Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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たきなちゃんとノバラちゃんの家での様子


56 She loves her hometown so much

 何故だか非常に疲れた。

 

 ノバラとともに部屋に帰ってきたたきなは珍しくぐでっとソファに身を委ねていた。

 一方のノバラはケロリとした様子でキッチンに立っている。

 

(・・・タフですねぇ・・・ノバラ・・・)

 

 午前とは打って変わって客の入りが多くなったリコリコは色んな意味でてんやわんやだった。

 新顔のすみれは始め、泣きそうになりながら、千束にべったりとくっつき怖々と接客をしていたが、慣れてくると、オーダーを取ったり、片付けをしていたりしていた。地頭は悪くないらしく、オーダーミスはなかったが、片付けは見ていて危なっかしかった。リラックスしている状態であれば、そうでもないのだが、他の人の視線が気になるせいか、妙に緊張していて、加減を誤りそうになっていたのだ。自然、動きはすみれ的にはそおっと、傍から見ればたどたどしく動くことになるので、たきなたちも常連さんたちもハラハラしながら見ていた。

 テーブルの上のお皿をそおっとお盆に載せては、ふらふらとしながらカウンターに片づける。無事にたどり着くと、ぱぁっと笑顔を輝かせるから、自然拍手が起こる。気分ははじめてのおつかいだ。

 すみれは一事が万事そんな感じだったので、見た目はリコリコの中で一番でかいにも関わらず、その見た目と異なる無邪気で幼げな笑顔に、店内の皆が何というかほっこりしていた。あっという間に常連さんたちの心を掴んだようであった。

 ミカに一部とは言え厨房を任されたノバラはと言うと、八面六臂の活躍を見せていた。新作スイーツのずんだどら焼きバーガーは目新しくもあってかすぐに完売した。合間に接客、会計とテキパキこなしており、即戦力どころか、どちらが先輩か分からないほどの活躍振りだ。

 

 ・・・ここまではいい。

 

 問題は、ノバラが接客に出たときの反応だ。

 

 ノバラが接客に出ていたのは、たきながちょっと引っ込んだときで入れ替わるように出ていたようだ。その様子があまりに自然で、常連さんたちも『たきなちゃん、縮んだ!?』と混乱する。明らかに狙ってやっていたのであろう。そして、ノバラが引っ込むとたきなが出てくるので、ますます混乱する。たきながそんな店内の様子に怪訝そうに首を傾げている様子を見て、ノバラは厨房でけらけら笑っていたようだ。

 途中でイタズラに気づいた千束がノバラを引っ張ってきて、そこで初めて昔馴染みの常連さんたちが、『ああ、ノバラちゃんか!』と気づく。そして、たきなと見比べて、何かを察したように頷くのだ。

 リコリコの面々と常連さんたちは家族というか共犯のような奇妙な連帯感がある。特に長く通っているものは、幼いころからの千束を見知っているのだから、何か事情があるのだろうな、と妙に察しが良く、その事情は深く尋ねない。

 

 よって、この場合、たきなとノバラは生き別れの姉妹なのだ、ということが暗黙の了解になってしまった。

 

 これまでもノバラは千束の妹と認知されていたようだから尚更だ。深い事情があるのだろうと、勝手に思われたようだ。想像の翼が羽を広げすぎだが、千束とノバラは姉妹、たきなとノバラは姉妹、ならば、千束とたきなも義理の姉妹か、という訳の分からん図式が作られ、生温かい目で見られることとなり、肉体的にはともかく精神的疲労が極地に至っていた。

 

 だがしかし、ノバラは楽しそうに仕事をしており、たきなとの関係を揶揄われても『・・・ご想像にお任せしますよ?』と上目遣いで切り抜けている様子であった。

 しかし、それでも疲労はあったと思うのだが、そんな様子は見えず、今も夕飯を作ってくれている。

 

「夕飯は牛タンハンバーグ、クレソンサラダに、テールスープだよー」

「ふふっ・・・」

「なぁに?たきな?」

「いえ、ノバラの郷土愛が伝わってくるなぁ、と」

「えっへへぇ!まだレパートリーはあるよ!」

「それは全部コンプリートしなきゃですね・・・いただきます」

「めしあがれ~」

 

 テールスープは口に入れると、ガツンとした塩味があるが、ネギとスープ自体を味わうと丁度良く食べられる。ハンバーグの方は強い塩味をつけず、スパイスの風味が良く出ており、こりっという牛タンの歯ごたえがなんとも心地よく大変美味であった。採れたてなのか、クレソンはの独特の香りが鼻を抜けていくが、肉の脂っこさを洗い流すようですっきりとした味わいである。

 食事が終わると、どこから持ってきたのか、ノバラがサイフォンでコーヒーを淹れ始める。聞けば、ミカが昔練習で使っていたものを借りてきたらしく、豆も帰り際にこっそり挽いてきたそうだ。

 コーヒーの芳しい香りが部屋に漂い、心地よさにボーっとニュースを眺めていると、ノバラがマグカップにコーヒーを入れて、たきなの目の前に置くと、自身はたきなに寄り添うにソファに腰掛ける。

 

 ノバラのちょっと高めの体温を感じながら、互いにもたれかかるようにしていると、千束とは異なった安らぎを感じていた。

 

 コーヒーを一口、口に含めば、ミカほどではないにしろ、十分に店で出せるレベルのクォリティの味がする。ノバラ曰く、サイフォンで淹れた場合、味の再現度が高いので、手順に誤りが無ければ、後は豆の味次第ということで、実は初心者向けだという。

 

「・・・ノバラは千束と違って、何でも率先してやってくれますね」

「ん~?だって、私が一方的に押しかけてるんだもん。それくらいするよ?」

「今日はノバラに甘えてしまいましたが、明日から、私もやりますから」

「あは。じゃあ、たきなと一緒にキッチンで料理できるね」

 

 やった、と笑みを浮かべるノバラが可愛らしく、たきなは思わずノバラの頭を撫でる。

 

「・・・私はノバラほど、上手ではないと思いますが」

「謙遜謙遜。千束が十分おいしかったって言ってたよ?」

「千束も千束で、意外と言っては何ですが、料理も上手なんですよね・・・」

「まぁ、面倒臭がりなだけで、その辺はそつがないからね・・・味付けは大雑把だけど」

「ああ・・・確かにノバラと違って、出汁を上手に使っているイメージはありませんね。味付けもはっきりしたのが好きみたいですし」

「あ、それ!・・・すみれ、大丈夫かな?」

「すみれさんが何か?」

「いや、せっかく、繊細な味も分かるように育ったのに、千束のお子様舌がうつらないかな、って」

「ふふっ!やっぱりノバラもそう思ってたんですね?」

「だって、ねぇ?ジャンクフードが好きなのは別にいいんだよ?私も結構好きだし・・・でもさ、私がせっかく食べるときのことを考えて、味付けしたコロッケとかにさ?ケチャップとソースとマヨネーズかけるとか酷くないですか!?それ、もうそれの味しかしないでしょ!?私・・・私、すみれにそんなことされたら泣く自信ありますよ!?」

 

 思わず顔を覆って泣くような仕草をするノバラ。

 

(実感籠ってるなぁ・・・実話なんですね、これ)

 

 まぁ、ノバラの言っていることも分かるし、千束の行動も想像できる。

 

 ノバラの料理は出汁や素材の味を上手く使っている感じなので、どちらかと言えば薄味だ。一方で、体を動かすことが多いせいか、千束の味付けは濃い目である。つまり、千束がノバラの料理を食べるとちょっと味が薄いな、と感じるから、本来そのままで食べて十分おいしいものに何かかけて食べようとするのだろう。が、これは作った方からすれば、繊細な味付けを冒涜されるような行為だ。たまったものではない。たきなであればあまり気にしないかもしれないが、ノバラの場合は到底許されざる行為なのだろう。

 まして、それを可愛がっているすみれがやったとなったら、絶望感もひとしおだろう。

 

「まぁ、大丈夫じゃないですか。あれで、千束は格好つけたがりですから、新しい妹にあまりダメなとこは見せないでしょう・・・たぶん」

「・・・そうだといいけど」

 

 まぁ、二人の想いを余所に、すみれは既に千束を実は残念と認定しているわけだが。

 

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