Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
リコリスの生活は普通にしている分にはお金はかからない。故に不必要なお金は持っていない。
しかし、千束とたきなの事情は異なる。
DAから活動資金は出ているが、それ以外は基本自腹である。それ以外の収入は依頼の報酬とリコリコでの給料がある。リコリコの経営が赤字経営ではなくなったので、依頼報酬までリコリコの維持費に持っていかれることはなくなったが、十分な黒字というわけでもないので、せいぜいで普通の女子高生よりちょっと裕福くらいの範疇で収まっているだろう。
一方のノバラとすみれである。
基本的に二人は従事している作戦こそ特殊であったりするものの、待遇はファーストのリコリスと同程度と思っていいだろう。DAからはファースト二人分程度の活動資金が拠出されている。
だが、普通のリコリスと違って、二人は弾薬代の装備類にはほとんどお金がかからない。
つまり、二人は元々まぁまぁのお金を持っているのである、が。
ここにデイジーという高性能AIを加えて、余剰の資金を投資に回せばどうなるか。
答えはノバラが平然とブラックカードを持っていることでお察しだ。
「ノバラには(お金の)無い人の苦しみが分からないんだよ!」
あまりの経済格差に千束は叫んだ。
先のノバラの叫びをそのまま返した形だ。
「急にどしたの、千束?」
振り向いたノバラの両手は紙袋で塞がっていた。
何なら千束も持たされている。自分が買ったものを持っているのではない。ノバラが買ったものを持たされているのだ。
「買いすぎぃ!?」
「え?心配しなくても、荷物は送るから手ぶらになるよ?」
「そうじゃねぇよ!?」
「お金なら魔法のカードがあるので、心配ないよ?」
「アンタの経済観念が心配になるわ!」
千束は妹の将来が心配になった。
こんな浪費家だっただろうか、と過去を振り返る。
一緒に生活していた頃は、そもそも外にほとんど出ていないので、そういった感じはなかった。これはフキとのときでも同じだろう。
つまりはリコリスとして活動してからになる。
東京に遊びに来るときは確かにお土産をいっぱい持ってきていた。だが、まぁ、これは常識の範疇内だろう。
一緒に買い物に行ったときのことを思い出してみる。
可愛い可愛いとはしゃいだ千束が、ノバラを着せ替え人形にして、似合った服を買い与えた記憶はあるが、ノバラ自身が買っていた記憶はない。
あれ、と千束は思った。
顔からサーっと血の気が引いた。
(私のせいなんじゃね!?)
何故か、フキがガンつけて、ブチ切れている映像が頭を過ぎる。
フキはあれで、自動販売機の使い方も分からないお嬢様なので、妹が浪費家になっていると知ったら、ブチ切れ確定案件である。それも千束のせいだと分かれば、確実に戦争に発展する。
(あばばばば!?)
千束は、体中から汗を拭きだし、白目を剥いて体を震わせた。
そんな様子を見て、たきなはくすくすと笑い、すみれは変な生き物を見るような目で千束を見た。
「たきなちゃん・・・あれ、大丈夫なの?」
「軽い現実逃避だから、大丈夫でしょう」
「でも、たきなちゃんは、千束ちゃんと違って驚かないんだね?」
「・・・もう慣れました。食料品の買い出しでも絶対余計なものを買おうとしますし、軽く洋服を見に行けば、自分の分だけならまだしも、私の分まで大量に買おうとするので」
「あはは・・・」
目に浮かぶようだ、とすみれは思わず苦笑した。
何せ、普段、着せ替え人形の刑を受けているのはすみれである。
あれも似合う、これも似合う、と色々持ってきて、本当に似合わないヤツ以外は決めきれずに、面倒だから全部買っちゃえ、というところまでがいつものパターンである。
きっと、たきなも同じような目に合っているのだろう。
違いはたきなはこんなにいらないとばっさりいくところか。それでも気に入ったものはこっそり自分で買っているのだが。
「千束は沖縄への逃亡と、ハワイでハメを外しすぎたせいで、今は金欠ですからね。自業自得ですが」
まぁ、それでも、普通に遊びに行けるくらいのお金は持っているのだが、ノバラのように散財できるほどではない。
この一年ほどで、たきながリコリコの財政健全化を図った関係上、千束も無駄遣いを控えるようになっていた。もっとも、一人になった途端、タガが外れていたし、旅行先ではテンションが上がりすぎて自重できなかったわけだが。
しかし、特別な事情がなければ、一応ながら、一般的な経済観念は持っており、現状、湯水のように使う、という感じではない。
だが、この豪快に使う感じは、なるほど、千束の妹だと納得した。
「ノバラ、今日は大目に見ていますけど・・・分かってますね?」
「ひぇ・・・」
おっとりとたきなが頬に手をあてて、微笑むと、ノバラは顔を青くした。
顔を真っ青にしたノバラと千束の様子があまりに似すぎていて、すみれは思わず噴き出した。
「んふふぅ!ノバラちゃんと千束ちゃん、顔真っ青で面白い!二人揃って変なのー!」
すみれからしてみれば、千束はハッと考え込んだと思ったら、急に顔を真っ青にして白目を剥いているし、ノバラはたきなに微笑まれただけにもかかわらず、すみれがこれまで見たことないほどに顔色を変えている。
大好きな二人の情けない様子がすみれのツボにはまった。
けらけらと笑うすみれの頭を優しくたきなが撫でてくれるので、すみれはたきなに笑みを返す。
「ふふっ。すみれはいい子ですね」
「えへー・・・たきなちゃん、撫でてくれるからすき~」
ほんわかしている二人。
一方。
「お願いっ・・・!帰ってきて、千束・・・!」
「・・・これは、私の業だ・・・アンタに背負わせるわけにはいかないんだっ・・・!」
「やめてっ!一人にしないで・・・!?私・・・私一人だけじゃ・・・かなわないんだよ・・・?」
「大丈夫だ・・・アンタは強い」
「千束・・・」
「ノバラ・・・あとは任せた・・・ガクゥ」
「千束ぉぉぉぉ!?」
千束とノバラは何か小芝居をしていた。
二人の真意を訳すとこうなる。
『ちょっと、たきな、怖すぎるんだけど!?白目剥いてないで何とかして!?』
『いや、これ私に飛び火するから、自分で何とかしてくれる?』
『いやいやいや!?無理無理!?あの状態のたきなに私一人だけで、かなうわけないじゃん!?』
『大丈夫!ノバラは強いし、何ならたきなはアンタに甘い』
『千束、そうやって逃げるつもり!?』
『あばよ、とっつぁん!』
『ずるいよ、千束ぉぉぉぉ!?』
千束はノバラの浪費癖が千束の影響だと思われるとたきなにも絶対怒られるので、絶賛現実逃避中。
ノバラはノバラで、今日買ったものだけならいいけど、明日、エスプレッソマシーンが届いたら、絶対たきなに怒られる、と思って、たきなの怒りの矛先を分散させようと千束を巻き込もうとしていたが失敗している。
ノバラは観念したように、たきなの前で項垂れる。
「うぅ・・・ごめんよぉ・・・たきなぁ・・・私、調子に乗ってバカ高いエスプレッソマシーンも買っちゃんたんだよぉ・・・」
めっちゃ怒られるだろうな、と思っていたノバラはしゅんとしていたが、たきなは、不思議そうな顔をしていた。
「?ノバラ、私、それ知ってますよ?」
「・・・へ?何で?」
「ノバラが部屋で、叫んでたからです」
『ほわぁ!?コレマジでいいヤツ!!えっ、三割引きってマジなの!?桁一つ下がったわ!HANAZONE、すげーな!?このエスプレッソマシーンは、買いじゃあ!即買いじゃあ!ひゃっはー!!・・・えい、ポチっとな』
先日、大手通販メーカーHANAZONEでコーヒーグッズ類を見ていたノバラのテンションがおかしなことになっていて、その後、リビングでたきなと一緒にコーヒーを飲んでいるときも、ほくほくした顔で大変上機嫌であったので、たきながどうしたのか聞くと、幸せそうな顔で微笑んで、ないしょー、と言うから、まぁ、自分の給料で自分へのご褒美なら大目に見ましょう、と見逃されていたのだ。
「き、聞かれてたのぉ!?」
自分でもテンションがおかしいことになっているのを自覚していたのか、ノバラは顔を真っ赤にした。
「自分のお金でしょうから、あまりうるさく言いませんけど・・・無駄遣いは、メッ、ですよ?」
左手を腰に当て、右手でノバラを指さすようにしながら、たきなは軽くウィンクする。
くすり、と笑ったたきなに、ノバラは目を潤ませながら、抱き着く。
「だから、たきなって、好き~!」
笑顔を向けてくるノバラの頭をたきなは優しく撫でる。
気持ち良さそうに目を細める様子が、すみれと良く似ており、ノバラとすみれの絆の深さがたきなにはよく分かった。
「あ、千束・・・あとで、ゆっくりお話しましょうね?」
「ひぇ・・・」
こっそり衝撃から復活していた千束に、たきなが微笑むと、千束は再び顔を青くした。
ノバラちゃんの浪費癖が発覚