Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
あとはきまぐれ更新です。
喫茶リコリコはハワイから帰ってきたら、常連客が引っ切り無しに来るようになっていた。
それだけ常連客に愛されているということだが、キツイもんはキツイ。
やっとこさ閉店となったところで、錦木千束はカウンターに突っ伏していた。
「やぁぁぁっと終わった。ちかれたよぉ」
「だらなしいですよ、千束。……コーヒーです、どうぞ」
苦笑しながら井ノ上たきなはそれでも千束を労わるべく、そっとコーヒーを置いた。店長のミカもさっさと奥に引っ込んでしまったので、先ほどたきなが淹れたものだ。
「おほ~~~、これはたきなが入れたの?」
「ま、まぁ、店長に教わってますし」
「ほほぅ! 私、ちょっとコーヒーにはうるさいですわよ!」
す~っとその香りを味わう様子は、たきなから見たらおっさん臭く見えた。
これはおそらく常連のおじさま方の習性を模倣しているためだろう。
いつになったら飲んでくれるのでしょう、そんなことを考えていたから、気づくのが遅れていた。
翡翠色のリコリス制服を着た少女が、たきなに気づかれずにその横を通り(そう言えば、ドアベルも聞こえなかったし、扉を開け閉めした音も聞こえていない)、そして、千束にも気づかれず背後に立っていた。
「では、いただきま……」
千束はそれに気づかないままコーヒーを飲もうとする。たきなは慌てた様子で声を出す。
「千束!」
人影は千束の背後から手を伸ばす。そして……
「す、って、ちょー!」
むにゅう。むにむに。もみゅもみゅもみゅ!
盛大に! それはもう盛大に! 千束の胸の形が縦横に変わる姿。その揉みしだかれる様子は音さえも聞こえるようであった。
「ちょー! ちょー! ちょーいちょいちょい!」
千束としては完全に奇襲を受けた形なので、顔を真っ赤にして下手人を探したところ、いつのまにか、自分の胸の間に顔を埋めている黒髪のちっこいやつを発見した。ぷはぁ、とその少女は千束の胸から顔を出した。
「千束、久しぶり、相変わらずいいおっぱいだね!」
「こりゃあ! ノバラ、どこの世界に人の乳をもみしだく挨拶があるんだー! こらー!」
千束は効率よく下手人をとらえるとヘッドロックをしながら、ぶんぶん振り回しながら、こめかみをグリグリする。
「いたいいたいいたい、いたいよぉ、ちさとおねぇちゃーん」
泣き顔を作った下手人、最上ノバラに千束はたじろいで放してしまった。そんなに強くしたつもりはなかったけど、泣くほどだった!?
「あ、ごめん、やり過ぎた!?」
「……なんちゃって?」
すぐ様、千束の反撃に備えることも、ノバラの攻撃もできるという位置に退避をしている。笑顔はそのままこてりと傾けている。
「……ずいぶんといい性格になっちゃって、まぁ」
じり、と千束が少しずつ間合いを詰めると、ノバラは手をわきわきさせながら、千束から目を離さず、こちらも少しずつ間合いを詰める。
「そりゃあ、お姉ちゃんが千束なので」
「え~ちゃんと、『千束お姉ちゃん☆』って言えよぉ」
「それは恥ずかしいから嫌かな~」
互いの間合いは後数ミリといったところで、たきながもっともな疑問を挟んだ。
「……千束、この子は知り合いですか?」
ちなみに、たきなは本能的に銃に手をかけていたが、相手が千束の知り合いらしいということで抜かずにいた。
そんな剣呑な雰囲気を悟って、千束は『やっべ』という顔をして、ノバラは苦笑して、互いに戦闘?態勢を解除した。
「あ、そっか、たきなは元々京都支部からだもんね。この子は知らないか。私の昔のルームメイト、妹分の『最上ノバラ』ちゃんです」
千束はノバラのふわふわした黒髪をぽふぽふと撫でながら紹介する。
「井ノ上たきな、です」
「DA仙台支部特殊作戦群から出向となりました「最上ノバラ」です。相棒と一緒に……って、あれ?」
よく見たら、店内にすみれがいない。
そうか、途中で懐かしくなって、走り出したからな。
うっかりうっかり。
などと思っていたら、店の扉がゆっくりと開いて、ちり……~んという何とも頼りない音がした。
息も絶え絶えといった様子の少女は店の中にノバラの姿を見つけると、へなへなと座り込んだ。
「……ノバラちゃ~ん、早すぎだよ~……ふぇ~」
えぅ、えぅと半泣きの少女を手で示し、とっておきのお澄まし顔で言った。
「こちらが、相棒の「伊達すみれ」です」