Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
『やっぱり、ノバラは見ていて楽しいですねー』
深夜のDA仙台支部特殊作戦群司令室。
常時起動されている大型モニターの中で、デイジーはクルクルと回っていた。
『でも、ちょっと物足りないかなー。どうすればもっと面白くなるかなー』
金髪ツインテールの少女が首を捻っては、難しい顔をしている。
「悪だくみか、デイジー」
司令室に入ってきた楓はデイジーのアバターが難しそうな顔をしているのを見て、そう断じた。
よいせ、という掛け声をかけながら、椅子に座り込んだ楓はそのまま天を仰ぐようにぐったりとしている。
『お疲れだねー、楓』
「・・・頭の固い連中と話すのは疲れる」
『端的に『おばか』と言ってあげたらいいんじゃない?正義感と使命感だけが暴走しているような連中だらけでは、DAもお先真っ暗だねー。いつまでもつか試算してあげようか?』
口元に手を当てて嘲笑する仕草をするデイジー。楓はそれをみて、ふん、と鼻を鳴らした。
「いらん世話だ。ヤツらのツケはヤツら自身で支払うだろうよ。・・・いずれ、な」
楓の静かな怒りを観測したデイジーはそれでもなお、画面上の笑みを崩さない。
『やっぱり、楓は、今回のノバラの指示にお冠のようだね』
「可愛い娘を見せ物扱いにしてくれたんだ。当たり前だろう?」
『仕方ないんじゃない?書面だけで見てもノバラが千束に並ぶと理解できる人はいないだろうし・・・本部での模擬戦もノバラの強みを出しているわけではないからね』
「『英雄』信仰も未だ根強いしな。千束も苦労しているだろう」
『だとすると、やはり、上層部はノバラの実力を信用しきれない?』
「さて。今回の映像でどれだけ理解できたか。あの無茶なオーダーを的確にこなしたノバラには頭が下がるがな・・・あっさりやり過ぎてしまったから、伝わっていないかもしれん。・・・バカだからな!」
楓は吐き捨てるように言った。
『あ~あ、言っちゃった!』
「愚痴りたくもなる・・・ラジアータも同じ結論を持っているのに、何が不満なのやら」
先のノバラの作戦は、本来、モニタリングも予定していなかったし、ノバラのやり易いようにやらせる予定だったものだ。
だが、急遽、本部の上層部と仙台支部の上層部の一部が強硬にノバラの戦闘記録のモニタリングを主張した。
これは、楠木と楓、その他有志の連名で出された今後の予測と方針を上層部に提出したからだろうと思われた。
半年以内に延空木事件と同規模のテロないし暴動。
この結果は、ラジアータとデイジーを含めた複数のAIがそれぞれが異なるアプローチから同じ結論に至っている。
その詳細な内容はその機密性から明らかにされていないものの、現在の日本での犯罪の発生及びその抑止状況から求めたものであり、その確度はかなり高いと思われた。
今回は、その場合の最適人員に「最上ノバラ」と「伊達すみれ」が含まれていることが問題となっているのだ。
本部の上層部としては、自分たちの子飼いだけで対応できると根拠のない自信を持ち、最悪でも千束を投入すれば事足りると考えている。
一方で仙台支部の上層部としては、ここで貢献して本部へという権力志向から、是が非にでもノバラとすみれを投入したい。
故にその戦力分析を、となったとき、すみれの映像記録は多くあり、検証に事欠かないが、ノバラのものは極端に少ない。
すみれの場合、映像記録を見ればその強さは否が応にも理解できる。
だが、ノバラの場合、映像記録での検証が難しいことに加え、映像があったとしても、派手さもなければ、見せ場もない。
見る人が見ればその強さを理解できるのだろうが、現場上がりの者であっても、その実力を完全に把握することは難しい。
ならばと、単純に身体能力等を数値化してみた場合、ノバラのそれはさほど高くはなく、何故この少女が最適人員なのか理解できない状態になるのだ。
楓や楠木、ノバラの古巣の札幌支部で関わりのあった者は、ノバラの優秀さを十二分に理解している。だが、そうでない者は、ノバラを量りかねているのだ。
それが、今回の無茶な作戦指示とノバラの作戦行動のモニタリングを行うことに繋がった。店内の各種カメラをハッキングし、音声などはノバラの持っていたスマホから拾う。これをライブでお偉方に見せることで、その能力の一端を理解できれば、と楓は思ったのだが。
どうにも彼らは何故ノバラが気づかれずに相手を殺せる理由を相手側の油断としか思えないらしい。
楓とて、彼らにノバラの特殊能力じみた隠密能力については声を大きくして説明をするつもりはないが、あの人数にほとんど気づかれずに殺傷する能力を何故そこまで過小評価できるのか、まるで理解できなかった。
まぁ、映像で見た場合、ノバラはそこまで大きく隠れている訳でもなく、何なら、スタスタ、ブス、スタスタ、ブスと歩いては刺し、歩いては刺すという単なる作業にしか見えないのが問題かもしれないが。そもそもエンターテイメントではないのだし、手に汗を握る展開を求められても正直困る。というか、リコリスは通常、ノバラのような感じなのが本来の姿であるべきなので、そこに娯楽性を求めるのがどうかしている。
そんなことをつらつらと考え、楓は首を振った。
「本部の方はまだうだうだと言っている様子ではあったが、あちらは楠木先輩にお任せしよう」
『ふ~ん、そっか~ぁ、本部か~』
デイジーは片方の口を上げるようにしてニヤリ、と笑う。
『面白くできそうだね~』
楓にはこのAIが何を考えているのか可視化して見れなくもないが、あえてそれをせずに苦笑した。
最初に声を掛けたように、何等かの悪知恵を働かせているのは分かりきっているが、少なくとも楓の援護射撃ではありそうだった。
「まぁ、ウチの場合、こうしてあの子にしわ寄せが行くんだよなー」
『うん。それがノバラだから、仕方ないよね♪』
この日、東京にいるノバラの意志とは関係なしに、遠く離れた仙台で再びノバラには厄介な案件が振られることが確定していた。
『『お母さん』からの土産話はもっと、もぉっと面白くしてもらわないと!』
「あんまりやり過ぎて嫌われても知らんぞ」
『私はノバラの『娘』みたいなものですよー。可愛い娘には、ちゃんと面白い話をしてもらわないと。最近、すみれにこのポジション奪われ気味なのは癪なんですけどねー』
デイジーの基礎人格を作るために、ノバラはDA札幌支部に着任したときから完成前のデイジーのプロトタイプを専用端末とともに預けられて個室に放り込まれた。そして、任務の傍らデイジーの教育を行っていた経緯がある。
つまり、ノバラとデイジーの付き合いは、実はすみれのものより長いのである。
ノバラとしてはデイジーに対し、特別なことをしたという認識はないが、何でもない日常の話をしたり、一緒に映画を見たりと、千束が自分にしてくれたことように接していた。AIとはいえ、単なる機械に、ノバラは人として(もっと言えば友人として)接していたのだ。
このような関係があるこそ、デイジーはノバラのオペレーター代わりをすることもあるし、『お母さん』としても慕っているのだ。
その慕い方はちょっと歪かもしれないが。
『ふふふ。面白くなってきたなー』
電子の妖精は繰り広げられるであろう物語を想像して微笑んだ。