Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「ん~~~~っ!」
ノバラは起き上がると大きく伸びをした。
リコリコの中で寝ていたこと覚えているが、あまり馴染みのない匂いが布団から香ってきておや、と思う。
ガタガタとふすまが内から空いて、中からクルミが姿を現す。
「おー、ゆっくり、寝てたな、ノバラ」
「あー、おはよう。クルミちゃん。そっか。これクルミちゃんの布団か」
「そうだが、どうかしたか?」
「何というかミルキーな香りがするなーと思って」
「・・・それはそれで、変態みたいな反応だな」
やれやれ、と呆れたような声を出すクルミに、ノバラは近寄って行って、キュッと抱きしめた。
「ありがと、クルミ。」
「あ、いや・・・な、仲間なんだから、当たり前だろ?」
ちょっと、先の下心もあって、真正面から感謝の気持ちを受け取りづらいクルミは若干明後日の方向を見ながら、顔を赤くした。
「・・・ノバラ、起きたんですか?」
まだ、給仕服のままのたきなの様子と、扉向こうからの声を聴くに、開店中か、少なくとも、閉店後のゲーム大会くらいの時間だろう。
それでも大分寝ていたなー、という印象のノバラだった。
「たきな、おはよう」
思いのほか元気そうな様子にたきなは若干呆れ顔になった。
「・・・『おはよう』、じゃないです。一体何をやってたら、そんな状態になるんですか?」
「いやー・・・あはは、さすがに連日の呼び出しで疲れちゃってたかなー、なんて?」
自分と視線を合わせようとしない様子にたきなは、何かやましいことがあるんだな、と疑いの目で野ばらを見る。
「・・・本当にそれだけですか?」
たきながそう問い詰めると、ノバラは若干不貞腐れたような顔をした。
「今回のはホントに特殊だよ・・・私だって、早く帰ってたきなと一緒に寝たかったのに!」
「・・・何だ?お前ら、一緒に寝てるのか?」
ノバラの言葉にクルミは意外そうな顔で二人を見た。
「たまにです!たまに!」
「疲れてるときくらいはたきなの体温感じて寝たいんだよ!」
たきなが顔を真っ赤にして慌てているのに対し、ノバラは頬を膨らませてちょっと怒った様子だった。
たきなはノバラを甘やかしている自覚があるからだろう。それが恥ずかしいのかもしれない。だが、ノバラはすみれに対してはお姉さん振っているところはあるが、千束に対して顕著であるように、基本甘えたがりだ。一緒に寝ることは別に恥ずかしいとは思っていないらしい。
「たきなはちゃんと抱きしめて寝てくれるから、あったかくてきもちい~んだよね~」
ほわっ、と夢心地の顔をするノバラ。
(あ、さてはコイツ、まだ本調子じゃないな)
いつもと違って隙だらけのノバラの様子にクルミはそう判断した。普段であれば、こんな迂闊な発言はしないだろう。
「もう!ノバラ!」
たきなが顔を赤くしながら、ノバラの肩を掴むと軽く揺さぶる。それを受けてもノバラはちょっと楽しそうに笑っていた。
「ん~・・・たきなー・・・」
ノバラはたきなに正面から覆いかぶさるように抱き着くと、たきなは慌てたようにノバラを支える。しかし、ノバラはそんなたきなに構わず、ぎゅうっと抱きしめる。
「たきな~・・・」
どこか切なさそうに呼ぶノバラの声に、たきなはドキドキと心臓が鳴った。
普段の甘えるノバラとも違う、もっとたきなを求めるような声に、たきなは顔を赤くして、だが、ノバラを同じように抱きしめ返した。
「えへー・・・」
気の抜けた笑みを浮かべるノバラが何とも愛しく感じる。
無邪気に、警戒心もなく甘えてくる様子がたきなだけのものと思えるからだろう。
「あー・・・ありがと、ちょっとは落ち着いたけど、タキナニウムはもうちょっとだけ補充!」
そう言うと、ノバラはたきなの体をベタベタと触り、顔は髪に埋めるようにしている。たきなは呆れ顔をしながらも、慣れた様子でそれを受けている。
「・・・まったく」
たきなは呆れ顔だが、どことなく嬉しそうだ。
言うまでもないことではあるが、この二人の相性がいいからこそ、この程度のスキンシップは日常茶飯事なのだ。
「それで、一体何が合ったんです?」
「メインは、楠木さんの仕事の打ち合わせ。私が動いているのは基本的に楓司令からの指示だけど、東京で仕事するんだから、楠木さんの意向も聞かないわけにいかないでしょ?だから、その仕事を受けてたんだけど。一緒に仕事をした子たちが、訓練したいって言い始めてね?これが、何人かはすぐにギブアップしたんだけど、二人ばかりしつこい子がいてね・・・動けなくするまで半日くらいかかったよ。いやー、キツかった」
「寝ないで、ですか?」
「・・・そういや、休憩もほとんどしてないなー。最近の睡眠時間って、長くても二時間くらい?まぁ、実際に寝てたのは一時間くらいだけど」
「それ、もう、ほぼ三徹くらいじゃないですか。死にますよ」
「そうだねー・・・気を付けるよー」
たきなは呆れていた。
ノバラが夜遅くに帰ってきていたし、自分の布団で一緒に寝ようと声を掛けて寝ていた。それで、気分的にはノバラはゆっくり寝ることができていたのだろうが、今回はさすがに限界だったということだろう。
たきなとしては、無茶な作戦をやって、ノバラが疲弊しているというわけではないということを知れて、安堵できていた。
「ノバラ、私が送って行きますから、もう帰って寝てください。今日はもう電話が来ても無視ですよ、無視。私は着替えてくるんでちょっとだけ待っててくださいね」
そう言ってたきなは慌てた様子で着替えに行った。
「ふ~ん、ノバラはたきなと一緒に寝てるのか~」
「あは、クルミちゃん、うらやましいの?」
「い、いや、そういうわけではないんだが」
「ふふふ、じゃあ、一度、クルミちゃんのところに泊まろうかな~」
「そこはかとなく身の危険を感じるから遠慮する!」
「え~、何もしないよ」
「お前はな?」
それが発覚したら、たきなとすみれは嫉妬しそうだし、千束はいいおもちゃを見つけた感じになるだろうし、面倒なことこの上ない。クルミとしては絶対にお断りしたかった。
「お待たせしました、ノバラ」
「はやっ!?いくらも経っていないぞ、たきな」
「あのままのノバラを放っておくわけにはいかないので」
まだ、疲労の抜けていないノバラがどんな爆弾発言をするか分かったもんじゃない、とたきなは考えていた。
「そうか、じゃあ、あとは任せたぞ、たきな」
「はい。ちゃんと部屋で寝かせます」
「いいじゃないか、一緒に寝てやれよ」
にひっ、と笑ってたきなをからかってやると、たきなは満面の笑顔をしたまま殺気にも似た気配を飛ばしてきた。
「くるみ・・・余計なことを言ったら分かってますよね?」
その鬼気迫った様子にこくこくと首を振る。
「あ、ハイ・・・・」
笑っているのに、笑っていないたきなの表情はクルミにはとてもおそろしく思えた。これは誰にも軽々しく離せないな、と心の中でこれまでの会話の内容にフタをする。
「じゃあ、クルミありがとうございました」
「ありがとね~、クルミ~・・・あ、でも」
お礼を言ったノバラがクルミの近くまでやってくると、こっそりと耳打ちをする。
「・・・あんまり、おいたをしちゃ、ダメだよ?」
「・・・気には留めておく」
ノバラの言葉に得体のしれないものを感じながら、クルミは反射的に頷いた。
そして、ノバラはそのクルミの様子を見て、納得したのか、軽く手を振ると、たきなを追いかけていった。
(今のは・・・アイツ、ボクとデイジーの話を聞いてたな?・・・子狸め!・・・とすると、アレは隙を見せたのではなく、わざと、ということになるな。これもシナリオ通り、ということか。ならば、ボクも駒の一つということになる。・・・やれやれ、大分根が深い案件のようだな・・・)