Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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たきなちゃんは心配性だと思う


67 Hard Work

『たきな、ごめ~ん!本部に泊まるから遅くなる!』

 

 ノバラからそんなメッセージをたきなが受け取ったのは履歴によると、真夜中午前二時過ぎだった。

 それ以降はこちらから連絡しても既読は付かず、ノバラからの連絡もない。

 

 たきなはもやもやとした想いを抱えたまま、それでもリコリコに出勤はしていた。

 

(・・・ダメですね。気になって集中できてません)

 

 射撃訓練では珍しく当たりが安定せず、途中で切り上げ、経理事務を進めようと思ったものの、クルミにミスを指摘され、やり直すハメにもなった。一息ついて、接客に出れば、オーダーミスこそないものの、手を滑らせて皿を二枚割った。

 

 そんなたきなとは対照的に、千束とすみれは事情を話しているにもかかわらず、いつものとおりだった。・・・まぁ、心配はしているのだろうが、少なくともたきなほどではない。

 

「らしくないじゃん、たきな?」

「・・・千束は心配じゃないんですか?すみれも・・・」

 

 暗い顔のたきなに千束はクスッと笑みを浮かべ、すみれはこてんと首を捻った。

 

「心配か心配じゃないかって言えば、心配だけど。・・・ノバラだぞ?」

 

 なぁ、と千束がすみれに水を向ければ、すみれは、こくこくと頷いた。

 

「んー・・・と、たきなちゃんは、ノバラちゃんが無事なのか心配なんだよね?本部に泊まるって言ってるなら、大丈夫じゃない?もし、何かあったとしても、私に連絡来てないの変だもん」

 

 確かに単なる一時的なルームメイトに過ぎないたきなと本来の相棒であるすみれであれば、何かあったときに真っ先に連絡が入るのはすみれだろう。

 冷静に考えれば、そういったことも分かるのではあるが、たきなとしては、やはりノバラの顔を見ないことには安心できなかった。

 

 特に、ここ何日かノバラへの呼び出しがあったが、ノバラの『あんまり余計な心配はさせたくない』という言葉を受けて、たきなから積極的に二人にこの呼び出しのことは話していない。

 そもそもリコリスの特性、つまり女子学生という都市迷彩の趣旨を考えれば、深夜帯での作戦行動は推奨されていないはずなのだ。ノバラが規格外の隠密能力を持っていたとしても、あえてリコリスのアドバンテージを捨てる意味はないだろう。そうであるにもかかわらず、あえてノバラを指定して、作戦が割り当てられているということは、機密性が高いか、特殊な任務であることが考えられる。

 そうなれば、自然、作戦自体の危険度も上がることが予想される。

 

 考えれば考えるだけ悪い方向に考えてしまっていることはたきなも自覚はあるが、それだけ心配している、ということなのだろう。

 

「まぁ、あの子の立場からすれば、本部への出頭って、楠木さんからの要請だろ?作戦中ならともかく、本部に行ったっていうなら、心配ないだろうよ。フキもいるしな」

「そう・・・ですよね」

 

 千束の言うように、本部に行っているなら、用件があるのは楠木であろうし、何かあったとしてもフキたちもいる。心配することはない。ないことは分かっているだが。

 

「はぁ・・・」

 

 たきなはため息をついて、時計を見る。

 

 もう午後四時を回っている。まさか、今日はこのまま帰ってこないのだろうか、とそわそわして落ち着きがない。

 

「んー、こりゃ、ダメだな・・・」

「たきなちゃんって意外に心配性なんだねー」

「私はすみれが動じてない方が意外だけど?」

「?だって、ノバラちゃんだもん。大丈夫に決まってるもん!」

「あはは、よしよし、いい子だな!」

「きゅぅん!」

 

 がしがしとすみれの頭を撫でながら、千束はたきなとすみれのノバラへの心配の仕方の違いを考えていた。

 

 この違いは付き合いの長さだけではないのかもしれないな、と千束は考えていた。

 たきなは無意識下でノバラは守るべき対象と見ているのに対し、すみれは自分を庇護してくれる対象だと思っている。

 何かあったら、自分が助けにならなければ、と思っているたきなは、ノバラが困っているとしたら手を拱いている今の自分が嫌なのだろう。

 一方のすみれは、過去の経験も踏まえ、一緒にいるときならまだしも離れているときに自分ができることはないと悟っている。更に言えば、ノバラを信頼しているとも言えるだろう。この辺りは二人の絆の深さを感じる。

 

 さて、翻って自分はどうだろうか、と千束は考える。

 

 姉として、厄介なことに首を突っ込んでいるであろうノバラのことは当然心配だ。

 だが、千束はノバラの強さを理解している。特に、こと戦闘においては、心配しても無駄だとさえ思っている。

 延空木事件のときの自分とノバラを入れ替えて考えてみれば、ノバラならもっとスマートに終結させていかもしれないとも思う。

 これはどちらが強いかというよりは相性や特性の問題だろう。真島が厄介なことには変わりはないが、自分よりもノバラの方が作戦の選択肢が増える。その分、有利に事を進めることができたことだろう。

 ・・・まぁ、間違いなく血の流れる量は敵の数の分だけ増える結果となっていただろうが。

 そんな風に考えてみると、千束には、ノバラが普通の作戦、普通の相手に苦戦するような想像はできかねる。もっとも、ノバラがいわゆる『普通』の作戦に従事しているとは、露とも思わないが、少々特殊であったからと言って、それが変わるとも思えない。

 仮にノバラが自分の手に負えないような作戦だったらどうか、とも考える。

 しかし、そんな作戦だったら、ノバラはたぶん受けないだろう。良くも悪くも戦力分析を事前にしっかり行うタイプだし、フキにその点をしっかり仕込まれている。

 作戦に従事する限り、失敗する可能性は当然あるが、その可能性を可能な限り潰していく。できないことはやらない。やらなければならないのであれば、できるように場を整える。とかく根性論に走りがちな千束はその点が大きく異なる。

 やれもしないことをやれると言い張るヤツじゃないのだ。

 少なくともリスクがなければ、失敗を是認することもあるだろうが、そういった例外でなければ、勝算が『かなり高い』状態でなければ、そもそも拒否しているであろうことが想像に難くない。

 

 そういった強かさも理解しているからこそ、千束は過剰な心配はしていないのだ、と改めて認識する。

 

 そのとき、がちゃ・・・り・・・、と力なく入り口の扉が開くと、翡翠色のリコリス制服を着た少女が店内によたよたと入ってきた。

 

「・・・ぉはょぅござぃますぅ・・・ノバラがきました・・・よー・・・」

 

 常であれば、千束と同じようにぱっかーん、と扉を開けそうなものだが、姿を見せたノバラは明らかに疲労の極致であった。心なしかげっそりしている。

 

「ノバラ!心配したんですよ!?私からのメッセージ見てないんですか!?」

「・・・ぁー・・・たきなぁ、ごめーん・・・スマホの電池切れてたみたい・・・」

 

 たきなの言葉にノバラはごそごそとポケットを漁ってスマホを取り出すと、スマホの電源が入らないことに初めて気づく。

 ふへぇ、とよく分からないため息をついたノバラの目の焦点はあっておらず、ぼーっと宙を見つめている。

 ノバラの無事に安堵していたたきなは、そこでノバラの顔色が酷いことになっていることに、ちょっとだけ、頬をひきつらせた。

 

「・・・って、ノバラ。何ですか、その目の下の隈は?」

「まさかの朝まで教官をやらされてた・・・いや、君らはいいよ?今日休みなんだろうし?私は仕事があるんだよ?こんな機会そうそうないからって、私の都合を無視すると酷くないです?楠木さんも楠木さんだよ。ここ最近、深夜のお仕事ばっかりじゃん?私のルーティン知ってるでしょ?深夜に仕事して帰ってきたら、ほとんど寝る時間ないじゃない?若いから平気だろ?そんなわけないじゃん。体力は減るし、パフォーマンスは落ちるし、寿命も縮むんだよ?何なら私の身長とかおっぱいとかおっきくならないのって、絶対こんな生活習慣だからでしょ?かえしてー、わたしのしんちょーとおっぱいをかえしてー」

 

 ブツブツと呟くノバラは、すみれですら、うわぁ、と声を上げるほどに精神的に酷い状態に見えた。

 

「うわ、相当来てますね、コレ」

「こりゃ、人前に出せんな・・・」

 

 千束とたきなは未だボーっとした様子のノバラを奥に連れて行くと、クルミに断って、和室に布団を引いて、ノバラを寝かせる。

 

「今日は、仕事はいいから、私らが終わるまで寝てな。まったく、まさか作戦の方じゃなく、味方にここまで疲労させられるとは・・・」

 

 やれやれ、と千束は呆れた顔をする。対してたきなは不機嫌そうな顔をしていた。

 

「店長から、楠木さんには苦情を入れてもらいましょう。さすがにこれは酷いです」

「それがいいな」

 

 たきなの言葉に千束も賛成する。

 さすがに楠木に文句を言うのであれば、ミカくらいでなければ、無視されてしまうだろう。

 

「ノバラちゃん、おやすみー・・・」

 

 すみれは、布団に寝かせたノバラに毛布を掛けてやると、すでにうとうとしているノバラの耳元に小さく声をかけた。

 

「・・・ぅんー・・・おやすみー・・・」

 

 余程疲れていたのか、その言葉とともに、ノバラはすぅすぅと寝息を立て始める。

 

 千束たちはノバラを起こさないように部屋を出ると、顔を見合わせてほっと息を吐いた。

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