Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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時系列的にはリコリコに到着してから三日目。

あれ・・・もう50話過ぎてるのに・・・


52 I wish you a good morning!

 太陽の光がカーテンから漏れて、たきなの顔を照らす。

 

 たきなはそれを嫌がるようにして、もぞもぞとベッドの中で丸まる。

 

 昨日は、思いのほか楽しかったから、多少はしゃいでしまったこともあり、布団に入るとすぐに寝てしまった。その余韻のせいか、布団のあたたかさとぽわぽわとする眠気が心地よく、まだ布団に包まったまま、惰眠を貪りたい気持ちで一杯だった。

 

 しかし、そんなたきなの気持ちを裏切るがごとく、ピンポーンとチャイムが鳴った。

 

 ベッドの中で丸まっていたたきなは軽く伸びをしながら体を起こすと、こしこしと目を擦りながら、時計を見る。

 

 午前6時。

 

 ・・・誰かが来たのだとしたら、ちょっと早すぎる。

 

 とは言え、出ないまでも確認しなければならないだろう、とテレビドアホンに映る人影を確認すると、カメラをのぞき込んでいるようにしている少女が映りだされた。

 

(・・・ノバラ?)

 

 そう言えば、今日から自分のところに泊めてほしい、と言っていたことを思い出す。

 

 特に了承した覚えもないのだが、ノバラだし、まぁいいか、という思いと、何かしら考えのあってのことだろう、とも思い、昨日帰るとすぐに部屋の掃除は済ませてあった。受け入れ態勢は万全である。

 

 ふぁ、とあくびをしながらも、ノバラならあまり待たせる訳にもいかないだろうと、たきなはパジャマ姿のまま、玄関を開けに行く。

 

 ガチャとドアを開けると、ノバラが笑みを浮かべて立っていた。

 

「おはよう、たきな!」

「おはようございます、ノバラ。・・・早いですね?」

「ごめんね、寝てた?」

「まぁ・・・」

 

 確かに普段起きる時間から考えるとまだ三十分くらいは早い。

 

「ホント、ごめん!すみれに捉まる前に来たかったからさぁ・・・」

 

 たはは~、と苦笑いを浮かべるノバラの苦労が偲ばれる。

 若干疲れている様子を見るに、昨日の夜、一悶着あったんだろうな、推測された。

 ノバラにべったりなすみれのことだ。別々に過ごすことになると知ったら、まさしく駄々っ子のごとく駄々を捏ねて泣きわめいていたことだろう。説得は無理と悟ったノバラはすみれが起きる前に退散してきた、という感じだろうか。

 

「・・・どうぞ、上がってください」

 

 察しました、という感じでたきなが苦笑を返すと、ノバラは満面の笑みを浮かべる。

 

「お邪魔しま~す!」

 

 よっこら、とノバラはスーツケースを持って、玄関に上がった。

 ノバラがスーツケースを持っていると、どうにもスーツケースが大きく見えてしまう。五十リットルサイズくらいだろうか。比較的長期と思えば少ないかもしれないが、通常私物の少ないリコリスだと思えば、多すぎるようにも思えた。商売道具も入っているならその限りではないが。

 

「荷物、結構ありますね」

「そう?千束ならこの倍は持って歩くと思うけど」

「それって、不必要な分整理しきれなくて、全部持って行こうとしてでしょう?ハワイのときに経験済みです」

 

 あれは大変だった、とたきなは思わず遠い目になった。

 

 たきなは自分の荷物は最低限にまとめて、スーツケースすら必要としないくらいであったが、何と千束はスーツケース三つ分も持って行こうとしていた。前日にチェックに行ったたきなが眩暈を覚えながら、こんなにいらない、とバッサバッサと取捨選択してやった。なお、お気に入りの私服まで置いていくことになって千束は涙目だった。

 

 ついでに言えば、帰りも荷物を増やしすぎて大変だった。出掛ける度に何か買ってくるので当たり前である。そして、さっさと送ってしまえばいいものを何故か手持ちで持って帰ろうとしているからより面倒臭い。こちらも余計なものは処理しつつ、必要最低限にまとめさせた。千束はしょんぼりしていた。

 

「あ~、ハワイいいな~!私も海外は行ったことないんだよね~。ギリで沖縄行ったくらい」

「でも、それ仕事でしょう?」

空けた(・・・)時間で軽く観光くらいできたよ?」

「・・・ノバラは要領がいいですね」

 

 タイトなスケジュールだったところを、さっさと仕事を終わらせて時間を作ったのだろうな、ということは想像に難くない。

 たぶん、千束も同じようなことをするだろう。

 自分やフキならちょっと残念に思いつつも、決められた時間通りに行動をするだろうな、と苦笑した。

 この辺の任務の遂行具合と自分のお楽しみの両立加減は、正しく姉妹らしい要領の良さである。

 

「ノバラはこの部屋を使ってください。一応、千束が泊まるかもしれないと思って、客用の布団があったのでそれを出しておきましたけど・・・」

 

 たきなとしては、ワンルームでも十分なのだが、いざというときは、千束もセーフハウスとして利用することも考え、間取りは2LDKだ。自分の寝室以外の荷物置き場になっていた部屋を片付けておいた。

 

「ぷふ~っ!千束ったら、たきながせっかくお布団用意してくれてるのに、恥ずかしがって泊まりに来れなくて、たきなのハジメテ、私に盗られてやがんの!」

 

 ノバラはスーツケースを部屋の中に入れながら、お腹を抱えるようにしながらゲラゲラと笑っている。

 

「ああ、昨日、そんなこと言ってましたね」

「にゃはは、千束はあれで、ここぞというときに恥ずかしがって踏み込めないから、たきながリードしてあげてね?」

「・・・リードとは?」

「色々だよ、イロイロ!」

 

 にやにやと笑みを浮かべているノバラは、分かってるくせに、と言いた気だが、たきなはそれを素知らぬ振りで通した。

 

 ・・・ただでさえ昨日、二人のことを変な目で見てしまったのだ。自重しないと絶対にぎくしゃくする。

 

 そんなたきなの気持ちを知ってか知らずか、ノバラはたきなの顔を下からのぞき込むようにしながら、話題を変えた。

 他愛のない話をしながら、二人でリビングに移動する。

 

「たきなは今日、何時頃、リコリコに行く予定なの?」

「九時には行くつもりです。急ぎの依頼があれば、そっちの対応をして、何もなければ、三時頃には店に立つ感じですね」

 

 女子学生というカバーがある以上、平日真昼間から、店に立つわけにもいかない。そのため、基本的には午後からリコリコで仕事をしていることが多い。

 ちなみに、午前中は大体リコリス関係の仕事や訓練、情報収集をしている。

 

「ふ~ん。初日だし、私もそれでいいかな~?」

「店長から何か言われてないんですか?」

「先生?特に何も言ってなかったよ?」

 

 きょとんとした様子のノバラに、たきなはミカもノバラが今日から働くことまでは考えていないだろうな、と想像する。

 

「・・・なら、一緒に行きましょうか?」

 

 そう提案すると、ノバラはぱぁっと顔を輝かせた。

 

「やった。じゃあ、もう少しのんびりしよう?あ、朝食は、私が作るから、たきな、もうちょっと寝ててもいいよ?」

「いえ、もう目は覚めましたし。ふふっ、ノバラのごはん、楽しみです。・・・あ、でも、今日はずんだはやめてくださいね?」

 

 冗談めかして、たきながそう言うと、ノバラは拳で軽く胸をたたいた。

 

「だいじょ~ぶ!これぞ日本の朝食、って感じにするから!」

 

 ノバラはたきなを座らせると、初めて入ったキッチンであるにも関わらず、手慣れた様子でたきなにお茶を入れると、鼻歌交じりに料理を始める。

 楽しそうなノバラの様子を見ながら、たきなはお茶を冷ましながら一口口に含む。

 

 自分で買ってきているお茶だが、他人に入れてもらうとまた一味違う。

 寝起きの体にはやや渋めのお茶が染みた。

 

 ほぅっと息をつきながら和んでいると、トントンと包丁で野菜を切る音が規則正しく聞こえて心地よい。お茶をゆっくりと飲み干すと、たきなは、うとうととし始める。

 

 鼻腔には、香ばしい何かを焼く匂いと味噌の匂い。

 

 何となく懐かしいような感じをしながら、たきなは知らず寝息をたてていた。

 

「・・・たきなー、ご飯できたよー?」

 

 耳元で優しく囁かれて、たきなは眠りから冷める。目の前にはエプロンを着けたノバラが優しく微笑んでいる。

 

「ん・・・。ごめんなさい。ノバラ、ちょっとうとうとしちゃって」

「朝から突撃してきた私が悪いんだから、気にしなくていいんだよー。もうちょっと寝る?それともご飯食べる?」

 

 さすさすとお腹を摩ると自分が空腹なのが分かる。

 

「ノバラが作ってくれたんですから。あったかいうちに食べましょう?」

 

 たきながにこっと微笑むと、ノバラはほわほわと優しい笑みを浮かべる。

 

「ん!じゃあ、召し上がれ?」

「いただきます」

 

 二人で手を合わせて朝食を食べ始める。

 

 なお、ノバラの作った朝食は、ごはんに漬物、焼鮭、豚汁と理想の日本の朝食であり、その美味しさに、たきなは非常に満足した。

 

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