Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「いや~・・・食ったな。・・・主にすみれが」
千束はホルモン店から外に出ると、天を仰いで、太陽のまぶしさに手をかざしながら目を細めた。
後ろでは、拍手されながら、すみれが店内の客に笑顔で手を振って出てくるところだ。
「千束ちゃん、おいしかったね!」
「・・・すみれ、アンタ、お腹大丈夫?」
「うん!まだ食べれるよ?」
そうじゃねーよ、という言葉を千束は飲み込んだ。
大体、まだ食べられるとか、胃の中にブラックホールでも飼ってるのか、と疑うほどだった。
混み始める前の午前十一時ちょっと前に集合し、並ぶことなく店内に入ることができた千束たち一行は、最初は普通に食べていた・・・ハズだ。
だが、途中から明らかにおかしい量の肉が置かれて、それがもぐもぐと食べるのを止めないすみれの口にあれよあれよという間に吸い込まれていく。
まぁ、千束たちも一部食べてはいるのだが、すみれの消費量が異常すぎた。確かに普段からすみれは、二~三人前を食べるのが普通だ。燃費が悪く大食漢なのは、千束もここ最近の共同生活で理解している。
だが、だからと言って、食べ放題でもない店でここまで食うか、というくらいには食いまくっていた。
まぁ、これは、もっぱら注文に徹していたノバラが、例えば、千束が「ハラミとタン塩」と言えば、「ハラミとタン塩それぞれ五人前、ホルモンとレバーそれぞれ三人前、ライス大盛一つ」と相当量を増やして頼んでいたからなのだが。専らすみれのために。そして千束たちが一、二枚食べている内に、すみれが二皿分くらい食べ終わっているという寸法だ。
あまりの食べっぷりに周囲の客が面白がり、すみれがどれだけ食うのか興味を持ったのか、ちょっとずつこちらにお肉も回してくれ、それをすみれが満面の笑みで白飯と一緒にがっつく。それを見て、また頼まれて・・・と延々と続き、食べた体積は一体どこに消えたんだ、と言わんばかりの量がすみれのお腹に収まった。まだ食べれそうではあったものの、あまりに長居をするわけにもいかず、おごってくれたお客さんにお礼を言いながら出てきたわけだが、すみれのフードファイト?に感激したお客さん方が万雷の拍手で見送るという訳の分からん状況になっていた。
ちなみに食事代はノバラが何か黒いカードで払っていた。千束は恐ろしすぎて会計額は見ていない。
「うんうん。ちゃんと食べられるのはいいことだよ。オシャレメシやスイーツもいいけど、やっぱり、人間は肉食べないとね、肉」
「脂肪分が多いのは難点ですが、たんぱく質はちゃんと摂らないといけませんからね」
千束がすみれの食欲に呆気に取られていたところ、ノバラとたきなの二人は気にした様子もなく、のほほんとした様子で二人でお肉を育てながら食べており、実にマイペースな感じだった。
「そういや・・・たきなにノバラ、今日はおそろ?」
いつの間にかたきなとノバラはホルモン店では来ていなかったデニムジャケットを着ていた。
「姉妹コーデを意識してみた!」
ぎゅっとたきなの腕に抱き着いて見せるノバラ。
ちょっと恥ずかしそうにしながら照れた様子をするたきな。
なるほど、と千束は二人を見る。
ノバラは長い前髪を右側に流してまとめては花をモチーフにした白いバレッタで留め、ショートのデニムパンツに丈の短いTシャツを着て、へそ出ししながら、デニムジャケットを羽織っている。
一方のたきなは首の後ろ辺りでノバラと色違いの青いバレッタで髪をまとめており、デニムスキニーに少しだぼっとしたTシャツを着流し、その上から、丈の長いデニムジャケットを着ていた。
二人ともだいぶラフな格好である。
(・・・母と娘に見える、というのは私の心の中に留めておこう・・・)
確かにたきなとノバラは姉妹にも見える。
だが、ノバラの幼さ具合とたきなの大人っぽさの対比で、姉妹よりも母娘の風情を感じていた。
「・・・それにしても、君ら、仲良すぎじゃないかね?」
並んでいれば、この二人はめっちゃ仲いいんだろうな、と一見して分かるくらいにはあまあまに仲良さそうな雰囲気を醸し出している。
しかし、千束の言葉にたきなとノバラはきょとんとした。
「そうですか?普通だと思いますけど・・・」
「そうだよねー?私としては、千束とすみれの方が仲良すぎじゃないかなーって思うんだけど・・・」
ノバラはちらりと千束とすみれを見る。
今日の千束はノバラたちと同様、普段のオシャレさんな服装ではなく、ラフな感じであった。
千束はグレーのローライズカーゴパンツを腰で履き、白いニットシャツ。アウターには千束のイメージカラーでもある赤のカーディガンを羽織っている。
すみれは長い脚を活かした黒のシャープなシルエットのスラックスに、千束と色違いの赤いニットシャツ、その上に千束のお下がりと思われるライダーズジャケットを合わせていた。
二人ともメリハリの効いた体形なので、ノバラが嫉妬するレベルで何を着ても似合う。
しかし、ノバラとしては、着たきりすずめのように全く服装に頓着しないすみれにリコリス制服以外をまともに着させている千束の手腕に驚いていた。
すみれにオシャレをさせようと、色々着せ替え人形にしても、途中で飽きられてしまうから、宥めすかしてオシャレをさせるのに、ノバラがどれほど苦労していたことか。
ノバラとたきなが帰り道に古着屋を巡ったりして、ノバラがたきなに色々服を買わせたのと同じように、千束もすみれをいい感じに連れまわして、すみれが気に入りそうな服を買ってやったのだろう。
それにしても、とノバラは、ジトっと千束とすみれの胸部装甲の厚さと自分のものと見比べる。分かってはいたが、あまりの戦力差を見せつけられ、その絶望感にしょんぼりした。
「・・・ふ・・・ふふふ・・・」
「ノバラちゃん、どうしたの・・・?」
急に虚ろな笑みを浮かべたノバラにすみれは近寄ると後ろからぎゅうっと抱きしめる。すると、更にノバラの目は虚ろになる。
「聞いてやるな、すみれ。ノバラはこの中では・・・というか、リコリコの中で一番慎ましいから、ショックを受けているんだよ」
「つつましい・・・?」
何のこと、とすみれは首を捻るが、ノバラは、その衝撃的な言葉に、表情を取り戻す。
「え、ウソ!私、クルミちゃんにも負けてるの!?」
「見りゃわかるでしょ?」
ノバラはぺったんこだが、クルミはほんのりである。まぁ、千束からすれば、どっちも五十歩百歩だが。
「・・・くっ・・・たきな、明日からずんだを増やすよ!?」
「キサマ・・・もしかして、妙にずんだ推しなのは、それが理由か?」
ずんだは枝豆が材料である。そして、枝豆は大豆である。大豆には大豆イソフラボンが含まれている。大豆イソフラボンは女性ホルモンと似た化学構造が似ており、俗説によれば、バストアップ効果がある、らしい。
「千束には無い人の苦しみが分からないんだよ!?」
うがーっと吠えるノバラに千束は呆れ顔だ。
「分からん分からん!だけど、たきなを巻き込むな」
ぺしっと額の辺りに千束がチョップすると、ノバラはそれを受けて、にやり、と笑みを浮かべて、千束の腕を引く。千束がちょっと屈むようにすると、ノバラは千束の耳にこしょこしょと囁く。
「・・・そんなこと言って、たきなが自分よりもおっきくなったらショック?・・・それとも、実はちょっと嬉しい?」
「・・・な!?ななな、何を言って!?」
千束はちょっと胸が大きくなったたきなを想像して、顔を赤くした。
「そうなんだ~・・・ふ~ん?ふ~ん?」
そんな千束の様子を見て、ノバラは楽しそうに千束を見る。その視線を受けて、千束はあわあわと冷や汗を流す。
「ちがっ!?違うからね!?」
「いーよ、いーよ、千束。私、分かってるから。あー・・・でも、それだと、私がたきなと一緒に住んでるのって実はお邪魔虫?んー・・・でも、こればっかりはなー・・・あ、そうか、そういうときはすみれを連れてお出かけしてれば、問題ないよね?」
「だからそうじゃないんだってぇ!?」
ノバラと千束がきゃいきゃい言い合っている様子を見ながら、たきなは涙目で顔を赤くしている千束は可愛いなぁ、と微笑んでいる。ここ最近では、ノバラにからかわれている千束の顔がたきなの一番のお気に入りだった。
落ち着いて見ていれば、普段の千束なら気づいていたであろうが、精神判定ファンブルをかました千束はテンパっていて、ノバラが半ば遊んでいることに気づいていない様子である。
「たきなちゃん、たきなちゃん!」
「・・・どうしました、すみれ?」
何時の間にか巻き込まれないようにノバラの背後から退避したすみれは、くいくいとたきなの袖を掴んでいた。
「私、二人のこと応援するから!」
えへー、と笑みを浮かべるすみれ。
大方、ノバラが『すみれを連れてお出かけ』と言ったことに反応したのであろうが、純真そうなすみれがそういったことを理解しているとは思えず、たきなは首を傾げた。
「・・・すみれ、意味分かって言ってます?」
「すみれ、そこまでコドモじゃないもん!」
ぷぅっとすみれは頬を膨らませる。
心外だ、と言わんばかりのすみれの様子にたきなは、くすくすと笑みを浮かべながら、すみれの頭を撫でる。
ポッと少し顔を赤らめて、気持ち良さそうにする様子に、たきなは、あぁ、と頷いた。
(すみれは、そういう意味でノバラを好きなんですね)
そのことに気づいたたきなはすみれに優しく微笑んだ。