Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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ノバラちゃんのお仕事


60 Good night

PM9:00

 

 翡翠色のリコリス制服に身を包み、見えないところに各種ナイフを仕込み、念のため背負ったサッチェルバッグの中には、短刀と応急手当用の医療器具一式のほか、スモークグレネード、手榴弾などが入っている。

 前髪はリボンとヘアピンで留めていた(半ば強制的に留められていた)が、それらを外すと、いつもの目線の隠れたノバラの姿となる。

 

 部屋から出たノバラは玄関を出ようとしたところ、たきながリビング側からこちらを伺っていたので、軽く笑顔を返す。

 

「じゃあ、たきな、行ってくるね」

「・・・気を付けて」

 

 心配そうにしているたきなにノバラはひらひらと手を振ると部屋を出る。

 

 エレベーターで下に降りるまでの間に、日常から仕事へと気持ちを入れ替える。

 

 エントランスを出ると、黒塗りの外国産車が止まっている。後部座席を開けて乗り込むと、ノバラの着席を確認して、何も言わず、運転手は車を発進させた。

 

「デイジー、詳細な作戦指示を」

 

 ノバラがスマホを取り出して、声をかけるとスマホの画面には金髪ツインテールのキャラが現れる。

 

『ノバラ、おひさ~。東京満喫してる?』

「・・・どうせモニタリングしてるでしょ?」

 

 リコリコのサイバーセキュリティーはクルミがガチガチに固めているので、外部からの不正アクセスはできないようになっている。

 しかし、お客さんたちの使っている携帯端末関係は、リコリコ内部にアクセスしようとしない限りはスルーされている。

 だが、千束やたきなの端末に限って言えば、クルミにログを取られているので、そこをポイントとして不正アクセスがあった場合、クルミに通知が飛ぶことになる。

 この点、ミズキは酔っぱらっていても元DA情報部。自分の端末関係は自分で管理している。

 ミカの場合は、基本、お客さんと同じ扱いであまり関知していない(クルミがミカを怒らせたくないので。端的に言うと怖いので)。

 

 一方で、ノバラとすみれの端末は、クルミの管理下に置かれていない。

 すみれはスマホぐらいしか持たせていないが、ノバラはスマホのほかにタブレットパソコンも持参している。ノバラの専門外ではあるものの、門前の小僧は何とやら。楓の訓示を受けているので、自力でもそこそこ使える(まぁ、クルミどころかミズキの足元にも及ばないレベルだが)。

 そして、これらの端末には、『デイジーアプリ』が常駐している。不測の事態に備えてと言えば、聞こえはいいが、早い話が監視だ。

 特にノバラは一リコリスとしては、あり得ないレベルで機密情報に食い込んでいる。故に、DAがノバラの状況を監視するのは必然である。もっとも、監視を行っているのはデイジーなので、彼女の個人的興味以外には使われていないのが現状だが。

 

『ちゃんと言葉でお話してくれるのも、『お母さん』の役目だと思うけどなー?』

「はいはい。戻ったらね。・・・お仕事の時間よ?」

『つれないのー!』

 

 ぶーぶー文句を言うデイジーに適当に相槌を打ちながら、ノバラは告げられた作戦内容に眉を顰めた。

 

 曰く。

 ①反社会的組織の会合が行われているから襲撃すること。

 ②現状、二十名程度の人員が確認されていること。

 ③店員も含め関係者であるので配慮は不要であること。

 ④可能な限りにおいて銃撃戦を控えること。

 ⑤正面から突破すること。

 

「・・・ついに壊れたか」

 

 詳細な作戦指示を求めた意味がないな、とノバラは呆れた様子で呟いた。これを本気でデイジーが提案しているのだとしたら、まず故障を疑う。

 

『失礼しちゃう!私がこんな作戦立てるわけないでしょ!?対象を決めたのは私だけど、内容は上層部の意向がふんだんに汲まれているよ!』

 

 ツインテールをぐいんぐいんと回して、不本意な様子を露にするデイジーにノバラは苦笑しながら、上層部の意図を探る。

 

(・・・『派手にやれ』ってとこかな。そして、同時に、『見られている』ということの警告か。確かに、ここ最近の任務中は『見られている』感覚はある・・・てっきり、すみれ目当てかと思っていたんだけど・・・当然と言えば、当然だけど、私の可能性もあったのか。あんまり敵さんたちに目立ったつもりなかったから除外してたな)

 

『作戦の意図は単純です。敵性戦力の除去。それ以外は、全て余分なものです。ノバラ、リコリスとしての使命を全うしてください』

 

 色々と考えているノバラに対して、デイジーが掛けた言葉は一見すると冷たいもののようだが、半ば棒読みのどこか笑いを含んだような言い方をされれば、その言葉が言わされているものだと分かる。

 

We must not forgive(社会を乱) those who disturb the order of the society(す者の存在を許しては),I have to do it(ならない)

 

 ノバラが歌うようにそう答えると、スマホの画面のデイジーは満足そうに笑みを浮かべている。

 

『『そういう訳』で、ノバラ。キレイにお片付けをお願いしますね♪』

Aye, ma'am(了解)

 

 デイジーの軽い調子に合わせて、ノバラもふざけて答える。

 

 車は既に止まっていた。

 

PM10:00

 

 時間を見計らって、ノバラが降りたのは、繁華街のただ中だ。

 さすがにこの時間帯に制服姿では浮くかと思ったが、ちらほらとリコリス以外の制服の者もいる。

 

(・・・まぁ、そういう系のお店の人もいるとして。有名高のお嬢様方がこんな時間にこんな場所をうろついているとは・・・まぁ、私たちは仕事しやすいからいいんだけど)

 

 ノバラは彼女たちが変な事件に巻き込まれないことを心の中で祈る。

 

 ノバラが目指しているのは表通りにこそ面していないがそこそこ人通りの多い場所にある。あまり、目撃をされたくないノバラは目的地に到着するよりも早く気配を消す。

 

 道に設置してある監視カメラの場所は記憶はしているが、さすがに全てを避けるのは難しい。故に、ノバラは人の波に紛れながら、可能な限りカメラの死角に入って移動した。

 

 指定の反社会的組織の会合が行われているのは、雑居ビルの2階に入っている飲食店だ。間取りを見た感じから、そこそこの大きさで、元はキャバクラか何かだろう。一階は細々としたガールズバーのようなものが入っているようだ。普通に2階に上がるにはエレベーターに乗る必要がある。

 

 普段のノバラであれば、裏口からこっそり入るところだが、今回の任務内容は何故か正面突破だ。相手側がピリピリしているのであれば、エレベーターから降りた時点で撃たれてもおかしくない。

 だが、だからこそ、ノバラはそのままエレベーターに乗った。

 

 ポン、という音とともに、エレベーターのドアが開く。

 

 店の前に立っていた男二人は、少しだけ緊張した様子を見せるが、中に誰も乗っているようには見えず、上に向かう表示がされていたことから、間違いだろうと思って、すぐに興味を失った。

 

「・・・交代まで、あと何分だ?」

「さすがに、はらぁ減ったなぁ・・・」

 

 随分と疲れた様子をしている男二人は互いに愚痴りながら、モチベーションが低いなりに仕事には忠実だった。警察や不審な人物が来ないかを見張っていた。

 

 ・・・しかし、完全に気配を絶ったノバラには気づくことができなかった。

 するっと男に近寄ったノバラは手近にいた男の顎と額の辺りを押さえると、それを支点として側宙をする。

 

 ゴキリ、と男の首が容易く一回転して首が折られる。

 ノバラがいくら小柄で体重が軽いとはいえ、無警戒のところに約四十キロの体重でそれなりの速度とノバラ自身の膂力を加えてそうすれば、大の男であろうと絶命させるに易い。

 

 もう一人の男は、何か黒いものが降ってきたと思ったら、相方の首が捻じれていく様子に呆気に取られ、次いで周囲を警戒しようとしていた。

 

 ゴキュ。

 

 しかし、次に見えた視界は自分の意識とは関係なく三百六十度以上ぐるりと回った。

 

 ノバラが男の顔を挟むように掴んで前宙をしながら、空中で二回程捻りを加えたのだ。

 

 二人の男はまだ死んではいないようだが、完全に首の骨が折れているので絶命は時間の問題であろう。

 

 外はあまり汚したくなかったので、ノバラはこのような方法を取ったが、中に入ってからは、方法にこだわるつもりはない。

 サッチェルバッグから短刀を取り出すと、腰の辺りに吊り下げ、両手には隠していたナイフを持った。

 

 ノバラは静かに扉を開けると、体をそこに滑り込ませた。

 

 店内は薄暗く、ジャズのような音楽が流れていた。

 

(・・・好都合ね。気づかれる前に、狩れるだけ狩る)

 

 申し訳程度に警戒していたレジの辺りにいる男の口を押えながら、首を切り殺す。

 厨房で作業中の男を後ろから一突きに殺す。

 ソファに座って酒を飲んでいる男を殺す。

 何かを食べている男を殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す殺す殺す殺す・・・。

 

 しかし、さすがにそこまで殺れば気付かれもする。

 最も早く気付いたのは、奥の個室の前に座っていた男だった。

 

「おい!何、寝て・・・っ!?」

 

 気づいたときには、ほとんどの人間が寝ているようにソファや椅子にもたらかかっている。唯一の違いは、血を流しているということか。

 男は何故気づかなかったのか、と戦慄を覚えると同時、喉に熱い感触を覚え、後ろに倒れる。声を上げようとするも、声が出ない。喉に手をやって何かが刺さっているのが分かるも、握る手には既に力が入らなかった。

 何が起きたと店内に目を向ければ、少女が立っているのが見えた。

 少女と目が合った、と思った瞬間、ナイフが男の眼球を捉え、そして、男の意識は暗転した。

 

 その男の声に残っていた男たちは異変に気付き、懐から銃を抜いたり気炎を吐いたりしている。

 

 だが、男たちはノバラを捉えられない。

 

 少女の姿が見えたと思うも、それは陽炎のように消え失せ、次の瞬間には自らの命を散らす。大部屋の中では、銃すら撃つことができずに、血の海だけが作られた。

 

「何だぁ、随分、静かだなぁ」

 

 奥の部屋から、剣呑な雰囲気を持った男が顔を出すなり事態を把握した。

 

「・・・会長、奥に行っててくだせぇ。例のガキの殺し屋ですわ」

 

 そういった男はノバラを真正面から見ていた。

 

(ふ~ん・・・中々使えそうな人じゃない)

 

 少なくともノバラに全く気付くことができなかった死体になった男連中とは気配が違う。

 

「レン、ガキ相手だからって、手ぇ抜くんじゃねぇぞ」

「このザマですよ、抜けるわけねぇでしょうよ」

 

 白木の鞘に収まった長ドスをレンと呼ばれた男が抜き放ち、鞘をそのまま捨てた。構えた長ドスは美しい乱刃がわずかの照明を反射している。

 これは、切れる、と分からせる出来栄えだった。

 

「あら、『敗れたり』って言うところ?」

 

 そんな状態にも関わらず、ノバラはクスリと笑って見せた。

 

「お嬢さん、使えるんだろ?抜かなくていいのかい?」

「・・・抜かせて見せなさい」

 

 その言葉を聞き終える前にレンは切りかかった。

 

 マズイ相手だと思っていた。部下が殺されていたことだけではなく、ここまで気づかせなかったことだ。つまり、それは、その気だったら、知られずに殺すこともできたと気づいていたからだ。

 正面切っての斬り合いなら負ける気がしないと自負していたが、相手の底があまりにも見えなかった。

 

 一見すれば、中学生、いや小学生にも見える。だが、何らの怯えも見せていない。小手調べ、と袈裟懸けに切りかかったが、するりと避けられる。

 

「ちっ!・・・おらぁ!」

 

 次いで、放った突きも最小限に避けられる。何なら、レンが動き出すより早く避け始めているのだ。

 

(くそっ!やべぇ相手だ!)

 

 レンが必死に長ドスを振るうも、掠る様子すら見えない。完全に動きを見透かされている。レンとて、この業界で刃を振るってきた人間だ。これまで何人と切り捨てている。そのほとんどの相手はレンの剣を見切ることすらできずに斬られていて、自分が斬れない相手がいることに、焦りが生まれていた。

 

「会長!逃げてくださぇぅ・・・!」

 

 ほんの一瞬だった。振り返ろうとしただけだった。

 だが、ノバラにはその一瞬で十分で、ノバラは短刀で斬った。

 

 レンは顎の真下から耳の前を通って、頭の上まで刀が通り過ぎる感触を熱いと感じた。腕はすでに力を失ったように力が入らないが、何とか、会長の姿を見ようと振り返り、見えたと思った瞬間に顔は外れ落ち、レンはそのまま倒れ伏した。

 

 ノバラは軽く短刀を振って、血糊を落としながら、奥の部屋に入れば、白髪をオールバックに撫でつけた老人と小太りの男が座っていた。小太りの男は明らかに戦意を喪失しているが、白髪の老人は殺意を漲らせた目をノバラに向けている。

 

「嬢ちゃん、誰を相手にしてるかわかってんだろうな?」

「えっ?知らないよ、興味ないし・・・」

 

 その言葉を聞いて、老人が激昂したように懐から銃を抜いて、ノバラを撃とうとするが、視線の先にはノバラ既におらず、銃を持った右手に熱い感触が走った。

 

「ぐぅ・・・っ!」

 

 気づいた瞬間には老人の右手首の先が無かった。

 

「あ~あ~、つい斬っちゃったじゃない。長生きしたいなら、大人しくしててね。後で止血はしてあげるから」

 

 ノバラの軽い調子の声を聞きながら、老人は視線で殺しそうな勢いでノバラを睨めつけているが、ノバラは気にした様子すら見せなかった。

 

「あ、終わったよ、二人残してるから、よろしくねー」

 

 ノバラはデイジーに作戦終了の連絡をして、残った二人は逃さず引き渡す必要があるので、しばらくは残らなければならない。

 さっきからおそろしい形相で睨んでくるお爺さんも応急処置する必要があるし、とノバラは考えながら、まだ帰れそうにないな、とため息をついた。

 

AM0:00

 

 諸々を片付けたノバラはたきなの部屋に戻ってきた。自分の部屋に戻って、バッグやら装備を軽く片付ける。付いた血などは、ささっと落としてはきたものの、まだ、ちょっと汗臭いのが気になった。

 おそらく、眠っているであろうたきなを起こさないようそっとシャワーを浴びる。さすがにドライヤーを使ったらうるさかろうとノバラは下着姿のままタオルで髪の水分を拭き取って、自分の部屋に戻ろうとする。

 

「・・・ノバラ、お帰りなさい」

「たきな、ただいま。ごめんね、起こしちゃった」

「ちょっと、うとうとしていただけです・・・って、ノバラ下着のまま、うろつかないでください・・・」

 

 たきながノバラの姿を見て、ちょっとだけ、顔を赤らめた。

 

「ごめんごめん、パジャマを部屋に置いたままだったんだよ」

「もう・・・早く着替えて、こっちに来てください。一緒に寝ますよ」

 

 たきなが確定事項のように言うから、ノバラも少しだけ焦った。一応汗も流したものの、がっつり洗った訳ではないから、ちょっと色んな匂いがするのではないかと気になった。

 

「え~・・・でも、ちょっと汗臭かったりとか、気になると思うよ」

「そんなの気にしませんから」

 

 たきながそう言って、微笑むので、ノバラはたきなの言葉に甘えることにした。パジャマに着替えると、たきなはベッドを開けて待っていたので、ノバラはそのスペースに枕を置いて横になると、たきながノバラに布団をかけてくれる。お互いに顔を見るような形で横に寝転がると、たきなが、くすりと笑って、ノバラを抱きしめる。

 

「無事でよかったです。ノバラ。おやすみなさい」

「・・・うん、ありがとう、たきな。おやすみなさい」

 

 たきなの言葉に答えるようにノバラもたきなを軽く抱きしめる。

 

 たきなの温かい体温が心地よかった。

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