Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「・・・それはちょっと道義的にどうなんですか?」
たきなの言葉にクルミもちょっとは悪いと思っているのか、困ったような顔をしている。
「仕方ないだろう?ノバラは隠し事が多すぎる」
「・・・もしかして、さっきの話聞いてました?」
「ちょちょっと」
キーボードを叩く仕草をするクルミ。
どうやら、盗み聞きしていたらしい。
「おそらく全部は話していないだろ?」
「それはそうじゃないですか?私たちもあえて踏み込んでいない部分もありますし」
例えば、すみれの病状の話だ。
話の内容からすみれの体質は異常に筋肉がつきやすい体質だということは分かる。だが、それと例の延命の話がリンクしない。現在の病状がどうなっているか話していないし、延命の話だけで治療の話も出ていない。分からないのか話す必要がないかはたきなには分からなかったが、今話さないということは、まだ聞いてほしくないということだ。
「・・・何だか、お前ら、アイツに甘いなぁ」
「仕方ないじゃないですか・・・可愛いんですから」
恥ずかしそうに頬を染めるたきなを見て、クルミはやれやれ、と首を竦めた。
「ノバラに対するたきなと千束を見ていると、本当に血の繋がりなんかは関係ないんだなって思った。・・・思ったんだけど、どうしてもなぁ。ボクだって、ノバラが悪意のある人間だとは思わないが、絶対に腹に一物抱えてるだろ、アレ」
「ああ、それは分かります。子狸っぽくて可愛いですよね」
「えぇ・・・?」
ノバラのことを可愛い可愛いとしか言わないたきなにクルミは若干引いた様子を見せた。たきなも自覚があるからか、それには苦笑するが、たきなにはクルミが懸念しているほどのことはないと思っていた。
「でも、たぶんクルミが思っているほどのことはないと思いますよ?良い意味でも悪い意味でも、ノバラは千束とフキさんの妹だって分かります。あの子は私利私欲では何かする子じゃないです。・・・誰かのために、っていうとき、手段は選ばないんでしょうけど」
「・・・逆に言えば、すみれのためになら何だってやるとも言える」
むぅと唸るクルミの様子にたきははクスっと笑った。
心配してくれているのであろうことがよく分かる。
「それは私たちだって同じです。千束のためには何でもやろうと思いましたし、やってくれましたよね?もちろん、クルミに何かあるとなれば、私も千束も何でもします」
たきなの真っすぐな言葉にクルミは顔を赤くしながら、顔を仰いだ。どうやら照れているようだ。
「・・・まぁ、いいさ。結果が出たら、教えるから、聞くか聞かないか、ノバラに教えるか教えないかは、そのときにたきなが判断してくれ」
「ええ。分かりました」
たきながお花摘みから戻ると、あれほど大騒ぎをしていたのに、すみれはまだ寝ている様子であった。
(図太いというか、何というか・・・あ、いえ、子どもみたいに全力で遊んで疲れて電池切れしたみたいな状態なのかもしれませんね)
ノバラが過保護なのも分かる気がする、とたきなは笑み浮かべ、次いでカウンターの方を見て固まった。
ノバラは半裸で涙目だった。
着ていた制服は脱ぎ捨てたように床に落ちている。
薄い緑の下着が慎ましやかなノバラの胸を隠していた。意外と肉付きのいい太ももからお尻のラインが何とも艶めかしい。
・・・それだけでもくらりときてしまいそうなのに。
千束はイケナイ感じに縛られていた。
千束を制服の上から縛り上げている荒縄は、胸のところでバッテンになるように交差して、ふくよかな千束の胸を強調している。腰の辺りではまるでTバックのようになった荒縄が、千束の股に食い込んでいるように見えた。
火照っているような、困っているような、それでいて少しだけ目を潤ませている千束が淫靡な雰囲気を醸し出している。
あまりの痴態にたきなは口(というか鼻)の辺りを思わず覆った。
(し、刺激が・・・破壊力が高すぎます・・・っ!)
「あぁぁぁ!?バカバカ、ノバラ!たきなに見られちゃったじゃん!?」
「千束が私を脱がしたのが悪いんでしょ!?」
「お前が抵抗するから!」
「私だって自衛だもん!」
「・・・いいから、早く格好を直してください」
たきなは後ろを向いて顔を覆ってしゃがみこんだ。
どうやったら、姉妹喧嘩でそんな状態になるのか意味不明だった。
セクハラ合戦から千束が抜け出すためにノバラの服を脱がせ始めたのだろうが、結果として、ノバラは隠し持っていた荒縄で千束を縛り上げたのだろう。いやらしい感じに。
そう推測はできるが、たきな的には、そんなことする?あり得る?と疑問符で一杯だった。
だが、ドクン、とたきなの心臓は強く脈打っていた。
ノバラの小さく可愛らしい姿態と、目を潤ませた泣きそうな表情。
千束の妖艶さすら漂う縛られた痴態と、頬を紅潮させている様子。
どちらも酷く魅力的に映った。
あえて、語弊のある言い方をすれば、『そそる』。
(いやいやいやいやいや!?私にそんな趣味はっ!?)
千束のことは大事だ。仲間として。友人として。あるいはそれ以上の想いも確かにあるが、それは恋愛感情とは別のもののハズだ。
ノバラのことも可愛いと思っている。本当の血縁かどうかは置いておくにしても、千束の妹分というだけで、たきなにとっても可愛い妹分だし、実際、大変可愛らしい。庇護欲を掻き立てられるといった感じかもしれないが。
そんな二人にたきなは一瞬であろうと情欲の目を向けた、ように感じてしまった。
たきなは自己嫌悪しながらも、意識を切り替えようとする。
「ごめんごめん、たきな。思いのほか熱くなっちゃってさ」
千束がたきなを立ち上がらせるようにたきなの右腕をとって自分の胸に抱きしめる。
(・・・千束、胸が当たっています・・・)
「ごめんね、たきなお姉ちゃん?悪気はあんまりなかったんだけど」
千束に促されて立ち上がった、たきなの左腕にノバラが抱き着いてくる。
(・・・ノバラの体温を熱いくらいに感じます・・・)
右と左から似たような、それでいて少し異なる甘い匂いがして、たきなは気が遠くなる。まるで二人でたきなを取り合って誘惑しているようにすら感じていた。
(臨兵闘者皆陣烈在前!)
頭の中で九字を唱え、ふぅと深く息を吐く。
「どしたの、たきな?」
「大丈夫?」
両耳に聞こえるASMRの如き甘い囁き声。
「ぐふっ!?・・・いえ、大丈夫です。大丈夫です。私は正常です。・・・ですから、離してください」
千束とノバラは不思議そうな顔をしながらも、たきなを離してくれたことで、たきなは心の平静を取り戻した。
「はぁ・・・まったく、二人とも。見たのが私だけだったから、良かったものの・・・店長やミズキさん・・・ましてやすみれに見られたらどうするつもりなんですか?」
「「あ~・・・」」
二人して、それはちょっと困るな~、と口を引きつらせている様子はそっくりだった。
これから騒がしくなりそうですね、とたきなは二人を見ながら苦笑した。