Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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休日だ!観光だ!その前の日だ!


62 sightseeing in Tokyo

「諸君っ!ついに、明日!約束の日は来たれり!」

 

 閉店後の喫茶リコリコで、千束は右拳を振るい上げた。

 

「きた、りり?きた、るり?・・・きた、れり。・・・きたれり~!」

 

 千束の声に、すみれが追従するように声を上げようとするも、聞き馴染みのない言葉に舌を噛む。たどたどしく、何度か言い直し、発音が合ったことに気づいて、バンザイをする。

 

「我々は!ついに得るのだ!」

 

 千束が振り上げた拳を広げながら横に振る。

 

「のだ~!」

 

 バンザイをしていたすみれは両手を広げて微笑む。

 

「休日をっ!」

 

 そして、千束は胸の前で再びぎゅっと拳を握る。

 

「お~!」

 

 それを真似するようにすみれが千束の横で同じポーズを取った。

 

「ああ、明日、定休日ですね」

「初めてのお休みだね~。たきな、どっか行く?」

「そうですね・・・」

 

 テンションの高い千束とすみれを余所に、たきなとノバラはいつも通りだった。

 

「ちょいちょいちょーい!?」

 

 反応の薄い二人に千束はちょっと涙目になった。

 千束とて、好きで道化を演じているわけではない(たぶん)。妹たちにせっかくの休みを楽しんでもらおうと気合を入れていただけなのだ。若干空回りしているが。

 

「分かってますよ、千束」

 

 半泣きの様子の千束を見ながら、たきなはどこか楽しそうに微笑んだ。

 

 たきなは思っていた。

 

 普段の千束とノバラの掛け合いを見ている限り、千束はからかうと面白い、と。

 何なら、ショックを受けて、半泣きになるぐらいが楽しい、と。

 

「・・・たきな、何か性格変わってない?」

 

 そんなたきなの様子に千束は、とほほと目を潤ませながら、たきなを上目遣いで見ると、たきなはポッと頬を染める。

 

「そうですか?ちょっとだけノバラの真似をしているだけですけど・・・」

 

 バラ色に頬を染め、クスリ、と微笑むたきなは美しいが、明らかに悪い影響を受けていることに、千束は愕然とした。

 

「ノバラ~・・・あんたの悪い影響がたきなに~・・・」

 

 恨めしそうにノバラを見る千束に、むしろノバラが頬を膨らませていた。

 

「それはこっちのセリフだよ、千束!千束の悪い影響がすみれに!」

 

 基本人見知りのすみれだが、完全に千束に懐いていた。

 ノバラの想定どおりとは言え、微妙に納得がいかない。たった一週間かそこらで、すみれがここまで千束色に染まると思っていなかったからだ。

 

「何だか一緒に育ってきた幼馴染をチャラ男に寝取られた気分だよっ!?どうしてくれんの!?」

「・・・ぇ~・・・これ、私が怒られんの・・・?」

 

 ノバラの見事な逆切れに、千束は理不尽さを覚えながら、しゅんとした。たきなが睨むので。

 

「ノバラちゃん!すみれ、一緒におでかけしたい!」

 

 すみれはノバラの背後から抱き着いて、ノバラの頭の上に顎を乗せた。

 

「まぁ、すみれは、初東京だしね。観光でも行く?」

「おー、さいとしーいんぐ!」

「そうそう。sightseeing(観光)

れっつご~あうと(Let's go out)とぅいーと(to eat)さむふぁんたすてぃっくふーど (some fantastic food)!」

「そうだね、何か美味しいものでも食べに行きたいね」

 

 すみれがたどたどしくても、英語で話していることを褒めるように、ノバラは下から手を伸ばして、すみれの頭を撫でると、すみれは、ほわわん、と笑顔になる。

 

 その様子を見て、たきなは、すみれはどうしたの、とばかりに千束を見つめた。

 

「あ~・・・英語の勉強中・・・?」

 

 どこか明後日の方向を見る千束の様子にたきなは怪訝そうな顔をする。

 

「・・・さては、千束。すみれと映画見まくってるんですね・・・?」

「ま、まぁ、そうなんだけど・・・」

 

 実際、千束は毎日ダラダラとすみれと一緒に映画を見ているわけだが。

 かなり早い段階でノバラにそれを察知され、じゃあ、一緒に英語も教えてあげてね、と言われ、映画を見たり、部屋の中での会話に英語を混ぜるなどして、少しずつ慣らしている最中なのだ。

 今はさほど問題にされていないが、すみれがリコリスの立場としてある以上、一定程度の語学力が求められる可能性があることを見越してのノバラの提案であり、それに同意した千束の教育である。

 すみれは精神性こそ幼いが別に頭が極端に悪い訳ではない。読み書きや発音は置いておくとして、少なくとも英語で映画を見ていても何となく分かるくらいには、理解ができるようになっている。まぁ、何を言っているのか分からないときは、わざわざ戻って、解説してまた続きを見るという、千束には大変なところもあるのだが、在りし日のノバラを思い出してそういったやり取りが楽しくもあり・・・まぁまぁやり過ぎている。すみれを早く寝かせなければならないところ、二人して深夜までダラダラ映画を見るのが最近の流れになっていた。

 

「まぁまぁ、たきな。それで、すみれが楽しんで英語を覚えてくれるならそれでいいんだよー」

 

 ノバラがにこやかにそう言うと、たきなも、仕方ないな、という顔をした。

 

「・・・ノバラがいいと言うなら、そういうことにしておきましょう。でも、それで遅刻とか、絶対にダメですからね、千束?」

「うへ~い」

 

 信用ないなぁ、と千束は悲しそうな顔をした。

 

「で、千束。あれだけ、テンション高かったんだから、何かプランあるんでしょ?」

 

「ふっふっふ・・・ないっ!!」

 

 胸を張って断言した千束を尻目に、たきな、ノバラ、すみれは、じゃあ、帰ろうか、と帰り支度を始める。

 

「あっ、あっ!そ、そうじゃなくてぇ!皆で決めたいなぁって思ってたんだよぉ!?」

 

 あわあわと皆を呼び止める千束に、ノバラはにやり、と。たきなはくすり、と。そして、すみれは、はてな、とそれぞれ笑みを浮かべた。

 

「知ってる」

「分かってます」

「どこ行くのー?」

 

 そんな三人の様子に千束は非常に疲れた顔をした。

 

「・・・君ら、私を困らせて、そんなに楽しいか・・・?」

 

「え、すっごい楽しい!」

 

 ノバラはキラキラ笑顔。

 

「実は・・・ちょっと・・・」

 

 たきなはちょっとだけ頬を染めて恥ずかしそうに。

 

「・・・いつものことじゃないのー?」

 

 すみれは何を今さらと不思議そうにした。

 

「うぅ・・・ただ、妹たちに楽しんでもらいたいと思ってるだけなのに~」

 

 よよよ、と千束は涙を拭いている振りをする。

 

「ん~・・・でも、千束、ホスト側がプランを立ててくれないと、東京に不案内な私たちじゃ、困っちゃうなー」

 

 ノバラのこの言葉を聞いて、千束は少しだけ勢いを取り戻す。

 

「ふふふ・・・だからこそ、この千束さんに行ってみたい場所や、食べてみたいものを言ってくれれば、自信を持って紹介して進ぜよう!」

 

 ばーん、という擬音が聞こえそうな感じで千束が胸を張った。

 

「じゃあ、私、桜鍋、食べたいな」

「え、何、それ馬肉の鍋?そんなのあるの?」

「すみれ、どじょう食べてみたい!」

「どじょう!?渋いな・・・!?」

 

 予想の斜め上の答えに千束は慄くばかりだ。

 

「とまぁ、我々の要望はこんな感じなんですか」

 

 てっきりパンケーキとからそんなのが出てくると思っていた千束は若干疲れた顔になった。

 

「・・・ノバラさんや。もっと若者らしいものはないのかね・・・」

「う~ん・・・亀戸でホルモン」

 

 ノバラの選択は女子というよりは、おっさんだった。まぁ、千束もホルモンは好きだが。

 

「ホルモン!いいね!・・・若者らしいかとか、女子高生らしいかは置いとくとして」

「あ、もんじゃもおいしそう!」

 

 グルメ情報誌を示して、すみれは、皆でわいわい鉄板を囲んでいる姿に心ひかれたようだ。

 

「おー、もんじゃ!楽しそうだな!・・・たきなは?」

 

 たきなはノバラとすみれを見ながら、微笑ましいものを見るような顔をしていた。

 

「そんなにたくさん食べられないでしょうから。・・・また水族館にでも行きたいですね」

 

 ちらっ、と頬を染めながらたきなが見つめる様子に千束は心を撃たれるような感覚を受ける。

 水族館は千束とたきなの思い出の場所でもあるし、そのときの様子を思い出したこともそうだが、冬のデートでは閉まっていたので、見ることができなかったことも思い出した。それのやり直しと考えると、千束の頬も熱くなるような感じがした。

 

「よしよし、それで大体決まりそうだな!ホルモン食って、買い物して、水族館行って、締めでもんじゃかな!では、各員!十分な軍資金を持って、東京観光だー!」

 

 ひゃっはー、とテンションを上げて決めポースをとる千束に、その真似をするすみれ。

 その様子を見ながら、たきなは微笑み、ノバラは頭を抱えた。

 

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