Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
最上ノバラの朝は早い。
AM5:00
目覚ましすら掛けずに、その時間には目を覚ましている。
それは場所が変わろうと、隣に誰かが眠っていようが同じことだった。
まだ、眠りの中にいるたきなの寝顔を少しだけ眺めると、ノバラはくすりと笑って、起こさないように部屋を出る。
わがままを言うように、たきなと一緒に寝たい、と言ったところ、赤い顔をしながらも受け入れてくれたたきな。振り回している自覚はあるものの、それはノバラの性分だ。
たきなは時折困ったような、照れたような表情をするものの、千束と同じく、あるいはそれ以上にノバラに甘いような気がしていた。そうなるように振舞っている部分もあるが、それ以上に、親近感を感じ、より甘えたくなってしまう感じがあった。
(『お姉ちゃん』、かぁ・・・)
あるかもしれないなぁ、とノバラは頭の中で考えていた。
表面的には、肉親だからといって何かが変わるわけでもない。だが、無意識レベルでは、一緒にいたり、甘えたりしたいと思っているのかもしれない。
だからこそ、ノバラはそういった気持ちを深呼吸とともに吐き出した。
自分に宛がわれた部屋に入ると、スーツケースからトレーニングウェアとランニングシューズを取り出す。パジャマから着替えると、ノバラはそっと玄関から抜け出し、ランニングに行く。
毎朝、約一時間、概ね二十キロがノバラのルーティンだ。
AM6:00
扉越しに気配を探り、たきなが起きている様子がないことから、ノバラはそっと玄関に入り、浴室に入って汗を流す。
シャワーを浴び終えると、髪を乾かすと、朝食の支度に入る。
AM6:30
たきなが目を覚まし、軽く目を擦るようにしながら、リビングに入ってくる。
「おはよう、たきな」
「・・・おはよう、ノバラ。・・・あれ?ごはん?」
まだちょっとぼうっとしているのか、たきなの口調がいつもと違っていて、ノバラはちょっと可笑しそうに笑みを浮かべる。
「もうちょっとでできるから、座って待っててー」
「・・・うん・・・はい」
ダイニングテーブルに着いたたきなに予め作っておいたコーヒーをそっと出す。たきなは目の前に置かれたそれに気づくと、目を細めたまま、口へと運ぶ。まだ若干寝ぼけている様子だった。
普段はキリッとしているたきながほにゃほにゃととろけているような様子は目新しかった。
(ぼうっとしてるたきな、ちょっと面白い・・・)
今なら何を置いても口に運びそうだった。口に入れてびっくりしそうなものがお酢ぐらいしかないのが残念だ。
また機会もあるだろうから、何か買っておこう、とノバラは心に決める。
「はーい、朝ごはんできたよー」
「・・・あれ?あっ、ごめんなさい、ノバラ・・・また任せてしまって」
目の前にお椀を置かれて始めて、たきなは今気づいたようにノバラの顔を見て、今の状態に気づいて申し訳なさそうな顔をした。
「『ごめんなさい』より、『ありがとう』とか、『ごちそうさま』が聞きたいかな?
「
「めしあがれ~」
ノバラのにこやかな笑顔にたきなは目の前におかれたお椀を見る。真ん中に黄身が置いてあり、周りはふわふわのおそらく白身を泡立てたものだと思ったが、たきな自身はあまり馴染みがないので、軽く首を傾げた。
「・・・でも、これ何です?メレンゲ?」
「ふわふわたまごかけご飯だよ」
ノバラがちょっとだけ醤油を掛けて、黄身を崩しながら食べ始めたので、たきなもそれに倣う。
口に運べば、濃厚なたまごの味と口の中で滑らかにとけるような白身の中からは、次いで弾けるように出汁の香りを感じる。
そこに味噌汁を一口飲めば、何とも幸せな気分になった。
添えられたほうれん草にはしらすが和えてあり、醤油がなくてもほんのりとした塩味が丁度よかった。
「ふぅ・・・ごちそうさまでした、ノバラ。今日もおいしかったですよ」
「は~い、おそまつさまでした。コーヒー、おかわりする?それともお茶淹れようか?」
「あぁ、そうですね・・・ノバラが付き合ってくれるなら、お茶をお願いします」
「りょ~か~い!」
元々がそうなのか、それとも、気を遣っているからか、ノバラは細々と気を利かせてくれる。
まあ、細かい悪戯を仕掛けてくるから、たきなの精神衛生上良くないところもあるのだが。
「おわ、玉露のお高いヤツがある!?」
「・・・貰いものです。開けてもいいですよ?」
「いいの!?やった!」
嬉しそうなノバラの声にたきなは思わず苦笑する。
短い付き合いでもノバラが変に凝り性なところがあるのは良く分かっていた。
コーヒーをわざわざサイフォンで淹れたり、店長のブレンドや豆の挽き方をメモしたり、味見したり。料理にしても、一手間を加えている辺りからその辺が察せられる。
興味のあることには何でも拘ってしまうのだろう。それに練習癖が伴って、より進化していく。
好きこそ物の上手なれ、とは良く言ったもので、ノバラを見ていればその言葉の意味が良く分かる。
「えへへぇ、こんなお高い玉露淹れたのはじめてかも」
ほくほくとした顔のノバラが湯飲みをたきなの前に置いた。自分で淹れたものにも関わらず、目をキラキラさせている。
「では・・・」
意を決したように、湯飲みを口に運ぶノバラが、一口お茶を口に含むと、ほわんととろけたような顔をする。つられるようにたきなもお茶を口に運ぶ。
独特の香りが広がって、次に、じんわりと口の中には甘さとうま味を感じる。
「おいしい・・・」
ほぅっと息を吐いたたきなを、ノバラが顔を赤くして見つめていた。
「どうかしましたか、ノバラ?」
「いや~・・・何というか、たきなのその表情・・・すごく色っぽくて・・・」
「ノバラだって、とろけたような顔してましたよ?」
「そうなの?・・・ちょっと恥ずかしいな」
あわあわとたきなから目を反らし、誤魔化すようにお茶を口に運ぶと、また、とろん、とした顔で味わっている。
そんな様子を見ながら、たきなもお茶を口に運んだ。
AM9:00
たきなとノバラは喫茶リコリコに到着すると、依頼の有無を確認する。
ここ最近は緊急の依頼などもなく、たきなは大体射撃場で練習に入ることが多い。
一方のノバラは給仕服に着替えると、ミカとともに、下ごしらえを始める。
特にずんだ餡作りはノバラに任されているので気合も入る。
解凍した茶豆から薄皮を一枚一枚丁寧にとり、中身をすり鉢に入れる。
すりこ木で少しずつ潰しながら、ある程度潰れたら更に豆を投入して潰していく。全体が潰れてきたら砂糖を加え、すり潰しながら、更に混ぜていく。今回は、ずんだどら焼きバーガーに入れる用なので、生クリームと味が馴染むように少しだけ生クリームを入れ、練るようにしながら、混ぜていく。軽く味見をしながら、わずかに塩を入れて甘さを引き立たせる。
ちょっと多めに作ったので、余ったら冷凍して賄とかおやつ用に使うつもりだった。
「先生、確認お願いします」
ノバラは出来上がったずんだを小皿にとってミカに手渡す。
「どれ・・・うん。おいしくできているな」
ミカはそれをスプーンで口に入れると、みずからの作るスイーツのと相性を想像し、ぴたりとそれに合わせてきたノバラに関心した。やや粗く潰し、甘さは若干控えめにすることで、豆の感触を楽しむことが出来、また、生クリームを少し加えることで、別に添える生クリーム一体感が増すことだろうであろうことが良く分かる。
うんうん、と頷いたミカを見て、ノバラはホッとしたような顔をする。
「じゃあ、冷蔵しておきますね」
「そうだな。よし、じゃあ、またコーヒーを淹れてやろう」
「昨日は借りたサイフォンで淹れてみましたよ。雰囲気があっていいですよね~」
「ハハッ、そうだな。今日はネルドリップで淹れてあげよう」
忙しくなってくるまでの時間、ノバラはミカの淹れるコーヒーに舌鼓を打った。