Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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49 curiosity

三日月の刻印(Crescent Brand)って、義肢で有名な・・・」

 

 それは千束も知っている有名企業のロゴマークマークであった。

 

「有名なのは、確かに三日月義肢技術研究機構だね。介護用品や義手、義足なんかを開発・販売している。そのメーカーロゴが三日月の刻印(Crescent Brand)を使ってる・・・それで合ってるよ?ただ、裏社会では、戦争で手足を失った人などに、銃やナイフが内蔵された義肢を売っているっていう話もあってね?この程度なら、当然、刻印はないんだけど、ハイエンド品には同じような刻印が彫ってある。だから、裏では三日月の刻印(Crescent Brand)って言えば、通称CBと言われる兵士の回復工場のことなんだよ」

 

 ノバラの語る内容は陰謀論めいた話で、千束やたきなの持っている企業イメージとは全く異なっていた。

 

「でも、あそこは・・・慈善団体のイメージが強いんですが」

 

 よくテレビに映るのは、戦争で手足を亡くした子供に義手や義足を無償提供している映像である。これを世界規模で行っているから、誰しもが、一度は目にしている。

 そして、障害者総合スポーツ競技大会では、その支援を受けた者が優勝するなどしてメディアへの露出も多い。

 

「・・・似てるな」

 

 ポツリ、と千束がそう呟いた。

 

「そうでしょ?やり口はアラン機関に似てる」

 

 難民であったところをアラン機関に支援されて大会で優勝した、金銭的余裕がなく、大学に通えなかった者がアラン機関に支援を受けて、研究結果を世界的に評価されたなど、アラン機関はその才能を世に送り出した謎の慈善団体と世間に思われている。

 その一方で、先の延空木事件では、テロリストである真島への支援も行っていること、千束についても、『殺し』の才能を支援されたという経緯もある。

 

 世間一般で認知されている表の顔と裏の顔が全く異なる。

 

 だが、表のイメージを慈善団体とするイメージ戦略はよく似通っていた。

 

「ノバラがCBを疑う理由って何ですか?」

 

 しかし、たきなとしては、ノバラがそこまでCBを疑う理由が見えてこなかったので、そう問いかける。

 

「例のデカブツを開発できるとしたら、そこだけかなって。解体してからはロゴも確認してる・・・あ、そうそう、回収した心臓の出来は酷いものだったよ?コンパクトに出来なかったからって、バッテリータンク内部も使って血液を循環させてたし、何よりあの機械化そのものが基本的に使い捨てが前提の代物だったからね」

 

 ノバラのちょっと怒っている様子に千束は思わず苦笑した。

 

 当時のノバラとしては、壊れてしまったとは言え、その心臓には淡い期待をしていた様子が見て取れた。おそらくだが、千束のタイムリミットについても知っていたのであろう。

 

 ノバラが自分を想う気持ちは嬉しいが、相手から命を奪ってまで、ましてや妹が危ない目に遭ってまでは、と思ったからだ。

 

 実は必死に千束のために動いていたという姿を千束には露程も見せずに、無邪気に振舞っていたのは、ノバラの気遣いかもしれないが、そんな妹のちょっとした気遣いが千束には何ともくすぐったい。

 

「しかし、解せないですね・・・何故そんなもので研究所襲撃を?」

「あそこは元々廃棄予定だったことは間違いないよ。ただ、CBとしてはすみれと研究結果は押さえたかった。でも、研究所の連中は切り捨てられることに気づいたから、途中で別のパトロンに接触していたみたい。CBはそれに気づいて、私が行くずっと前から強襲をしかけていたんじゃないかな?・・・だから、ここからは推測になるんだけど、その強襲はすみれ相手に失敗して、デカブツを送っていた。それでも失敗するから、最終的にはすみれ相手に兵糧攻めを選んだ・・・そこに私が突入したってところかな?」

「なるほど・・・」

 

 CBが何をどう考えていたのかは分からないので当て推量になってしまうのは仕方ないとは言え、何とも合理的、効率的ではないという点がたきなにはとても気持ち悪い。ノバラの様子を見れば、自分で推測しながらも、その点はたきなと同じように思っていることが分かる。

 

「ま、今で分かっていること、考えられることはこんな感じかな?当面の方針は、すみれを作戦行動から離しつつ、社会勉強をさせて、千束に手加減を覚えさせてもらうってことで、よろしく~」

 

 ひらひらと手を振るノバラに千束は渋い顔をした。

 

「手加減ねぇ・・・それよりも前に感情コントロールとか精神的成長が必要なんじゃないの?」

 

 すみれの事情は聞いたので、千束としては、ノバラの求める手助けをすることに文句はない。だが、手加減以前の問題で、すみれには足りないものが多すぎると思っていた。

 

「そこは、信頼と実績の千束お姉ちゃんでしょ?」

 

 つまりは、自分と同じように上手に育ててね、ということだろうが。

 

「・・・丸投げしやがったな」

「えへ?」

 

 千束の物言いたげな表情に、誤魔化すようなノバラの笑顔に、千束はため息をつきながら、ちょっと強めに頭を撫でる。

 ぐりんぐりんとノバラの頭を回すように撫でると、ノバラはうな~、という鳴き声を上げながら、楽しそうに笑っている。

 

「それじゃあ、明日からは忙しくなりそうだな」

「そうだね!特に千束は明日からすみれのことよろしくお願いね?」

 

 

「・・・ん?」

「・・・え?」

 

 どうにも噛み合っていないな、と千束が首を傾げると、同じようにノバラが首を傾げている。

 

「私はここですみれの面倒を見ればいいんだよな?」

「何言ってるの?千束のところに住みこませるに決まってるじゃない」

「・・・おい、聞いてないぞ」

「え~、よろしくって言ったでしょ~?」

「それだけで、分かるわけないでしょ!?相変わらず、変なところで言葉足らずなんだから、アンタは!」

 

 千束がノバラにぐりぐりと梅干を食らわせていると、ノバラがあぅあぅ言いながら冗談めかして痛がっている。

 

 そんな姉妹のじゃれあいを見て、たきなはクスリと笑みを浮かべる。

 

「あ、たきなは私を泊めてね?」

 

 そして、不覚にもノバラの奇襲的言動にたきなはちょっとだけ固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 途中からは眠りに落ちているすみれを気にした様子もなく、千束とノバラはきゃいきゃいと楽しそうに姉妹喧嘩は続けていた。

 顔を赤くした千束が「私だってたきなの家に泊まったことないんだぞ!?」と言って首を絞めれば、ノバラが「そんなの自分から行ってない千束が悪いんでしょ!?」などと言って、千束の髪を掴んで抵抗する。絞めを解いたノバラが千束の後ろに回ると、むんずと千束の胸を掴む。むにむにとノバラは胸を揉みながら「ふはは!千束破れたり!」と責めると、千束は力が抜けた様子で「あ、バカバカ!?本気出して揉むんじゃ・・・ぁんっ!?・・・ない、んぅ!?こ、この~!!」と悩ましい声を上げながら、反撃に出て、後ろ手でノバラのお尻をまさぐる。ノバラは「ひゃん!?お、お尻はらめぇ!?」と嬌声を上げながらも千束の胸を揉むのは止めない。

 たきなはいいとも悪いとも答えていないのだが、もはや二人の中では決定事項らしく、たきなのことなどお構いなしにじゃれ合っている。お互いに本気ではないということが分かるので、たきなは苦笑しながら、こっそり席を外した。

 

 お花摘みというやつである。

 

「・・・随分楽しそうだな?」

「クルミ?」

 

 和室でごろんと横になったままたきなに声をかけたクルミは、お腹を膨らませて苦しそうにしていた。

 

「・・・食べ過ぎた・・・」

 

 動けん、とばかりに仰向けになっているクルミの様子が、ミルクでお腹一杯になってコロコロ寝転がっている子犬のようで微笑ましく、たきなは思わず笑みを浮かべた。

 

「調子に乗って食べるからです」

「旨かったから仕方ない」

「・・・そうですね。それで何か?」

 

 それが、本題ではないでしょう、とたきなが切り出すと、クルミは少しだけ言い難そうにしながらも、真剣な顔で問いかけてきた。

 

「・・・気になっていないのか?」

 

 たきなは、すぐに、自分とノバラが姉妹かもしれないという話のことだと気づいた。

 

「あぁ、ノバラと私のことですか。気にならないと言えば、ウソになってしまうかもしれませんけど。積極的に明らかにしたいとは、あまり思いませんね」

「何故だ?たった一人の肉親かもしれないんだぞ?」

 

 たきなにしてみれば、それは本心からの言葉なのだが、クルミはあまり納得いかない様子であった。

 

「・・・でも、それだけでしょう?」

 

 続けてたきながそう言うと、クルミは難しそうな顔をした。

 

「ノバラもそんな感じだったな。そういった思考はリコリス独特のものか?」

「さぁ、どうでしょう・・・?ただ、私たちは孤児で、他の子たちと一緒に育っているから、みんなが家族、という想いが強いのかもしれません」

 

 しかしそれは基本的には仲間意識である。

 ルームメイト、友達、親友、戦友。

 そういった親しみや友情があっても、千束とノバラ、あるいはフキとノバラのような目に見える愛情で繋がっているような関係は稀だろう。

 それぞれが血の繋がりなどなくてもちゃんとした姉妹関係を築いている。

 だから、そこに肉親だから、と割って入るのは、何か違うな、とも思う。

 

「・・・なるほどな。だが、ボクは興味がある!」

「はぁ」

 

 クルミらしいな、とたきなは思わず呆れたような返事をしてしまったが、意外な程に、クルミの顔は真剣だった。

 

「だから、調べさせてくれないか?」

「・・・それに何か意味はあるんですか?」

「興味があるだけだ。だから無理にとは言わない。でも、調べておけば、後で必要になったときに確認するだけだが、いざ必要となったとき、これから調べる、では手遅れになることもあるだろう?結果が知りたくなければ、ボクが教えなければいいだけだ。無駄だ、と思う情報でも集めておくことは力になるんだ」

 

 興味がある、それだけで何でも調べたがることがクルミの強みでもあり、弱みでもある。それが原因で命を狙われたこともあったが、まるで懲りた様子はない。

 だが、これが単なる興味本位というだけではなさそうな気配にたきなは気づいた。

 

「なるほど。私は構いませんよ。ノバラには?」

「・・・ちょっと、思うところがあってな。アイツには内緒だ」

 

 しーっと内緒のジェスチャーをするクルミにたきなは複雑そうな顔をした。

 

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