Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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過去回想回 3

すみれちゃんとの出会い


47 This is fate

「あはははっ!その心臓、私が引きずり出してやるっ!」

 

 ノバラは哄笑すると、右手でグロックを引き抜き、近くにいるデカブツの右膝裏を狙って撃ち放つ。

 

(さすがに一発で無理でも弾が切れるまで!弾が切れたらナイフでも短刀ででも素手でもぶち壊す!)

 

 相手も狙いに気づいているのか、そうプログラムされているのか分からないが、ノバラを引き離そうと動くが、ノバラの方が速い。機械化されパワーが上がったとしても、その重さと大きさ故に、小回りと俊敏性という観点ではノバラの方が上回った。そして、同士討ちができないと言う縛りからもう一体は有効な手も打てず、ただ、銃口を構えるだけしかできていない。

 

(頭が固いなぁ!そんなにお仲間が大事か!?それとも、プログラムされていてできない!?くだらんおもちゃを作って遊びやがって!!)

 

 都合六度。極度の集中力を発揮したノバラは膝裏を寸分違わず狙い撃ち、結果として、その関節は破壊される。

 

 グシャと右足がひしゃげ、次いで、踏ん張ろうとしていた左足が股の辺りで異音を上げる。

 

(ラッキー!・・・だが、今の動き反射か!?妙にプログラムに縛られている癖に変なところだけは元のままか・・・なら、『コレ』も効くか!?)

 

 カチリ、とノバラは意識を切り替える。

 

 『ソレ』の表現は難しい。

 

 千束は『喰う』と表現していて、それは確かに一面を表していると思われるが、ノバラの見解はまたそれと少し異なる。

 千束にしてみれば、ノバラの普段の存在感の薄さと『ソレ』を表側にしたときの濃さのギャップをそう表現しているのだろうが、それだけでは説明できないものがある。

 

 『ソレ』は、普段は自分の内にしまっている。

 

 『ソレ』は、殺意に似ている。

 だが、『ソレ』は愛情にも性欲にも食欲にも似ていた。

 

 しかし、『ソレ』はただただ根源的な『孤独』を思わせた。

 その裏返しとして、『ソレ』は自らを強烈に主張する。

 

 あらゆるものを排して、自分だけを見ろと強制する。

 何者も究極的には『ソレ』と向き合う必要がある。

 

 そして、『ソレ』との向き合い方は人それぞれで異なる。

 

 『ソレ』は、常に隣にありながら、常ではまるで意識しない。

 

 だが、人にしろ動物にしろ、『天敵(natural enemy)』を目にしたら、きっと『ソレ』を予感するだろう。

 

 人種の本能なのか、それともノバラの体質によるものなのかは分かっていないが、ノバラが自らの気配を消すのを止めたとき。内側に向いている『ソレ』を表に現したとき。

 

 ノバラはあらゆる人間から『天敵(natural enemy)』として認識される。

 

 自らの牙をむいて見せたとき、人は自分を『天敵(natural enemy)』と誤認して、その先の『死』に恐怖する、ノバラは自らをそのように解していた。

 

 故に誰しもがノバラをノバラとして認識したときに怖気を覚える。

 

 ゾッとする、あるいはギョッとする。酷いときには、ノバラが敵意を持っていることに気づいた瞬間、その本能的恐怖から精神に異常をきたす。

 

 それに気づかされた(・・・・・・)からノバラは本来の自分を内側にひた隠す。

 

 無邪気さで覆い、笑顔で欺き、突拍子のない言動で誤魔化す。

 

 だが、今その仮面を外す。

 

 

 抜け落ちる表情。

 虚空を見つめた昏い瞳。

 浅く開いた口。

 止められた呼吸。

 自然体に力を抜いた体。

 

 まるで凪いだ水面のような静けさから一転。

 

 

 ・・・狼は牙をむいた。

 

 

 ビクリと体を震わせ、硬直した瞬間をノバラは見逃さなかった。

 

 左の逆手で持ったナイフを飛び上がりながら、デカブツの首筋に突き立てる。

 

 ガリッという重い手応えを感じる。つぎ目にナイフが引っかかったことを悟ると、相手の体を土台にしながら、再び飛ぶとつぎ目に引っかかったままのナイフを蹴りつける。

 

 ガリガリッという音とわずかに肉に食い込む感触を感じながら、ノバラはこれでは浅い、と猫のように空中で体を回転させると、わずかに体を傾かせたデカブツに刺さったナイフに向けて、全体重を乗せた踵落としをする。

 

 グシャリという会心の手応えは、相手の命を奪うのには十分だったのだろう。わずかに遅れてつぎ目から血が噴き出す。

 

(・・・これで一!お前はどうするっ!?)

 

 ギラリとノバラはもう一体を睨みつける。

 

 だが、もう一体はノバラに銃口を向けるだけで、発砲はしない。

 

(ハハッ!正に機械だな!だと言うのに、本能には抗えない!?中途半端な成り損ないめ!)

 

 ノバラは倒れたデカブツに隠れながら、その腕を取ると、まだ手から離れていない正体不明の短機関銃の引き金をその上から引く。

 

 ダダダダッと言う銃声とともに、四肢を打ち抜かれて、もう一体のデカブツは地に伏した。

 

 ギュルルルという駆動音とともに起き上がろうとするものの、四肢が破壊された状態ではそれも適わない。

 

「まぁ、同情はしてあげる。あなたたちも成りたくてそうなったわけではないでしょうし」

 

 ふぅと息をついて、ノバラはそう呟いた。

 改めて部屋の中を見回せば、デカブツが二つ転がっている他にも研究者らしい死体が三体ある。血の乾き具合からして、ノバラの想像通り、デカブツがここに襲撃したのはノバラが乗り込むよりも結構前のように思われた。

 

(やはり、目的達成と同時に休眠状態で待機していた?意味分からん。普通に撤収すればいいだろうに・・・後続が来るのを待つとしても、遅すぎる・・・使い捨て?まぁまぁ金がかかっているだろうに・・・)

 

 何とも奇妙な状態だと思った。

 こう言っては何だが、研究者は所詮研究者でしかないし、脅威足りえない。途中の化け物犬も、ビックリはしたが、十分に訓練された戦士なら対応は十分可能だろう。群れ単位で運用されていたら手こずるかもしれないが。

 

(まぁ、一応、生存者を探す方が先か・・・その辺の裏事情は上で考えるでしょ。殺した方の心臓は私が引きずり出して持って帰るとして、生かした方はちゃんと回収できるかなー・・・身体機能の維持もバッテリー便りなんだろうし・・・ん?バッテリー!?)

 

 まさかと思って、デカブツを見ると、生き残った方がわずかに嗤う気配を見せて、青白い光がバチッと光る。

 

(やられたっ!?自壊装置!!)

 

 続けて、殺した方も同じようにスパークする。

 

 肉の焦げるような匂いがした。

 

Oh no!?F*cking damn it!(あぁぁぁ!?クソがぁぁ!)

 

 ノバラは思わず頭を抱えて涙目になった。

 

(あぁ・・・千束へのお土産がぁ・・・ま、まぁ、残骸でも回収できれば、ちょっとは助けになるよね・・・ね?)

 

 臨時収入があったのに、大半が税金で引かれたような何とも言えない虚しさに、とほほ、と項垂れる。

 

 やる気は大分削がれたが、それでも仕事はまだ残っていると頭を切り替える。

 

 だが、まぁ、生存者なんていないだろう、という諦めの気持ちもあった。いるんなら、彼らもここで待機などしていなかっただろうし。

 

(ん・・・しかし、PCなんかがあるところを見ると、ここは主に書類をまとめていたところかな?・・・半分くらい吹っ飛んでるけど。解析班の人、頑張ってください)

 

 忙殺されるであろう情報解析班の苦労を思って、ノバラは思わずなむなむち~んと両手を合わせて拝んだ。

 

(犬っころはどこに入れていたんだろう?もっと言えば、死体はあったけど、実験体はどこに?反対側だったか?だけど、それなら彼らもそっちに行くだろうし)

 

 ここで探索を打ち切った理由はあるはずだった。

 

 ノバラは隠し部屋がないかこんこんと壁をたたきながら、部屋の中を探る。

 

 コツッという音の違いがある場所を発見して、繁々とその壁を見ると、どうも先に空洞がありそうだということは分かる。何か仕掛けがありそうだと辺りを見回せば、ボタンのようなものがある。

 

(ん~?あいつら、これを見逃した?そんなことってある?見つからなかったら、入り口と一緒で吹き飛ばせばいいだけなのに・・・)

 

 だが、不思議と嫌な予感を感じなかったノバラはそのボタンを押す。

 

 プシューという音をたてて、あっさりと壁がスライドして開いた。

 

(何かあると思ってたんだけど・・・?)

 

 怪訝な顔をしながらノバラが部屋の中に入ると、血と鉄の匂いとツンとした刺激臭がする。

 

 中には、自分が壊したデカブツと同じものがひしゃげて転がっていた。一体ではない。少なくとも三体はあるように見えたが、あまりにも無残に壊されているので、正確な数は分からない。

 

「えぇ~・・・一体何なの・・・?」

 

 そして、部屋の中を見回して、裸のまま座り込んでいる少女を見つけた。

 

「は?あ?えぇ~・・・?」

 

 生存者がいるとは思っていなかったこと、少女が裸だったことでノバラは困惑した。じっと少女を見つめてみるが、少女はまるでノバラに興味がないように虚空を見つめていた。

 ノバラが少女を観察して見れば、異様に発達した筋肉に目がいった。年のころは同じくらいだが、同年代の中でも遥かに鍛え込んでいる自分よりも筋肉が発達している。

 次いで薄汚れてはいるが、可愛らしいその容貌に目が釘付けになった。

 こんな腐りきった場所でありながら、懸命に咲く一凛の華のようであった。

 

 そして、その昏い瞳を見つめた。

 

(・・・ああ・・・これは・・・)

 

 自分と同じだと思った。

 ノバラ自身は、千束と出会ってからの記憶しかない。だが、折に聞く自分のその時の様子から、こんな目をしていたのだろうな、と思った。

 

 輝きのない瞳。

 希望を持たない瞳。

 すべてが嫌いになって、拒否するような瞳。

 

(・・・千束はどうしてくれたんだっけ?)

 

 ノバラはその全てを見透かされたような瞳を正直に怖いと思った。

 だが、同じくその瞳に対峙した千束はそれを感じさせず思いっきり顔を輝かせたことを覚えている。

 

 知らず、ノバラはその少女を抱きしめていた。

 自分に千束がそうしてくれたように。

 

 

 どれほどそうしていただろうか。

 ぐ~っという音にノバラは現実に引き戻された。

 

「・・・お腹空いているの?」

 

 少女はぼぅっとした様子で答えないが、ノバラはポケットを探り、念のため、と携行していたゼリー飲料を取り出す。

 

「足りないでしょうけど、ちょっとは足しになるでしょ、ん?」

 

 フタを外して少女に差し出すと、少女はきょとんとした表情をした。

 初めて見せた表情が何とも愛らしく、ノバラはくすりと微笑んだ。

 

 受け取る様子がないので、口に近づけてやると自分から口に含んでちゅっちゅっと吸っている。

 何だか赤ん坊に授乳しているみたいだなぁ、と妙な気分になりながら、ノバラは少女が吸いやすいようにノバラはパックの腹を緩く押してやる。

 少女は中身を吸い尽くすと、それ以上出てこないことが分かった様子で、傍目にも、が~ん、という擬音が見えるようなショックを受けた顔をした。

 最初の印象と異なり、思いのほか表情豊かな少女の様子にノバラはクスクスと優しく笑う。

 

「・・・だれ?」

 

 舌ったらずな声だった。

 喋れないかもしれない、と思っていたノバラは、おや、と思いながらも優しく答える。

 

「私はノバラよ。あなたは?」

「すみれ」

 

 少しだけ誇らしげに答えるすみれの髪をノバラは優しく撫でる。するとすみれは気持ちよさそうに目を細めた。

 

「すみれは、これからどうしたい?」

「・・・?」

 

 ノバラの問いにすみれは首を傾げた。ちょっと難しかったのかもしれない。

 

「・・・私と一緒に来る?」

 

 それ以外に選択肢などないし、だとしても碌な未来ではないが、ノバラにはすみれを放置することも、ここで殺してあげることもできそうではなかった。

 

「・・・のばらちゃん、やさしいからすき~!いっしょにいく~!」

 

 にぱっと笑ったすみれの笑顔に微笑み返しながらも、茨の道を歩ませることになる選択を迫った自分にノバラは自己嫌悪した。

 

 だが、それでも。

 

 決してその選択は間違いではなかった、とそう思ってもらいたい。

 

 だから、ノバラは決意した。

 すみれを守ることを。

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