分の考えを述べる。
「・・・今のたきなは延空木事件で真島を撃退したことを千束とともに評価されている。だが、たきなはもう本部に戻るつもりはなさそうだ。DAは優秀なリコリスを手放した形にも見える」
千束に続き、たきなも、となれば、DAは手痛い戦力低下になるだろうし、楠木はあまり気にしないだろうが、上層部は少しでも多く優秀なリコリスを手元に置きたいと考えてもおかしくない。
そうだとするならば、何らかの方策を取ってきても不思議ではない。
「ノバラを使って、引き戻す・・・?」
ヒバナが上層部が考えていそうなことを口に出した。
まさか、本当に真面目に検討しているとも思えないが、この機会にそれを知る機会があれば、たきなが里心つくかもしれない、という考えくらいはしていてもおかしくはあるまい。
「可能性はあるだろう?だが、ノバラではな・・・」
ククッとフキは笑みを浮かべた。
上層部が何を考えているのか分からないが、その程度の血縁『かもしれない』などというあるかないかすらよく分からない縁でノバラを動かそうなど、片腹痛い。
「大人の思いどおりに動く訳がない」
せいぜい煽り散らして、裏をかいて、プークスクスと失敗した連中を見て笑い転げることだろう。
そう考えたフキはいずれ上層部の方が騒がしくなりそうだな、と感じていた。