Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
久しぶりの水族館にたきなはご満悦だった。
きゃいきゃいとはしゃいでいるノバラとすみれが可愛らしく、何なら二人を見ているだけでも和む。
「ほわぁ!?クラゲだー・・・」
光で照らされたクラゲが幻想的にふよふよと水槽の中を漂う様子にすみれが感嘆の声を上げる。水族館すら初めてらしいすみれは一つ一つ見るたびにはしゃいでいて、見ていて飽きない。
・・・次は、動物園にしましょうか。
すみれはきっと楽しんでくれるだろうな、とたきなはすみれの様子を見ながらそんな風に考えていた。
「ちんあなご~」
チンアナゴ水槽の隣では、いつかのように千束が両手を上に伸ばしてうねうねしている。水槽と千束を見比べて、すみれが同じようにうねうねする。
「・・・こう?ちんあなご~!」
「お?いいチンアナゴっぷりだな、すみれ」
よしよしと千束がすみれの頭を撫でている。ショックから立ち直った千束はいつもの調子を取り戻していた。
二人を見て、うずうずしていたノバラは対抗心を燃やしたノバラは二人の横に立つ。
「負けられない!・・・タツノオトシゴ!」
見事なI字バランスでタツノオトシゴを表現するノバラ。
ビシッと全くブレのない完璧な姿勢に、自然周りからぱらぱらと拍手が巻き起こる。
「・・・ノバラちゃん。すみれ、さすがにそれは真似できないよ・・・」
「相変わらず、体がやわっこいな」
毎日お風呂上りの柔軟を欠かさないノバラの体は非常に柔らかい。
開脚は百八十度開いた状態で前屈は余裕だし、何なら雑技団レベルの軟体技をしていることもある。この程度のパフォーマンスは余裕、ということだろう。
「ふっ・・・勝った・・・!」
「・・・何と勝負しているんですか、ノバラ・・・」
呆れた様子をするたきなにノバラはVサインを返す。
やってやったぜ、という感じのドヤ顔が可愛らしい。
「・・・たきなはやらないの?」
「・・・え?」
期待感の籠ったノバラの視線。更に、その横ではすみれが目をキラキラさせている。
(まさか、私にも何かやれと・・・!?)
たきなは葛藤する。
妹たちの期待を裏切っていいのか。
衆人環視の中でとか恥ずかしぎる。
その二つの気持ちがせめぎあう。結果。
「・・・さ、さかなー・・・っ!」
両手を真っすぐに前に突き出し、右足を後ろに真っすぐ伸ばす。さかなのポーズを取ったたきなは頭から湯気が出そうなほど顔が真っ赤だった。
なお、レアショットを見逃すまいとスマホで連写した千束とノバラは、顔を真っ赤にしたたきなに追い掛け回された。
「ぺんぎんさん・・・」
「ペンギン、かわええ・・・」
ペンギンがよちよち歩く姿を眺めているすみれとノバラはほっこりした顔をしている。
岸に上がらず水辺でバインバインしているペンギンやアジは食わねぇときびなごを要求するペンギンなど、ペンギン一匹一匹の個性が分かる様子もまた楽しいようで、スマホを見ながら、お気に入りの一匹を探しながら見ているようであった。
(いやー・・・そういう君ら二人の方がかわええけどなー)
千束は年パスも持っているので、暇なときは大水槽やペンギン島を見ながらぼーっと過ごすこともあるが、今日は、はしゃいでいる妹二人を見ているだけで癒されていた。
千束の隣にいるたきなも二人を眺めて目を細めて微笑んでいる。
「・・・可愛いですよね」
「・・・分かる」
たきなの言葉に千束は深く頷いた。
不意にぎゅっとたきなが千束の手を握ったので、千束はちょっと驚いてたきなを見る。
「・・・千束と一緒に、またここに来ることができて嬉しいです」
手を握りしめながらも、千束から微妙に視線を逸らして顔を赤くしているたきなの様子に、千束は笑みを深める。
「ありがと・・・たきな」
千束はたきなの手を両手で握ると自分の額に当てるようにして目を瞑った。
ちょっとだけ、ひやりとして、でも温かいたきなの体温と手から感じるトクントクンという鼓動。
たきながここにいて、自分がここにいる、ということが分かる。
たきなが迎えに来てくれなければ、千束はあのまま沖縄で勘違いしたまま過ごしていたであろうか。いや、たぶん世界中、どこにいても、きっと見つけられていた気がする。何せ相手は天下のウォールナット様だ。それが、ある意味最強の追っ手を送ってくるのだ。早いか遅いかの違いはあるだろうが、いずれ見つけられて、同じような生活に戻っていただろう。だが、素直に戻ろうと思えたのは、迎えにきたのがたきなであったからだ。
「たきなが迎えに来てくれたから、また、こうやってここに来ることができた。・・・まぁ、今日は騒がしいのがおまけで付いてるけど?」
ちらりと二人に目をやれば、ペンギンの水槽での泳ぎの様子にはしゃいでいるほか、何か愛想のいいペンギンが二人の目の前でぷかぷかと泳いでいるのを見て、興奮していた。
「でも、嫌いじゃないでしょう?そういうの」
「
そう言うと千束は手を恋人繋ぎに繋ぎなおし、たきなを引っ張って、興奮した様子でペンギンを見ているノバラとすみれの近くまで行く。
「ほら、たきな、私たちもアイツ等の隣でペンギン見るぞー!」
「え、ええ・・・そうですね」
千束は気にしていなかったが、たきなは手の繋ぎ方が恋人繋ぎになっていることに気づいて顔を赤くしていた。
「あ~!千束ちゃんとたきなちゃん、ラブラブだ~」
二人の様子にすぐに気づいたのすみれだった。
「おうよ!いいだろー?」
「うん。ずるいー。いいもん・・・ノバラちゃんとつなぐから~」
しゅたっとノバラの手をとって、すみれは千束たちと同じように恋人繋ぎをして満足そうに微笑んだ。
「えへー・・・ノバラちゃんの手あったかい」
「もー・・・どうしたの、すみれ、って・・・あぁ」
千束たきなが手を繋いでいる様子に、ノバラは意味深な笑みを浮かべる。
「今日は私、外に出てようか?」
「そういうんじゃないから、いらん気遣いをすな!」
ぺちっとノバラにデコピンをする千束。それを受けて、ノバラは唇に指を当てる。
「・・・千束はホントにそれでいいの~?」
からかってくる様子のノバラに千束は臆するようなこともなく答える。
「・・・いいに決まってるだろ」
なぁ、と横のたきなを見れば、顔を赤らめつつも悲しそうな、切なそうな顔をして、熱っぽい瞳で千束を見つめている。
(うぐっ・・・これまた・・・たきなが色っぽすぎる・・・!?)
決断が揺らぎそうになる千束だったが、次の瞬間にはたきなはおかしそうに笑みを浮かべた。
「ほら、千束、先へ行きましょう?・・・・・・来たいときに来てくれればいいですよ。私はちゃんと待ってますから」
耳元でたきながそう呟き、千束はその内容を考えて顔を真っ赤にした。
それでも手は離さずに、たきなと千束は互いに顔を赤くしたまま笑みを返しあった。
「ふぇ~・・・金魚って、こんなにキレイだっけ?」
「ふむ~・・・金魚鉢で買うのと訳が違うなー」
すみれとノバラは金魚の水槽の美しさに、感動した様子であった。
千束とたきなも金魚の美しさに思わず、おぉ、と感嘆の吐息を漏らすほどであった。
二組ともまだ手を繋いだままのせいか、通りすぎる人たちが微笑ましそうにくすくすと笑みを浮かべている様子が若干が恥ずかしく、千束はぽりぽりと頬を掻いた。
「・・・たきなは、そのー、恥ずかしくない・・・?」
「ふふっ。千束は恥ずかしいんですか?私もちょっと恥ずかしいですけど。・・・それよりも嬉しく感じているみたいで、もうあんまり気になりませんよ?」
そんなたきなの言葉を聞いて、千束の胸はキュッと締め付けられるような感じがしたので、たきなと手を繋いだまま思いっきり腕に抱き着いた。
「なら、私も恥ずかしくない!だから、これくらいでもいいでしょ!?」
「もちろんです。嬉しいですよ、千束」
優しく微笑んだたきなに、千束は心臓を撃ち抜かれたような衝撃を感じていた。